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第40回 福島後の未来をつくる:本間龍 著述家=2016年10月4日号

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 ◇ほんま・りゅう

 1962年生まれ。博報堂で約18年間営業を担当。2006年に退職後、在職中の損金補てんにまつわる詐欺容疑で逮捕・起訴。出所後に服役経験をつづった書籍を上梓。著書に『電通と原発報道』(亜紀書房)、『原発プロパガンダ』(岩波新書)など。

 ◇メディアを支配してきた原発プロパガンダからの脱却

 

 私は2006年に退職するまで18年、大手広告代理店の博報堂で営業職を務めてきた。スポンサー企業と接して業務を受注し、集金の責任まで負う部門だ。出身母体である広告業界は、原発の「安全神話」を国民に刷り込み、日本の原発推進に大きな役割を果たしてきた。現場のやり取りを経験した身にとって、メディアと原発を推進する電力会社や関連企業・団体との癒着の構造は手に取るように理解できた。

 しかし、事故から数年が経過しても、メディアや広告業界が過去を全く反省しない実態を目の当たりにした。さらに電力会社はいま安倍晋三内閣の政策にのっとって再稼働への準備を着々と進めている。東京電力福島第1原子力発電所の事故により、いまなお故郷に帰れない人は10万人に及ぶ。原発はいったん事故が起これば数十万、数百万単位の人生を台無しにしてしまう。その発電システムを存続させていく合理的な理由が果たしてどこにあるのか。


 原発は1950年代から国策として国が主導してきた。政官学と経済界が展開した原発推進PR活動は、実施された期間と費やされた巨額の予算から考えて、世界でも類がないほどの国民扇動プロパガンダだった。私は広告業界にいた者として、その仕組みを告発しようと考えた。

 数字でそれを示そう。電力9社(原発がない沖縄電力は除く)が1970年代から3・11までの40年間に使った広告費は、実に2兆4000億円(朝日新聞社調べ)。これは国内で年間500億円以上の広告費を使うトヨタでさえ、使用するのに50年近くかかる莫大(ばくだい)な金額である。

 さらに経済産業省などの政府広報予算なども加えれば、投下された金額はその数倍に膨れ上がる。

 この巨大な広告費の目的の一つは、「原発は安全でクリーンなエネルギー」という国民に対する洗脳、そして広告を掲載するメディアに暗黙の圧力を加えることにあった。

 定期的に年間数千万、数億円で広告枠を買ってくれる大スポンサーは非常にありがたい存在だ。特にバブル崩壊以降の景気低迷で広告収入の減少に苦労したメディア各社は、電力会社に盾突いて貴重な収入源を失うことを極端に恐れた。自然と広告の審査は甘くなり、電力会社の広告はノーチェックで新聞・雑誌上にあふれるようになった。

 

 ◇地方紙の掲載段数に注目

 

 日本における本格的な原子力発電の始まりは1970年の敦賀原発(日本原子力発電)、美浜原発(関西電力)、71年の福島第1原発(東電)の運転開始になる。すでに68年には30段(新聞2面分)の広告が福井新聞に掲載され、これが事実上の原発広告の始まりと思われる。

 この頃の広告媒体といえば、テレビ放送はまだ黎明(れいめい)期で、新聞が圧倒的に強かった。特に地方では県紙と呼ばれる地域密着の新聞があり、世帯普及率が50%を超えることもあった。私はこの地方紙に注目した。

 地方紙への広告掲載段数の推移を見れば、傾向がはっきり見えるのではないか、と考えたのだ。国会図書館で丹念に過去の地方紙を調べればできないことではなかった。そこで私は約1年をかけて調べ上げた。

 新聞1面の全面広告は15段広告となる。つまり150段という数字は1面全面の広告が掲載された日が、年間に10日あったと判断できる。

 この調査で明確になったのが原発広告の二面性であった。つまり、平時の電力会社の広告は、常に原発政策はバラ色です、と報道してもらうための「賄賂」であり、事故など有事の際は、広告引き上げをちらつかせメディアに報道自粛を迫る「恫喝(どうかつ)」手段である。実際に掲載段数の推移は、稼働前や事故時に急増する傾向が明確に見えた。

 表1は90~99年の原発立地県の地方紙への広告掲載段数の推移だ。これを見ると、たとえば茨城県の東海村で起きたJCO臨界事故があった99年の地方紙の広告掲載段数は1541と、他の年を圧倒している。

 柏崎刈羽原発のある新潟県の新潟日報には96年に719段もの広告が掲載されている。実はこの年、東北電力の巻原発の建設是非を問い、自治体による全国初の住民投票が巻町(現新潟市西蒲区)で実施されている。住民投票は町を二分する争いとなったが、住民は建設を拒否した。この裏で、これだけの広告が掲載されていたのである。

 この「原発プロパガンダ」は福島原発事故後、その表現に大きな変化が生じる。事故以前の広告には、「原発は安全」「クリーンなエネルギー」「日本のエネルギーの3分の1を担っている」。この3本柱がほぼ必ず盛り込まれていた。しかし、事故後にこのスローガンを使うことはできなくなった。そこで広告代理店やPR会社を総動員して新しいスローガンを考えた。それが「原発は日本のベースロード(安定供給)電源」「火力発電は二酸化炭素を排出するので環境に良くない」「原発停止による割高な原油輸入は国富の流出になる」。しかし、その一つ、原油高による国富流出は昨年からの原油市況低迷で使えなくなった。

 すると今度は「エネルギーのベストミックス」という言葉を使いだす。結局、原発の広告は、本質的に推進する意義がないからこそ、その場しのぎのロジックとなる。最近は文化人などを巧妙に登場させ、「震災からの復興」「風評被害の撲滅」という新たな錦の御旗(みはた)を掲げ、原発プロパガンダがひそかに復活しつつある。

 こうした一方的なプロパガンダに翻弄(ほんろう)されないためには市民にどんな意識が必要なのか。重要なのは、日々目の前に流れるニュースを軽々に信用せず、自分の頭で考えることだ。その意識があれば多くのニュースの「目的」を見破ることができる。そのためにもっとも手軽な方法は、インターネットを活用することだ。

 私の情報収集で大きな力になっているのもツイッターとフェイスブックである。それらを通じて地方在住の方から、「今日、地元新聞にこんな原発広告や記事が掲載」という情報をいただくことが多く、組織に属さない私には大きな力になっている。

 二つ目に重要なのは、それらツイッターなどのネットワークを活用して、独立系メディアの情報に耳を傾け、支えることだ。その多くは企業からの広告をほとんど取らないがゆえに総じて経営規模は小さく、大メディアと比較すれば発信力が小さい。しかし、広告主からの干渉を受けないからこそ、真実を伝える可能性が高く、貴重なのだ。表2に、その中でも、比較的規模が大きく発信力が高い団体を挙げた。

 原子力資料情報室など、政府や企業からの援助を受けずに活動しているNGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)なども、独自の放射線量調査などを継続的に行っている。こうした団体の会員になるなど少しでも支援することが大事なのだ。バイアスがかかっていない情報を選(よ)るには、それなりのコストや努力が必要だということを私たちは認識しなければならない。

 近い将来、私自身も過去の原発の記事や広告を徹底的に収集、公表し、さらに最新状況を分析するNPO組織を立ち上げたいと考えている。(了)


【人口でみる世界経済】超高齢化はイノベーションの宝の山 2016年10月4日特大号

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1951年生まれ。東京大学経済学部卒業。エール大学大学院博士課程修了、博士(Ph.D)。東京大学大学院教授を経て2016年4月より現職。著書に『高度成長』『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』など。
1951年生まれ。東京大学経済学部卒業。エール大学大学院博士課程修了、博士(Ph.D)。東京大学大学院教授を経て2016年4月より現職。著書に『高度成長』『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』など。

◇吉川洋(立正大学教授)

 

── 近著『人口と日本経済』(中公新書)では悲観論を排している。

吉川 「人口減だから右肩下がり」と決まり文句のように言うが、それは違う。予測では今後100年で日本の人口は3分の1まで減る。人間の社会として不自然だし、実際、財政・社会保障などに人口減少は深刻な問題を引き起こしているが、経済とは一応切り離して考えた方がいい。

 経営者たちは人口減の今と対比して、「高度成長期はよかった」と言う。だが、1955~70年ごろまでの高度成長期とは、結果的に後からみれば成長していたということであり、同時代を生きていた人たちが右肩上がりだと思って経営していたと思うのは大間違いだ。高度成長期の経営者は慎重論が根強いなかで、リスクをとっていた。

 56年の経済白書にある「もはや戦後ではない」という言葉がよく引用されるが、この言葉をポジティブなものと捉えるのは誤解だ。戦後の10年間は復興需要が経済の追い風となった。その一時的な特需がなくなったという危機感を表す言葉だ。今後は、経済学者シュンペーターが説くイノベーション(技術革新)を中心に成長していかなければならないと打ち出した白書だった。

── 今も人口減に危機感がある。

吉川 いつの時代もイノベーションが重要だ。我々の経済は、人口が増えて需要が伸びるのではない。中身が変わっていく。高度成長期には労働力人口は1%しか増えなかったが、10%成長だった。人口以上に世帯数が増えたが、それよりも1人当たりGDP(国内総生産)の上昇が圧倒的に大きい。同じ商品を作り続けて人口が増えた分、売り上げが増えるという経営が素晴らしいのか。人々の潜在的ニーズを先取りし、付加価値を上げるのが企業の役割だ。

 

◇今は夜明け前

 

── 高齢者は消費性向が低いのではないか。

吉川 それは、20歳と75歳の2人がラーメンの大食い競争をするようなイメージだ………

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>93ページより転載)

 

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特集:人口でみる世界経済

 

世界16カ国の人口長期予測

『デフレの正体』を世界に

藻谷浩介が読む世界経済の行方

テロの原因は人口の不均衡

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【人口でみる世界経済】中国の人口・成長構造 2016年10月4日特大号

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成長力の急減速…… Bloomberg
成長力の急減速…… Bloomberg

◇ルイスの転換点を超え著しい成長低下

 

河野龍太郎

   (BNPパリバ証券チーフエコノミスト)

 

 人口動態の変化は潜在成長率に大きな変化をもたらす。多くの場合、豊かになると出生数が低下するため、人口動態の変化は、労働力の減少を通じ潜在成長率の低下要因となる。

 問題はそのことを政府、社会がリアルタイムで認識できないことだ。低成長を一時的と見なし、高成長へ復帰させようと追加財政や金融緩和を繰り返す。その結果、バブルの醸成などマクロ経済を不安定化させる。本稿では、日本と中国を中心に人口動態の変化がもたらす潜在成長率の下方屈折の影響について考察する。

 

◇潜在成長率低下に気づかず

 

 中国経済は2000年代後半に高度成長の終焉(しゅうえん)が始まり、10%超の潜在成長率が5~7%に下方屈折した。1979年に採用された一人っ子政策の効果が浸透し、四半世紀後に農村部で若者労働の不足が広がった。その結果、都市への労働移動が細り始め、人手不足から賃金が急騰し、高度成長が維持できなくなったのである。賃金高騰を理由に日系企業が生産拠点を中国から東南アジアへシフトさせたのは記憶に新しい。

 都市への労働移動が高成長をもたらし、農村の余剰労働の吸収が完了した段階で高成長が終焉する現象は、欧州の産業革命期に広く観測された。生産性の低い農業から都市部で勃興する生産性の高い工業に労働力が移行する過程で高成長が生じるというメカニズムが背景にある。高成長終了の転換点は発見者である英国の経済学者アーサー・ルイス教授にちなんで「ルイスの転換点」と呼ばれる。

 ルイスの転換点は、一般に人口の自然動態による変化ではなく、社会動態の変化(=人口移動)と解釈される。ただ、中国の場合、一人っ子政策がもたらした人口の自然動態の変化も大きく影響している。

 日本で高度成長が終焉したのは、ルイスの転換点が生じた70年代初頭で、それ以前の10%弱から4%強に潜在成長率が低下した。高度成長の終焉にはさまざまな理由があるが、中国と同様、農村の余剰労働の吸収が完了した時期に当たる。就業のため47~49年生まれの地方出身の団塊世代が都市への移動を完了させたタイミングとも重なるので、日本のルイスの転換点も人口の自然動態の変化が関係している。

 潜在成長率が下方屈折すると、それ以前のような高成長は維持不可能となる。原因は総需要不足ではなく、追加財政や金融緩和が足りないからでもないため、成長を高めるには、潜在成長率を引き上げるべく構造改革を推進しなければならない。しかし、現実には、潜在成長率の下方屈折を認識できないため、追加財政や金融緩和に頼ろうとする。

 それらの政策で一時的に景気がかさ上げされても、効果が剥落した途端に、低い成長に舞い戻る。それだけでなく、過度な追加財政や金融緩和が過剰ストックや過剰債務を生み、潜在成長率の下方屈折がもたらす過剰問題をさらにこじらせる。

 中国の場合、不運なことに00年代後半に中国経済がルイスの転換点を通過した際、リーマン・ショックが訪れた。中国政府の目には低成長の原因が総需要不足と映り、当時、名目GDP比で10%を超える大規模な財政投融資策が実施された。

 実施直後こそ高成長が観測されたが、そもそも潜在成長率が低下していたため、政策効果が剥落した11年後半以降、目標とする成長率の達成に苦労するようになる。さらに、大規模な財政投融資策が生み出した過剰債務、過剰ストックが今も中国景気の足を大きく引っ張る。

 70年代前半の日本でも、潜在成長率の下方屈折を見過ごしたことがマクロ経済を大きく不安定化させた。当時、列島改造ブームの下で不動産バブルが生じたが、潜在成長率の低下を無視した追加財政や金融緩和が大きく影響したのである。

 潜在成長率の下方屈折は、収益性の高い投資機会の減少を意味する。そうした中で、追加財政や金融緩和を行うと、生み出されたマネーは主に株や不動産に流れ込む。近年、中国でも不動産バブルが頻発するのは、潜在成長率が低下しているからに他ならない………

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>32~33ページより転載)

 

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特集:人口でみる世界経済

 

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【人口でみる世界経済】生産年齢人口減少で先行きは暗い 2016年10月4日特大号

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1947年生まれ。東京大学経済学部卒業。経済企画庁調査局長などを経て、2003年から現職。10年日本経済研究センター研究顧問、12年理事。著書に『日本経済論の罪と罰』『日本経済に明日はあるのか』など。
1947年生まれ。東京大学経済学部卒業。経済企画庁調査局長などを経て、2003年から現職。10年日本経済研究センター研究顧問、12年理事。著書に『日本経済論の罪と罰』『日本経済に明日はあるのか』など。

◇小峰隆夫(法政大学大学院教授)

 

── 著書『人口負荷社会』(日本経済新聞出版社)で、「人口オーナス」による悪影響を解説した。

小峰 人口の変化の中で最も重要なのは、生産年齢人口(15~64歳)の減少だと考えている。「オーナス」は、重荷という意味だ。働いている人が次第に高齢者に移行し、少子化が進んでいるため、生産年齢人口が占める割合が低下する。

 人口オーナスは、さまざまな問題を起こす。第一に、労働力不足。第二に、生産年齢が「貯蓄をする人口」と考えると、社会全体の貯蓄率が低下し、日本の貯蓄率はゼロ、さらにはマイナスになる。将来、資金調達が必要な局面で大きな問題になる。

 第三は、社会保障だ。日本は「賦課方式」のため、年金・医療・介護制度の持続が難しくなる。

 第四に、地域が疲弊する。地域別の人口変化をみると、人口規模の小さい地域ほど負荷が重くなる。地域格差はますます広がることになる。

 第五が、民主主義の崩壊だ。有権者に働く人が減り、高齢者が増えることでいわば「シルバー民主主義」になる。日本が現在抱えている問題の解決を難しくする。

── まず何に取り組むべきか。

小峰 社会保障は、人口が伸びていた時代の制度が維持されている。7月の参院選でも、ほとんどの政党が社会保障を充実させると公約に掲げた。今必要なのは合理化で、問題解決と逆行している。それがシルバー民主主義の弊害だ。

 社会保障を維持する財源は、保険料、税金、国債の三つしかない。現実に起きているのは保険料の値上げだ。保険料は企業も負担するため、「雇用税」が増えることになる。企業に人を雇うなと言っていることと同じで、経済の活力を奪っている。

── どの程度のマイナスか。

小峰 人口は、年率マイナス0・5%で減る。また働く人だけが付加価値を生むと考えると、生産年齢人口が減ることで、1人当たり所得が減る。これがマイナス0・5%。合わせてGDP(国内総生産)にマイナス1%の下押し圧力がかかる。

 対抗するには、生産性を上げるしかない。人口オーナス期には、生産性がますます重要になる。

 

◇早急に社会保障合理化を

 

── イノベーションで人口オーナスの問題は解決するのではないか。

小峰 イノベーションで解決するのではなく、………

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>92ページより転載)

 

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特集:人口でみる世界経済

 

世界16カ国の人口長期予測

『デフレの正体』を世界に

藻谷浩介が読む世界経済の行方

テロの原因は人口の不均衡

 インタビュー 吉川 洋 / 小峰 隆夫

 

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【人口でみる世界経済】ユース・バルジ テロの原因は「人口の不均衡」 2016年10月4日特大号

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1943年ポーランド生まれ。93年、ブレーメン大学にヨーロッパ初の「ジェノサイド研究所」を開く。2009年までブレーメン大学教授を務め、現在は北大西洋条約機構(NATO)防衛大学などで教える。他の著書に『なぜアウシュヴィッツか』『神々の創造』『ジェノサイド事典』など。
1943年ポーランド生まれ。93年、ブレーメン大学にヨーロッパ初の「ジェノサイド研究所」を開く。2009年までブレーメン大学教授を務め、現在は北大西洋条約機構(NATO)防衛大学などで教える。他の著書に『なぜアウシュヴィッツか』『神々の創造』『ジェノサイド事典』など。

◇アフリカ、中東発の危機が多発

 

 2008年冬に邦訳が出版された『自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来』(原著は03年刊行)で、戦争やテロの原因は、突出して数が多い若者層「ユース・バルジ」にあることを解き明かしたのが、社会学者のグナル・ハインゾーン氏だ。アフリカや中東の人口不均衡による移民が、欧州にテロを運ぶと警鐘を鳴らす。

 長年、私はテロや戦争の原因の一つに「ユース・バルジ」(Youth Bulge)が大きく関係していると説いてきた。ユース・バルジは直訳すると「若者の膨らみ」。15歳から29歳までの男性が、人口に占める割合の30%を超えると、雇用機会が限られてしまい、居場所を見つけられない若者が増えることを指す。

 多くの若者は、野心や目標を抱いているのに、社会で手に入れられるキャリアや職業といった「ポジション」が極めて少ないとなると、どうなるのか。人口統計上は“余剰”ともいえる若者たちが、激しいいら立ちを覚え、ストレスにさらされる。

 怒れる若者たちが向かう先は、限られる。チャンスを求めて、移民として他の国へ渡るか、犯罪に走るか、国家への反逆あるいは革命を起こすか、内戦を起こして社会の少数派を排斥し、暴力によって国を征服しようとする。

 これらは決して、極端な考えではないことを、歴史が証明している。日本に関していえば、江戸時代末期(1870年ごろ)3000万人強だった人口は、1930年ごろに6500万人と倍増した。1家族に5人子供がいることが普通で、ユース・バルジの状態にあった。そのとき、日本は何をしただろうか。隣国を侵略したのだ。

 

◇高い戦争指標

 

 現在、先進国はどこも少子化で、1人しかいない子供を戦争に送って戦死させるわけにはいかない。家族が絶えてしまうからだ。

 このように、その国が戦争に向かうのかどうかについて、ユース・バルジをさらにわかりやすく説明しようと、私が考案したのが「戦争指標」だ。男性の年齢階層別のうち、55歳から59歳までの間もなく引退を迎えるグループと、15歳から19歳までのこれから社会で競争していくグループの二つを比較し、どれだけ社会に活躍する場所が生まれるかを測る指標だ。

 1000人が引退して年金受給者になれば、社会の中に1000人分のポジションが空くはずだ。単純に計算し、二つのグループの人数が1対1であれば、次の世代に仕事があるということだ。ちなみに日本の戦争指標は0・82。つまり1000人が引退したとき、若者は820人しかいないため、理論上は全員が仕事に就けるということになる。

 アフリカの戦争指標をみてみよう。最悪のザンビアは7・0、ウガンダ、ジンバブエは6・9だ。ザンビアでは1000人分の職業を巡り、7000人の若者が競い合わなければならない。戦争指標が3以上の国は、若者の社会不安が大きいと言え、何らかの形で暴力に訴える危険性が高い。そしてそういった若者の比率が極端に高い国は現在、アフリカや中東を中心に52カ国もある。暴力に訴えようとするユース・バルジの若者の数は、2050年に20億人になると推定される。

 アフリカは、1950年に18歳以下の人口は、世界人口の9%にすぎなかった。ところが、2100年には47%を占め、アフリカから4億5000万人が移民を希望すると想定されている。

 人口推移でみると、1914年にフランスとドイツの人口は合計9800万人、アフリカ大陸は1億1500万人だった。しかし、2015年にはフランスとドイツは合計1億4600万人に対し、アフリカは12億人と急激に増加している。

 欧州連合(EU)は2050年までに、7000万人の技能を持った移民を必要としている。その解決策として、アフリカからの移民を大量に受け入れることができるだろうか。

 学力で考えると、国際学力試験で数学のトップは韓国人だ。その半分しか得点できないガーナ人を移民として受け入れ、技能が必要な職業に就けるよう教育することは、果たして可能だろうか。

 そこまで望むのは、酷というものだ。ドイツがカメラ産業で、日本に抜かれたとき、一部のドイツ人は「日本人はドイツ製品をコピーしただけだ」と言った。仮にそうだとしても、「カメラを分解してコピーを作れ」と命じられたところで、能力があって製品のメカニズムを理解していないかぎり不可能だ。

 アジア人は学力統計で、常に上位を占めている。経済指標でみると、ガーナと韓国は1957年に、ほぼ同程度にあった。その後60年間の韓国の躍進をみれば明らかだろう。教育はすべての人間に平等に与えられるのではなく、できる人材はより多くの知識を吸収して、さらに差をつける。教育は平等ではなく、不平等を生むのである。

 

◇移民は暴力の輸入だ

 

 行き場のないユース・バルジによる危機は、アフリカだけではない。中東から欧州を目指す移民希望者は、8300万人いると言われている。これが将来的に大きな問題となることは間違いない。イスラム教徒が世界を席巻することになるからだ。………

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>38~41ページより転載)

 

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特集:人口でみる世界経済

 

世界16カ国の人口長期予測

『デフレの正体』を世界に

藻谷浩介が読む世界経済の行方

テロの原因は人口の不均衡

 インタビュー 吉川 洋 / 小峰 隆夫

 

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ワシントンDC 2016年10月11日特大号

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ポーランドのグダニスク造船所で働く北朝鮮の溶接工 (2006年11月26日)
ポーランドのグダニスク造船所で働く北朝鮮の溶接工 (2006年11月26日)

◇北朝鮮の外貨獲得手段

◇労働者海外派遣の今後は

 

会川晴之(毎日新聞北米総局長)

 

 北朝鮮が9月9日、1月に続いて今年2度目の核実験を強行した。日米韓3カ国は、国連安全保障理事会でさらなる制裁措置を北朝鮮に科す方向で精力的に調整を進める。本稿執筆時点では、決議案採択の日程や内容は見通せないが、相次ぐ核実験や弾道ミサイル打ち上げを抑制する効果的な手段を打ち出せるかどうかは、きわめて難しい状態にある。

 オバマ米大統領は、北朝鮮の核実験を受けて安倍晋三首相や韓国の朴槿恵(パククネ)大統領と電話協議。核実験を非難するとともに、改めて米国の「核の傘」で日韓両国の安全保障を支えると確約した。だが、次の一手については何も打ち出せていない。

 安保理は3月、対北朝鮮制裁決議を採択した。北朝鮮向けの貿易を事実上禁止する「史上最強」(米ホワイトハウス高官)という触れ込みで、核兵器やミサイル開発用の物資調達を断ち切るとともに、北朝鮮の経済を締め上げることを狙った。だが、民生用は適用外のため、中国は北朝鮮産の石炭や鉄鉱石の輸入を続けた。制裁は「尻抜け」となっている。

 

◇総額推計3億ドル

 

 手詰まり状況が続く中、筆者は海外で働く北朝鮮労働者からの本国向け送金を断ち切ろうという新たな制裁を模索する動きが出始めていることに注目している。北朝鮮は、労働者を海外に派遣し、稼いだカネを本国に送る国家ビジネスを強化している。中国を除く諸国との交易が細る中、少しでも外貨を稼ぐのが狙いだ。この5年でその数は2倍に増えて5万人となり、送金総額は3億ドル(約300億円)との推定もある。

 米国務省が8月末に議会に提出した北朝鮮に関する人権報告書によると、派遣先は北朝鮮と親しい中国のほか、東欧など旧社会主義国や中東産油国、モンゴルなどのアジア諸国、セネガルなどのアフリカ諸国まで23カ国に及ぶ。職種も、医師や造船技師などの技術職から単純労働者に至るまでさまざまだ。米国務省は、北朝鮮政府がこうした労働者の賃金を不当に搾取していると非難する。

 そうした中、ポーランド政府は今年6月、核実験への制裁措置として北朝鮮労働者への査証発行を中止した。1980年代初頭に、ワレサ議長が率いるポーランド自主管理労組「連帯」の発祥の地となった北部の都市グダニスク(旧レーニン)造船所には、昨年段階で156人が派遣されていたが、査証を更新しないことを決めた。

 筆者は06年、この造船所で北朝鮮労働者を取材したことがある。いずれも溶接工などの造船技師で、28人が卓球台などの娯楽施設もある郊外の一軒家に住んでいた。造船所の副所長は「腕のたつ職人ばかりだ」と高く評価、増員する意向を示していた。

 同僚から「ツバメ」と呼ばれるリーダー役(45)に話を聞くことができた。精悍(せいかん)な顔つきの彼は、流ちょうなポーランド語で「腹いっぱい食べられるしビールも飲める。毎日、誕生パーティーを開いているようだ」と話した。筆者が「キムチをお土産に持ってくればよかった」と告げると、「月に2度、ワルシャワの大使館員が届けてくれる」と顔をほころばしたのが印象に残る。

 北朝鮮労働者の派遣を仲介した地元業者によると、平均給与は当時で約16万円。労働者には5万円ほどが支払われ、残りは北朝鮮の国営会社の口座に直接振り込まれる。公務員の月給が10ドル(約1000円)未満と言われる北朝鮮労働者にとって、異国での生活は「悪くはない」。そんな海外労働者の運命はどう変わるのか。なぜだか目が離せない。

 

『週刊エコノミスト』2016年10月11日特大号<10月3日発売>70ページより転載

週刊エコノミスト 2016年10月11日特大号

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特別定価:670円(税込)

発売日:2016年10月3日

特集:踊る経済統計

 

 ◇政策効果表れぬ政府の焦り

 ◇日銀vs内閣府「GDP大論争」 

 

桐山友一

(編集部)

 

 経済統計をめぐり、政府・日銀で新たな指標づくりや既存の統計の見直しなどの動きが活発化している。日本経済の実力である潜在成長率の水準が下がる中、発表されるわずかなデータの違いが、政策判断や市場に及ぼす影響は高まる一方。そればかりでなく、経済政策の「成果」としての数値が、政権の評価として選挙の結果すらも左右しかねない。だが、現実の経済の「真」の姿とは、そもそも把握が難しいもの。一足飛びの妙案はそう簡単には生まれない。

 

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ピックアップ

経営者:編集長インタビュー

◇平岡昭良 日本ユニシス社長

◇社会問題をITシステムで解決する

 

── 2017年3月期は増収増益の計画です。好調な事業は。

平岡 コンビニなどで売っているプリペイドカード向けのIT(情報技術)システムです。アマゾンやアップル、グーグル、任天堂、DeNAなどのサービスで使うプリペイドカードは現在、約100種類あり、その約5割は、当社が提供するカードの発行元と販売元をつなぐ仕組み(プラットフォーム)で動いています。プリペイドカード市場は、米国では10兆円規模になり、まだ統計がない日本でもインターネットで買い物する市場が拡大するなかで伸びていくとみています。

── そのビジネスモデルは。

平岡 プリペイドカード事業が好調なのは、カードが普及すればするほど、当社の手数料収入が上がるビジネスモデルにできたのが大きいです。つまり、普及しなければ赤字プロジェクトになるため、お客様と同じ方向を向くことができます。

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ワシントンDC

◇北朝鮮の外貨獲得手段

◇労働者海外派遣の今後は

 

会川晴之(毎日新聞北米総局長)

 

 北朝鮮が9月9日、1月に続いて今年2度目の核実験を強行した。日米韓3カ国は、国連安全保障理事会でさらなる制裁措置を北朝鮮に科す方向で精力的に調整を進める。

 

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目次 2016年10月11日特大号く


経営者:編集長インタビュー 平岡昭良 日本ユニシス社長 2016年10月11日特大号

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◇社会問題をITシステムで解決する

 

── 2017年3月期は増収増益の計画です。好調な事業は。

平岡 コンビニなどで売っているプリペイドカード向けのIT(情報技術)システムです。アマゾンやアップル、グーグル、任天堂、DeNAなどのサービスで使うプリペイドカードは現在、約100種類あり、その約5割は、当社が提供するカードの発行元と販売元をつなぐ仕組み(プラットフォーム)で動いています。プリペイドカード市場は、米国では10兆円規模になり、まだ統計がない日本でもインターネットで買い物する市場が拡大するなかで伸びていくとみています。

── そのビジネスモデルは。

平岡 プリペイドカード事業が好調なのは、カードが普及すればするほど、当社の手数料収入が上がるビジネスモデルにできたのが大きいです。つまり、普及しなければ赤字プロジェクトになるため、お客様と同じ方向を向くことができます。

 これまで、当社の売り上げはプロジェクトの工程に対して、それに取り組む人の数で計算していました。ただし、当社の売り上げが上がると、お客様にとっては投資額が上がってしまいます。これからは、お客様の初期費用は少なく、当社のシステムを利用して手数料をいただくような、ウィンウィンの関係を作っていきます。

 

 日本ユニシスは、18年に創業60周年を迎える。主な事業は、銀行ATM(現金自動受払機)、電力会社向けの顧客情報管理や料金計算のシステム、航空・鉄道乗車券の予約・購入など、社会基盤の根幹を支えるITシステムだ。さまざまなメーカーの製品を最適に組み合わせて提供するため、機器のメーカーにこだわらない「ベンダーフリー」が強みだ。顧客層は大きく、金融、製造・流通、公共サービスの三つに分かれる。

 

── 既存のビジネスはどうか。

平岡 顧客の要望に応じて、ITを使ったサービスやシステムを提供する従来の事業は、足元も好調です。どの業界でもITが経営の武器になることは共通しており、IT需要は増えています。

ただし、従来の事業では、生産性を上げて70%の力で取り組もうとしています。そのために、開発の速度を速めたり、協力会社との協業比率を増やしたりして、原価構造を変えています。

── 生産性を上げた分は。

平岡 将来のために使います。当社はこれまで、電力やATMなど止まると大きな問題になる社会システムを手がけてきたので、プロジェクトが失敗しないように、堅く堅くリスクを評価していくのが企業文化でしたが、今はイノベーション(技術革新)を起こすことが必要です。

 一つの取り組みとして、私が常務時代の11年に私塾を始めました。「今の仕事をしながら、何かおもしろいことをしようよ」と呼びかけました。1期が3カ月間で7期まで続き、その卒業生が約200人います。この私塾から、タクシー配車システムや保育園の支援システムなどのアイデアが生まれました。また、今広がっている電気自動車向けの充電ネットワークシステムも私塾の卒業生が取り組んでいます。この私塾は好評で、社員が独自に新事業を企画する「裏・私塾」まで生まれました。これは驚きでした。社内が「こんなこともしていいんだ」という雰囲気になっています。

── 新規事業は。

平岡 医療分野で、地域医療における情報連携を支えるシステムに取り組んでいます。医者、薬局、介護施設などの間で医療情報を共有する仕組みを、第1弾として新潟県・佐渡島で始めています。また、今年4月にスタートした電力の自由化では、新規参入者向けに、契約の受け付けから顧客向けの請求紹介までさまざまな段階がある共通システムを提供しています。

 

◇マンションの電力に強み

 

── 電力自由化以外のエネルギー分野は。

平岡 当社はマンション全体でエネルギー管理・節電を支援する「マンション・エネルギー・マネジメント・サービス(MEMS)」のシステムで7割近くのシェアを持っています。このMEMSを導入する専門業者向けのシステムを提供しています。今は、個別で電力会社と契約している人が多いですが、マンションごとで契約すれば電気代は安くなります。今後、新築マンションはほとんどこれに変わるとみられています。

── リオ五輪では、御社所属のバドミントン選手が活躍しました。

平岡 現地に行き全試合観戦しました。金メダルを取った女子ダブルスの高橋礼華選手と松友美佐紀選手の「タカマツペア」は、決勝の終盤で1点取られるとマッチポイントという場面でも、リスクを恐れずにコートの端を狙い続けました。経営としても、あきらめない姿勢だけでなく、リスクを取って攻めに出たことを見習わないといけません。

 私は社員に向けて、「成功のKPI(評価指標)は失敗の数」として「失敗から学ぼうよ」と呼びかけています。百発百中で失敗を許さない文化から、失敗を許容できるように会社を変革していきます。

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長) 構成=谷口健(編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A システム畑から営業畑に変わり、金融や製造業、流通など一通りの業種を経験しました。その時に学んだのが、金融機関に金融の話を持っていっても勝てないので、異業種の取り組みを紹介することです。

Q 最近買ったものは

A 「ダブル」という車輪付きのロボットです。大人の背の高さくらいの棒の先端にiPadが付いていて、WiFiを通じて遠隔操作できます。専務時代に一度、私の代わりに役員会に出ました(笑)。

Q 休日の過ごし方

A 3連休の時はオープンカーでドライブします。

………………………………………………………………………………………………………

■人物略歴

◇ひらおか・あきよし

石川県出身。金沢大学附属高校、早稲田大学理工学部を卒業後、1980年4月、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。2002年6月、執行役員。常務、専務を経て、16年4月に社長就任。60歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:ITシステム、ITソリューションサービス

本社所在地:東京都江東区

設立:1958年3月

資本金:54億円(単体)

従業員数:4241人(単体)、8103人(連結)

業績(2015年度)

売上高:2780億円

営業利益:125億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月11日特大号<10月3日発売>4~5ページより転載)

特集:踊る経済統計 2016年10月11日特大号

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 ◇政策効果表れぬ政府の焦り 日銀vs内閣府「GDP大論争」

 

桐山友一

(編集部)

 

 

 経済統計をめぐり、政府・日銀で新たな指標づくりや既存の統計の見直しなどの動きが活発化している。日本経済の実力である潜在成長率の水準が下がる中、発表されるわずかなデータの違いが、政策判断や市場に及ぼす影響は高まる一方。そればかりでなく、経済政策の「成果」としての数値が、政権の評価として選挙の結果すらも左右しかねない。だが、現実の経済の「真」の姿とは、そもそも把握が難しいもの。一足飛びの妙案はそう簡単には生まれない。

 

 ◇相次ぐ見直し組織

 

「それでは『より正確な景気判断のための経済統計の改善に関する研究会』を始めたいと思います」──。

 9月28日、東京・霞が関の内閣府庁舎。内閣府がこの日設置した研究会は、学習院大学の伊藤元重教授ら8人の専門家がメンバー。その名の通り「より正確な景気判断」をするため、消費などの動向把握の精度を上げ、GDP(国内総生産)統計の改善などにつなげる狙いだ。年内をめどに政府が取り組むべき方向性をまとめる。

 9月15日には総務省が、新たな消費統計の開発に向けた研究会をスタート。高市早苗総務相は研究会で「多くの消費者、政治家の判断材料となる、全般的な消費を捉えた指標を作りたい」と述べた。研究会は今後、小売りのPOS(販売時点情報管理)データや電子マネーなどから収集した民間企業が持つビッグデータも活用した、速報性の高い新たな消費統計の開発を検討。月1回ペースで開催し、今年度中に新たな統計作成に向けたロードマップを示す。

 また、山本幸三地方創生・行政改革担当相が8月、記者会見で「日本のGDP統計というのは、どこまで本当に信用していいのか分からない」と述べ、経済統計のあり方を見直す考えを表明。9月16日には旧知の三輪芳朗・大阪学院大学教授を大臣補佐官に任命し、地方での政策判断に活用する“地方版GDP”の可能性を探るほか、統計の利用者の立場から統計の改善を促すという。自民党内では林芳正参院議員を座長とした、GDP統計の推計方法を見直すプロジェクトチームの動きもある。

 

 ◇発端は麻生財務相

 

 一連の見直しの動きの発端となったのは、昨年10月16日の政府の経済財政諮問会議だ。麻生太郎財務相が消費の動向を示す総務省の「家計調査」について、……

続きは本誌で

 

第二特集:韓国の騒動 2016年10月11日特大号

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世界各地で荷揚げできずに物流が滞った・・・ Bloomberg
世界各地で荷揚げできずに物流が滞った・・・ Bloomberg

 ◇韓進海運の破綻で混沌

 ◇世界の物流に及ぶ余波

 

桐山友一(編集部)

金志敏(ジャーナリスト)

 

 世界7位(表)のコンテナ船貨物の輸送規模を持つ韓国海運最大手、韓進(ハンジン)海運が破綻した。これほど規模の大きな海運会社の破綻は世界で初めてで、世界の物流や韓国経済に計り知れない影響を及ぼしている。
「心より謝罪いたします」──。
 韓進海運の崔恩瑛(チェウンヨン)元会長(54)はそう言うと突然、土下座を始めた。9月27日に開かれた韓国国会の海洋分野を担当する委員会。崔氏は国会議員による国政監査の一環で証人として呼ばれ、質問した国会議員から「(破綻に対して)心のこもった謝罪がない」と追及された直後だった。崔氏はまた、「どんな最高経営責任者も、自分の会社を倒産させても(何も)行動をしない」と指摘され、数分間すすり泣きを続けた場面もあった。

 日本の会社更生法に相当する「法定管理」を8月31日、ソウル中央地裁に申請した韓進海運。2014年まで韓進海運会長を務めた崔氏が、ここまで追及されてしまうのには理由がある。韓進海運や大韓航空などからなる韓進グループを築き上げた創業者、趙重勲(チョジュンフン)氏が02年に死去。韓進海運は三男の趙秀鎬(チョスホ)氏が会長となって経営を引き継いだが、秀鎬氏も06年に病死してしまう。そこで、翌07年に後継の会長に就いたのが、秀鎬氏の妻の崔氏だった。

 ◇ロッテ創業者のめい

 崔氏はロッテグループ創業者である重光武雄氏(韓国名・辛格浩(シンギョクホ))のめい。しかし、それまで会社経営の経験がなく、海運関係者は「素人も同然だった」と指摘する。さらに、08年にはリーマン・ショックが発生し、世界経済が大停滞に陥る。海運業界でも船腹過剰が顕著になり、世界の海運大手がコンテナ船の削減や大型化によるコスト引き下げに取り組む中、経営判断の遅れが傷口を拡大。韓進海運は13年まで3年連続で営業赤字を計上し、崔氏は責任を取る形で退任した。その後、趙重勲氏の長男の趙亮鎬(チョヤンホ)・韓進グループ会長が支援に乗り出す。グループ中核の大韓航空など系列会社を通じて1兆ウォン(約900億円)を投じたものの、“焼け石に水”でしかなかった。また、大韓航空自身もウォン安・ドル高に伴うドル建て債務の拡大に加え、趙亮鎬氏の長女の大韓航空副社長(当時)が14年末、客室乗務員に暴言を吐いて離陸を遅らせた「ナッツリターン」事件によるイメージ低下などもあり経営が悪化。支援の余裕を失っていく。
 今年3月には同じく経営危機に陥っていた、韓国海運2位の現代商船が銀行管理下に入った。趙亮鎬会長も韓進グループによる自主的な再建をあきらめ、今年4月に銀行管理が決定。銀行団はその後、韓進グループに対し、再建計画の策定と1兆2000億ウォン(約1080億円)の資金調達を要求したが、韓進グループ側が調達できる見込みは5600億ウォン程度と半分に満たない。銀行団は8月30日、再建計画を承認せず、もはや法的整理の申請しか道はなくなった。……

【踊る経済統計】インタビュー山本幸三大臣 2016年10月11日特大号

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 ◇「利用者目線で経済統計を改善。市町村ごとのGDPが理想」

 

「GDP(国内総生産)統計はどこまで本当に信用していいのか分からない」──就任直後の会見で、経済統計の改善に意欲を示した山本幸三地方創生・行政改革担当相に、発言の真意と見直しの方向性を聞いた。

(聞き手=桐山友一/金井暁子・編集部)

 

── なぜ今、経済統計を見直す必要があるのか。

■以前から統計の問題に関心があった。日本に「エビデンス・ベースド・ポリシーメーキング」、つまり統計などの根拠に基づいて政策を展開、評価することを根付かせたい。

 ところが、それを実行しようとした場合、日本の統計は各省庁がそれぞれに作っており、整備・統合されていない。GDPは、各省庁が発表する統計を加工し、そこから推計して作る。GDPの元となる統計が共通の目的を持たずに作られているため、GDPの正確性も疑われる事態になっている。

 これまで、整備・統合の議論がされなかった日本の統計は、国際基準から見るといびつに感じる。今、改善の方向を打ち出さないと手遅れになり、全く使い物にならないものになる。これが最後のチャンスだ。

 

── 行政改革の観点から取り組むのか。

■私が担当する行政改革と地方創生の観点から取り組む。統計は、社会インフラそのものであり、行政改革そのものだ。行政改革全般を行うためにも統計は必要だ。

 大きな問題として、まず産業別の生産性上昇率を示す数字が存在しない。成長戦略を打ち出しても、どの産業で生産性が向上したのか見えない。また、サービス産業の統計もない。統計を利用する側として、足りない指標や統計システム全体の課題について提言し、場合によっては制度改正していく。

── 地方創生に、統計はどのように関わるのか。

■地方創生とは、………

【EconomistView】:「ワークスタイル」×「コーヒー」トレンドセミナー開催 2016年10月11日特大号

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サントリー「BOSS」に新ボトル缶コーヒー登場

 

 

サントリー食品インターナショナルは、「プレミアムボス」シリーズからボトル缶コーヒー「プレミアムボス ザ・マイルド」「プレミアムボス ザ・ラテ〈砂糖不使用〉」を新発売。これに合わせて20日、「ワークスタイル」×「コーヒー」トレンドセミナーを開催した。

 

 

(写真)トークを展開した、(左から)リクルートワークス研究所の大久保幸夫氏、漫画家の弘兼憲史氏、コーヒー専門店『Mui』店主の大沢征史氏

 

変化する働き方とコーヒーの存在

「BOSS」ブランドは、“働く人の相棒コーヒー”として20年以上親しまれているロングセラー商品。そのラインナップに新しく加わったのが、9月27日から全国販売を開始したボトル缶コーヒー「プレミアムボス ザ・マイルド」と「プレミアムボス ザ・ラテ〈砂糖不使用〉」だ。

 

「プレミアムボス ザ・マイルド」は、雑味を低減して上質なコクと苦味が楽しめるエスプレッソに、濃厚かつキレのある後味の生クリームを合わせ、コーヒーとミルクのコクを両立したまろやかさが特徴。一方「プレミアムボス ザ・ラテ〈砂糖不使用〉」は、独自の「プレボスフレッシュ製法」の採用で熱による劣化を半減し、ミルクのフレッシュな味わいを引き出して本来の自然な甘さが楽しめる。

 発売に先立ち、20日には都内で、働き方の変化とコーヒーとのかかわりについて解説する「ワークスタイル」×「コーヒー」トレンドセミナーを開催。リクルートワークス研究所所長の大久保幸夫氏、漫画家の弘兼憲史氏、コーヒー専門店『Mui』店主の大沢征史氏がクロストークを展開した。

 セミナーのなかで大久保氏は日本人の長時間労働に言及し、「生産性を上げるには働き方の自由度を高める必要がある」と指摘。弘兼氏はモバイル技術の進化により自宅で仕事をするようになると、「働く一番のモチベーションは、自分の仕事が好きかどうかになる」と話した。これを受け大沢氏は、「私の店でも、ノートPCを前にリラックスしてコーヒーを飲みながら仕事をしている人がかなりいる」と紹介。弘兼氏は、「自分も机に置いて少しずつ飲んでいる。リラックスにはコーヒーの存在が大きい」と実感を込めた。

(写真)サントリー食品インターナショナルの柳井慎一郎執行役員


 続いて、サントリー食品インターナショナルの柳井慎一郎執行役員が新商品について紹介。「ボトル缶コーヒーが、オフィスのワークスタイルをデザインするということも新しいBOSSの狙い」と自信をのぞかせた。なお、既存の全ライナップもリニューアルして順次発売される。

 

 

 

 

(写真)コーヒーのプロ、大沢氏も完成度を称賛した「プレミアムボス ザ・マイルド」(左)と「同 ザ・ラテ〈砂糖不使用〉」

 

サントリー食品インターナショナルの商品や企業情報については、ホームページ(http://www.suntory.co.jp/softdrink/)で詳しく紹介されている

 

【東京五輪】特報 繰り返される「五輪ファースト」 住民を2度移転させる都政の愚 2016年10月11日特大号

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取り壊しが進む都営霞ヶ丘アパート
取り壊しが進む都営霞ヶ丘アパート

◇後藤逸郎(編集部)

 

 2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、東京都は都営霞ケ丘アパートの取り壊しを進めている。神宮外苑の新国立競技場建設のため、アパートの敷地が必要との理由だ。リオのオリンピック・パラリンピックで日本の選手の活躍が報道されるさなかも重機がせわしなく動いていた。
 始まりは、都が12年8月26日に開いたアパート住民向け説明会だった。東京都都市整備局の担当課長はこの時、19年開催のラグビーワールドカップ(W杯)の会場となる新国立競技場のため、住民に移転を通告した。「国策です」と繰り返す都と唐突な移転話に住民は猛反発し、説明会は紛糾した。

 住民からは改めて説明会を求める声も出たが、都は2年以上たった14年11月に少人数での説明会を開いた。この時点で、移転の理由は東京五輪に差し替えられた。結局、住民が求めた全世帯対象の説明会は15年5月に開かれたものの、移転を求める都の姿勢は変わらず、住民が要望した一部建て替えも拒んだ。

 ◇移転巡る争いは法廷へ

 都は16年1月30日までに住民の退去を求め、約300世帯の大半は現地居住をあきらめ、別の都営アパートなどに移転した。
 しかし、3世帯は移転を拒み居住を続けた。都は7月まで住民に移転を求めたが、その後折衝を打ち切り、取り壊し工事を始めた。
 そして、都は居住を続ける住民のうち1世帯に9月、部屋の明け渡しを求める訴訟を東京地裁に起こした。10月12日に初公判の予定。訴えられた70代の女性は「裁判で東京都のウソを明らかにしたい」と話す。女性は移転する気持ちはあるが、モノのように動かそうとする都の姿勢への怒りが勝った。都職員の移転ありきの物言いも目立ったという。
 こうした「五輪ファースト」をうかがわせる話は他にもある。……

FLASH!:電通の虚偽請求 2016年10月11日特大号

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記者会見で謝罪した電通の中本祥一副社長(中央) 共同通信
記者会見で謝罪した電通の中本祥一副社長(中央) 共同通信

 ◇不正ではなく不適切と強弁

 ◇広告主第一主義はどこへ

 

池田正史(編集部)

 

 広告代理店最大手の電通が、インターネットの企業広告で「不適切業務」があったと発表した。判明しただけで、広告主111社から受注した633件、取引総額は約2億3000万円。まったく掲載していないのに契約金額を請求していた悪質な例も14件、約320万円分あった。9月23日に発表、謝罪したが、約1時間15分の記者会見の中で、電通の「尊大」な企業体質が透けて見えた。
 電通の発表によると、不正があったのは、パソコンやスマートフォンの画面に表示される「バナー広告」や、動画が流れる「動画広告」。利用者がアクセスするサイトの傾向や、検索実績などをもとに、関心に合う広告を画面に表示する仕組みになっている。新聞、テレビなどの広告と違い、クリック数や動画を閲覧された回数といった露出度から広告料が決まる。特に作業が高度、複雑にもかかわらず、恒常的に人手不足の状態にあったという。

 今年7月、広告主のトヨタ自動車から「掲載されているはずの期間に広告が掲載されていない」との指摘があり、社内調査を開始。記録が残る2012年11月以降の広告について調査した結果、掲載期間のずれ、未掲出、運用の虚偽報告、架空請求が相次いで見つかった。
「クライアント側から誤りを指摘するのは難しいと思うが、なぜ気がついたのか」との質問に対し、山本敏博常務執行役員は「個別のクライアントの話なので、具体的なことは申し上げられない」と口を濁した。
「間違いの内容を聞いている。クライアントは関係ないのでは」とさらに追及され、中本祥一副社長は「掲載に対する効果を期待していたが実効性がなく、『正しく露出されているのか』という疑義が発端となったと聞いている」と明かした。
 電通は、指摘を受けたクライアントについて、「トヨタ自動車」と発表していない。「指摘したクライアントはどこか」との質問に、「個別のクライアント名は申し上げられない」と繰り返したものの、トヨタ側へ取材した記者から「トヨタ自動車では」と問われ、認めた。


【韓国の騒動】ロッテの危機 創業者一族に背任・横領・脱税疑惑 “藪から蛇”となった「お家騒動」 2016年10月11日特大号

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金 志敏(ジャーナリスト)

 

韓国検察がロッテグループの重光昭夫会長の逮捕状を請求し、捜査の進展は大きな局面を迎えている。

 

 日韓にまたがる財閥、ロッテグループが経営の一大危機に瀕している。韓国検察がロッテグループの不透明な経営構造に正面から切り込み、グループの重光昭夫会長(61、韓国名・辛東彬)ら創業者一族の背任や横領疑惑を追及しているからだ。昭夫会長は昨年以降、兄である重光宏之氏(62、韓国名・辛東主)と経営権をめぐる争いを繰り広げていたが、その過程で検察側にロッテグループの財務資料などが持ち込まれ、捜査着手の決め手となったようだ。まさに“藪から蛇”をつつき出した形で、どこまで疑惑が及ぶのか結末はまだ見えない。

 9月21日の午前4時。ソウル中央地検の建物から、検察の聴取を終えて昭夫氏が姿を現した。前日の午前9時半から、18時間以上に及んだ聴取。「検察の捜査には誠実に答えました」。待ち構えた報道陣に囲まれると、昭夫氏は日本語のなまりが残る韓国語でそう言い残し、迎えの車に乗り込んだ。

 昭夫氏には2000億ウォン(約180億円)規模ともされる背任や横領の疑惑が持たれ、海外企業のM&A(合併・買収)の過程で生じた損失を他のグループ内系列会社に負わせたり、グループのロッテ建設で過去10年間に300億ウォン余りの裏金作りに関与したのではないかとして検察が捜査。また、系列企業の役員として勤務実態がないにもかかわらず、毎年100億ウォン(約9億円)台の役員報酬を受け取っていた疑惑もある。昭夫氏はこうした疑惑を否定したと見られるが、検察は9月26日、裁判所へ昭夫氏の逮捕状の請求に踏み切った。

 

◇聴取予定の幹部自殺

 

 昭夫氏だけではない。検察は9月1日、兄の宏之氏を召喚して事情を聴取。宏之氏には昨年までの10年間、ロッテ建設やホテルロッテなど、グループの主要企業の取締役としての勤務実態がないのに、給与として400億ウォン余りを受け取った横領の疑惑がある。………

【韓国の騒動】サムスン電子「ノート7」爆発事故の衝撃 ブランドの信頼に打撃大きく 2016年10月11日特大号

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石田 賢

(国士舘大学経営学部講師)

 

サムスン電子が事業の立て直しを図っていた最中、発売したばかりの

スマートフォンで爆発事故が続き、経営への影響は避けられない。

 

 韓国サムスン電子が発売した新型スマートフォン「ギャラクシーノート7」で爆発事故が相次ぎ、米国では約100万台全量をリコール(無料の回収・修理)する事態に追い込まれている。日本では未発売だったが、世界では約250万台が流通しているとみられ、リコールに伴う費用負担やブランドイメージの毀損は大きい。経営の実権を握る李在鎔副会長が事業の立て直しを図っていた最中に直面した事故で、サムスン電子の先行きに暗雲が立ち込めている。

 ギャラクシーノート7の発表イベントが、米ニューヨークなどで華々しく開催されたのは8月2日。5・7インチの大画面で、側面にかけてカーブするディスプレーを使用。「Sペン」と呼ばれるタッチペンを改良し、より使いやすくしたことなどを目玉とした。ギャラクシーノートのシリーズとしては6代目だが、柱となる同社のスマートフォン「ギャラクシーS7」と統一したイメージを打ち出すため、あえて順番を一つ飛ばして「ノート7」と銘打った。

 8月17日からは韓国、米国、カナダ、オーストラリア、シンガポールなど10カ国で販売をスタートし、年内1200万台を目標に順調に滑り出す。ライバルの米アップルが9月初旬、アイフォーン7を発売する前のタイミングであり、市場を先行して獲得する狙いも込められていた。しかし、発売から1週間ほどすると、米国などで爆発事例がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や動画サイトなどで次々と報告されるようになる。

 サムスン電子は当初、こうした爆発事例は悪質なクレーマーによるいたずらと受け止めていた。以前にも携帯電話を電子レンジで加熱し、爆発に見せかけて賠償金をかすめとろうとしたケースがあったからである。しかし、爆発事故が相次いで報告されるに至って、サムスン電子がこのうち35件を調査した結果、原因がバッテリーの接触不良にあることを確認。9月1日時点までは、サムスン電子はバッテリー交換で対応する考えだった。………

【エコノミストリポート】成長力の強化を伴わない“片翼飛行“ 2016年10月11日特大号

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◇「リフレ派」と決別に乗り出した日銀

 

髙橋 亘

(大阪経済大学教授、元日銀金融研究所長)

 

日銀が異次元緩和で取り組んだ、かたくなな量的拡大は危険な賭けだった。成長

力が高まらないままでは、持続的なインフレは望めない。日銀は実質金利の低下

効果を過信すべきでなく、無理に2%のインフレ目標にもこだわるべきでない。

 日銀は9月21日、「金融緩和強化のための新しい枠組み」として「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を発表した。日銀はこれまで、金融政策の操作目標をマネタリーベース(日銀が供給する通貨の量)の拡大「量」としてきたが、この量的目標の旗を降ろして長期、短期の「金利」へと大きく転換した。日銀はデフレ脱却のためにかたくなに量的拡大を追求する「リフレ派」と呼ばれる考え方に支配されてきた。量的拡大の効果が薄いことを認識してようやく決別へと動いたようだ。

 操作目標とは、日銀が金融政策の実施に当たってコントロールを約束する量や金利などの指標を指し、毎回の政策決定会合で決定される。黒田東彦総裁就任後の2013年4月から始まった「異次元緩和」では、マネタリーベースの年間増加額(現在は年間80兆円)を操作目標に採用し、大量の国債やETF(上場投資信託)などの資産買い入れを続けてきた。さらに、今年2月からはマイナスの短期金利が操作目標に加わった。金融機関が日銀に持つ当座預金の一部にマイナス0・1%の金利を課すことで、期間の短い金利をマイナス圏へ誘導する狙いである。

 しかし、日銀は今回の枠組みの変更によって、マネタリーベースの増加を操作目標とすることはやめ、新たに長期金利(10年国債金利)を操作目標に据えた。長期金利は現在、マイナス0・05%前後で推移するが、これを0%程度へと誘導する方針とし、短期から長期までの金利をつないで描かれる「イールドカーブ」(利回り曲線)全体を操作することとした(イールドカーブ・コントロール)。また、現在と同じ規模の国債買い入れは継続するものの、その購入量には幅を持たせたほか、買い入れる内容も長期債偏重から短期債のウエートを高めるなど、バランスを取った柔軟なものにした。………

【踊る経済統計】プロの視点 所得 2016年10月11日特大号

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 ◇就業者数の変化に注目

 ◇総賃金は2~3%増

 

青木大樹

(UBS証券シニアエコノミスト)

 

 所得を示す統計は、消費・内需の先行きを見る上で非常に重要だ。しかし、その実体がつかみにくいと投資家からはしばしば批判を聞く。代表的な所得統計は、厚生労働省から公表される「毎月勤労統計調査」(毎勤調査)だ。決まって支給される給与やボーナスなどの特別賞与など詳細について、産業別・企業規模別に示されている。

 毎勤調査には、投資家が誤解しやすいことがある。賃金の合計として公表される現金給与総額は、1人当たり平均だ。毎勤調査を見ただけでは、就業者数の変化を含めた全体の賃金上昇を把握できない。昨今、女性・高齢者の労働参加率が急上昇し始めている。彼らは主にパートタイマーとして雇用されているため、1人当たりの賃金上昇率として計算すると、その伸びは0・5~1%と緩やかなペースにとどまってしまう。

 ところが、就業者数は前年比で1~2%拡大している。1人当たりの賃金上昇率に就業者数の伸び率を加えた、企業が就業者に支払う賃金の総額(名目総賃金)の伸び率を見ると、前年比2~3%程度の強い伸び率となっている(図)。

 消費は2四半期連続でプラスの伸び率が続くなど、就業者数の拡大により意外に底堅い。毎勤調査では1人当たり平均の賃金だけでなく、就業者数の拡大を考慮した総賃金の数値も公表し、むしろこちらを主要値とすべきだろう。

 また、各産業別にも就業者数の変化を含めた総賃金が示されている。それぞれの産業について、企業から労働者へどの程度分配が行われているかをより迅速につかめる。

 

 ◇サンプルにも問題

 

 毎勤調査のもう一つの大きな問題は、サンプル(調査対象)の入れ替えから生じるボーナスの誤差が大きいことだ。現行、大企業のサンプルを入れ替える1月のみ新旧両方のサンプルから賃金を計算して調整し、入れ替えによる調査結果への影響を最小限にとどめている。

 ところが、………

【踊る経済統計】「よいデフレ」だった90年代前半 消費者目線で作った西友物価指数  2016年10月11日特大号

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物価は消費者マインドを反映しやすい Bloomberg
物価は消費者マインドを反映しやすい Bloomberg

丸山 仁見(編集部)

 

「私の感覚では、物価は下がっている」──。1990年代前半、通商産業省(現経済産業省)から大手スーパーの西友専務に転身した坂本春生(はるみ)氏は、決算発表のたびに記者から聞かれる物価動向に違和感を覚えていた。総務庁(現総務省)が公表する消費者物価指数(CPI)と、流通の現場で感じとる肌感覚とはズレているというのだ。

 

 ◇前年度比マイナス6%

「それでは、独自に物価指数を作ってみたら?」
 記者のこんな提案に同席していた当時の藤関勝宏社長は「いいね」と同調。その場で、坂本氏が西友独自の物価指数作りの責任者に決まった。

 総務省の発表するCPIの元になるのは小売物価統計。この調査では、一定の店舗で原則として一定の商品について価格を調査することで、統計の継続性を担保する。しかし、バブル崩壊後の90年代前半に始まった大規模量販店による低価格プライベートブランド(PB)商品の開発や円高輸入品の増大による「価格破壊」が急速に進む過程では、消費者の現実の物価感覚とCPIは乖離(かいり)していると、坂本氏は考えた。
 そこで、西友の全店舗から集まってくるPOS(販売時点情報管理)データを元に、独自の「西友物価指数」を作成する作業にとりかかった。……

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