◇借金が多い不動産には恩恵
◇生保、銀行は利ザヤ縮小
窪田真之
(楽天証券経済研究所長兼チーフ・ストラテジスト)
日銀のマイナス金利導入によって、国内のさまざまな業種で明暗がはっきりと分かれることになる。一言で言えば、借金の多い業種は金利低下によるメリットを受け、資金運用や融資を行う業種には運用難によるダメージが及ぶ。それは、日銀がマイナス金利導入を発表した1月29日以降、2月3日までの4営業日にわたる、TOPIX(東証株価指数)の業種別騰落率にも端的に表れている(図)。
上昇率の上位5業種のうち「不動産」「電気・ガス」「建設」「その他金融」の4業種は、いずれも借金の多い業種だ。不動産は特に「金利敏感株」の代表とみられており、金利低下によるメリットが大きい。また、長期金利が急低下したため、国債ではまともな運用益が得られなくなり、行き場を失った投資資金が不動産市場に流れ込むとの連想も市場には働いている。ただし、不動産投資の利回りも近年低下しており、ここからさらに不動産市場へ資金が流れ込むかは疑問が少なくない。
借金が多く金利低下のメリットを享受できたとしても、その他の要因によって業績に下押し圧力がかかる業種があることには注意が必要だ。
例えば、下落率上位の海運や鉄鋼は借金の多い業種ではあるが、世界景気が冷え込む懸念から売り込まれている。
一方、上昇率2位には「食料品」が入ったが、借金があまり多くない業種であり、マイナス金利の影響というよりは、景気悪化の影響を受けにくい「ディフェンシブ業種」として物色されたとみられる。
◇消費者金融はメリット
マイナス金利導入はまた、金融セクターの業績に二極化を引き起こす。マイナス金利が業績押し上げに寄与すると期待されるリース・消費者金融など、「その他金融業」に分類される株は上昇する半面、マイナス金利が業績に悪影響を及ぼす銀行・生命保険株が大きく下がっている。リースや消費者金融がメリットを受けるのは、さらに低利で銀行からの資金調達が可能になる一方、貸出金利は借り手の信用によって決まるため、金利低下の影響を受けにくいと考えられるからだ。
マイナス金利導入による長期金利の急落は、生命保険の長期業績に大きなマイナスの影響を及ぼす。20~30年といった長期にわたって継続する終身保険契約を引き受けた生命保険会社は、20~30年の長期固定金利で資金を調達したのと同じだ。長期金利が低下すると、保険金を債券で運用することによって将来得られる収益が減少する。10年物国債の利回りが一時、過去最低の0・05%にまで下がった今、金利が高い時に引き受けた保険契約によって逆ザヤが発生するリスクが高まった。
生保業界最大手の第一生命保険はこれまで、少子化が進む国内だけでビジネスを続けるリスクは高いと判断し、他生保に先んじて海外保険会社の買収による収益の多様化を図ってきた。海外での収益は日本のマイナス金利導入の影響を直接には受けないが、第一生命でもようやく海外展開を本格化させた段階にすぎず、依然として収益の9割弱を日本国内で上げている。日本の長期金利低下のダメージは大きく、運用や業務の多角化が進んでいないかんぽ生命などでは、さらにダメージが拡大する。
◇損保には負の影響なし
同じ保険の業種でも、損害保険は原則として1年契約であり、生命保険のように長期にわたる契約はほとんどなく、長期固定負債をかかえているわけでもない。………
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定価:620円(税込み)
発売日:2016年2月8日
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