Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長)
── 4月に伊藤忠商事が子会社化することを発表しました。
高柳 伊藤忠グループの中核企業として位置づけられたのは光栄なことです。私の知る限り、社内でネガティブに受け止めている人はいません。私自身も、伊藤忠を使い倒そうという気持ちは変わりません。
── 伊藤忠商事の鈴木善久社長は、ネット通販がコンビニの競合になると指摘していました。
高柳 米アマゾンが既存事業者に多大な影響をもたらす「アマゾン・エフェクト」は侮れませんが、若干、過剰反応に思えます。日本のeコマース(電子商取引)のシェアは、成長しても流通市場の3割程度が限界で、7割はリアル店舗が握るとの予測もあります。ネットの弱みはリアル店舗を持たないこと。だから買収を検討するわけで、リアル店舗の流通業は自信を持ったほうがいい。コンビニは店舗と消費者の間に残された最後の距離を埋める「ラストワンマイル」の窓口としてとても有効です。
◇コンビニでもドンキと協力
── ファミリーマートはサークルKサンクスとの店舗統合により、店舗数が業界2位に浮上しました。
高柳 この1年はサークルKサンクスとの統合に力を注いできました。ファミマに転換した店舗の売り上げは前年比110%になるなど、すでに効果は出ています。不採算店舗の整理なども併せて進め、11月末には店舗統合を終わらせ、商品力やオペレーション、店舗基盤などの面で質の良い約1万7000店舗の体制が整います。統合のシナジーが最も顕著なのは物流、そして商品です。仕入れの見直しなども進めており、100億円規模の効果が出ています。
── 一方、1店舗の1日当たり平均売上高(日販)では3番手です。
高柳 ブランド統合が終わるこの下期からは言い訳なしで店舗の中身に手を入れる改革を進め、本格的にセブンイレブンやローソンを追いかけます。売り上げを伸ばす上で力を入れるのは中食(なかしょく)、そして日用雑貨など非食品の分野です。日用雑貨は、食品とは異なりプライベートブランドが少ない分野で、提携するドンキホーテホールディングス(HD)とのシナジーを模索していきます。商品やポップの見せ方など売り場の作り方でドンキの知見に期待しています。
── 傘下のユニーが取り組む、ディスカウントストア大手ドンキホーテHDと共同出店する「MEGA(メガ)ドン・キホーテUNY(ユニー)」の反応は。
高柳 小売業はネット通販との戦いの前に、リアル店舗間の戦いという課題があります。ユニーのGMS(総合スーパー)「アピタ」「ピアゴ」の場合、リアルでの競合相手はディスカウントショップで、ドン・キホーテとの共同出店は、いわば競合自体を取り込んでしまう試みです。6店舗が開店から3カ月程度を迎え、お客の数・売り上げともに前年比2倍超で思った以上の出だしです。
── 共同店舗の内容は「ほぼドンキ」との声もあります。
高柳 ユニーが苦労してきた2階、3階はドンキ色が強いかもしれませんが、ユニーの得意分野の生鮮食品売り場は既存のドンキとはまったく別の売り場です。ただ、食品でも学ぶべき部分はあります。共同店舗に「ギガ盛弁当」という一つのプレートに2人分の弁当を収めた商品があります。お客からすれば、2人分買うよりもコストを抑えられますし、遊び心もある。ユニーは真面目すぎるなと思うところはあります。
◇伊藤忠を使い倒す
── セブンイレブンに続きローソンも銀行業の免許取得に動いています。ファミリーマートの金融分野での展開が注目されています。
高柳 金融は伊藤忠を使い倒すという点で最も有効な分野です。キャッシュレス決済、ポイント、電子マネーなど、既存のサービスとどう整理するかを含めた方向性を年内に決める予定です。
ただ、キャッシュレスの時代になればATMを使うお客は減っていくので、現金を中心に扱う銀行業はあまり考えていません。むしろ、関心があるのは電子マネーをどう使うかです。
── 人手不足にどう対応しますか。
高柳 スタッフの業務軽減の問題を一遍に解決するのは難しいので、「ちりも積もれば山となる」方式で対応しています。例えば、ファミリーマートでは、届いた商品の数などを確認する検品作業に各店舗平均1日当たり2時間かけています。しかし、検品で見つかるロスは数十円程度。割に合いません。これを店舗に出す前の出荷時点で行う体制に切り替えます。また新しい什器(じゅうき)の導入や掃除の仕方の見直し、一部店舗へのセルフレジの導入など細かな工夫を寄せ集めて何時間分の作業を削減できるかを研究しています。
── リアル店舗の強みをどう生かしますか。
高柳 お客を呼ぶための対策をいろいろと打っています。そのひとつがトイレです。コンビニのトイレは意外ときれいでしょう? 立ち寄ったついでに買い物する人が多いので、トイレの維持にものすごいエネルギーを費やしています。民泊仲介大手の米エアビーアンドビー(Airbnb)との業務提携も、鍵の受け渡しを通じて来店機会を増やす狙いがあります。コンビニは「よろず便利屋」であるべきで、お客を呼んだものが勝ちます。
(構成=花谷美枝・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 伊藤忠商事で石油の相場を担当していました。当時は1バレル=10ドルから80ドルまで動いた時代。よく負けていました。
Q 「私を変えた本」は
A 遠藤周作の『沈黙』や阿川弘之の海軍大将シリーズの『井上成美』が好きです。
Q 休日の過ごし方
A ゴルフと日曜大工。床の張り替え程度は朝飯前です。
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■人物略歴
◇たかやなぎ・こうじ
1951年生まれ。静岡県立浜松北高校、早稲田大学理工学部卒業。75年、伊藤忠商事入社。原重油部長、生活資材・化学品カンパニープレジデント、取締役副社長執行役員食料カンパニープレジデント、ユニー取締役を経て2017年5月から現職。66歳。
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事業内容:総合小売り事業、コンビニエンスストア事業等の持ち株会社
本社所在地:東京都豊島区
設立:1981年9月
資本金:166億円5900万円
従業員数:1万7777人(2018年2月末現在)
業績(18年2月期、連結)