Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── アース製薬と言えば、殺虫剤の会社というイメージがあります。
川端 入社した24年前は殺虫剤の売り上げが8割から9割といっても過言ではありませんでした。今では単体で5割、グループでは3割程度です。
◇殺虫剤から「虫ケア」へ
殺虫剤「アースジェット」やゴキブリ駆除の「ごきぶりホイホイ」で有名なアース製薬は2017年10月、殺虫剤の呼称を「虫ケア用品」と改めた。
── どうして呼び方を変えたのですか。
川端 虫ケア用品の国内シェアはトップで約58%ですが、ハエやカは間違いなく減っています。カテゴリー全体を伸ばすために調査したところ、2割に近い人たちが殺虫剤という言葉の響きに抵抗を感じたり、体に悪いと思っていました。「殺す」という言葉が入っている言葉の響きや悪いイメージは拭いきれないようです。
ただ抵抗を感じる2割の人たちに買ってもらえれば、市場が伸びる余地があります。思い切って呼び方を変えました。店舗にも協力をお願いして「虫ケアコーナー」に変えてもらっています。普及すれば業界にとってプラスとなるでしょう。
グループの売り上げ構成(16年)は日用品が5割を占め、虫ケア用品が3割、総合環境衛生(食品工場などの衛生管理)が1割だ。
── 日用品の比率を高めた理由は。
川端 虫ケア用品は、ハエやカが増える夏場の需要が多く、季節によって売り上げが偏ります。季節変動を減らすため、口腔ケア商品「モンダミン」や入浴剤「バスロマン」などの商品を開発しました。
── その中でも比率が高いのは。
川端 モンダミンですね。日本初の商品です。発売当時(1987年)は口をすすぐ習慣がない時代でしたが、諦めずに続けていたら他社が付いてきました。
これに続くのが入浴剤です。12年にバスクリンを買収したことが注力のきっかけです。同社はシェアがあるうえ、ノウハウもありました。さらに14年に買収した白元(現・白元アース)は錠剤型入浴剤の技術があり、新商品を共同開発しました。市場シェアは5割を超えています。
── 会社としての強みは。
川端 営業力と商品開発力が2大看板です。営業は200人以上います。お客様が初めて商品を買うときには、いい場所に並んでいる商品を選びます。それがいい商品なら、次からは名指しで買ってもらえるかもしれません。最初にいい場所に並べてもらえるかは営業力が影響します。
商品は毎年新たに100点出しています。新商品数にこだわった時期があり、そのDNAが流れています。商品が出せなくなると小売店やお客様の期待が下がってしまうので、数にはこだわりたい。新商品があると商談も求められやすくなります。
掲げるのは「お客様目線」。その象徴がドラッグストアなどの店頭で陳列や販売促進をサポートする「EMAL」(エマール)と呼ばれる女性営業部隊だ。
── お客様目線に込めた思いは。
川端 メーカーの社員も一歩外に出れば一消費者です。社員が買いたくない商品は絶対に売れない。派手さはないかもしれないけれど、関西弁で言う「これええやんか」と、ちょっとしたことでも支持されるのがお客様目線ではないかと思います。
例えばモンダミンでは「キャップが開けにくい」という声があり、改良しました。ごきぶりホイホイはシートを凸凹にしたり、シートに引っかかりやすいように足ふきマットを付けたり、進化しています。完璧な商品を出したつもりでも、不満点は出てきます。お客様の不満があるなら変えようという姿勢を続けたいですね。
── 女性営業部隊のエマールはどうして生まれたのですか。
川端 買う人の7割以上は女性です。なのに商品を並べるのは男です。そのことに前社長(大塚達也現会長)が気づき、12年前に導入しました。当時は画期的でした。
── どんな人たちですか。
川端 主婦に限らず、店のある地元の女性を直接雇用しています。全国に約300人います。アピールしたい商品の良さをポップに書いて店に貼ろうというところから始まりました。「どのように売ればいいか」ということに専念し、売り上げへの影響は検証していますが、ノルマはありません。
── 効果は。
川端 確実に上がっています。年数とともにお店の側から「エマール担当の店員を付けようか」という声も出てきました。
── 海外展開は。
川端 私が14年に社長になってから本格的な強化を始めました。他社よりは遅いですが、非常に好調です。中国では、売り上げ1億元突破を1年前倒しで達成しました。中国は虫ケア用品の需要があり、まだまだ伸びます。東南アジアは年中夏で、虫ケア用品が年中商品になります。積極的に展開すべきだと思います。
── 将来的には海外の売上比率も上がる見込みでしょうか。
川端 今の目標額は150億円ですが、将来的には海外売り上げを3割程度にまで上げたいですね。
(構成=米江貴史・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 営業で走り回ったり、係長や支店長を経験しました。1分1秒でも多く人と会うことに力を入れていました。首位の商品を逆転したときは喜びひとしおでした。
Q 「私を変えた本」は
A 本はよく読みますが、ずっと読んでいるのは田辺昇一『人間の魅力』です。人と会ってとにかく行動せよ、という人間学のような本です。古本屋で見つけました。
Q 休日の過ごし方
A ゴルフに行くことが多いです。また街の空気を感じに歩くこともあります。ドラッグストアに入って、売れ筋の商品が好調な理由を発見することもあります。
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■人物略歴
◇かわばた・かつのり
1971年生まれ。兵庫県立明石西高校、近畿大学商経学部卒業。94年にアース製薬入社、役員待遇営業本部大阪支店長、取締役ガーデニング戦略本部長などを経て2014年から現職。46歳。
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事業内容:医薬品、医薬部外品、医療用具、家庭用品などの製品販売・輸出入
本社所在地:東京都千代田区
設立:1925年8月
資本金:34億3280万円
従業員数:約4170人(連結)
業績(2017年12月期、連結)
売上高:1797億円
営業利益:44億円