Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── 2017年度は売上高と営業利益が7%ずつの増収増益でした。要因は。
山名 事務機器の市場環境が厳しく、業界では後ろ向きのニュースがひっきりなしです。紙を扱う事務機器は産業そのものが終わっているという論評もあります。しかし、当社の事務機器は設置台数が増えていて、1年間に生み出されるプリント量も前年比で3%増えています。主力の事務機を含めすべての事業分野で増収増益でした。
── 逆風のなかで、なぜ台数やプリント量が増えるのでしょうか。
山名 コピー機を設置するだけでは、提供できる価値に限界があります。当社の顧客の中小企業の多くには、情報システム部署がありません。そうした企業のIT(情報技術)に関する“困りごと”に対応できるよう、7~8年前から40社以上のITサービス会社の買収を世界中で進めてきました。
── 事務機といえば毎月のように保守の担当者が職場に来て、トナーなどを交換します。その人たちがお客さんの相談に乗るのですか。
山名 いや、専門性が必要ですから、保守スタッフは対応しません。買収したIT会社には、顧客の業務課題を聞いて解決策を提案できるプロがいます。電子データの保管やセキュリティー対策、業務フロー改革、クラウド基盤の構築など、IT関連のビジネス需要を掘り起こして、全体の売り上げ増につなげています。
複合機がIoT基盤に
── 今秋ごろに新しいコンセプトの事務機を出す予定ですね。
山名 「ワークプレイスハブ」という名称で、コピーやスキャナーなどの機能を持つ複合機にサーバーを内蔵する、進化した複合機です。導入先のITサービスやIoT(モノのインターネット)を運用するプラットフォームで、さまざまな現場の効率を向上させることが狙いです。例えば、2年前に買収したドイツのモボティックスという監視カメラメーカーがあります。工場や病院における人の動きなどをリアルタイムで分析できるのが強みで、ワークプレイスハブのサーバー機能と連携させれば、効率的な運用ができます。8月から世界8カ国で発売し、秋には11カ国くらいに拡大する予定です。21年度には関連売り上げで1000億円以上を考えています。
── 何台くらい販売すれば1000億円以上になりますか。
山名 複合機だと設置台数によってプリント量が決まってきますが、ワークプレイスハブは、スマートフォンのようにアプリを提供して、使われた分に応じて従量課金します。設置台数に加え、累積でアプリがどれくらい使われるかをシミュレーションすると、1000億円という事業規模は十分に可能だと考えています。
── デジタル方式の商業印刷も好調です。
山名 大量に印刷して必要なところに輸送して配給する従来のアナログ印刷が、世の中の印刷物の9割以上を占めています。デジタル印刷は必要部数をコンピューターに入力して出力するので、無駄な印刷をなくすことができて、環境にもよい。紙への印刷だけでなく、イタリア有名ブランドのネクタイだってデジタル印刷でつくっています。
フィルム技術に由来し創薬支援
── ヘルスケアでも昨年は2件の大型買収がありました。その狙いは。
山名 米国のバイオヘルス2社を買収しました。がん患者の遺伝子の検査サービスで先駆的なアンブリー・ジェネティクス(当時の為替で542億円)と、創薬に必要なバイオマーカー(診断指標になる生体由来物質)発掘に重要な能力を持つ、インヴィクロ(同320億円)です。当社には、フィルム関連技術の蓄積を基にたんぱく質を検出する「HSTT」という独自技術があります。3社の技術を融合することで、製薬会社への創薬の提案力を高める狙いで、過去最大と2番目の買収に踏み切りました。
── 3割強株主の外国人投資家から、事務機や液晶パネル部材、創薬支援など事業構成がわかりにくいと言われませんか。
山名 複写機や印刷機、医療関連の計測機器など事業が多岐に広がっているようにみえるかもしれません。ただ、当社の進むべき道は、光学、画像、材料、微細加工の四つの技術を融合し、ビジネスを切り開くことです。06年にカメラから撤退しましたが、光学はずっと技術の中核を成しています。写真フィルム(06年撤退)で培った、材料を微細に加工する技術もいまでも当社の中核です。200万社の顧客基盤を持つなかで、画像、データ、センシングの技術とIoTを駆使して、課題解決型の企業に進化します。
── 売上高構成比が37%と高い欧州が政治的に不安定な状況です。業績に与える影響は。
山名 ドイツを中心に経済は強く、欧州事業が減速しているわけではありません。問題は為替で、18年度業績見通しでは1ユーロ=125円の前提です。ユーロ相場は注視する必要はありますが、現地通貨ベースの事業をしっかりやることが大切です。また、成長率でみると中国、インド、(その他)新興国が高い。日米欧を除く地域の売上高比率は現在約15%ですが、5年後には30%程度に引き上げようと考えています。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 30代前半は欧州に駐在して、ベルリンの壁崩壊という激動を肌で感じました。後半は日本に戻り経営企画を担当し、中長期ビジョンなどの策定に関与。30代によい経験ができたと思います。
Q 「私を変えた」本は
A 梅原猛さんの『将たる所以』です。リーダーには世界観が必要と学びました。
Q 休日の過ごし方
A ジョギングや美食。最近はモダンフレンチ。
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■人物略歴
やまな・しょうえい
1954年生まれ、兵庫県立柏原高校、早稲田大学商学部卒、77年ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)入社、コニカミノルタホールディングス常務執行役、コニカミノルタ取締役兼専務執行役を経て2014年4月から現職。兵庫県出身。63歳。
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事業内容:事務機器、商業印刷、医療IT、産業用材料・機器事業
本社所在地:東京都千代田区
設立:1936年12月
資本金:375億1900万円
従業員数:4万3299人(2018年3月現在、連結)
業績(18年3月期、連結)
売上高:1兆312億円
営業利益:538億円