押し寄せる変革の波
賢い活用が命運握る
弁護士業界にも、AIの波が押し寄せている。新技術に詳しい弁護士の間では、AIが市場を席巻するのは、「近い将来」という見方がもっぱらだ。
「法律は一定の基準に基づいて判断するので、AIとの相性がいい。コンピューターのアルゴリズム(演算式)を用いれば『過去の判例によれば結論はこうだ』とのアウトプットは簡単」(ベンチャー企業に詳しい弁護士)という。「AIの判断をどこまで信頼できるのか」という批判はあるが、「技術革新で安価にリーガルサービスを受けられるようになれば、必ずニーズはある」と分析する。
すでに、IT(情報技術)先進国の米国では、法律分野でIT技術を活用する「リーガルテック」市場が1・6兆円に達したと見られている(本誌37~39ページ参照)。この流れは、幕末に開国を迫った「黒船」のように、IT化に大きく出遅れている日本の司法を変えようとしている。
いち早く対応しているのが、大手法律事務所だ。企業法務分野の業務効率化にAIの活用を開始している。社内文書がデジタルで保管される時代には、例えば企業不祥事の調査はAIのほうが優れている。業務の一部をAIが担えば、「弁護士は空いた時間をより創造性のある仕事に使うことができる」(経営に携わるパートナー弁護士)。
また弁護士の中には、AIの開発に自ら乗り出す「開拓者」もいる。弁護士業務での経験を生かし、より依頼者目線の法的助言をするのが狙いだ。ブロックチェーン技術を使ったスマートコントラクト(一定の条件を満たした場合に自動実行する契約)の開発を目指す中堅事務所の弁護士もいる。「弁護士業務の社会的価値を、テクノロジーを活用して広げることも弁護士の仕事」と勝機をうかがう。
◇安住は危険
弁護士人口は1月末に4万人を超えた。日本弁護士連合会の将来推計によると、2049年に6万4000人でピークを迎える。しかし、日本では大多数の弁護士に、危機感がない。
大きく伸びたとはいえ、弁護士数を米国と比べると、わずか30分の1。米国では「lawyer」に含まれる司法書士や弁理士などを加え、人口1人当たりの数で比較しても、まだ届かない。15年12月に発表された野村総合研究所と英オックスフォード大の共同研究で、「AIやロボットで技術的に自動化できる職業」として、司法書士78・0%、公認会計士85・9%、税理士92・5%と士業が軒並み高くなっている中、弁護士はわずか1・4%だ。仕事が奪われるという脅威を現実のものとして感じられないのだ。
しかし、その認識は大きな誤りだ。現状にあぐらをかく弁護士は、いずれ、淘汰(とうた)されることになる。
(酒井雅浩・編集部)
(谷口健・編集部)