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【踊る経済統計】プロの視点 個人消費 2016年10月11日特大号

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 ◇“濡れ衣”だった家計調査

 ◇ブレる性質の理解が重要

 

宇南山卓

(一橋大学経済研究所准教授)

 

 2014年4月の消費税率の引き上げ後、消費の動向の把握方法が論争の的となっている。きっかけは、消費の主要な統計である総務省の家計調査が消費増税後に消費が低迷していることを示したのに対し、小売店などの販売動向を表す経済産業省の商業動態統計が順調な回復を示したためである。各方面から家計調査の信頼性を疑う声が出て、消費の把握方法が論点となった。

 消費は、他の経済活動と比べて正確に把握するのが困難な経済活動である。生産や投資など企業が決定する経済活動であれば、一部の大企業の動向を把握するだけでも、かなり正確に全体の動向を推測できる。しかし、消費は、日ごろは必ずしも帳簿をつけない国内5000万世帯もの家計がバラバラに決定するものであり、統計的な手法を駆使して把握するしかない。家計調査では、約9000世帯を無作為抽出し、毎月の支出の記録を依頼している。

 毎日の支出を厳密に調査しているが、むしろそれが消費の不規則な動きを発生させる。たとえば、月末が週末にかかると携帯電話料金の支払いが翌月になり、見かけ上の支出額は大きく変動する。こうしたブレが景気動向とは無関係に発生し、必ずしも原因は特定できないため、統計の信頼性に問題があるように見られやすい。

 今回のケースでは、図のような14年4月の消費増税後の家計調査と商業動態統計の動向の不一致が、政策担当者や多くのエコノミストを悩ませた。家計調査は「世帯がどれだけモノを買ったか」の、商業動態統計は「小売店がどれだけモノを売ったか」の指標であり、両者は類似した動きをすると考えられる。また、増税後の夏にかけては雇用環境の改善が進み、株価も堅調に推移していた。その中で、家計調査が示した消費の低迷は、例外的に景気回復の遅れを示唆したため、「景気判断を混乱させる元凶」と印象付けられた。

 

 ◇“爆買い”は含まれず

 

 だが、14年秋ごろまでに、家計調査がおおむね実態を示していたことが判明する。経済全体を包括的に捉えた内閣府の国民経済計算(SNA)でも、家計消費がやはり低迷していたからである。SNAは家計調査を含めさまざまな統計に基づき作成されることから、信頼性が高い。しかし、………

 


【FLASH!】英国のEU離脱手続き 2016年10月18日号

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◇メイ首相が「来年3月」の通告表明

◇リスク懸念で英ポンド31年ぶり安値

 

田中理

(第一生命経済研究所主席エコノミスト)

 

英国の欧州連合(EU)からの離脱協議がいよいよ動き出す。メイ首相は10月2日、来年3月末までにEU基本条約(リスボン条約)第50条に基づく離脱手続きを開始する方針を明らかにした。「離脱」派が多数を占めた今年6月の国民投票後、ようやく交渉の開始時期を示すに至ったが、市場では改めて“離脱リスク”への意識が拡大。英ポンドは対ドルで31年ぶりの安値圏まで売り込まれている。
 メイ首相は同日、英中部バーミンガムで開かれた与党・保守党大会での演説で、「我々は完全に独立した主権国となる。食品ラベルから入国管理の方法まで、さまざまなことについて自ら決定できる自由を取り戻すことを意味する」と述べ、強い表現で離脱の意義を強調。また、EU法の効力が英国に及ぶ根拠法である「1972年欧州共同体法」を無効にする法律を来年中に議会に提出する意向を示唆した。
 当初はEU離脱に対して比較的穏健とみられていたメイ首相が、こうした強い表現で手続きの開始時期を明言したのにはいくつか理由がある。まず、国民投票後の英国経済が予想以上に堅調で、離脱強行派の発言力が増している。保守党は議会の過半数を握るが、離脱強行派の協力なしに議会運営は行えない。また、国民投票後も英国民の過半数は離脱決定を支持しており、2020年5月の次期総選挙までにEU離脱と移民制限で何らかの成果を上げる必要に迫られた。
 離脱手続きは英国がEUに離脱の意向を通告した時点で正式に開始し、原則として通告から2年の期限内に離脱の条件や離脱後のEUとの関係を協議する。そのため、来年3月末までに離脱を通告すれば、総選挙前の19年3月末が期限となる。EU側は事前交渉をしない方針が明確で、このまま離脱通告を先延ばししても得られるものがない。これ以上、離脱をめぐる不確実性の高い状況が長引けば、企業活動や直接投資に悪影響が及ぶ恐れもあった。

 

◇単一アクセスへの懸念

 

 だが、メイ首相の発言からは、関税や煩雑な許認可手続きなしにEU域内で自由な経済活動を可能にする「単一市場へのアクセス」確保については、移民制限ほどの熱意は感じられなかった。……

 

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月18日号<10月11日発売>13~14ページより転載)

ワシントンDC 2016年10月18日号

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製造現場の雇用はどこへ…… Bloomberg
製造現場の雇用はどこへ…… Bloomberg

◇雇用を奪うのは技術革新?

大統領候補に妙案なく

 

堂ノ脇伸(米州住友商事会社ワシントン事務所長

 

 9月12日、ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所」でカーラ・ヒルズ氏ら4人の元米通商代表部(USTR)代表によるシンポジウムが開催された。

 大統領選が近づく中で民主・共和いずれの党の大統領候補もが、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が米国内の雇用を奪うとして反対の姿勢を示している。いずれの元高官も、かつて自由貿易推進の牽引(けんいん)役とも思われた米国で、半ば保護主義への回帰といった風潮が見受けられる現状に警鐘を鳴らした。「雇用を奪っているのは通商ではなく、製造現場での技術革新による自動化・省人化の動きである」(ヒルズ氏)。

 1990年代から米国の製造業雇用が中国などからの安価な製品の輸入によって減少を余儀なくされた事実は否定できない。しかし、この事象はもはや過去のものとなりつつある。実際、この間米国の製造業の全生産量自体は(9・11テロとリーマン・ショック時を除けば)一貫して増加を続けている。第4次産業革命ともいわれる生産現場での技術革新による効率化、自動化が労働力の介在を減少させているのだ。
一方で、新たに勃興した産業では、従来の単純労働から更に質の高い技能、すなわちエンジニアリングやコンピュータープログラミングといったスキルを持った労働力が求められている。この分野での求人は需要が供給を上回り雇用のミスマッチが生じている。
 このような雇用環境の変化は、国勢調査局の発表した米国への移民の動向からも見てとれる。同局の調査によれば、過去30年近く常に最も多くの対米移民を送り続けていたメキシコは2014年には3位に後退し、首位の座をインドに奪われている。メキシコ系移民の多くは一般に高校卒以下の低学歴で単純作業やサービス産業に就労している。一方、インドからの移民の多くは高学歴保持者で、上述したようなエンジニアリングやプログラミング、金融セクター等への就労機会が多いのだ。

 ◇元USTR代表の警告

 ヒルズ元代表は「保護貿易主義的な政策によって国内の(単純労働従事者の)雇用の維持を図ることは、ひいては米国の相対的な国際競争力を減退させるのみだ。むしろ教育や職業訓練所の充実等によって労働者の質の向上を図ることこそが求められる」と述べている。
 周知のごとく、ドナルド・トランプ大統領候補は、メキシコ国境に壁を設けて移民の流入を防ぎ、中国等からの安価な輸入品に高関税を適用するとして一部労働者層からの圧倒的な支持を取り付けている。時代の流れに取り残されつつある一般単純労働者の不安を巧みに取り込んだ結果だ。しかし、半ば不可逆的な米国の産業構造と雇用環境の変化に照らせばこれらが必ずしも正しい解決策であるとは思いにくい。
 一方で、単純作業に従事していた労働者の質を教育や職業訓練を通じて向上させることも、一朝一夕にはできることではなく、容易な道程ではない。さらに、技術革新による自動化の動きはここにきて一段の飛躍を遂げようとしている。例えば自動運転技術の進展などが近い将来、自動運転タクシーやトラックの普及につながって、これらに従事している労働者(運転手など)の雇用を奪いかねないといった議論も起こりつつある。
 技術革新が雇用に及ぼす影響は米国の今後の社会構造の大きな変化を想起させるものである。しかし、民主・共和両党にいまだ最適な解は見いだせていない。大きな転換期にあたって新政権がいかなる対応をしていくのかが注目されるところだ。

 

『週刊エコノミスト』2016年10月18日号<10月11日発売>62ページより転載

特集:さまよう石油再編 官僚たちの晩秋 2016年10月18日号

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◇メジャー撤退が引き金

◇総合エネ企業化は遠く

 

松本惇/藤沢壮(編集部)

 

 JXホールディングス(HD)と東燃ゼネラル石油、出光興産と昭和シェル石油──。2017年4月予定の統合で、「2強」体制となる日本の石油元売り業界。この再編劇は、先細りする日本市場から撤退する海外の石油メジャーが引き起こした。
 1バレル=100ドルを超える原油高を受け、海外メジャーは利益の約8割を上流部門(開発・生産)で稼いできた。だが、14年以降は世界経済の減速と「シェール革命」によって、原油市場は供給過剰となり、今年1~2月に指標となる米国産標準油種(WTI)は一時1バレル=20ドル台まで落ち込んだ。石油輸出国機構(OPEC)は今年9月、8年ぶりの減産で合意したものの、原油価格は1バレル=50ドル程度の低水準が続く。

こうした中、海外メジャーは原油以外の成長分野を獲得しようと、液化天然ガス(LNG)事業を強化。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル(以下シェル)は16年2月、LNG事業に強みがある英ガス大手BGグループを約360億ポンド(約4兆7500億円)で買収し、最大手の米エクソンモービルもパプアニューギニアでLNG事業を拡大している。
 一方、日本国内の石油消費量は毎年減少しており、成長は期待できない。このため、海外メジャーは日本市場の下流部門から撤退を始める。全額出資の日本法人を通じて東燃ゼネラルの親会社となっていた米エクソンモービルも12年6月、株式の大部分を東燃ゼネラルに売却した。

 

◇業界トップと一体

 

 日本側が受け身で始まった今回の再編は、産業政策も後押しした。
 経済産業省は10年、「エネルギー供給構造高度化法」(09年施行)に基づき、事実上の設備削減目標を設定した。先細りする国内市場への対応を業界に迫った形だ。
 13年12月には産業再編を目的とした「産業競争力強化法」の成立にこぎつける。同法に基づき14年に実施した石油元売り業界に関する市場調査の報告書の中で、電力やガスなどを含めた国内外の事業の充実を挙げ「『総合エネルギー企業』へと成長していく戦略が必要」とうたった。

 石油元売り業界の将来像として「総合エネルギー企業」を示し、企業合併と設備の統廃合を促した。資源輸入国として、「エネルギーセキュリティー」と「安いエネルギーの安定的な供給」を国是とする経産省が手段としたのが高度化法だった。その上前をはねたのが業界のリーディングカンパニーだ。
 関係者によると、新日本石油(現JXHD)の渡文明会長(当時)は、設備の削減目標を作るよう経産省側に求め、高度化法の制定を後押ししたという。渡氏は、安倍晋三首相と一緒にゴルフをする仲だ。あるアナリストは「新日石は設備稼働率が低く、削減目標にも対応しやすかった。自分たちに有利なルールを作り、再編の主導権を握ろうとしたのではないか」と分析する。
 JXHDの前身の日本石油は、販売シェアで出光に抜かれ2位となった後の99年、三菱石油と合併して日石三菱となった。その後も経営統合を繰り返し現在に至る。ただ、「シェア1位」が目的化し、統合効果は低いとも指摘される。
 経産省は今回、JXHDと足並みをそろえて再編を進めようとしたものの、思惑通りにいかなかったことも多い。当初は業界4位のコスモ石油(現コスモエネルギーHD)を絡めた統合を狙ったものの、東日本大震災で経営が悪化したコスモを他社は統合候補から外した。また、出光と昭和シェルの統合交渉の推移を把握しておらず、出光創業家が反対していることは報道で初めて知った。
 業界再編をめぐり、石油連盟の木村康会長(JXHD会長)は14年6月の総合資源エネルギー調査会の会合で、「事業再編に関しては個々の企業が自らの判断で実施する」と、経産省にくぎを刺した。経産省の現役官僚は「規制緩和によって石油業界に対する経産官僚の影響力は低下した。規制がないため、業界も細かいことまで報告する必要がなく、経産省の言いなりにはならなくなっている」と指摘する。「官僚たちの夏」はとうに盛りを過ぎていたのだ。

◇合併見送った東燃

 シェルの日本撤退に端を発し、業界再編は動き出した。
「経産省は出光と東燃のどっちがいいのか」。シェル幹部が13年、同省資源エネルギー庁資源・燃料部の住田孝之部長(当時)の元を訪れ、同省が望む昭和シェル株の売却先について尋ねた。住田部長は「出光だ」と答えたという。省内には当時、JXHDと東燃ゼネラルを統合させたいという意向があった。その最大の理由は、ガソリンの販売後に仕入れ値を下げる「事後調整」を認めていない東燃と統合することで、事後調整が横行しているJX系列の商慣習を是正できると考えていたためだ。
 これを受け、昭和シェルがまず交渉したのは出光だった。だが、出光が株式公開買い付け(TOB)による昭和シェルの買収を検討していると『日本経済新聞』が14年12月に報じると、交渉は一時中断する。
 昭和シェルは亀岡剛社長兼グループ最高経営責任者(CEO)が15年3月に就任すると、三菱商事出身の増田幸央社外取締役を中心に東燃ゼネラルに、1株1250円で売却を持ちかけたとされる。中原伸之・東燃元社長らも賛意を示したが、旧ゼネラル石油出身の東燃ゼネラルの武藤潤社長は拒み、話は流れた。
 出光の月岡隆社長は、昭和シェルと東燃ゼネラルの交渉を知り動いた。月岡社長はシェルと直接交渉し、1株1350円で昭和シェル株を購入することで合意。7月30日の取締役会で決議して発表した。
 一方、東燃ゼネラルは同12月、JXHDと経営統合で基本合意。来年4月に「JXTGホールディングス」として発足を目指す。
 結果的に「2強」体制の道筋が整ったかに見えたが、出光創業家が待ったを掛ける。創業者である出光佐三氏の長男で元社長の昭介名誉会長は今年6月の株主総会で合併反対の意思を代理人を通じて表明した。経営側は合併方針を変えていないが、出光株の3分の1以上を保有するとされる大株主である創業家の同意がなければ、合併は成立しない。

 

◇強まる政治との関わり

 

 受け身の企業と中途半端な経産省の関与は、元々政治と近い業界にさらなる政治介入の余地を増した。
 業界でささやかれるのが、JXHDと東燃ゼネラルの統合に伴う製油所統廃合への影響だ。東燃ゼネラルの堺と和歌山(和歌山県有田市)の両製油所はどちらかが廃止される可能性がある。和歌山は、元経産相の二階俊博自民党幹事長の地元だ。製油所の廃止は地元の雇用に直結するため、二階氏は存続を希望しているとされる。企業側が経済合理性だけで経営判断できなければ、再編の効果を左右する。
 安倍首相のブレーンで、政府の介入に批判的な中原東燃元社長は昨年11月26日、首相官邸で安倍首相と面会し、今回の再編に苦言を呈した。安倍首相の側近で、経産省出身の今井尚哉・首相秘書官も同席を求めたという。政治を巡る官民の駆け引きの構図がそこにある。
 政官業の思惑が入り乱れる石油再編は、経産省が描く総合エネルギー企業につながるのか。東京理科大学大学院の橘川武郎教授は「日本の石油元売りは、総合エネルギー企業の中核にはなれない」と見る。受け身の石油再編はどこへ行くのか。

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月18日号<10月11日発売>20~23ページより転載)

【エコノミストリポート】米フォードが21年に完全自動運転 2016年10月18日号

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◇相乗り事業注力で狙う自社の変革

 

貝瀬斉

(ローランド・ベルガー パートナー)

 

「自動運転車はヘンリー・フォードが大量生産方式の発明で与えたのと同等のインパクトを社会に与える可能性がある」
 米自動車大手フォード・モーターは8月16日、運転操作を必要としない完全自動運転車を2021年までに実用化する計画を発表した。マーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)は創業者の名前を出しながら自動運転の可能性を強調した。
 完全自動運転車とは、ステアリングもアクセルペダルもブレーキペダルも付いていない運転操作を必要としない車両。フォードは21年にライドシェア(相乗り)市場に数千台単位で投入すると宣言した。しかも、その車両は個人向けの市場よりも先にライドシェア市場に投入するという。
 つまり、現在多くの完成車メーカーが取り組んでいる(1)個人向けの手動と自動の二つのモードが並存した車、(2)完全自動運転車──というステップを踏まずに、一気に完全自動運転車の市場投入を目指すということである。しかも、完成車メーカーでは初めてライドシェア事業者向けに注力することを明言した。フィールズ氏は「消費者の車に対する考え方や優先順位が変化して、移動手段も変化する中、フォードとしてのビジネスモデル全体の再考を迫られている」と語っている。

 

◇DNAと危機感

 

 フォードは元々、多くの完成車メーカーの中では完全自動運転に対して必ずしも積極的ではないように見受けられていた。14年9月には、ビル・フォード会長が「自動運転は一部の消費者を怖がらせる可能性があるので、そのような機能を使わないという選択肢も与える必要がある」との自動運転に消極的な見解を表明。その上で「目は道路を見つめ、手はハンドルに置かなくてはならないという状況は、今後もしばらくは続く」と話していた。
 しかし翌15年には、25年までに「多くの消費者がその恩恵を受けることができるような」完全自動運転車の投入を目指し、関連するセンサーやソフトウエアの開発を加速させることを明らかにした。加えて、自動車を生産・販売するのみではなく、さまざまな移動手段の提供を目指すという内容を盛り込んだスマートモビリティー計画も発表。その上で、今回の21年までのライドシェア市場向け完全自動運転車投入宣言である。
 しかも、自動運転関連の売り上げを30年までに全体の2割まで引き上げると明言している。この方針転換の裏には、何があったのだろうか。
 フォードは近年、欧州や南米での販売低迷などから業績的には堅調とは言い難い状況であった。11~14年にかけて、売上高は年率2%を下回る成長にとどまり、EBITDA(税引き前利益に特別損失、支払利息、減価償却費を加算した値)の売上高に対する比率を示す「EBITDAマージン」も12・4%から8・5%に低下した(図1)。しかし、そのような短期的な業績低迷からの脱却以上に、10~15年単位で訪れるパラダイムシフトに伴う事業機会の獲得に問題意識を持っていたとみられる。
 00年前後、インターネットの本格普及を見据えて当時のジャック・ナッサーCEOは、金融や保険の拡大に力点を置き、自動車というモノを媒介にした総合サービス事業への転換を図った。実際には、ナッサー氏の任期途中の退任によって方針転換を余儀なくされたものの、将来を見据えて合理的であれば既存事業やしがらみにとらわれることなく、大きな組織の事業そのものを抜本的に変えることもいとわない、という姿勢は当時からも見受けられる。
 そのような姿勢はナッサー氏の「将来は製造部門を社内に置く必要すらないかもしれない」という言葉にも表れている。更に言えば、元々ごく限られた富裕層のための自動車を、ライン生産による大量供給で中流層にも手が届くものにした「フォーディズム」から共通した姿勢であり、フォードのDNAとも言える。
 フォードが他の完成車メーカーと異なった決断をした背景には、自動運転について、今の個人保有を基本とした利便性・安全性向上の手段ではなく、人々の移動のあり方や公共交通機関を含めたモビリティーのあり方を根本から変えうるものと認識していることがあると考えられる。それは、変化を先取りして大きな市場での事業機会を見いだすだけでなく、出遅れや躊躇(ちゅうちょ)が将来にわたる収益機会の損失や業界でのポジション争いにおける致命傷になりかねないという脅威をより現実的に捉えたからであろう。
 もちろん、そのような脅威を抱いているのはフォードだけではないだろうが、それに基づいて全社の大きな戦略転換をスピーディーに判断できるまで至る企業は多くはない。

 

◇幅広い提携強化

 

 フォードは矢継ぎ早にさまざまな手を講じてきている。……

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月18日号<10月11日発売>82~84ページより転載)

経営者:編集長インタビュー 出澤剛 LINE社長 2016年10月18日号

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◇LINEで何でもできる世界をつくる

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

── 今年7月に上場を果たしました。
出澤 2011年6月にスマートフォン向けコミュニケーションアプリ(メッセンジャー)の「LINE」を提供し始めて5年がたち、成長戦略、収益性、組織力の三つに自信がついたところで上場しました。

日本には6200万人の利用者がおり、LINEはインフラ化しつつある自負があります。上場することで、会社の透明性が増し、より安心して利用してもらいたいと思っています。

── 米国の「ワッツアップ」や中国の「ウィーチャット」など他のメッセンジャーとの違いは。
出澤 米国のメッセンジャーは、コミュニケーションに特化し、他の機能をなるべくそぎ落としています。一方、LINEは、メッセージのやりとりを中心として、ゲームをしたり音楽が聴けたりする多機能型サービスを展開しています。
 海外でも事業展開をしていますが、各国のニーズをくみ取り、現地で使いやすい形にしています。たとえば、LINEを使ってタクシーを呼ぶ配車サービスは、バイクが多いインドネシアではバイクが中心です。渋滞が激しいタイでは、ランチを届けてほしいというニーズがあったので、LINEから宅配サービスを頼めます。
── 日本でLINEアプリがヒットした秘訣(ひけつ)は。
出澤 スマートフォンに特化したメッセンジャーのニーズがあり、いち早く対応できたからだと思います。パソコンを使ったインターネットサービスを振り返った時、最初に掲示板などコミュニケーションサービスがはやりました。スマホでも同じことが起こるだろうと考え、10年秋くらいから集中的にサービスを開発しました。
── 収益構造は。
出澤 広告、ゲーム、LINE上でのチャットで利用できるステッカー(スタンプ)の3本柱です。15年はゲームの収益が最も大きかったのですが、16年4~6月期で、広告の収益が一番になりました。
── 広告収益が伸びた理由は。
出澤 今年6月から本格展開したタイムラインへの広告掲載が好調だからです。これまでは、企業がLINEに公式アカウントをつくって、そのフォロワーに商品情報などを送っていました。しかし、このモデルでは、まず利用者が企業アカウントを能動的にフォローしてくれないと情報を届けることはできません。
 一方、タイムラインはLINE利用者全員が見るページなので、より多くの利用者に広告を見てもらえます。さらに、利用者の性別と年齢から、広告効果が高そうな属性の人のタイムラインにだけ広告を出すこともできます。
── 上場による調達資金の用途は。
出澤 LINEを通じて何でもできる世界、「スマートポータル」の実現に向けた投資をします。スマホで最も利用されているアプリは世界共通で、メッセンジャーです。利用者は、使い慣れているメッセンジャーをポータル(入り口)として、タクシーを呼んだり、ニュースを読んだりしたいのです。
── 他にスマートポータルでできることとは。
出澤 例えば、日本でコールセンターのサービスをLINEに置き換えようという動きが出ています。旅行代理店や不動産会社、銀行などへの問い合わせがチャットでできれば、電車の中など場所を選ぶ必要もなくなります。
 企業にとっても、LINEは画面を複数立ち上げれば同時並行で対応できるので、1対1の電話応対よりも1人が処理できる件数が増えます。ホームページのアドレスや画像を送ることができますし、LINEでのやりとりをそのままログ(記録)として引き継ぎ作業に使えます。
 LINEを導入したコールセンターの事業者が求人を出したところ、通常より5倍の応募がきました。働く側も電話よりLINEで問い合わせられる方が良いようです。

 ◇決済事業に期待

── 海外展開は。
出澤 現在は、日本、台湾、タイ、インドネシアの4カ国に事業を集中しています。メッセンジャーの利用者は多くの人とコミュニケーションを取りたいので、利用者数が多いメッセンジャーを選びます。そして、ある国で特定のメッセンジャーがトップシェアを握ると、それをひっくり返すのは難しいです。投資の効率性を考え、現在はこの4カ国に事業を集中させています。
── 今後の成長の核は。
出澤 決済事業がこれから大きくなっていくと思います。14年12月から「LINE Pay」というモバイル送金・決済サービスを行っています。LINE Pay口座にクレジットカードの登録や銀行口座などからチャージすることで、Eコマース(電子商取引)での決済やLINEの有料コンテンツの購入に利用できます。LINE Pay口座間での送金は無料で、友人同士で飲み会の清算をしたり、仕送りをしたりできます。
 今年3月からは、JCBと提携し、「LINE Pay カード」というデビットカードを発行しはじめました。国内外のJCB加盟店で利用できます。100円ごとに2ポイントと、2%のLINEポイントが付くので、一度使った人はメリットを感じて使い続けてくれます。カードの発行数、取扱高ともに伸びています。
(構成=金井暁子・編集部)

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 33歳の時にライブドア事件が起き、その後、社長に就任しました。事件後もネット事業のコアメンバーは残っており、皆、再建に燃えていました。その後NHNジャパンの取締役になり、濃い30代でした。
Q 「私を変えた本」は
A 司馬遼太郎の『国盗り物語』。中学生の時に読んで、歴史が好きになりました。
Q 休日の過ごし方
A 土曜日は妻が仕事をしているので、0歳と3歳の娘を公園に連れて行ったりしています。
………………………………………………………………………………………………………
 ■人物略歴
 ◇いでざわ・たけし
 長野県出身。長野県野沢北高校、早稲田大学卒業。2001年ライブドアの前身オン・ザ・エッヂに入社。07年ライブドア社長、12年同社を買収したNHNジャパン(現在LINE)取締役。15年4月より現職。43歳。
………………………………………………………………………………………………………
事業内容:コミュニケーションアプリ「LINE」、ポータルサイト「Livedoor」などを運営
本社所在地:東京都渋谷区
設立:2000年9月
資本金:125億円
従業員数:1114人(単体)
業績(2015年12月期・連結)
 売上収益:1206億円
 営業利益:-95億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月18日号<10月11日発売>4~5ページより転載)

【さまよう石油再編】インタビュー浜田卓二郎 2016年10月18日号

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◇合併反対は大株主の経営判断

◇出光は自立経営で生き残り可能

 

 出光昭介・出光興産(以下、出光)名誉会長の代理人を務める浜田卓二郎氏に、対立の経緯と昭介氏の真意を聞いた。
(聞き手=後藤逸郎/松本惇/藤沢壮・編集部)

── 合併反対の理由は。
浜田 昭介氏は、石油業界が危機にあるいま、合併に費やす努力やエネルギーを目の前の課題に向けるべきだと考えているからだ。
 企業の合併は、言うはやすしだが、実行するには大変な困難が伴う。会社側は製油所の立地が重複しないというが、両社とも、千葉県の東京湾や愛知県の駿河湾にある。設備過剰の石油業界ではどちらかが廃止を迫られる。

その合理化の努力をしなければ合併の効果は出ない。これまでの面談では、こうした合併のメリットやスケジュールばかりが説明された。

── 「創業家の乱」と言われる。
浜田 これには違和感がある。出光が上場して以来の10年間、昭介氏は経営に一切干渉してこなかった。しかし今回は、経営体質が違う大手2社の合併だ。昭介氏は、30%超の株式を持つ創業家として、権利だけでなく、責任もある。出光の戦略上、良い判断ではないとの思いで反対した。
 そのうえ、会社側は合併の方針に「対等の精神」などと掲げている。これほどの業界大手2社の対等合併がうまくいくとは考えられない。
── 対等ではなく、吸収なら良いのか。
浜田 吸収であれば、昭和シェル石油の関係者が反対するし、実際にガソリンスタンド(GS)などから不安の声があった。ただ、吸収か対等かは大きな理由ではない。昭介氏は、合併自体に反対だ。出光のロゴマークや名前を残すといった条件の話をされるが、条件闘争ではない。
── 重要なのは創業家からの取締役選任か。
浜田 会社側は合併の前提条件のような捉え方をしているが、2015年12月17日の文書で懸念事項の最後に「この際」と並列で書いていたに過ぎない。創業家との意思疎通を円滑にする趣旨だ。
── では、具体的に何が合併で問題なのか。
浜田 昭介氏が強調するのは企業体質だ。出光と昭和シェル石油ではまったく違う。出光は大家族主義を掲げ、労働組合や定年制がない。国家のため、社員のため、顧客のためを主義として、それを誇りとしてきた特殊な会社だ。一方で昭和シェル石油は、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル(以下シェル)、国営石油会社のサウジアラムコが大株主の外資系企業だ。労組がいくつもあり、先鋭的な活動をしている。くしくも、出光の株主総会の冒頭で質問したのは、昭和シェルの組合員だった。……

週刊エコノミスト 2016年10月18日号

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定価:620円(税込)

発売日:2016年10月11日

◇特集:さまよう石油再編 官僚たちの晩秋

◇メジャー撤退が引き金 総合エネ企業化は遠く

 

松本惇/藤沢壮(編集部)

 

 JXホールディングス(HD)と東燃ゼネラル石油、出光興産と昭和シェル石油──。2017年4月予定の統合で、「2強」体制となる日本の石油元売り業界。この再編劇は、先細りする日本市場から撤退する海外の石油メジャーが引き起こした。

 1バレル=100ドルを超える原油高を受け、海外メジャーは利益の約8割を上流部門(開発・生産)で稼いできた。だが、14年以降は世界経済の減速と「シェール革命」によって、原油市場は供給過剰となり、今年1~2月に指標となる米国産標準油種(WTI)は一時1バレル=20㌦台まで落ち込んだ。石油輸出国機構(OPEC)は今年9月、8年ぶりの減産で合意したものの、原油価格は1バレル=50ドル程度の低水準が続く。

 

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ピックアップ

経営者:編集長インタビュー

◇出澤剛 LINE社長

◇LINEで何でもできる世界をつくる

── 今年7月に上場を果たしました。
出澤 2011年6月にスマートフォン向けコミュニケーションアプリ(メッセンジャー)の「LINE」を提供し始めて5年がたち、成長戦略、収益性、組織力の三つに自信がついたところで上場しました。

 

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ワシントンDC

◇雇用を奪うのは技術革新?

◇大統領候補に妙案なく

 

堂ノ脇伸(米州住友商事会社ワシントン事務所長)

 9月12日、ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所」でカーラ・ヒルズ氏ら4人の元米通商代表部(USTR)代表によるシンポジウムが開催された。

 

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【さまよう石油再編】時代錯誤 高度化法に見る産業政策の限界 2016年10月18日号

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◇国際競争には全面自由化が不可欠

 

石川和男

(NPO社会保障経済研究所代表、元経済産業省官僚)

 

 現在進められているJXホールディングスと東燃ゼネラル石油、出光興産と昭和シェル石油の2組を巡る石油元売り業界の再編は、2009年に施行された「エネルギー供給構造高度化法」によって進んだ側面もある。

 高度化法の正式名称は「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」。電気やガス、石油事業者といったエネルギー供給事業者に対して、太陽光、風力などの再生可能エネルギー、原子力などの非化石エネルギー源の利用や、化石エネルギー原料の有効な利用を促進するために必要な措置を講じることを求めるもので、エネルギーの安定的かつ適切な供給の確保を図ることを目的としている。
 経済産業省は10年7月、高度化法に基づき、石油元売り各社に対して、比較的廉価な重質油をガソリンなど付加価値の高い製品に精製する「重質油分解装置」の装備率について、14年3月末を期限とした目標値を設定した(1次告示)。この装備率は、原油を最初に処理する「常圧蒸留装置」の処理能力に対する「重質油分解装置」の処理能力の割合。つまり、製油所全体の原油処理能力を分母とし、高度な装置を分子とするものだ。目標の達成のためには、石油精製能力全体を下げるか、高度分解による精製能力を上げるかの二つの方法があるが、需要の減少で厳しい経営環境に置かれていた石油元売り各社にとっては事実上、設備の破棄を求められたと言える。
 1次告示を受け、各社は設備の破棄を進めた結果、原油処理能力は高度化法が施行された09年8月の日量約486万バレルから14年4月には約20%減の同約395万バレルにまで低下。製油所数も28カ所から23カ所に減少した。
 14年1月には税制優遇などで企業の事業再編を後押しする「産業競争力強化法」が施行された。経産省は同6月、同法に基づき初めて石油業界に関する市場調査を実施し、需要減少により今後「過剰供給に陥る恐れが大きい」と指摘。高度化法に基づき、原油処理設備の削減か高性能化をするよう求めた。
 さらに経産省は14年7月、17年3月末を期限とした新たな目標を設定(2次告示)。2次告示でも1次告示と同様に装置の装備率が基準となったが、分子は高度な「重油質分解装置」だけに限定せず、標準的な装置も含めた「残油処理装置」とした。分母は1次告示と同様に常圧蒸留装置としたが、実際に設備を破棄しない「公称能力の削減」も認めることになった。
 また、異なる企業グループが連携して装置を削減した場合は、任意の割合で案分することを認めた。この規定は1次告示にはなかったもので、明らかに製油所の統合や共同運営、さらには業界再編を促すものと言える。経産省は2次告示の期限が切れる来年4月以降、新たな目標を定めた3次告示を設定する可能性がある。

 

◇経産官僚を「悪用」

 

 官主導による業界再編には「功罪」の両面がある。
 まず「功」としては、業界だけでは各社の利害があって進まない再編を、中立の立場である官が後押しして進められることが挙げられる。業界内では言いにくいことも、官主導で行えば各社が納得することも多いだろう。
 一方「罪」は、結局仕事をするのは民間ということだ。官僚はビジネスの現場を知らず、ルールをつくるのが役割。理想を掲げて将来像を描くことはできるが、結局それを実行するのは民間だ。
 筆者は1989~07年に通商産業省・経産省でエネルギー政策や消費者政策、中小企業政策などに従事した。……

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月18日号<10月11日発売>38~40ページより転載)

目次 2016年10月18日号

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さまよう石油再編 官僚たちの晩秋


20 メジャー撤退が引き金 総合エネ企業化は遠く ■松本 惇/藤沢 壮
24 インタビュー 出光創業家vs経営陣 創業家代理人 浜田 卓二郎 「合併反対は大株主の経営判断」
25 出光経営陣の主張 「創業家の理解得る自信あり」 ■編集部
26 経営統合の狙い(1)出光・昭シェル 石油製品、石化、電力に相乗効果 ■塩田 英俊
27 (2)JX・東燃ゼネラル 数年以内に製油所を統廃合 ■塩田 英俊
29 統合余波 GSの減少に拍車 ■小嶌 正稔
32 石油再編の歴史 政策と欧米メジャーが左右 受け身で低かった統合効果 ■大村 定雄
34 変わるメジャー 資源開発の軸足は石油からガスへ■宮本常雄/岡本 准
36 変化する官民の関係 グローバル化で弱まる経産省の力 ■橘川 武郎
38 時代錯誤 高度化法に見る産業政策の限界 ■石川 和男
40 インタビュー 古賀 茂明 「『日の丸連合』ありきの業界再編」

Flash!
13 英国の来年3月EU離脱表明とポンド安/ドイツ銀に巨額制裁金も公的資金は機能不全/ノーベル医学生理学賞に大隅氏/スポティファイ日本上陸で音楽配信競争本格化
17 ひと&こと 応募好調の小池塾/アマゾン「読み放題」で出版社が抗議/九州FGと宮崎太陽銀行の経営統合観測浮上 

Interview
4 2016年の経営者 出澤 剛 LINE社長
46 問答有用 長谷川 一男 テレビディレクター
「生き延びるため、患者会を立ち上げました」

エコノミスト・リポート
82 米フォードの完全自動運転車戦略 ■貝瀬 斉

76 ゲーム ポケモンGOが開くゲームの未来 今はビジネスモデルの転換期 ■矢田 真理
78 社債 ハイブリッド社債投資の注意点 ■伴 豊
80 フィリピン 暴言大統領を支える堅実な経済政策 ■菊池 しのぶ
86 MRJ 18年の初号機納入に黄信号 ■谷口 健/竹地広憲
インタビュー 岸 信夫 三菱航空機副社長・MRJチーフエンジニア三菱重工MRJ事業部長「他社との勝ち目はまだ十分ある」

World Watch
62 ワシントンDC 雇用を奪うのは技術革新?  ■堂ノ脇 伸
63 中国視窓 激動の地方トップ人事 ■稲垣 清
64 N.Y./シリコンバレー/英国
65 韓国/インド/インドネシア
66 台湾/ロシア/サウジアラビア
67 論壇・論調 VWの排ガス不正に前CEOが隠蔽承認か ■熊谷 徹

Viewpoint
3 闘論席 ■佐藤 優
19 グローバルマネー 12月利上げを織り込ませたいイエレンFRB議長
41 商社の深層(41) 農薬・種子メガ再編で商社に転がるチャンス ■編集部
42 連載小説 三度目の日本 2027(39) ■堺屋 太一
44 アディオスジャパン(23) ■真山 仁
50 学者に聞け! 視点争点 生態系勘定を経済活動に活用すべき ■佐藤 真行
52 言言語語
60 名門高校の校風と人脈(212) 彦根東高校(滋賀県) ■猪熊 建夫
68 海外企業を買う(112) 鳳凰医療集団 ■富岡 浩司
70 日本人のための第一次世界大戦史(66) 独軍暗黒の日 ■板谷 敏彦
72 日本人に見えなかった中東の真実(6) なぜ、リビアは40年間も独裁国家だったのか? ■福富 満久
74 東奔政走 強まってきた「来年1月解散」説 ■前田 浩智
85 ザ・機関投資家 日本生命(6) 4分の1を占める外貨建て資産 ■桐山 友一
94 景気観測 人口減少が経済停滞の主因ではない 潜在成長率は現実の成長率による ■斎藤 太郎
96 ネットメディアの視点 英紙がスクープした電通の不正請求 腰引ける新聞 調査報道はどこへ ■山田 厚史
100 アートな時間 映画 [われらが背きし者]
101        美術 [北斎漫画展 画は伝神の具也]
102 ウォール・ストリート・ジャーナルで学ぶ経済英語 “ crowded trade ”

Market
88 向こう2週間の材料/今週のポイント
89 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット
90 中国株/為替/金・白金/長期金利
91 マーケット指標
92 経済データ

書評
54 『ルービンシュタイン ゲーム理論の力』
『昭和時代 一九八〇年代』
56 話題の本/週間ランキング
57 読書日記 ■岡崎 武志
58 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

53 次号予告/編集後記

デザイン─浅野 康弘

本誌に掲載している記事は、原則として執筆者個人の見解であり、それぞれが所属する組織の見解ではありません

本誌記事は日経テレコン21、ELNET、ジー・サーチ、ダウ・ジョーンズ・ファクティバ、ジャパンナレッジ、毎日Newsパックのデータベースに収録されています。また、週刊エコノミストのホームページで最新号とバックナンバーの目次を読むことができます。URLは、http://www.weekly-economist.com/
本誌掲載記事の無断転載を禁じます (C)毎日新聞出版 2016

【ゲーム】ポケモンGOが開くゲームの未来=矢田真理

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久しぶりの世界的ヒットとなった「ポケモンGO」 Bloomberg
久しぶりの世界的ヒットとなった「ポケモンGO」 Bloomberg

◇今はビジネスモデルの転換期

 

矢田真理(立命館大学客員研究員)

 

 スマホゲーム「ポケモンGO」の世界的大ヒットによって、ゲームコンテンツが久方ぶりに話題にのぼるようになってきた。かつての日本は「ゲーム立国」と呼ばれるほどの勢いを有していたが、日本発で世界的にヒットするゲームコンテンツの不在で、2009年以降、停滞ムードが漂っていたことは否めない。

 今、注目されるのが、ゲーム専用機独特のビジネスモデルから、「新しいゲームビジネスモデル」への転換である。


 ◇ソフトのマンネリ化

 ゲーム専用機ビジネスモデルは、ハードで収支とんとん、あるいは赤字で、ソフトでもうけるというものだ。ソフトでの収入には、ハードに対応したソフトを制作するソフトメーカーからのロイヤルティー収入や、ソフトメーカーから受注したソフトの委託生産料、ゲーム専用機メーカー自らが制作したソフトの収入がある。
 ハードで利益がなく、ソフトでもうけるこのモデルを経済学的に述べると、ハードの価格は適正価格より低く、ソフトの価格は適正価格より高いことを意味する。そのため、ハードは過剰供給、ソフトは過少供給の状態に陥る。つまり、経済理論上ではソフトが慢性的に不足するようになる。
 過少供給下においてメーカー側は、ヒットが確実な定番ソフトを供給する傾向になる。そのため、このビジネスモデルが、定番ソフトのみ売れるという、ソフトのマンネリ化につながっているということもできる。
 このゲーム専用機のビジネスモデルは、以前から課題を抱えていると筆者は考えており、主に以下の2点を指摘することができる。
 1点目は、委託生産料やロイヤルティーの支払いがあるため、ゲーム専用機市場に参入できない小規模ソフトメーカーが数多く存在することだ。これは、昔の「ファミコン」の時代から続いている。埋もれている優秀なソフトメーカーが少なくなく、ゲームユーザーが面白いソフトで遊ぶことでの機会損失が生じている可能性がある。
 さらに、ゲームハードの高機能化とともに、ソフト開発コストが上昇している状況下では、「埋もれているソフトメーカー」が浮上するのは難しい。
 2点目は、ロイヤルティーや委託生産料があることで、ソフトメーカーが利益面で機会損失を被っている可能性があることだ。仮にハードメーカーへの支払いがなく、その分だけソフト価格が下落した場合、ソフトに対する需要が増える。
 こうした状況が、長年のゲーム専用機産業の低迷につながっていると思われる。実際、日本ではゲーム専用機市場が低迷している。……

 

週刊エコノミスト 2016年10月25日特大号

目次 2016年10月25日特大号

経営者:編集長インタビュー 岩崎高治 ライフコーポレーション社長

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◇売上高8000億円へ 買い物を楽しく

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 日本に数ある食品スーパーの中で、どのような戦略を持っていますか。

 岩崎 首都圏と近畿圏の人口密集地に出店しており、店舗数は261に上ります。店から1キロメートル圏内にお住まいの方、通勤・通学される方、病院や介護施設の入通所者など、全てのお客様にお越しいただく店を目指して商品をそろえています。特定の所得層をターゲットにするのではなく、本マグロもメバチマグロもキハダマグロもそろえ、高価な和牛もお手ごろな豪州牛もそろえています。

── 会社の経営状況を教えてください。

 岩崎 2016年2月期は売上高6299億円、経常利益は129億円でした。これに対して経営戦略では「21年度に400店舗、売上高8000億円、経常利益200億円」を目標にしています。出店ペースは少し足りないものの、売上高、経常利益とも達成へ向けて良いペースで進捗(しんちょく)しています。

── 足元の消費動向をどう見ますか。

 岩崎 マスコミでは、年明けから「景気が悪くなっている」と言われていますが、成長余地はあると考えています。経験上、消費は厚生労働省が発表する現金給与総額とリンクしており、今年の賃金は減少していないからです。過去2年間は4~5%伸長していましたので、伸びが鈍化したようにも見えます。しかし、昨年の3~9月はプレミアム商品券効果で消費が伸び、今年はその反動も影響しています。また、デフレだった10年ごろは97~98%と前年同期比割れでした。伸び率が小さくなったとは言え、デフレに戻ったわけではないと考えています。

── 近年、改装を加速していますね。

 岩崎 中期経営計画(15年度から3カ年)で、改装投資に200億円を充てると定めており、15年度は70億円を費やしました。年数が経過した店舗、食品売り場が狭い店舗を中心に改装を実施しています。水産物やパンの売り場を対面にするなど、お客様に従業員との会話を楽しんでいただけるレイアウトに変更しています。食品スーパーとして「お手ごろ」「おいしい」「便利」なのは当たり前で、買い物に来て楽しいと思っていただける空間を目指します。近年、コンビニエンスストアが総菜や生鮮食品を強化しており、食品スーパーの領域に進出してきています。「買い物を楽しく」というコンセプトは、コンビニとの差別化になり、来店動機につながると考えています。

── 改装で気を付けている点は。

 岩崎 地域のお客様の声を聞くことです。2年前、西京極店(京都府)の近くに競合他社が大型店を出店しました。当社は、店舗面積ではかなわない上に、安売り攻勢も得策ではない。そこで、徹底的にお客様の声を聞いた改装にしようと決断しました。たとえば、若いお母さんから「駐輪場の路面がでこぼこで、子どもや荷物を乗せようとすると、自転車が不安定になる」との声が寄せられました。また、女性用トイレの個室で、荷物を掛けるフックの位置が高すぎる、というご意見もありました。これらの声に応えた改装を行った結果、西京極店は改装前よりお客様の数が増えました。

 

  ◇衣料品取り扱いが強み

 

── 各社が衣料品部門で苦戦する中で、ライフには衣料品や台所用品などの日用雑貨の売り場もあります。

 岩崎 確かに、ユニクロなどの衣料品専門店の存在感は増しています。しかし、当社を長く愛用してくださっているシニア層には衣料品が好評で、当社が差別化できる分野だと考えています。ある店舗で、食料品売り場拡張のために衣料品売り場を狭くしたところ「衣料品があるから、いつもライフに行っていたのに」とお叱りの声をいただきました。当社には、食料品とともに日用品・衣料品を1カ所で購入できる強みがあります。衣料品の取り扱いをやめる企業もありますが、当社はむしろ強化していきます。

── 地域スーパー同士が資本・業務提携する動きが加速しています。

 岩崎 日本には食品スーパーが300社以上あります。英国は4社の寡占ですが、日本ではそこまでの寡占化は起きないでしょう。地域によって好みがまったく違うからです。当社でも、首都圏と近畿圏で品ぞろえを変えています。しかし、電子マネーや会計などのシステム投資、物品の調達、プライベートブランド(PB)の開発には規模の利益が必要です。また、後継者問題や地方の人口減少もあり、今後流通再編は進むと予想されます。

── 三菱商事から、流通業界へ転職した経歴を持っています。

 岩崎 商社に入社後、海外メーカーにも出向したので、3業種目ということになりますが、小売りが一番おもしろいと感じています。地域のライフラインを担っているという実感があります。東日本大震災の時に首都圏でも物資が不足し、計画停電も行われた中、お客様が「ライフが開いていて助かった。ありがとう」と言ってくださった表情は今でも忘れられません。また、小売業にはチームで仕事を作り上げる充実感があります。商社は一人で仕事をすることも珍しくありません。しかし、今は店舗戦略、人事管理、商品開発と、皆で力を合わせて一つの目標に向かっています。達成できた時の充実感は何物にも代え難いです。

 (構成=種市房子・編集部)

 

  ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 三菱商事勤務時代の30歳で清水信次前社長(現・会長)と出会い、33歳で当社に出向し、39歳で社長になりました。こんなに長く在籍して、まさか社長になるとは思いもしませんでした。

Q 「私を変えた本」は

A 「日本スーパーマーケット創論」(安土敏)。社長就任の06年に、サミット元社長が出版した本です。

Q 休日の過ごし方

A ジム、読書。土曜日曜のどちらかは店舗に足を運んでいます。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

  ◇いわさき・たかはる

 東京都出身、慶応義塾高校(横浜市)、慶応大学経済学部卒業。1989年三菱商事入社。99年ライフコーポレーション取締役就任。専務取締役を経て2006年から現職。50歳。

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事業内容:スーパーマーケットチェーン運営

 本社所在地:大阪市淀川区(大阪本社)、東京都台東区(東京本社)

 設立:1956年

 資本金:100億円

 従業員数:2万4052人(パート含む、2016年2月現在)

 業績(16年2月期)

  売上高:6299億円

  営業利益:128億円 

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月25日号<10月17日発売>4~5ページより転載)

世界中のハードディスクがフラッシュメモリーに置き換わる

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◇世界中のハードディスクがフラッシュメモリーに置き換わる

◇10年に1度の産業変革

 

種市房子/花谷美枝(編集部)

 

 

 米国の半導体関連株を集めたフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)は過去10年間で最高値水準の800ポイント超で推移している(図2)。これに引っ張られるように、上値の重い東京市場でも半導体関連株ばかりが上がっている。半導体産業で今、何が起きているのか。

 注目を集めるのは、世界中でコンピューターサーバーの記憶装置が、ハードディスクドライブ(HDD)から、NAND(ナンド)フラッシュメモリーに置き換わっていることだ。野村証券の和田木哲哉マネージング・ディレクターは、この現象を「10年に1度の産業変革が到来した。まったく新しいメモリー市場ができた」と語る。

 

 ◇新工場200棟必要?

 

 ゲームはネット接続が主流になり、動画や音楽の配信サービスや電子商取引が日常に溶け込む中、情報を保存・読み込むサーバーの需要は今後、爆発的に増えそうだ。年間に生成されるデータ量は現在、世界で推計8ゼタバイト(ゼタは10の21乗)とされるが、2020年までに40ゼタバイトに膨れ上がると予想されている。このデータ量やサーバーのフラッシュメモリー採用状況を基に野村証券が試算したところ、20年にはフラッシュメモリーの工場が新たに200棟必要になるという驚くべき数字が出た。ただし、試算をはじいた和田木氏は「これは理論値であって、物理的に200棟の工場を建設するのは無理」として、製造技術の改善で歩留まりを高めたり、データの圧縮などを行うことで、実際にはそれだけの工場を建てなくても済むと見ている。

 

 ◇技術革新で省電力化

 

 データセンターに置くサーバーはこれまでHDDが主流だった。HDDはディスクを高回転させてデータを書き込んだり読み込む仕組みで、低価格が売り物だった。一方で、回転させるモーターの電気代がかかる。その上、モーター回転で発生する熱もサーバーの動作に悪影響を与えていた。

 フラッシュメモリーはHDDより読み書きのスピードが速い。モーター駆動は不要なので熱も発生しない。しかし、価格が高いのが難点だった。情報量1ビット当たりの単価では、NANDはHDDより7~8倍高く、データセンターも初期投資に二の足を踏んでいた。

 ところが最近、フラッシュメモリーは技術革新によって、価格の高さを補う大容量・省電力化に成功した。


ワシントンDC 2016年10月25日特大号

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討論会後は「最悪の1週間」 Bloomberg

 ◇追い込まれるトランプ氏

 ◇「大統領の素養」で馬脚

 

今村卓(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 米大統領選は、9月26日の第1回テレビ討論会を境に情勢が大きく変化した。討論前は民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官と共和党候補の不動産王ドナルド・トランプ氏がほぼ互角だった。だが討論会はクリントン氏が圧勝し、その後の選挙戦はクリントン氏が優勢だ。


10月上旬の主要世論調査の平均支持率では、全米でクリントン氏のリードが4ポイント近くに広がり、激戦の15州の大半も同氏が優勢になっている。

 クリントン氏の初回討論の勝因の一つは、「トランプ氏が大統領を任せられる人物かどうか」という、選挙戦終盤の討論としては異例と言える素朴な争点を掲げたことだ。過去の大統領選では、この「大統領の素養」という根本要件を欠く候補は、予備選初期で撤退に追い込まれた。だが、今回の共和党の候補者選びでは、トランプ氏が大統領の素養を問われないまま指名を獲得していた。クリントン陣営と民主党は、この共和党の予備選の機能不全を見逃さず、素養のなさを有権者に訴えた。

 もう一つの勝因は、トランプ氏の過去の発言と行動から、大統領を任せられない人物である根拠をみつけ、それを基に説得力ある主張を組み立てたことだ。実際、討論でクリントン氏が指摘したトランプ氏の不動産事業での人種差別、女性蔑視に当たるミス・ユニバース中傷問題、確定申告書の未公開問題などは、トランプ氏もろくに反論できなかった。

 

 ◇再び暴言と開き直り

 

 トランプ氏にとって、今回の討論敗北のダメージは相当大きい。過去最多の8000万人超が視聴した討論会で、自らが大統領を任せられる人物ではないとの印象を広げてしまったからだ。

 トランプ氏の過去の問題発言を知りながら、これまで同氏を「攻めあぐねてきた」主要メディアも勇気付けてしまった。実際、討論会の直後から、ミス・ユニバース中傷問題の報道に拍車がかかった。その後は、同氏が9億ドル超の巨額損失を1995年に申告し、連邦所得税を最大18年間免れていた可能性が報じられた。加えて同氏は、ニューヨーク州法違反で、慈善団体のトランプ財団が募金停止命令を受けるなど、新たな問題も生じた。

 トランプ陣営からは「討論会以降、最悪の1週間になった」との嘆きの声が上がる。

 討論会でトランプ氏の大統領としての素養のなさを訴えたクリントン陣営の判断は、今後の選挙戦の方向も変えた可能性が高い。

 この判断がなければ、トランプ氏も動揺せずに大統領らしい振る舞いを続け、多くの有権者に意外感を与え、好感を得ていた可能性がある。討論でも防戦一方にならず、クリントン氏の私用メール問題や健康問題で攻勢をかけて追い込めただろう。そうなると今ごろは、支持率でも、予想される獲得代議員数でもクリントン氏を逆転していた可能性はある。

 しかし討論でのトランプ氏は、クリントン氏の攻撃に耐えられず、支持が低迷していた頃のような暴言を連発するようになってしまった。その後は、過去の自らのわいせつ発言も露見。第2回討論会は、その弁明とクリントン氏への非難に終始するなど、大統領らしい振る舞いからはかけ離れていった。トランプ氏は窮地に陥りつつある。

 討論会は、あと1回しか残っていない。率直に言えば、トランプ氏の逆転は非常に難しい。それでも同氏が起死回生を目指すなら、今からでも大統領らしい振る舞いに転じ、それを本気だと裏付ける確定申告書の公開や真摯な説明に乗り出す以外にない。

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月25日特大号<10月17日発売>62ページより転載)

【半導体バブルが来る】中国が狙う半導体国産化

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◇「30年に月100万枚」の現実味

 

黒政典善(産業タイムズ社上海支局長)

 

 中国政府が先端半導体の製造に本腰を入れ始めた。米日韓台を中心とした世界の半導体産業の枠組みを変える可能性がある。

 今年7月、中国政府などの出資により、中国最大の半導体メモリーメーカー、長江ストレージ(長江存儲科技、湖北省武漢市)が設立された。半導体産業に特化した数兆円規模の政府系ファンド「国家集成電路産業投資基金(通称ビッグファンド)」、清華大学系のハイテク企業グループ・紫光集団(ユニグループ)、そして湖北省武漢市政府系ファンドが出資した長江ストレージは、240億ドル(約2・5兆円)を投じて武漢に2020年に月産能力30万枚、30年に同100万枚の巨大メモリー工場を建設する計画を打ち出している。

 中国はハイテク産業へのシフトや情報安全体制確立のため、先端半導体を国産化し、20年に向けて年平均20%で半導体産業を成長させるとの目標を打ち出している(図1)。国内総生産(GDP)成長率が6%台に減速する中、半導体は2桁成長を約束している。政府目標では、中国の半導体(IC〈集積回路〉)は20年に1460億ドル規模になる見通しだ。

【直前!米大統領選】トランプ氏の逆転シナリオ

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 ◇優勢保つクリントン氏

 

 

安井明彦

(みずほ総合研究所欧米調査部長)

 

 11月8日に迫った米国大統領選挙は、民主党のヒラリー・クリントン氏に有利な構図である。米メディアのリアル・クリア・ポリティクスによると、10月10日時点の世論調査では、クリントン氏の支持率が47・9%、ドナルド・トランプ氏が42・1%と5・8ポイントの差がついている。トランプ氏にとっては、過去の女性蔑視発言を収めた映像が明らかにされたことが猛烈な逆風となっている。有力者が次々とトランプ氏への支持を撤回するなど、共和党は内紛状態だ。このまま行けばクリントン氏の当選が濃厚である。

 ではトランプ氏の逆転はないのか。その可能性を考えたい。

 米国の大統領選挙の投票結果は、州ごとに集計される。全米50州と首都ワシントン(コロンビア特別区、DC)には、人口に応じた大統領選挙人が割り当てられる。選挙人の総数は538人であり、過半数の270人を獲得した候補が、次の大統領になる。

 ただし、大半の州では勝敗が固定化している。過去4回の選挙では、18州とDCで民主党、22州で共和党が4連勝を収めてきた。勝者が入れ替わる「スイング・ステート」は10州しかない(図1)。

 共和党のトランプ氏が勝つには、まずこのスイング・ステートでかなり勝たなければならない。トランプ支持者の中核は、製造業で働く白人労働者である。トランプ氏にとっては、白人票を最大限に生かすことが、勝利への近道だ。

 スイング・ステートでは、アイオワ、インディアナ、オハイオの中西部3州が標的となる。これらの州では、有権者の8割以上を白人が占めている。もっとも、この三つの州だけでは、トランプ氏の勝利はおぼつかない。共和党と民主党のあいだには、地力の差があるからだ。

 勝敗が固定化している州の選挙人を基礎票と考えると、民主党の242人に対し、共和党は180人と大きく後れを取る。トランプ氏が中西部のスイング・ステート3州(選挙人35人)で勝っても、基礎票と合わせた選挙人は215人。過半数の270人には届かない。

 

 ◇非白人票の壁

 

 中西部の3州だけでなく、トランプ氏がスイング・ステートで勝利を積み重ねるには、非白人票が壁になる。

 非白人票は、トランプ氏の弱点だ。9月下旬に米ワシントン・ポスト紙が行った世論調査では、白人の6割弱がトランプ支持、4割弱がクリントン支持なのに対し、非白人は7割強がクリントン氏を支持。トランプ氏を支持する非白人は、ようやく2割を超える程度である。

 ヒスパニックの増加を背景に、スイング・ステートでも、非白人の存在感が高まっている。バージニア、ノースカロライナ、フロリダ、ネバダ、ニューメキシコの五つの州では、白人の比率が7割を割り込む。最も比率が低いニューメキシコでは、白人は4割強と、既にマイノリティーである。

 トランプ氏がスイング・ステートで非白人の比率が高い5州を落とすと、………

【半導体バブルが来る】グーグル、アマゾン………ネット企業も相次ぎ開発

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◇グーグル、アマゾン、アリババも自社用の半導体を開発

◇津田建二(国際技術ジャーナリスト)

 

 グーグルは5月18日、米国で開催した開発者会議「グーグルI/O 2016」で、TPU(テンソルプロセッシングユニット)と呼ぶ人工知能(AI)型のプロセッサーを発表した。グーグルがTPUを開発したのは、外部から調達している既存のチップでは消費電力が大きすぎたからだ。

 検索エンジンは学習能力を備えたAIに似ている。ならばいっそのことAIに適したプロセッサーを作ろう、ということになる。TPUは従来のプロセッサーと比べ、性能を同じにすると消費電力は10分の1に収まるという。グーグルは今年になってチップを発表したが、実は1年前に検索エンジンに実装していた。

 グーグルの言語検索エンジンに比べて精度が低いのが写真や動画の検索だ。言語検索に比べて、画像の検索では光の強弱や肌の色など大量の情報量をも考慮した情報処理をしなければならないからだ。大量の情報を短時間に処理するためには、自前の半導体は不可欠だろう。

 アマゾンも2014年にイスラエルの半導体メーカーであるアンナパーナ研究所を買収し、無線ルーター(ネットに接続する機器)向けの半導体チップを今年1月に発表している。現段階ではここまでだが、いずれ用途を広げるのは必至だ。自前の半導体は、自社で運営するクラウドサービスや電子商取引用に使うデータセンターを高性能・低消費電力にし、自社の望む性能を盛り込むことができるからだ。

【英国】ヒンクリーポイント原発

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◇承認後も予想される紆余曲折

◇石野なつみ

(住友商事グローバルリサーチシニアアナリスト)

 

 英政府は9月15日、英国南西部のヒンクリーポイントC原発2基の新設計画を承認した。同所には、既に停止しているA原発と2023年に停止予定のB原発がある。英国では約20年ぶりの新設になる予定だ。25年の稼働を予定しており、仏電力会社、フランス電力(EDF)が66・5%、中国の原子力発電会社、中国広核集団(CGN)が33・5%出資する。

 新原発に中国資本の参加を認めたのはキャメロン前首相だった。しかし、英国のEU離脱決定後に発足したメイ政権はこの計画を進めることには慎重姿勢を見せた。

 メイ首相は7月28日、既定路線だった計画を再検討することを発表した。承認の先送りと受け止められ「首相就任以来、初の重要決定」と国内外で注目を集めた。だが、最終的には承認し、9月29日に契約を結んだ。

 この過程で、今日の英国が抱える問題が浮き彫りになった。今年6月の国民投票で国民がEU離脱を選択して以来、英政府は直接投資の誘致に奔走している。そんな中、中国の原発投資は開かれた経済のアピールにもなりうる。一方で、中国の資本参加には後述するようなリスクもある。メイ首相は、ヒンクリーの中国リスクと、中国との戦略的経済関係強化をてんびんにかけ、後者を選択したのであろう。

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