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【オリンパス中国贈賄疑惑続報】「反社」企業に35億円の支払念書 報酬の簿外処理を承認

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編集部

 

 中国で巨額の損害賠償を求められている裁判には裏があった――。オリンパス中国深セン工場(OSZ)の贈賄疑惑で、OSZが深セン税関とのトラブルを解決した現地仲介者と交わした契約の中身が、本誌入手の内部資料により明らかになった。 

 

それによると、日本円で約35億円に上る成功報酬のうち、現金部分の約4億円を除く大部分を社員寮の安値譲渡で相殺する「簿外処理」スキームとなっている。笹宏行社長ら現経営陣はその契約を承認していた。  2011年の粉飾決算発覚後も法令順守体制が改善していないことを示しており、第三者による徹底的な調査が求められそうだ。  

 

◇中国語の「備忘録」

 

 今回、入手した内部資料は二つ。

 

 一つ目は、OSZと中国深セン市に本拠を置くコンサルタント「安平泰投資発展有限公司(安平泰)」との間で13年10月16日に交わされた成功報酬の支払いに関する中国語の「備忘録」。備忘録の最後には、OSZと安平泰の社判がそれぞれ押されている。

 

中国語の「備忘録」には社員寮の安値売却スキームが明記されている。日本語訳も下にアップ
中国語の「備忘録」には社員寮の安値売却スキームが明記されている。日本語訳も下にアップ
2ページ目には、OSZと安平泰の社判が
2ページ目には、OSZと安平泰の社判が

備忘録の日本語訳

 二つ目は、深セン税関とのトラブル解決を受け、笹社長ら最高幹部が、安平泰へのコンサル費用の支払いを承認した会議の際に作成した14年9月12日付メモだ。

支払い承認の経営会議には最高幹部が勢ぞろいした
支払い承認の経営会議には最高幹部が勢ぞろいした

 

 OSZは06年5月、北京税関総署の税務監査を受けた際、通関帳簿上の在庫が日本円で約700億円のマイナスになるという不備が発見され、地元深セン税関から14年9月までにその解消を求められた。そのため、深セン税関ともパイプが太いとされる安遠控股集団公司(安遠)とそのダミー会社である安平泰に13年5月ごろ、相談を持ちかけた。安遠は中国当局に「反社会勢力」と認定されている。同7月には、本社総務部長が木本泰行会長(元三井住友銀行専務、現日本板硝子社外取締役)にコンサル起用を報告。「備忘録」はその頃に、安平泰と交わされた成功報酬に関する事実上の念書と見られる。

 

 内容は、トラブル解消の暁には、帳簿上の不具合額である700億円の5%、約35億円を安平泰に成功報酬として支払うもの。しかし、現金での支払いは約4億円を上限とし、残りは、OSZの社員寮(女子寮)2棟を、市場価格より大幅に安い価格で譲渡することで、相殺するスキームとした。寮の譲渡価格は「1平方メートル当たり2000元」と市場価格より大幅に安く設定されている。巨額の現金支出により、株主などへの説明責任が生じることを恐れたオリンパス側に配慮したと見られる。

 

 その後、OSZは14年4月に安平泰と正式にコンサル契約を結び、同8月に税関とのトラブルが解決した。それを受け、オリンパスは14年9月12日に新宿本社で最高幹部を集め経営会議を開催した。

 

 ◇銀行出身役員も承認

 

 会議には木本会長、笹社長のほか、藤塚英明専務(元三菱UFJ銀行執行役員、現丸井常勤監査役)、竹内康雄専務(現副社長)、平田貴一執行役員(現常務)ら主要幹部が出席。木本会長は「経営として総額を支払う判断あり」と発言。笹社長も「経営として支払う判断あり」、藤塚専務も「経営としては総額を支払う判断あり」と承認した。

 

 メモは、「決裁内における問題規模と効果金額のわかるもの」として、「契約書」について言及している。当日出席した木本会長、笹社長らオリンパスの最高幹部らは、安平泰への成功報酬が社員寮の安値譲渡の形を取る「簿外処理スキーム」になることを認識していた可能性が高い。

 

 木本会長ら最高幹部の承認を受け、OSZは同年12月、成功報酬の現金部分として安平泰に2400万人民元(約4億円)を支払った。

 

 その後、前出の備忘録に従って、OSZは社員寮2棟を安平泰に譲渡しようとした。しかし、一連の取引を問題視したアジア統括子会社の法務部門責任者が、「安平泰が深セン税関を買収した恐れがある」と本社の社外取締役や常勤監査役などに内部通報。15年2月に社内調査委員会が立ち上がり、安平泰への社員寮の譲渡は凍結された。

 

 その結果、安平泰はOSZが約束した社員寮2棟の譲渡を履行していないとして16年12月、深セン市中級人民法院に寮の譲渡か2億7490万人民元(日本円で約46億7000万円)の支払いを求める民事訴訟を起こし、現在に至っている。

◇弁護士事務所の利益相反

 

 15年10月に作成された社内調査報告書では、不思議なことに本誌が入手した備忘録についての言及がない。報告書は「安平泰が贈賄を行った疑いを完全には払拭できない」としたものの、「オリンパスに日本、米国、及び中国の贈賄関連法令に違反する行為があったとの認定には至っていない」と結論付けている。

 

 社内調査報告書は、オリンパスの委託を受けたシャーマンアンドスターリング外国法事務弁護士事務所(シャーマン)と西村あさひ法律事務所が作成した。だが、シャーマンは一方で、OSZの社員寮の譲渡についてもオリンパス側の代理人として安平泰と交渉している。

 

 アジア統括子会社の法務部門責任者は、社内調査報告書が完成した後も、安遠・安平泰との取引に懸念を抱き、17年3〜4月に三つの米国法律事務所から意見書を取得。いずれもが、安平泰による深セン税関の贈賄リスクを指摘し、取引の即時中止を勧告している。また、複数の意見書が寮の譲渡交渉を担当するシャーマンが社内調査を行うことについて「利益相反に当たる」と認定している。

 

 オリンパス広報・IR部は事実関係の確認を求める本誌の取材に対し、「『備忘録』については、当社は偽造されたものと認識している。その有効性、真正性については、現在進行中の安平泰との訴訟の争点となっているので、これ以上のコメントは差し控えたい」と回答。14年9月12日付の経営会議メモについては、「成功報酬の現金部分である2400万人民元(約4億円)の支払いについて話をしたもので、(社員寮の安値譲渡という)簿外取引を承認したものではない」と反論している。

 

*週刊エコノミスト6月19日号掲載

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