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特集:2018よい節税悪い節税 過度な節税は脱税 2018年1月30日号

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過度な節税は脱税

銀行と税理士の責任必至

 

 2018年度の与党税制改正大綱で、大増税時代の幕が開いた。企業の負担軽減策が目立つ一方、中間富裕層に関わる増税が目白押しとなった。

 

 特に、資産税である相続税は、徴税強化の流れが続く。相続税は15年、「二重」に増税された。まず、最高税率は50%から、「6億円超は55%」に引き上げられた。富裕層の狙い撃ちだ。また遺産のうち、課税されない「基礎控除額」を引き下げ、課税対象者が「庶民」にまで広がった。

 

 

 

「半世紀に一度」ともいわれた増税からわずか3年で、今度は課税逃れへの対策を強化した。国税当局が立法趣旨に反した節税に厳しい姿勢を示したことで、これまで相続税対策をしてきた人も、対策の練り直しを迫られることになる。

 

 ◇「節税のための事業はない」

 

 問題視された相続税の課税逃れは、二つある。まず、「小規模宅地等の特例」を活用したものだ。

 

 小規模宅地等の特例は、相続の発生によって、被相続人(死亡者)の家族が生活基盤を失うことがないようにという配慮から設けられている。相続する土地の用途によって「事業用」(店舗や工場など)、「居住用」(自宅)、「貸付用」(賃貸アパートや賃貸駐車場など)──の3種類ある。例えば居住用なら、被相続人の(1)配偶者、(2)同居する親族、(3)持ち家のない別居の親族──が相続する場合、相続税評価額を80%減額できる。

 

 親から宅地を相続する子は、親と同居していなくても、持ち家がなければ適用されることになる。このため、相続前に自分が住んでいる持ち家を、親族らにあえて譲渡・贈与。その後も住み続けながら、形式上は持ち家がないことにして特例を受けて節税するという「悪用」が後を絶たなかった。

 

 今回の改正で、もともと自分の所有していた家や、3親等内の親族が所有する家に3年以内に住んでいた場合は、特例が適用されないことになった。

 

 小規模宅地等の特例は、相続税の申告に当たって一般的に使われている。15年の増税に合わせ、面積の上限が拡大するなど使い勝手がよくなったこともあり、適用件数は大幅に増加した。

 

 17年度税制改正では、タワーマンションにかかる固定資産税が、高層階ほど高くなるよう改められている。相続税は固定資産税の評価額を使って算出するため、タワーマンションは高層階の税額が相対的に低く、富裕層が節税策として購入する動きが広がったためだ。今回も、相続税の節税策抑制に向け、小規模宅地等の特例に何らかの見直しが行われるのは確実とみられていた。

 

 特に厳しい目が向けられたのは「事業用」だ。相続税の節税をするためだけに、直前に賃貸物件を購入するような動きだ。

 

 相続財産は、現金で持っていると評価額が高いが、土地と建物に替えると、一気に下がる。また、土地は更地よりも建物のあるほうが評価額が低い。

 

 そのため、銀行や税理士、住宅メーカーが節税効果をうたい、富裕層に賃貸マンションやアパートの建設を提案する営業攻勢が続いていた。賃貸経営に不安を感じる顧客に、住宅メーカーは「一括借り上げ」(サブリース)による「家賃保証」のシステムを持ちかけて獲得するケースが目立つ。しかし家賃収入の減額や契約の途中解除により、資産を失ってローンをかかえるという事案が社会問題化した。

 

「節税のために始めた事業は、事業とは呼べない。節税は本来、後から付いてくるものなのに、銀行や税理士、住宅メーカーが仕事ほしさに提案している。立法趣旨に著しく反しており、『過度な節税』ではなく脱税だ」。国税庁関係者は手厳しい。

 

 ◇すぐに埋められた抜け道

 

 一般社団法人を設立する課税逃れは、より深刻だ。

 

 一般社団法人は、議決権を持つ社員に「持ち分」がないため、不動産などに相続税がかからない。資産を持つ親が、一般社団法人を設立。資産を移転して自分の子ら親族に代表を継がせれば、相続税を免れた上、自由に資産を使うことができる。

 

 一般社団法人は、08年の制度改正で手続きが緩和され、営利目的でも設立ができるようになった。設立要件も「公序良俗に反しない」限りはすべての事業が対象となる。しかも費用は登記の6万円だけだ。東京商工リサーチの調査によると、16年に新設された一般社団法人は5996社。設立数は毎年右肩上がりで、12年の1・6倍に急増している。

 

 手軽な節税策として「新興の大手税理士事務所が顧客獲得に向けたセミナーを開き、積極的に指南している」(大手税理士法人幹部)ことも背景にあった。中間富裕層の間で急激に広まり、問題視されていた。

 

 今回の見直しで、役員の過半数を同族が占める一般社団法人では、同族の役員が1人死亡した場合、一般社団法人の財産に対して相続税を課税するよう改められる。

 しかし、税理士業界の中では、抜け道を封じる改正は「まだ先」という見方が根強かった。一般社団法人の制度改正から10年しかたっていないためだ。「それだけ国税当局が憤っている証拠」(相続税制に詳しい税理士)と驚きが広がった。

 

 中小企業経営者ら中間富裕層の間では、自社株の相続について、持ち株会社を利用した節税策が定着している。持ち株会社と一般社団法人は「箱」が変わるだけで、基本的な節税の仕組みは同じだ。

 

 ここでも、銀行や税理士、住宅メーカーが登場する。貸出先に悩む複数の大手銀行が、富裕層に節税策として一般社団法人設立を持ちかける「勧誘専門部隊」を抱えている。

「相続税の節税になる」と近づき、一般社団法人を設立して資産を移す。その後、移転した財産を担保に、賃貸マンションやアパート経営を勧め、事業の実体を整える。

 

 いずれの課税逃れも、銀行は、不動産を購入・建築するために多額の融資ができる。金利収入に加え、富裕層との取引のきっかけが生まれる。投資信託や証券など資産運用に引き込み、手数料収入を期待することもできる。不動産を自前で紹介し、仲介手数料を稼ぐケースまである。一石四鳥の仕組みだ。顧客獲得に苦しむ税理士は、税務相談や税務書類作成で報酬を得る。

 

 

 

 ◇税理士の提訴も

 

 しかし税制改正前の現在でも、国税当局が「相続税の節税以外に目的がない」として認めず、追徴課税されるケースが増えている。国税庁関係者は「税制だけでなく、一般社団法人の仕組みそのものに精通していなければ成功しない。実例を見ても、それほど理解できていないのではという事案が目立つ。そもそも、税金は相続税だけではなく、全体では節税になっていない例もあった。『うまい話』と飛びつくと、痛い目をみる」と注意喚起する。

 

 節税策に詳しい税理士は「国税当局から追徴課税を受けた顧客から、損害賠償を求めて提訴されることも考えられる」と指摘する。

 

 この税理士によると、銀行や税理士は提案する際、「将来、税制改正されると節税効果がなくなる可能性があります」というリスクを十分に説明しないという。税制改正で抜け道が封じられた結果、顧客にとっては節税のつもりが、資産移転を実行したことに伴う所得税や贈与税など、本来は支払う必要のなかった税金が余分に発生しただけということにもなりかねない。

 

 一般社団法人の節税策を顧客に提案した経験のある税理士は、「将来の制度改正まで保証することは不可能だ。そういったリスクがあることは、当然理解しているはず。今後課税される部分については、あくまで顧客の自己責任」と開き直る。顧客を勧誘する銀行側も、「税務相談は税理士以外がすることは禁止されている。顧客と税理士の間の問題だ」と押しつける。

 

 相続税は15年の改正で課税対象者が広がったとはいえ、このような複雑な節税策は富裕層だけのもの。実行に時間と手間、経費が必要なため、多額の節税ができなければ見合わないためだ。

 

「節税策と徴税強化のいたちごっこは昔から変わらない」(国税庁関係者)。相続増税により、納税者の負担感は大きい。不公平さを打ち消すため、立法趣旨に反した過度な節税に対して、今後も国税当局が厳しい姿勢で臨むことは避けられない。

(酒井雅浩・編集部)

 

(池田正史・編集部)

週刊エコノミスト 2018年1月30日号

発売日:2018年1月22日

特別定価:670円



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