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【特集:シン・円高】元財務官に聞く 「協調介入は危機感の共有が必要」=篠原尚之

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 ◇元財務官に聞く 為替介入の効果と可能性 

 ◇2007~09年に財務官

 

 ドル・円市場が動くと市場で取りざたされるのが為替介入だ。現在の相場環境で実施される可能性はあるか。政府や日銀の財政、金融政策に対する見方も含め、元財務官の篠原尚之・東京大学政策ビジョン研究センター教授と榊原英資・青山学院大学特別招聘教授に聞いた。(聞き手=後藤逸郎/谷口健・編集部)

 

 篠原尚之(東京大学政策ビジョン研究センター教授)

 

── 財務官時代の為替介入を巡る経験について。

篠原 2008年9月のリーマン・ショック後に円高が急速に進み、ショックの約2週間後にG7で円を特定した共同声明を出した。協調介入ではなく、日本の単独介入でならよいという形で各国が合意した。実際には声明そのものの影響が大きく、介入せずに済んだ。

 金融危機後に米ゼネラル・モーターズ(GM)など米大手自動車メーカーの経営危機を受けて円高が進んだ局面では口先介入が効いた。当時は本当に介入するのでは、という雰囲気が市場にあったためだ。

── リーマン・ショック時、なぜ協調介入で合意できなかったのか。

篠原 当時は上昇しているのは円だけで、一緒に介入してくれる国がなかった。しかし、日本に介入が必要な点で各国の呼吸は合っていた。

 介入に踏み切る上で為替の水準は関係ない。協調介入は金融システムが危機に陥りそうだと各国が認識したらできる。

── 現在のドル・円相場の水準についてどう見ているか。

 

篠原 1ドル=100円で円高と言う人もいるがとんでもない。円高でも円安でもなく、皆が想定しているレンジの範囲内だ。同70円台程度まで行けば場合によっては海外当局と話そう、ということになる。

 私は実質実効レートを最もよく見ているが、むしろ思ったよりも円高にならないことに驚いている。円や日本経済の実力がそれだけ落ちてしまったのかなと悪い予感がする。

── 今の局面で介入の可能性は。

篠原 まったくないと思う。為替レートは2国間の......

 (『週刊エコノミスト』2016年9月20日特大号<9月12日発売>32ページより転載)

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定価:670円(税込み)

発売日:2016年9月12日



【特集:シン・円高】クリントン新政権の財務長官は? 最有力候補は「ハト派」FRB理事=岩田太郎

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ブレイナード氏(54)は3女の母でもある Bloomberg 週刊エコノミスト
ブレイナード氏(54)は3女の母でもある Bloomberg

 ◇サマーズ氏の長期停滞論にも同調

 

 岩田太郎(在米ジャーナリスト)

 

 11月8日に投票が迫る米大統領選。8月中旬の複数の世論調査では、民主党のヒラリー・クリントン氏(68)が、ライバル共和党のドナルド・トランプ氏(70)に6~8ポイントの差をつけており、「クリントン大統領誕生」のシナリオが現実味を帯びてきた。では、「クリントン新政権」の財務長官は、誰が有力視されているのか。

 通信社ブルームバーグをはじめ、『フォーブス』や『マネー』両経済誌など、米経済メディアの論評では、米連邦準備制度理事会(FRB)理事のラエル・ブレイナード氏(54)が最有力視されている。

 ブレイナード氏は、早期利上げに一貫して反対する「ハト派」として知られる人物。ビル・クリントン大統領時代に財務長官を務めたローレンス・サマーズ氏(61)が唱える米国経済の長期停滞論(セキュラー・スタグネーション)に近い弱気の見方を持つ。

 

 サマーズ氏の見方に似ているのは偶然ではなさそうだ。ブレイナード氏は、1995~2000年までビル・クリントン大統領時代のホワイトハウスで、経済アドバイザーを務めていた。サマーズ氏が財務長官を務めたのは99~01年。つまり、政策立案で緊密に連携していた時期もある。事実、サマーズ氏は、「彼女は卓越した能力と鋭い政策の勘を持つエコノミストであり、交渉官としてのスキルも偉大だ」とほめちぎっている。

 ブレイナード氏は、グローバル経済が大きく揺れた10~13年、国際担当の財務次官を務めた。当時は、各国の財務大臣や中央銀行要人などと精力的に会合を重ねた。財務次官としてのブレイナード氏は、「疲れ知らずのタフな交渉官」(『ニューヨーク・タイムズ』)として評判をとった。欧州に対しては、国家負債問題でより効果的かつ大規模な処置を取るよう圧力をかけ、中国を通貨操作国として名指しすることは避けたものの、経済改革を急ぐよう迫った。

 

 ブレイナード氏は為替に関して、財務次官在職中の13年2月の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で、「米国は日本が(アベノミクスや金融緩和で)成長を再加速させ、デフレ脱却に努力することを支持する」と、円安容認とも取れる発言を行い、相場が円安に大きく振れたことがある。

 ブレイナード氏以外には、米商品先物取引委員会(CFTC)の委員長を務めたゲイリー・ジェンスラー氏(58)の名も挙がる。79~97年までゴールドマン・サックスで働き、その後は、97~99年まで財務次官を務めた。09~14年まで、CFTCの委員長だった。現在は、ヒラリー・クリントン候補の陣営の財務責任者という最側近の一翼を担う。しかし、ウォール街と親密すぎるとして、可能性は低いとも言われている。

 

 ◇金融・通貨政策の「女性トリオ」

 

 

 ヒラリー・クリントン氏はドル高よりドル安を志向していると言われる。大統領選では......

 (『週刊エコノミスト』2016年9月20日特大号<9月12日発売>29ページより一部を転載)

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経営者:編集長インタビュー 張店(デビッド・チャン) BTCボックス社長 2016年9月27日号

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◇「仮想通貨IPO」の時代が来る

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

  日本円でビットコインを購入・売却するための取引所を運営する。月間の取引規模は62万9416BTC(BTCはビットコインの単位)、約440億円(7月)。

 

── ビットコインが活況ですね。

 張 理由の一つは、日本の国会で5月末に仮想通貨の悪用を防ぐための規制を定めた改正資金決済法が可決されたことです。法整備が進み仮想通貨に対するイメージが良くなりました。

  もう一つは、4年に1度、新たな通貨の供給量が半減するという、ビットコイン特有の仕組みの影響です。通貨価値を担保するための半減期が7月にあり、それを見越して6月に価格が2倍に急騰しました。

 

  さらに、ビットコインの基盤技術である「ブロックチェーン」の応用技術開発に大手金融機関が乗り出したこともあります。ブロックチェーンとはインターネット上の巨大な台帳で、世界中のビットコインのユーザーによって共有され、新たな取引が行われる度に取引記録が書き加えられる仕組みです。

── 取引所を作った理由は。

 張 2013年ごろ、世界中で取引されるようになったビットコインに通貨の未来を感じ、興味を持ったのがきっかけです。

  しかし、当時は日本でビットコインを買いたくても、日本の仮想通貨取引所は対応が遅く、また、海外の取引所から買う場合は、英文の身分証などを用意する必要があり、入手手続きに時間がかかりました。

  そこで、もっといいサービスを提供できる取引所を自分で作ろうと考え、14年3月にBTCボックスを創業しました。取引所に口座開設の申し込みをしたら、翌週にはビットコインを入手できるサービスを日本で初めて作りました。

── サービスの内容は。

 張 現在、ビットコイン含め三つの仮想通貨と日本円の交換の場を提供しています。ユーザーは口座を作れば、仮想通貨と円の取引が自由にできます。

── 収益源を教えてください。

 張 一つ目は、ビットコインと円の取引手数料ですが、現在は、国内取引所間で競争が激化しているため、2年前から各社ゼロに設定しています。ただ、こうした状況は健全とは言えません。

  二つ目は、ユーザーがBTCボックスの口座にある日本円を、自分の銀行口座に出金する際にかかる0・5%の手数料です。

  三つ目は、ビットコインの短期売買で利ザヤを抜くといった、いわゆる信用取引をしたいユーザーにビットコインを貸し出す際の手数料です。最低利率は0・1%で、貸出量に応じて大きくなります。あくまで一時的な貸し出しで、長期的なサービスは考えていません。

── 他社と比べて強みは。

 張 他の取引所は、システム関係で何らかの不具合を起こして取引を停止した経験がありますが、BTCボックスは、取引所の開設以来、サーバーがダウンするといった事故を一度も起こしていません。理由の一つは、取引システムが強固なことです。システムの構築は外注せず、すべて内製しています。それを可能にする技術スタッフがいます。

 

◇ブロックチェーン2.0

 

── 9月から始めた新サービスはどのようなものですか。

 張 日本円を介さずに仮想通貨同士を直接売買する取引所「BTCボックス・ドットコム」を開設しました。取り扱うのはビットコインとイーサリアムの通貨ペアです。

  イーサリアムは、昨年夏に仮想通貨市場に登場した比較的新しい仮想通貨です。そのブロックチェーンを構成する各ブロックには、ビットコインなどに比べてより大きな情報を記録できるため、決済のほかさまざまな用途に活用できます。これまでの通貨目的の技術が「ブロックチェーン1・0」と呼ばれるのに対し、「スマートコントラクト」という電子契約が可能になるイーサリアムは「ブロックチェーン2・0」と呼ばれ注目されています。

── 具体的に何ができますか。

 張 契約情報を盛り込むことができるので、期日までに指定の口座にこれだけ入金するということをあらかじめ書き込めば、期日に自動的に支払いが実行されます。証券や不動産の取引に使えます。今、大手銀行などが開発中の技術は、すべてブロックチェーン2・0で、いわゆる「フィンテック」(ITを活用した金融技術)の一つです。

  現在、仮想通貨は利殖目的で買われることが多いですが、投機目的ではなく、仮想通貨同士の売買を仲介することで、ブロックチェーン2・0の活用領域を広げることがBTCボックス・ドットコムの目的です。8月には技術者派遣業の夢真ホールディングスと資本業務提携しました。フィンテック領域でブロックチェーン技術者の育成・派遣を行う新事業を立ち上げるのが目的です。

── 今後の目標は。

 張 株式新規公開(IPO)のように、イーサリアムのような有望な仮想通貨を新規公開する「ICO」(イニシャル・コイン・オファリング)が目標です。ICOした通貨を使った新たなサービス創出のプロジェクトへ出資を募る役割も担いたいです。また、大手金融機関が提供するアプリケーション開発を受注できれば、新たな収益源になります。

 (構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本の電機メーカーでアップルの製品の共同開発に携わっていました。

Q 「私を変えた本」は

A 米ペイパル共同創業者エリック・ジャクソンの『The PayPal Wars』です。ペイパルとイーベイの競争は、仮想通貨取引所の競争に似ていて、目標設定や決断の参考になります。

Q 休日の過ごし方

A 2歳の息子と公園に行ったり、読書や映画鑑賞をしたりすることが多いです。

 

■人物略歴

◇デビッド・チャン

 中国山東省出身。2004年遼寧省大連開発区第8高校卒業、08年瀋陽工業大学卒業後に来日し、日本の電機メーカーに入社。14年3月に独立し、BTCボックスを設立。31歳。

 

◇BTCボックス

事業内容:仮想通貨と日本円の取引所運営

本社所在地:東京都中央区

設立:2014年3月

従業員数:13人

月間仮想通貨取扱高(ビットコイン):約440億円(16年7月実績)

目次 2016年9月27日号

特集:ぶらり日本経済 2016年9月27日号

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◇岩崎と渋沢の買収合戦

◇海から陸に転じた三菱

 

 鹿島 茂(明治大学教授)

 

 東京のど真ん中の東京駅周辺で、大規模再開発が始まろうとしている。

 三菱地所が東京駅日本橋口前で進めている「常盤橋街区再開発プロジェクト」がそれである。千代田区大手町から中央区八重洲にかけての3万1400平方メートルの土地に2017年から10年がかりでビルを四つ建設しようという1兆円超の大規模プロジェクトだが、中心となるのが高さ390メートルの日本一の超高層ビル(地上61階・地下5階)というのだから、東京の巨大ランドマーク誕生となること必至である。三菱地所は金融関係の企業を誘致し、国際金融センターとしてさらに発展させる狙いだ。

 ところで、この大計画の主体が三菱地所であると聞くと、東京の再開発史に詳しい人なら、バブル真っ盛りの1988年に同社が発表した「マンハッタン計画」を思い浮かべるかもしれない。旺盛なオフィス需要を受けて、丸の内一帯にニューヨークのマンハッタンに匹敵する超高層ビル街を建てた場合のシミュレーションを行った。ただ、同計画は再開発へと発展することはなかった。

 つまり「常盤橋街区再開発プロジェクト」は30年前の「マンハッタン計画」をバージョンアップさせた三菱地所の再挑戦と見ることもできるわけだが、しかし、私のような渋沢栄一の伝記作者からすると、常盤橋という地名(渋沢栄一の銅像が常盤橋公園に建っている)から、どうしても想起せざるをえないエピソードがある。1888(明治21)年の市区改正計画(都市計画)で浮上した丸の内一帯の陸軍用地一括払い下げを巡る三菱・岩崎弥之助と渋沢栄一・有力実業家連合との確執である。・・・・・

 

                                       続きは本誌で

週刊エコノミスト 2016年9月27日号

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定価:620円(税込み)

発売日:2016年9月20日

  特集:ぶらり日本経済

 

◇岩崎と渋沢の買収合戦 海から陸に転じた三菱

 

鹿島 茂(明治大学教授)

 

 東京のど真ん中の東京駅周辺で、大規模再開発が始まろうとしている。

 三菱地所が東京駅日本橋口前で進めている「常盤橋街区再開発プロジェクト」がそれである。千代田区大手町から中央区八重洲にかけての3万1400平方メートルの土地に2017年から10年がかりでビルを四つ建設しようという1兆円超の大規模プロジェクトだが、中心となるのが高さ390メートルの日本一の超高層ビル(地上61階・地下5階)というのだから、東京の巨大ランドマーク誕生となること必至である。三菱地所は金融関係の企業を誘致し、国際金融センターとしてさらに発展させる狙いだ。

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経営者:編集長インタビュー

◇張 店(デビッド・チャン)BTCボックス社長

◇「仮想通貨IPO」の時代が来る

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 日本円でビットコインを購入・売却するための取引所を運営する。月間の取引規模は62万9416BTC(BTCはビットコインの単位)、約440億円(7月)。

 

── ビットコインが活況ですね。

 張 理由の一つは、日本の国会で5月末に仮想通貨の悪用を防ぐための規制を定めた改正資金決済法が可決されたことです。法整備が進み仮想通貨に対するイメージが良くなりました。

                                        続きを読む

ワシントンDC

◇世銀が途上国防災を支援

◇災害考慮の開発を後押し

 

(安井真紀・国際協力銀行ワシントン首席駐在員)

 

 この夏は、イタリア中部の大地震、米国南部ルイジアナ州の洪水、日本や中国の台風被害など、世界各地が自然災害に見舞われた。国連の「国際災害データベース」によれば、1990年から2015年に発生した一定規模以上の干ばつ、地震・津波、洪水、地滑り、暴風雨、火山噴火などのうち、死者・行方不明者の数が最も多いのは地震・津波で、犠牲者は80万人以上に上る。                             続きを読む

ワシントンDC 2016年9月27日号

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◇世銀が途上国防災を支援

災害考慮の開発を後押し

 

(安井真紀・国際協力銀行ワシントン首席駐在員)

 

 この夏は、イタリア中部の大地震、米国南部ルイジアナ州の洪水、日本や中国の台風被害など、世界各地が自然災害に見舞われた。国連の「国際災害データベース」によれば、1990年から2015年に発生した一定規模以上の干ばつ、地震・津波、洪水、地滑り、暴風雨、火山噴火などのうち、死者・行方不明者の数が最も多いのは地震・津波で、犠牲者は80万人以上に上る。発生件数、家屋の損失、食糧・医療等の緊急支援が必要な人の数が最も多いのは洪水であり、被災者は累計で約28億人にもなる。スイスの再保険会社は8月、16年上半期の災害による経済損失は世界全体で約710億ドル(昨年同期比38%増)と発表した。熊本の震災やカナダの山火事などが損失額を押し上げた。

  自然災害による人的被害や経済損失が大きいと理解していても、特に開発途上国では、いつ起こるかわからない災害のために予算を充てるのは容易ではない。途上国の開発プロジェクトの中には、災害をあまり考慮していない計画や設計もある。大規模な災害は大きく報道され、多額の支援金や物資が集まるという面もあり、災害対策は後手にまわりやすい。

  途上国の発展を支援する国際機関は今、既存の開発計画や貧困削減対策に防災関連の投資を盛り込むことを、技術・資金の両面で支援している。

 

◇情報共有が課題

 

  世界銀行は、06年に防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)を設立した。GFDRRのメンバー国の日本は14年、東日本大震災の経験を踏まえて、「日本・世界銀行防災共同プログラム」を開始した。防災専門官が集う「世界銀行東京防災ハブ」(東京都千代田区)を設立。日本の防災の知見や技術を活用して、途上国の開発プロジェクトで災害リスクを十分に考慮して、計画、ファイナンス、事業実施に当たる「防災の主流化」を後押ししている。

  具体的なプロセスは、(1)対象国・地域の潜在的災害リスクの特定(2)リスク軽減方法の検討(3)国・地域レベルの警報システムの構築や危機対応計画の策定などだ。特に(1)の災害リスクの特定では、対象国・地域の気象、地質、過去の災害などの情報を集める必要がある。ところが途上国には必要な情報がない、あっても精度が低い、各機関に散在し集約されていない、ことが多い。

  ただ、別の目的で集められた情報が、実は防災に役立つことがある。世界銀行は、個別プロジェクトを管轄する部署が保有する情報を、防災のために共有できるよう、各国政府機関などの協力を得て、オープンなデータベースの構築を始めている。

  自然災害は、気候変動はもちろんのこと、急速な都市化とも無縁ではない。14年に発表された国連の「世界の都市化予測リポート」によれば、1950年に世界の人口の3割だった都市部の人口は、2014年には54%を占め、50年には66%に上るという。人が都市部に押し寄せて、居住に適さない場所にも住むようになると、災害の影響が拡大する可能性がある。

  災害リスク管理、気候変動対策、都市化対応は、互いに連動するグローバルな課題だ。各分野の情報収集・共有が進めば、多くの人が関心を持ち、立場や専門分野を超えてアイデアや解決策も集まるだろう。共通のプラットフォームを構築し、プロセスの標準化が進めば、個別の対策により多くの人材・資金を投入できるだろう。災害の多い日本の経験や知識も、世界と共有することで、「持続可能な防災・減災」につながることを願う。

【EconomistView】:アメリカン・エキスプレスが新たなブランド広告を展開 2016年9月27日号

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アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.(日本)の清原正治社長

「ネオ・ポテンシャリスト」の消費トレンドも調査分析、サービスに生かす

 

アメリカン・エキスプレスは、9月5日から日本で新たにブランド広告キャンペーンを展開するとともに、ビジネスパーソンを対象とした消費実態調査の結果を公表した。就任から2年、着実に成果を上げる清原社長に話を聞いた。
 

◇常にユーザーとつながり新しい価値を届ける

 

  アメリカン・エキスプレスの新たなブランド広告キャンペーンは、同社が提供する安心や利便性、ポイントプログラムなどを独創的なイラストレーションで紹介している。広告の最後に現れるメッセージ「Realise the Potential(リアライズ・ザ・ポテンシャル)」には、カードを最大限活用し、生活の可能性を広げてほしいという願いが込められ、清原社長は「私たちがお客さまに日々お届けする価値あるサービスを、親しみやすいデジタル映像で表現しました」と話す。


  テレビCMのナレーションには、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんを起用。「新しい時代のなかで伝統的な歌舞伎を輝かせる海老蔵さんの語り口で、常に新しい価値を届ける私たちの思いを伝えたかった」と、その意図を語る。

報道関係者へのプレゼンテーションも実施
報道関係者へのプレゼンテーションも実施

 また今回、消費や働き方への意識が高く日常生活の充実に積極的な人々を「ネオ・ポテンシャリスト」と名付け、中心となる20~40代のビジネスパーソンを対象に消費実態調査を実施。その結果から、彼らの消費トレンドは、自分の考えやこだわりを持ち、質の良いものを見極めて購入する「パーソナル」、モノよりコミュニケーションに投資する「ソーシャル」、オンラインを賢く駆使する「デジタル」の3つだと分析。「消費のあらゆる場面でクレジットカードを活用し、セキュリティ、ポイントの充実、利便性を重視していることも確認できました」と話す。
 そして今後も、顧客とよりコミュニケーションを密にし、オンラインでの導線もきめ細かに分析して、「それぞれのお客さまに価値あるオファーを差し上げ、それをフィードバックし、お互いの関係性をもっと深めていきたい」と強調する。

 日本経済が伸び悩むなか、今年5月に発表された日本クレジット協会の調査結果でも、日本におけるクレジットカード利用の伸びは顕著だ。それは個人消費の みならずビジネス領域も同様で、清原社長が就任時に特に注力したいと言った、同社の個人事業主や中小企業経営者向けカードも、予想を超える伸びを示してい るという。「カードが、日々の事業にも大きな価値を示すことを実感いただけた結果だと思います。一度お使いいただければ、より豊かな体験を実感していただ けるでしょう」
 清原社長の目は、次なる進化をしっかり見据えている。

アメリカン・エキスプレスの情報ついてはホームページ(https://www.americanexpress.com/japan/contents/why-american-express/index.html)で詳しく紹介されている



【特集:ぶらり日本経済】昭和の激動をくぐり抜けた三業地=金山隆一

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◇「置屋」「料理屋」「待合」

◇昭和の激動をくぐり抜けた三業地

 

金山隆一(編集部)

 

「田中角栄や大鵬、後楽園でナイターがあった日には王や長嶋、柴田が来ていました。昭和30年代まで芸者さんは200人はいたなあ」

 JR大塚駅(東京・豊島区)の南口を下りて線路沿いに駒込方面に向かうと「大塚三業通り」と書かれた小さな看板のある通りがある。ここでミニ割烹を経営する店主は大塚が三業地としてにぎわっていた時代を振り返り、こうつぶやいた。

 三業とは、芸妓を抱える「置屋」、調理を担う「料理屋」、料理を取り寄せ、芸妓を呼んで宴席を開く「待合(貸席)」のこと。一般には「花街」と言った方が通りがいいだろう。昭和期の東京にはこの三業地が46カ所もあった(地図)。

                                    ・・・続きは本誌で

 

【特集:ぶらり日本経済】山谷とゴールデン街のイメージチェンジ=編集部

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◇外国人が押し寄せる

◇山谷とゴールデン街のイメージチェンジ

 

大堀 達也/花谷美枝

(編集部)

 

朝の出勤ラッシュ時、JR南千住駅(東京都荒川区)から南に伸びる吉野通り沿いを歩くと、外国人バックパッカーが大挙して歩く光景を目にできる。彼らは、通り沿いの台東区日本堤1・2丁目と清川2丁目にある格安旅館の宿泊客だ。

 この地域は、かつて「日雇い労働者の街」と言われた「山谷」の中心部。その山谷に、2000年代以降、多くの外国人旅行客が訪れるようになった。今では外国人だけで1年間に延べ10万泊という人気の宿泊地へと変わった。

 山谷に外国人を呼び込む端緒になったホテルがある。漫画「あしたのジョー」の舞台として知られる「泪橋」の交差点からすぐの「エコノミーホテル・ニュー紅陽」だ。社長の帰山博之さんは「バブル崩壊の影響で減った宿泊客を呼び戻すために、2000年ごろ海外からの旅行客を狙って英語のホームページを開設したところ、予約が殺到した」と話す。・・・・                     山谷編の続きは本誌で

 

◇変わる業界人の街

 

 山谷に負けず外国人に人気の街が新宿区にある。新宿区役所と花園神社に挟まれた一帯に、およそ280店もの飲み屋がひしめく「新宿ゴールデン街」だ。

 昼間、店が開く前のゴールデン街は、歩いているのは外国人で、日本人はほとんど見かけない。夜になれば狭い路地に外国人があふれ返る。

 ゴールデン街を形成する新宿三光商店街振興組合の事務員、和田山名緒さんは「グリーンガイドに掲載されたことで、一気に外国人が増えた」とす。グリーンガイドとは、レストランの評価を星の数で表すことで知られるミシュランガイドブックの旅行版で、世界的に読まれている。

 ゴールデン街が外国人を引きつけるのは、間口が狭く平均4、5坪程度の2階建ての店が密集した、海外にはない建築だからだ。この特異な建築は「青線」、つまり非合法で売春が行われていた時代の名残で、1階で酒をふるまい、その後2階で娼婦が客を取るという形だった。戦後は1956年の売春防止法で、純粋な飲み屋街に変わる。・・・・・                   新宿ゴールデン街編の続きは本誌で

【特集:ぶらり日本経済】築地:市場の利権が疑獄事件へ発展=福地享子

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築地

 

◇明治時代も移転でもめた

◇市場の利権が疑獄事件へ発展

 

福地享子(築地魚市場銀鱗会事務局長)

/編集部

 

 

 築地市場の移転が紛糾している。当初、11月の予定だった豊洲への移転は、東京都の小池百合子知事が正式に延期を表明。安全性への懸念、巨額で不透明な費用の増加、情報公開の不足の三つの疑問が解消されておらず、東京都は、市場問題プロジェクトチームを発足させて、移転の可否を含め判断するとしている。

 この先、築地市場が豊洲に移れば、食料流通の中枢を担う大市場としては実は2度目の大きな引っ越しになる。最初の引っ越しは、江戸時代から300年続いた日本橋魚河岸から現在の築地市場への移転である。

 明治時代に持ち上がった日本橋からの移転は、魚河岸を仕切っていた問屋グループが猛反発し、今以上に混乱した。

 明治の移転問題は、衛生的で安全な施設や時代に合った物流システムが望まれたということのほか、移転に伴い不透明なカネの流れが社会問題化し、移転の足を引っ張ったなど、今と共通する課題を抱えていた点で興味深い。

 

◇「朝千両」の大商い

 

 明治期に端を発した魚河岸の移転問題を振り返るには、日本橋魚河岸の歴史を知っておかなければならない。魚河岸は、江戸時代初期の寛永年間の頃に誕生した。江戸は水の都であり、縦横にめぐらされた掘割を、物資を運ぶ船が行きかった。船荷を陸揚げする「河岸」は70あり、魚を扱う河岸のうち最も大きかったのが日本橋魚河岸だった。最盛期には、現在の室町1丁目から本町1丁目にかけて、ずらりと肴店が並んだ。

 魚河岸の創始者は、江戸っ子ではなく森孫右衛門という摂津国佃村(現在の大阪市西淀川区佃町)の名主と伝えられている。徳川家康上洛の折、大阪の住吉大社参拝の渡船を提供したのをきっかけに、孫右衛門は江戸に移って幕府の魚納入役となる。幕府に納めてなお余る魚介を市中で売ったのが魚河岸の起こりだ。

 当初は江戸城船入堀のある道三堀河岸で商ったが、日本橋界隈の市街地造成に合わせて日本橋小田原町(現在の室町1丁目)に移り魚市場の体をなした。

 森孫右衛門は鉄砲洲(現在の中央区明石町)沖の干潟100間四方を拝領して造成、故郷にちなんで佃島(中央区佃)と名づける。これを機に佃島で漁を行う生産者グループと、魚河岸で魚類販売を行う問屋グループに分かれる。ここに産地と問屋という近代物流の礎が築かれ、その後の魚河岸隆盛につながっていく。・・・・・

                                      続きは本誌で

【特集:ぶらり日本経済】永田町周辺:角福戦争、小泉vs中曽根の砂防会館

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永田町周辺

 

◇消える「権力の館」

◇角福戦争、小泉vs中曽根の砂防会館

 

清水孝幸

(東京新聞デスク長)

 

 国道246号から少し入ったところに、青みがかったタイル張りの古いビルがある。ガッ、ガッ、ガー。側壁に工事用の足場が組み上げられ、コンクリートを打ち砕く音が鳴り響く。かつて田中角栄、中曽根康弘ら自民党の大物政治家が個人事務所を構え、「権力の館」と呼ばれた東京・平河町の砂防会館だ。老朽化によって建て替えることになり、今年3月、閉鎖された。

 砂防会館の本館は、1957(昭和32)年に完成した。全国治水砂防協会の事務局や会議室のほか、貸事務室などに使ってきた。地上5階、地下2階建てで、御影石の柱、スチールサッシなど、当時の最新の建築技術が取り入れられているが、車寄せは狭く、入り口も自動ドアではない。エレベーターも1基のみで、見た目は何の変哲もない建物がなぜ、権力の館になったのか。

 

◇角栄と中曽根の極秘会談

 

 本館の完成と同時に、自民党本部が2、3階にテナントとして入居。建設費がかさみ、資金が足りなくなったため、自民党がテナントに入ることで協会の資金繰りを助けた。66(昭和41)年に現在の党本部(永田町)の建物が完成するまで本部を置いた。自民党を取材する記者クラブを「平河クラブ」と呼ぶ。平河クラブの名称は自民党本部が砂防会館にあった名残だ。

 党本部が永田町に移転すると、空いた3階に田中角栄が個人事務所と派閥事務所、中曽根康弘が2階に派閥事務所、4階に個人事務所を置いた。特に、田中角栄が権力の階段を上るにつれ、政治家や官僚、財界人、政治記者が集まり、権力の館に変容していった。田中に引き寄せられてか、のちには元首相の宇野宗佑や森喜朗、自民党幹部の青木幹雄や古賀誠らも事務所を構え、今年3月まで二階(俊博、衆院議員)派の派閥事務所もあった。

 田中が砂防会館で演じた最大の政治ドラマは、長期政権だった佐藤栄作首相の退陣表明を受けた跡目争いだ。・・・・・

                                      続きは本誌で

【特集:ぶらり日本経済】創業地:シャープは両国、サイゼリヤは有志が保存=編集部

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◇企業の創業地

◇シャープは両国、サイゼリヤは有志が保存

 

編集部

 

創業の地。そこは会社を起こした人の志や思いが詰まっている。東京周辺をいくつか訪ね歩いた。

 イタリア料理の外食チェーン、サイゼリヤ(本社・埼玉県吉川市)は、創業店舗が保存されている珍しい例だ。JR総武本線本八幡駅そばの商店街にある青果店の2階。当時学生だった正垣泰彦会長が1967年に開業した。席数36席の小規模な店舗ながら、多いときは1日1000人

が来店する人気店だったという。

 正垣氏の経営理念に共鳴した有志の手により、「サイゼリヤ1号店教育記念館」として1999年の閉店当時のまま残されている。通常は非公開だが、9月初旬の日曜日に訪れると、たまたま一般公開していた。

 店内は窓枠や椅子のシートに緑色を取り入れているあたりに、現在のサイゼリヤの店舗の片鱗が見えた。保存会会長の宇田川正和さんによると、「サイゼリヤの企業理念を学びたいという商店街の人や学生の要望があった時のみ、勉強会の場として提供している」という。

 

◇ドンキは杉並発祥

 

 安売りの量販店ドン・キホーテ(本社・東京都目黒区)の1号店は府中市だが、創業会長兼最高顧問の安田隆夫氏が事業を始めたのは、実は杉並区。JR西荻窪駅から伸びる商店街と青梅街道が交差する地に建つマンションの1階に、雑貨店「泥棒市場」を1978年に開業したのが始まりだ。・・・・・

                                       続きは本誌で

【特集:ぶらり日本経済】兜町:景気を映す「証券の街」の落日=和島英樹

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兜町

 

◇日本のベネチアになり損ねた

景気を映す「証券の街」の落日

 

 

和島 英樹(ラジオNIKKEI記者)

 

 かつて証券の街としてにぎわいを見せた日本橋兜町が廃れている。長引く景気の低迷で株価はピークの半分を下回り、コンピューター取引で証券会社は兜町に拠点を置く意味がなくなりつつある。茅場町から兜町一帯にオフィスを置く証券会社は、いまや20社程度に減った。空いた土地にはマンションが建設され、証券の街の面影は日に日に薄れつつある。

 

◇バブル崩壊で衰退

 

 兜町は日本橋川、楓川(1865年に埋め立て)、隅田川などに囲まれた地域にあり、その地形から「シマ」と呼ばれていた。現在の東証周辺は、多くの人は川を渡らなければ入れない独特な場所になっていた。

 証券界は1990年代後半に通信回線が発達するまで、人海戦術に頼った業界だった。98年に株式の売買が完全にシステム化される以前は、人による注文発注が基本だった。証券会社は、売買注文を出すために、取引所の近くにある必要があった。シマにはたくさんの証券会社があり、多数の従業員が働いていた。証券マンや投資家以外の人たちが入りにくい、一種独特のムードを醸し出していたのである。

 街の雰囲気は好不況で様変わりした。相場の良いときはうなぎ屋がにぎわい、飲み屋も満杯になる。羽振りの良い証券マンが「車を買った」「家を建てた」という話が飛び交う。一方、不況時にはリストラやボーナスの減少を嘆いた。

 特に、80年代のいわゆるバブル相場は別格だった。株価はうなぎ登り、証券界は人材を大量に採用した。採用人数は、大手クラスで年間1000人単位に上ったという。優秀な内定者を逃がさぬよう、会社訪問解禁日(当時は10月だった)に海外旅行に連れて行くなど、囲い込みに必死だった。

 当時は現金での受け渡しが多かった。受け渡しの場となったのは喫茶店だ。兜町の喫茶店では数千万円単位のやり取りが、日常茶飯に行われていた。株価の上昇に合わせて兜町一帯の地価も値上がりした。ごく細長い矮小な土地に、坪1億円の値段がついたとのうわさがあったくらいである。・・・・・

                                      続きは本誌で

週刊エコノミスト 2016年10月4日特大号

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特別定価:670円(税込)

発売日:2016年9月26日 

 

特集:人口でみる世界経済

 

◇経済を大きく動かす人口

◇世界16カ国の人口長期予測

  

黒崎亜弓(編集部)

 

 人口の増減が経済に与える影響が大きいことをベースとした経済分析が増えている。人口はかなり確実かつ長期の予測が可能だ。人口データを基に世界経済の未来をみる。

 経済に関する指標は数多くあるが、最も確実に、かつ長期で予測できるといえるのが人口だ。同じ年に生まれた人は1年後には一つ年を重ねる。年代ごとの死亡率も、戦乱や飢餓などを除けばなだらかに推移する。

 

 

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ピックアップ

経営者:編集長インタビュー

◇高谷康久 イー・ガーディアン社長

◇ネットサービスの守護神になる

 

 イー・ガーディアンは、SNSの投稿監視などを行うネットサービスのセキュリティー会社。9月16日に東証マザーズから東証第1部に市場変更した。── 売上高が2010年9月期の13億円から15年9月期に30億円と倍増しています。

高谷 インターネット関連の市場が急拡大しているからです。

 

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ワシントンDC

◇男女同一賃金に向け

◇マ州で画期的州法が成立

 

三輪裕範(伊藤忠インターナショナル会社

            ワシントン事務所長)

 

 ヒラリー・クリントンがフィラデルフィアでの民主党全国大会で米国史上初の女性大統領候補に選出された7月26日は米国史における歴史的な日となった。

 

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経営者:編集長インタビュー 高谷康久 イー・ガーディアン社長 2016年10月4日特大号

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高谷康久 イー・ガーディアン社長

◇ネットサービスの守護神になる

 

 イー・ガーディアンは、SNSの投稿監視などを行うネットサービスのセキュリティー会社。9月16日に東証マザーズから東証第1部に市場変更した。

── 売上高が2010年9月期の13億円から15年9月期に30億円と倍増しています。急成長の理由は何ですか。

高谷 インターネット関連の市場が急拡大しているからです。ブログやSNSが普及し、それに伴ってネット関連のトラブルが増えました。ネットサービスは、24時間365日動いていますから、それを個別企業で運用・監視するのは大変です。ブログやSNSのプラットフォーム(基盤)を提供する会社の代わりに、そのサービスを監視しています。

── どのように監視しますか。

高谷 ブログやSNSの投稿、EC(電子商取引)サイトにおける商品のレビューや口コミで誹謗(ひぼう)中傷や児童ポルノ画像がないか、ECサイトで違法な薬物や模造品が売買されていないかなどを監視しています。

 システムによるテキストと画像の解析と、人間の目視確認を行っています。システムは、画像を認識するAI(人工知能)を東大と共同開発し、業界で初めて導入しました。

── ネット監視事業を始めたきっかけは。

高谷 私は、以前、京セラで携帯電話のコンテンツ事業を担当していました。当時は、ドコモの「iモード」や、KDDIの「ezweb」といったインターネットサービスの黎明(れいめい)期。ネットサービスが拡大するのに伴って、ネットに関連する事故・事件も起き始めていました。

 今後インターネットサービスにおけるセキュリティー会社が必要になると思いました。イー・ガーディアンという社名には、「インターネットの守護神」になるという思いを込めています。

── 投稿監視の他には、どんな事業をしていますか。

高谷 ECサイトやソーシャルゲームなどに掲載されるネット広告に、違法な誇大広告がないかを確認しています。

 最近増えているのが、ソーシャルゲームの問い合わせ対応の代行です。電話やメール、チャットによる問い合わせの対応を多言語で24時間行います。「課金したのにアイテムが買えない」「ゲーム中に嫌がらせをしてくるユーザーがいる」など問い合わせは多いです。

── 顧客数は。

高谷 700社を超えます。国内だけでなく、中国、タイ、フィリピンにも提携しているサポートセンターがあります。

── 御社の強みは。

高谷 グループ全体で、多岐にわたるセキュリティーサービスを提供できることです。たとえば、15年に買収したベンチャー企業のHASHコンサルティングは、Webアプリのセキュリティーホール(安全面での穴)を見つける会社です。また、14年に会社分割して設立したトラネルは、ゲームのバグ(プログラムの誤り)を見つけます。

 ゲームの開発段階でトラネルがバグを発見し、リリース後にイー・ガーディアンが問い合わせ対応をするなど、グループ間の連携で成長スピードを加速していきます。

 

◇今期も2桁成長

 

── 業績見通しは。

高谷 16年9月期は、売上高、営業利益ともに前期比で2桁成長の見込みです。市場が拡大しているので、2桁成長は最低限だと思っています。

 

 イー・ガーディアンは、今年4月に設立されたブロックチェーン推進協会に発起メンバーとして参画している。ブロックチェーンは、複数のコンピューターが分散して管理する台帳で、金融機関などが注目している。

 

── ブロックチェーンに取り組む理由は。

高谷 改ざんがしづらく、システム構築のコストが小さいブロックチェーンは、今後あらゆるECサイトやシェアリングサービスのプラットフォームになると考えています。

 そこで、第三者によるセキュリティーチェックが必要となります。たとえ、ブロックチェーン自体が安全だとしても、その仕組みを使ったサイトやサービスが安全とは限りません。

 サービス開始前にセキュリティーホールがないか検証する必要があるのです。具体的な取り組みはこれからですが、ツールを使ったセキュリティー診断やハッカーを装った攻撃テストなどが考えられます。

── 他にも新しい技術が次々と登場していますが、対応は。

高谷 顧客であるゲーム会社で活用される新技術について、プログラムに誤りがないか、サービスに問題がないか検証していきます。

  VR(仮想現実)、AR(拡張現実)の対策専門チームを社内に発足しました。ゲーム世代である若いメンバーが中心となって、取り組んでいます。

── 今後の目標は。

高谷 安心・安全のシンボルになりたいです。建物にセコムのマークがあると安心しますよね。同じようにWebサイトにイー・ガーディアンが監視中、またはチェック済みというマークがあれば、ユーザーに安心して使ってもらえるようなブランドになりたいです。

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長) 構成=金井暁子(編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 36歳の時に、会社を立ち上げました。当時は売り上げが少なく、「地獄の30代」と言うくらいしんどかった。でも、30代に苦労すると、次の10年が大きく変わります。

Q 「私を変えた本」は

A 稲盛和夫さんの『心を高める、経営を伸ばす』です。何のために働くのか、生きるのか人生哲学が明確に書かれていて、これを読んでジョンソン・エンド・ジョンソンから京セラに転職しました。

Q 休日の過ごし方

A 土曜日に日本拳法という武道塾を主宰しています。

………………………………………………………………………………………………………

 

■人物略歴

たかたに・やすひさ 大阪府出身。大阪府立摂津高校卒業。関西学院大学法学部を卒業。1995年に京セラ入社。仕事で関わりのあったホットポットからコンテンツ監視事業を譲渡され、2005年にイー・ガーディアンとして分社化、06年社長就任。48歳。

 

………………………………………………………………………………………………………

 

事業内容:ブログ、SNSの投稿監視。オンラインゲームのカスタマーサポート。

本社所在地:東京都港区

設立:1998年5月

資本金:3億4000万円

従業員数:723人(グループ)

業績(2015年度連結)

 売上高:30億1800万円

 営業利益:3億2800万円

 

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>4~5ページより転載)

ワシントンDC 2016年10月4日特大号

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女性の賃金は上がるのか=Bloomberg
女性の賃金は上がるのか=Bloomberg

◇男女同一賃金に向け

◇マ州で画期的州法が成立

 

三輪裕範(伊藤忠インターナショナル会社

            ワシントン事務所長)

 

 ヒラリー・クリントンがフィラデルフィアでの民主党全国大会で米国史上初の女性大統領候補に選出された7月26日は米国史における歴史的な日となった。それからまだ1週間もたっていない8月1日も、米国にとって非常に歴史的な日となった。

 今度の場所はマサチューセッツ州のボストン。同州のチャーリー・ベイカー知事がこの日、歴史的な新法に署名したのだ。では、この日マサチューセッツ州でどんな歴史的新法が成立したのかというと、男女同一賃金の実現に向けて、重要な一歩となる新法であった。

 米国でも、改善してきたとはいえいまだ女性の賃金は男性の8割程度にとどまっている。また、職種、産業、経験、学歴など賃金決定の諸要因を調整しても9割程度にとどまるなど、まだまだ女性の賃金は男性に比べて劣位に置かれている。

 男女間の賃金格差を発生させる大きな原因の一つとして、かねてから指摘されてきたのが、雇用者が求職者に対して前職での給与について質問することが許されているということだった。実際、前職での給与を申告してしまえば、よほど寛大な雇用者でないかぎり、それを大幅に上回るような給与を提示することは期待できない。そうなると、前職時からいくら能力アップしていたとしても、それが足かせとなって給与はなかなか増えない。

 もちろん、これは女性に限った話ではなく、男性の求職者にも当てはまることだ。しかし、相対的に女性が強いと言われる米国においても、男性に比べると女性は、新たな雇用者との給与交渉において、どうしても弱気になりがちだ。そのため女性は、雇用者の「言い値」に近い給与で再就職するケースが多い。

 こうした事態を防ぐ目的で作られたのが、今回のマサチューセッツ州の新法である。新法では、男女を問わず、雇用者は求職者に対して、前職でどれだけの給与を得ていたか聞くことができなくなる。これによって求職者(特に女性)は以前よりも強い立場で賃金交渉に臨むことができるようになる。

 もっとも、新法の施行は2018年7月1日なので、まだ2年ほど待たなければならない。また、新法では、求職者が自ら前職の給与を教えることも、雇用者が求職者に対しておおよその希望給与額を聞くことも禁止されていない。

 

◇全米に波及も

 

 このように、今回のマサチューセッツ新法にはまだまだ灰色の部分もある。18年に施行されたからといって、それで一挙に男女の賃金格差がなくなるわけではない。しかし、男女同一賃金に向けたこの新法は全米50州で初の成立となる。今後、これが契機となって同様の法律制定の動きが全米各州で広がっていくことも十分に考えられる。

 連邦議会でも、男女の賃金格差是正を目指す「給与公正法案」が13年に提出された。しかし、その後、企業側からのロビイングを受けた共和党の強い反対があったため、現在においても成立に至っていない。

 前記の通り、マサチューセッツ新法が契機となり、他州でも同様の法律が制定される可能性があるが、そうなると、連邦議会においても、現在審議が頓挫している「給与公正法案」の審議を加速させようとする動きも出てくるだろう。

 米国のメディアは、今回のマサチューセッツ新法について、比較的小さな扱いしかしなかった。しかし、この新法に秘められた潜在的な影響力は大きい。米国で活動する日本企業の雇用政策にもいずれ大きな影響を与えることになろう。

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>72ページより転載) 

 

特集:人口でみる世界経済 2016年10月4日特大号

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◇経済を大きく動かす人口

◇世界16カ国の人口長期予測-高齢化する国、若年増加の国-

 

黒崎亜弓(編集部)

 

 人口の増減が経済に与える影響が大きいことをベースとした経済分析が増えている。人口はかなり確実かつ長期の予測が可能だ。人口データを基に世界経済の未来をみる。

 

 経済に関する指標は数多くあるが、最も確実に、かつ長期で予測できるといえるのが人口だ。同じ年に生まれた人は1年後には一つ年を重ねる。年代ごとの死亡率も、戦乱や飢餓などを除けばなだらかに推移する。

 国連人口部は出生、死亡、移動などの傾向を基に、2100年までの各国の人口推計を出している。さすがに2100年となると、その時代を生きる人々の大多数がまだ生まれていない。そこで、1950年から2050年の100年間、16カ国を25~26ページの図に示した。

 人口構成が変遷する背景には、「人口転換」がある。「多産多死」の時代は乳幼児死亡率が高く、衛生状態や生活水準の向上に伴い下がるが、出生の傾向はすぐには変わらない。この「多産少死」の世代は人口が膨らむ。遅れて出生率が低下し、「少産少死」へと行き着く。

 図1の合計特殊出生率は1人の女性が一生に産む子供の平均数を指す。現在の人口を維持する水準は日本では2・07だが、日本はじめ、既にこれを切っている国が多数ある。

 経済に直結すると考えられるのは、総人口に対する生産年齢人口(15~64歳)の比率だ。この比率が高ければ、社会のなかで働き手が多く、扶養が必要な若年人口(0~14歳)と高齢人口(65歳以上)の割合が低いことになる。平均寿命(図2)が伸びるにつれ、総人口に対する高齢人口の割合(高齢化率)が上がる。

 16カ国をみると、生産年齢人口比率が一貫して低下傾向にあるのがヨーロッパだ。アジアの国々は、生産年齢人口比率が大きく伸びる「人口ボーナス期」の後、低下に向かう。韓国、中国、タイで顕著だ。「多産少子」の時代に生まれた世代が生産年齢人口に加わる頃に出生率が下がり、高齢化が進んでいなかったためだ。

 先進国でアメリカ、オーストラリアは生産年齢人口が伸びてきた。移民の受け入れが背景にある。

 アフリカ諸国は人口増が続き、生産年齢人口自体は増えているが、同時に若年人口が多いため、生産年齢人口比率は60%以下で横ばいだ。

 先進国やアジアでは、高齢化対応や出生率向上、働き手不足の打開が共通課題となる一方、アフリカ中心に途上国の中では「過剰な若年層」が紛争やテロの下地にあると指摘される。人口でみる世界の先は二極化の様相だ。(了)

 

 (『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>24ページより転載)

 

目次 2016年10月4日特大号

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◇CONTENTS

 

人口でみる世界経済

 

22 世界10地域+2カ国の人口構成

 

Part1 経済を大きく動かす人口

24 世界16カ国の人口長期予測 ─高齢化する国、若年増加の国─ ■黒崎 亜弓

27 『デフレの正体』を世界に

       日本、中国、シンガポール、米国の人口動態から読む世界経済の行方 ■藻谷 浩介

32 中国の人口・成長構造 ルイスの転換点を超え著しい成長低下 ■河野 龍太郎

34 アジア 富む前に老いる 「人口ボーナス=成長」という誤解 ■大泉 啓一郎

36 ドイツの働き方改革 少子化でも労働力増で成長できる ■宮下 裕美

37 なぜドイツ人の労働時間は短いのに1人当たりGDPは大きいのか ■熊谷 徹

38 ユース・バルジ インタビュー グナル・ハインゾーン

       テロの原因は「人口の不均衡」 アフリカ、中東発の危機が多発

 

Part2 人口と経済をめぐる議論

88 人口経済学の視点 高齢化・人口減で生産性は下がる ■加藤 久和

91 出生率低下のタイミングが「長寿社会」のあり方を左右する ■落合 恵美子

 

92 小峰隆夫 法政大学大学院教授 「生産年齢人口減少で先行きは暗い」

93 吉川洋 立正大学教授 「超高齢化はイノベーションの宝の山」

94 歴史の潮流 エネルギー革命で人口は増えた ■鬼頭 宏

96 日本の社会保障 “高齢化仕様”まであと一歩 ■権丈 善一

 

Flash!

15 日銀「総括的な検証」幻想だった2%インフレ、アベノミクスは敗北宣言すべき

     独バイエルが米モンサント買収

     トルコ─今なお続く大粛清

 

ひと&こと

19 身代金型ウイルスが蔓延、スマホも使用不能の恐れ

     金融庁の粉飾 見抜けない指導

     泉田新潟県知事、出馬撤回問題泥沼に

 

Interview

  4 2016年の経営者 高谷 康久 イー・ガーディアン社長

52 問答有用 井上 涼 アーティスト  「歌とアニメで美術を紹介、これは楽しいです」

 

エコノミストリポート

84 再開発バブル 絶好調ゼネコンの落とし穴 労務費再上昇や政治リスクも ■中川 美帆

 

44 宇宙 4光年先の惑星に生命を探す 最新天文プロジェクト ■須藤 靖

46 電力 バイオマス発電バブルが来る 太陽光発電に代わる再エネ ■瀧口 信一郎

 

World Watch

72 ワシントンDC 男女同一賃金に向け マ州で画期的州法が成立 ■三輪 裕範

73 中国視窓 渋滞解消「空中バス」構想 称賛から批判へ評価転落 ■北村 豊

74 N.Y./ロサンゼルス/英国

75 オーストラリア/インド/フィリピン

76 台湾/ロシア/コートジボワール

77 論壇・論調 製薬会社が薬価をつり上げる米国 批判噴出も現実的な対応策なし ■岩田 太郎

 

Viewpoint

 3 闘論席 ■池谷 裕二

21 グローバルマネー “火薬庫”となりうる世界の債券市場

42 商社の深層(40) 「化学の三井」復活か DPF問題の風化防止がカギ ■種市 房子

43 ザ・機関投資家 日本生命(4) 

          海外3拠点で世界の成長を取り込む 新興国に育つ中間層は投資テーマ ■谷口 健

48 日本人に見えなかった中東の真実(4) なぜ、フランスでテロが起こったのか? ■福富 満久

50 アディオスジャパン(21) ■真山 仁

56 学者に聞け! 視点争点 銀行の行動をゆがめる自己資本規制 ■長田 健

58 言言語語

66 名門高校の校風と人脈(210) 厚木高校(神奈川県) ■猪熊 建夫

68 海外企業を買う(110) メイシーズ ■岩田 太郎

70 日本人のための第一次世界大戦史(64) 瓦解する同盟国 ■板谷 敏彦

78 連載小説 三度目の日本2027(37) ■堺屋 太一

80 東奔政走 「穏健保守」をどう再構築するか 加藤紘一氏が残した重い宿題 ■人羅 格

82 福島後の未来をつくる(40) メディアを支配してきた原発プロパガンダからの脱却 ■本間 龍

104 景気観測 所得改善で個人消費は低迷脱出へ 市場拡大の恩恵を海外に逃がすな ■枩村 秀樹

106 ネットメディアの視点 ネットが火を付けたヒラリーの病状 ついに大手メディアも追随 ■山田 厚史

112 アートな時間 映画 [将軍様、あなたのために映画を撮ります]

113        クラシック [ザ・カブキ]

114 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語“ Kitchen Sink ”

 

Market

 98 向こう2週間の材料/今週のポイント

 99 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット

100 ブラジル株/為替/穀物/長期金利

101 マーケット指標

102 経済データ

 

書評

60 『偽りの帝国』

     『徹底解説! アメリカ』

62 話題の本/週間ランキング

63 読書日記 ■与那原 恵

64 歴史書の棚/海外出版事情 中国

 

59 次号予告/編集後記

 

111 定期購読・デジタルサービスのご案内

 

デザイン─浅野 康弘

 

本誌に掲載している記事は、原則として執筆者個人の見解であり、それぞれが所属する組織の見解ではありません

 

本誌記事は日経テレコン21、ELNET、ジー・サーチ、ダウ・ジョーンズ・ファクティバ、ジャパンナレッジ、毎日Newsパックのデータベースに収録されています。また、週刊エコノミストのホームページで最新号とバックナンバーの目次を読むことができます。URLは、http://www.weekly-economist.com/

本誌掲載記事の無断転載を禁じます (C)毎日新聞出版 2016

 

【人口でみる世界経済】『デフレの正体』を世界に 2016年10月4日特大号

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1964年山口県徳山市(現周南市)生まれ。東京大学法学部卒業。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。94年米コロンビア大学MBA。著書に『実測!ニッポンの地域力』『里山資本主義』など。

◇日本・中国・シンガポール・米国の人口動態から読む世界経済の行方

 

藻谷浩介(日本総合研究所主席研究員)

 

 2010年に出版した『デフレの正体』では、日本経済の長期的な停滞の根本原因が、現役世代の数の減少にあるということを指摘した。

 日本の生産年齢人口(15歳から64歳までの人口、在日外国人を含む)は、1995年の約8700万人をピークに、2015年までに1000万人以上、12%も減少している。これに伴って、住宅、車、家電製品、多くの食品など、主として現役世代を顧客とする商品の需要数量が減少した。ところが供給数量の方は、生産の機械化・自動化の進展で、幾ら労働者数が減少しても減らない。企業の多くも、人口構造による構造的な需要数量減少を「不景気による循環的なもの」と勘違いし、生産数量の調整や高齢者市場へのシフトなどへの対策を怠った。その結果が、これら商品分野での供給過剰による価格低下である。金融現象としてのデフレではなく、ミクロ経済学的な値崩れが起きたのだ。

 


 このような人口要因での消費減退には、金融緩和はもちろん、「技術革新による生産性向上」といった空念仏も効かない。効くのは、増える一方の高齢者の需要を開拓しその利益を若者の賃上げに回すこと、女性就労の促進、外国人移民ではなく観光客の国内での消費増加、の三つだというのが、『デフレの正体』の結論だった。これに対しては、「デフレは金融現象であり、金融緩和によって克服できる」と唱えるリフレ論者から大きな反発が起きたが、そのリフレ論者の主張のままに行ったここ数年の異次元の金融緩和は、ご存じの通り個人消費を一切拡大させていない。他方で筆者の指摘した三つの政策は、結局安倍晋三政権が推進するところとなっている。現実がようやく同書の内容に追い付いてきたわけだ。

 ところで、日本で1990年代半ばから始まった生産年齢人口減少は、その後20年程度遅れて、東アジア各地や欧州でも始まっている。日本の教訓を踏まえれば、これから世界経済で何が起きるのか、蓋然(がいぜん)性の高い予測ができる。以下、お示ししていきたい。

 

◇高齢者の絶対数で見る

 

 人口の話となると必ず出てくるのが、高齢化率(総人口に占める65歳以上の比率)の比較だ。しかしこの数字は誤解を招きやすい。同じ高齢化率上昇でも、高齢者の絶対数が増えている場合と、現役世代の数が減っている場合とでは、帰結も対処策もまるで異なる。また高齢化率は低いけれども高齢者数の増加は急速に進んでいる国と、高齢化率は高いがもう高齢者数はあまり増えていない国では、前者の方が医療福祉予算の増加ペースを速めねばならない。人口を論じるには、高齢化率より先に年齢別に絶対数の増減を見ること、すなわち人口を5歳刻みに分け、それぞれの人数をわかりやすく棒グラフにするというシンプルな手法が有効だ。

 1990年、2015年、2040年の日本の人口構成を、国勢調査人口と国立社会保障・人口問題研究所の予測を基に見てみよう(28ページ図)。出生者数と生産年齢人口が減り高齢者が増えていく様子が、一目瞭然でわかる。人数の多い団塊世代と団塊ジュニア世代の加齢は、あたかも2波の津波が進んでいくようだ。団塊世代が90歳、団塊ジュニアが65歳を超える2040年の高齢化状況は、過疎地では既に現実のものとなっているが、今の首都圏民には想像できないだろう。しかし2040年には、団塊ジュニアの4割が集中する首都圏においてこそ、高齢者の最後の急増が起きるのである。

日本の過疎地でも収益を出す企業しか生き残れない
日本の過疎地でも収益を出す企業しか生き残れない

 外国に関しても同じグラフが作成できる。国連人口部のホームページからは、全世界各国の1950~2100年の人口推計・予測(それぞれの国に居住する外国人人口を含む)が、エクセルでダウンロードできるのでたいへん便利だ。日本と同じく1990年、2015年、2040年を比較するだけで、経済発展を遂げた国は大なり小なり日本と同様に、現役世代減少・高齢者急増の道を歩んでいることがわかる。

 特に日本と似た動きをしているのが中国だ。日本と同様に二つのピーク世代があり、日本におよそ20年遅れて、同じような道をたどっている。1990年の日本と2015年の中国を比較すると、このことがよくわかるだろう。

 1990年の日本には、40代前半(団塊世代)と10代後半(団塊ジュニア世代)の二つの「山」があった。これに対し2015年の中国では、40代後半(文革で下放された若者たちが生んだ世代)と20代後半(その子供の世代)が二つの山を作っている。団塊親子では25年の年齢差が、やや早婚の中国では20年の年齢差となっているが、いずれにせよこの塊が加齢し高齢者となっていくことで、中国でも高齢者の急増と現役世代の減少が不可避に生じる。

「中国は最近一人っ子政策を廃止したので、今後の高齢化ペースは弱まる」と誤解している人がいるかもしれない。高齢化を高齢化率だけで見ていると陥る事実誤認だ。

 第一に今後の中国では、上記の二つの山の世代の加齢により、子供の増減とはまったく無関係に高齢者の激増が生じる。2015年現在の65歳以上人口は1億3000万人とちょうど日本の総人口と同じだが、これが2040年には3億4000万人まで増える。世界史上圧倒的に最大規模の、かつ余りに急速な高齢者増加だ。

 第二に、一人っ子政策はそれほど徹底しておらず、従ってその撤廃にも言われるほどの出生増加効果はない。この国連推計は“隠し子”も計算に入れた実態を示しているが、2015年の数字では、生産年齢人口4人に対して、14歳以下が1人。これは日本の自治体でいえば出生率が2を超える地域の水準である。ちなみに出生率が1・1の東京都では、この比率は6対1だ。出生率は政策よりも経済水準に連動するのであり、中国よりも先に経済発展した華人居住地域である香港、台湾、シンガポールなどの出生率が軒並み東京都並みであることを考えれば、中国の子供の数は一人っ子政策撤廃にもかかわらず、むしろ今後さらに減っていく可能性が高い。国連の予測数字もそのようになっている。

 25年後、2040年の中国では、生産年齢人口は現在の10億人から13%減って8億7000万人、高齢化率は25%となる。日本の過去25年間とまさに酷似した動きだ。産業が過剰供給体制を改めず、値崩れも辞さずに価格競争に走るという体質も、日中には似通うものがある。ということは日本で起きたのと同じ「長期デフレ」、その正体は供給数量過剰による値崩れが多くの分野で年々深刻化することで、それに対して金融緩和や公共投資といった的外れの政策が打たれ続け、政府財政が悪化していくのではないだろうか。

 

◇移民では解決しない

 

 このような人口成熟は、移民導入を進めれば防げるのだろうか………

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>27~31ページより転載)

 

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週刊エコノミスト 2016年10月4日特大号

 

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