2012年7月から6年。今年8月に301回で完結した『週刊エコノミスト』の人気連載「名門高校の校風と人脈」が『名門高校100』(河出書房新社)として刊行された。全国314校を取材・執筆してきたジャーナリストの猪熊建夫氏に聞いた。
── なぜ名門高校をテーマに。
■40年以上前の新聞記者時代から、官僚や政治家、経営者といった取材先に必ず出身高校を聞いてきました。出身大学は官僚なら東大ばかりですが、高校は郷里と結びつくので話が弾みます。出会った人には必ず出身高校を尋ねるようになり、メディアに登場する著名人についても調べるのが習慣になりました。
大学進学率は今でも半分程度ですが、高校は9割超が卒業していることもあります。どんな青春を送ったのか、人となりを知ることにつながるのが出身高校なのです。
── 取材はどう進めましたか。
■名門高校たる基準は「どのような人物を輩出しているか」。まず、高校の校長や同窓会に取材を申し込みましたが、OB・OGの把握度合いは千差万別でした。活躍する出身者のインタビューを同窓会報に毎号載せる高校がある一方、依頼を機に調べると言ってくれ、半年後に取材に行った高校もあります。
取り上げた高校のほとんどは直接訪れました。その際には地元の博物館・美術館にも足を運ぶと、地元出身の画家や研究者のプロフィールを確認できました。一方、インターネットの情報は間違っていることも多く、裏付けを要しました。
「進学校=名門高校」ではなく、あくまで人材輩出力に着目したことは、文化勲章8人を輩出した銅駝美術工芸(京都市、連載第148回)、卒業生が五輪に多く出場した四天王寺(大阪市、連載第130回)などを取り上げたことに表れています。近年進学実績を上げていても著名な卒業生がいない高校は、まだ成熟していないので取り上げませんでした。
◇「お城に名門高校あり」
── 連載を通じて感じたことは。
■お城のあるところに、名門高校あり。江戸時代の約270の藩に対応した形で名門高校があり、地方から有為な人物が輩出されてきました。日本のノーベル賞受賞者25人(米国籍含む)のうち、東京都内の高校の卒業生が1人しかいないことが象徴的です。
連載を本にまとめた書籍『名門高校100』では、各都道府県から少なくとも1校を載せましたが、難なく選べました。これはすごいことだと思います。他の先進国では都市部に偏るのではないでしょうか。江戸時代に各藩の藩主が藩校を作り、教養を積んできたという下地があるのだと思います。ただ、残念ながらここ30~40年、地方の名門高校の人材輩出力は落ちてきています。
── 今後、「名門高校」には何が求められますか。
■今、どの名門高校も「グローバル人材の育成」を掲げていますが、衰退する地方にも目を向けた方がいいのではないでしょうか。地方の名門高校から都市部の有力大学への進学者が減っている現状は、消極的に地元を選んでいるように思えます。
出身地にとらわれない広い視野を持ちつつ、大学進学などで地元を離れても、いずれはローカルで尽くす。そんな「グローカル人材」を育んでほしいと思います。