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戸建て住宅でも1位を目指す 芳井敬一 大和ハウス工業社長

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 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 2017年11月、社長に就任しました。

 

芳井 昨年9月に突然、打診されました。樋口武男会長に「ここまで来たら逃げるなよ」と言われて、考える余裕はありませんでした。ただ、事業を進めていく上で自分が障害になってはならないという思いはありました。

 

 

 

 国内ハウスメーカー最大手。18年3月期は売上高3兆7500億円、営業利益3250億円、純利益2160億円で2期連続の最高益更新を見込む。

 

── 好業績の要因は。

 

芳井 商業施設、賃貸住宅、物流などの事業用施設の三つの主力事業が圧倒的に引っ張っています。意外なところでは戸建て住宅の数字が良いです。14年発売の「ジーヴォ・シグマ」は、天井高を272センチとれることで人気です。従来の「ジーヴォ」の特徴である外張り断熱は、玄人には受けるけれど、一般の方は理解しにくかった。一方、天井高はわかりやすい。東京エリアのお客様の決定要因を見ると、一番は設計が良い、コーディネーターが良いですが、二番目に天井高が入っています。

 

── コア3事業の拡充策は。

 

芳井 商業施設は都市部に増やしていきます。1棟当たりの単価もかつては1億円程度でしたが、今は3倍になっています。

 

 物流施設は供給が増えて飽和状態にあると言われていますが、実は日本にある物流施設の7割が古い形式のものです。

 

 また米国の統計では小売業に占めるeコマースの割合は8%で、日本は5・4%程度。eコマースの需要はまだまだ増える余地があります。施設の場所も東京や大阪など都市部の近郊が増えるでしょう。

 

 賃貸住宅は、金融庁がアパートローンの貸し出しに対して監督を強化したこともあり、ローンがつかずに着工を待つ案件が発生するなど、難しい場面もありました。ただ、当社の管理物件は高い入居率を維持しており、市場が落ち着けばおのずと選ばれると思っていました。すでに昨年の12月の受注はもとの水準に戻っています。

 

── 国内戸建て住宅事業の強化を掲げています。

 

芳井 戸建て住宅でトップではない要因はいろいろあります。ただ、これまでは人材を増やすなど、首位を取りに行く戦略を積極的にとってきませんでした。そこを見直していきます。

 

 すでに東京では住宅展示場を急速に増やしており、この5年間で8カ所から14カ所に拡大しました。欲しいのは銅メダルじゃない。上位に追いついていくことは非常に大事です。

 

 当面は消費税の増税が気がかりです。駆け込み需要があるとして、その後の反動減をどう乗り切るか。過去2回の消費税増税の時と同じような道をたどらないようにしなければなりません。

 

 ◇海外は新しいステージへ

 

── 19年度からの中期経営計画ではどのように芳井色を出しますか。

 

芳井 当社は創業100周年を迎える55年度に売上高10兆円を目指しています。どんな道をたどり、10兆円になった時にどんな会社になっているか。今年4月に入社する新入社員が20年、30年先を見えるようなロードマップを用意したいです。

 

── 海外事業の今後は。

 

芳井 10兆円という数字を追いかける上で、海外事業の拡大は避けて通れません。

 

 私が海外事業部長に就いた11年当時、海外事業の売り上げは100億円強の規模でした。しかし18年3月期は為替が大きく動かない限り2000億円になる見通しで、来期は2500億円が見えています。展開する国も中国1カ国だったものが現在は17カ国に広がりました。

 

 これだけの規模になると、100億円の頃には見えなかった景色が見えてきますし、実際に事業につながるような前向きな情報が入ってくるようになります。チャンスが広がっている手ごたえがあります。

 

── 拡大に当たり、M&A(合併・買収)も選択肢に入りますか。

 

芳井 これまでに米国の戸建て住宅会社のスタンレー・マーチン社や、フロントドア社の戸建て住宅事業を取得しましたが、M&Aありきで考えているわけではありません。重要なのは、当社のDNAに合うかどうか。時間をかけてゆっくり話し合う必要があります。

 

── 正月に住宅展示場を休業するなど働き方改革でも芳井色を打ち出しています。

 

芳井 自宅でお正月を味わったことのない営業スタッフが、お正月をゆっくり過ごせる住宅を提案をするのはばかげています。展示場は1227日に閉めて、正月を味わう。その代わり12月も1月も数字を確保しろと言っています。実際、三が日の営業休止は東京では5年目ですが、1月の住宅契約数は過去4年間、まったく落ちていません。

 

── 人材育成は。

 

芳井 大和ハウスのDNAをいかにつないでいくかが課題です。樋口会長は、「オーナー(石橋信夫氏)はこうだった」と繰り返し話しています。「またか」と思う人もいるかもしれませんが、社員の間に「凡事徹底」「10兆円」という言葉は刷り込まれています。そしてその方向に人は導かれる。これをしっかり伝えていけばいいと思っています。

(構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 神戸製鋼所でラグビーをしていましたが、交通事故で8カ月入院して、何もかも失いかけました。32歳で大和ハウスに転職。上司・後輩に恵まれました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 創業者の石橋信夫がまとめた『わが社の行き方』(非売品)。その時の気持ちで捉え方が変わるので、日付と感想を書き込んだ付箋を貼っています。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 絵画鑑賞と観劇。俳優の古田新太さんのファンで、劇団☆新感線の『髑髏(どくろ)城の七人』は花鳥風月、全部観ました。

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 ■人物略歴

 ◇よしい・けいいち

 大阪府出身。大阪府立大和川高校(現・大阪府教育センター附属高校)、中央大学卒業。神戸製鋼所を経て1990年大和ハウス工業入社。2013年東京本店長、16年取締役専務執行役員、1711月から現職。59歳。

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事業内容:戸建て・賃貸住宅、商業・事業施設の建築など

本社所在地:大阪市

設立:19554

資本金:16169920万円

従業員数:15725人(20174月現在)

業績(173月期、連結)

 売上高:35129億円

 

 営業利益:3100億円


2018年2月6日号 週刊エコノミスト

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発売日:2018年1月29日

定価:620円

世界が見た

ビットコインの真実

 

欲望渦巻く“投機マシン”

 

金融市場の撹乱要因に

 

 仮想通貨の代表格「ビットコイン」が1月17日、大暴落した。2017年12月に付けた最高値の1BTC(ビットコインの単位)=230万円超から一気に半値になった(図1)。

 

 暴落の引き金について、さまざまな臆測が飛び交った。まず、3月にアルゼンチンで開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、仮想通貨の国際的な規制がテーマになるとの観測が流れたことが一つだ。また、中国と韓国で、仮想通貨への投機の過熱と詐欺の横行を懸念した金融当局が規制強化に乗り出したことも要因の一つと見られる。

 

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オリンパスの法務部員がパワハラと訴訟提起 中国「反社」企業とのトラブルめぐる問題告発で

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オリンパスが中国で「反社会勢力」と目される企業との間で起きたトラブルをめぐり、法務部員から訴訟を提起される事態に陥っている。

 

贈賄疑惑をはらんだ「反社」企業とのトラブルについて、アジア統括子会社の法務責任者が3つの米系法律事務所の意見を基に再調査を求めたが、配置転換にあう。さらに、本社法務部員である社内弁護士が、この配置転換への抗議と再調査の要望を社外取締役6人に通知すると、法務部員は社内システムへの全アクセス権限を停止されたのだ。

◇発端は中国の「反社」からの訴訟

 

 発端はデジタルカメラのレンズなどを製造するオリンパス中国深セン工場(OSZ)に対して提起された民事訴訟だ。中国深セン市の「安平泰投資発展有限公司(安平泰)」がOSZと深セン税関のトラブルを解決した際に、OSZが成功報酬として約束した女子寮2棟の譲渡をいまだに履行していないとして2016年12月、深セン市中級人民法院に寮の譲渡か2億7490万人民元(日本円で約46億7000万円)の支払いを求める民事訴訟を起こした。

 

◇「贈賄」でたびたび報道

 

 問題は、安平泰の親会社である「安遠控股集団公司(安遠)」が中国本土内では反社会勢力と目されていること。07年の雲南省幹部や14年の広州市党書記の収賄事件などで安遠や同社トップの陳族遠氏の名前が贈賄側としてたびたび、報じられている。

 

 もともと安平泰は11年、安遠がOSZと地元消防局のトラブルを解消する見返りに設立された。安遠の要請でOSZは「食堂運営」「清掃・警備」「廃棄物処理」を安平泰に委託している。だが、現地で長く活動する日本人にとって、この3分野は地元の反社会勢力の「しのぎ」であることは周知の事実だ。

 

◇税関とのトラブル解決は成功報酬

 

 安平泰は06年に発生したOSZと深セン税関のトラブル解消も手助けし、14年8月にOSZは税関の罰金・処分を免れた。だが、その際にOSZが安平泰と結んだ契約は極端な成功報酬型だった。トラブルを解消できなければ安平泰がOSZにペナルティーを支払う一方、成功の暁には最大4億円の現金報酬に加え女子寮2棟の譲渡が約束された。

 

 オリンパスの内部資料によると、OSZはこの女子寮2棟を1996年4月に2000万人民元(約3億4000万円)で購入。それを、安平泰に1800万人民元で譲渡する約束を交わしていた。深セン市の不動産価格はこの20年間で高騰しており、入手できれば安平泰は多額の含み益を得ることになる。

 

◇贈賄疑惑を否定した社内調査

 

 深セン税関とのトラブルが解消すると、OSZは14年12月に日本円で約4億円を安平泰に支払った。しかし、「安平泰が深セン税関を買収したのでは」との内部通報が本社の常勤監査役に寄せられ、15年2月に本社に社内調査委員会が発足した。10月に完成した最終報告書は、「安平泰が贈賄を行った疑いを完全には払拭(ふっしょく)できない」としたものの、「オリンパスに日本、米国、及び中国の贈賄関連法令に違反する行為があったとの認定には至っていない」と結論付け、一旦は落ち着いた。

 

 ◇未譲渡の女子寮2棟を「実効支配」

 

 だが、その後も安平泰との間で食堂運営などの委託契約は続いている。さらに、深刻なのは、譲渡を約束した深セン市南山区の高科技園区の女子寮2棟が、すでに安平泰に「実効支配」されていることだ。

 

 安平泰への寮の譲渡は、同社がオリンパスの社内調査に協力しないことを理由に凍結されている。しかし、占有権はすでに安平泰に移転し、寮の周囲の壁が壊され、1階部分がショッピングアーケードに改装されている。OSZは少なくとも14年5月から15年2月にかけ安平泰に寮の家賃相当額19万人民元強(約330万円)を毎月、計10回支払っていた。深セン市は、女子寮のある高科技園区の建物の第三者への譲渡と使用許諾を禁止している。

 

 16年6月、情報誌『FACTA(ファクタ)』の報道をきっかけに、オリンパスがそれまで秘匿していた社内調査報告書について東京証券取引所に適時開示すると、それと軌を一にして安平泰から女子寮に関する圧力が高まっていった。オリンパス関係者は「早く寮を譲渡しろという脅し」と受け止める。

 

 業を煮やした安平泰は16年12月に、先述の寮の譲渡か損害賠償を求める民事訴訟を提起した。関係者によると安平泰は「和解に応じないなら、オリンパス経営陣に関する爆弾発言をする」と語っているという。

 

◇3つの法律事務所が贈賄リスク指摘

 

 こうした状況を懸念したオリンパスのアジア統括子会社の法務責任者が17年3~4月にかけ三つの米系法律事務所に、安平泰との取引と15年の社内調査の妥当性について再調査を依頼した。三つの法律事務所の意見書は、いずれも安平泰による贈賄リスクの高さを指摘し、取引停止や事案の再調査を求める内容だった。

 

 この結果を受け、この法務責任者は本社の常勤監査役に、OSZの贈賄疑惑について、独立した第三者による徹底的な再調査を求めた。だが、逆に、経営陣から意見書の取得手続きの不備を理由に、本社の閑職に配置転換を命じられてしまった。

 

 ◇社外取締役通報でパワハラ

 

 その動きを見た本社法務部の社内弁護士は、「公益通報者への不利益な取り扱い」と判断し、17年12月6日に社外取締役6人にこの配置転換に対する抗議と、15年の社内調査の問題点の指摘、および徹底的な再調査を要望する通知書を送付。その後、12月11日、19日、20日の3回にわたって、コンプライアンス部と人事部、法務部、内部統制統括部などに、法務責任者の配置転換を問題とする通報メールを送った。

 

 だが、社内弁護士は20日に会社側からメールを含む社内システムへの全アクセス権限を停止された。社内弁護士は、これにより業務に大きな支障が生じ、公益通報者でもある自身に対するパワーハラスメントだとして、18年1月19日付で、会社と法務部長、人事部長を相手取り、500万円の損害賠償を求める民事訴訟を東京地方裁判所に提起した。

 

◇事実の洗い直しは不可避

 

 今後の焦点は、社内弁護士の問題提起を受け、6人の社外取締役がどう対応するかだ。海外贈収賄案件に詳しい弁護士に、本誌が入手した17年12月6日付の社外取締役への通知書を見せたところ、「アジア統括子会社の法務責任者が依頼した三つの法律事務所はいずれも一流どころで、その意見書の内容は信頼できる。3事務所とも15年の社内調査報告に疑義を示しているなら、社外取締役はその善管注意義務に基づいて、再調査するかどうかの判断をしなければならない」と語る。

 

 オリンパスは、16年3月、米国および中南米における医療機器の贈収賄事件で、米連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)などに基づき、米子会社が米司法省に約740億円の和解金を支払い、DPA(起訴猶予合意)を結んでいる。14年12月の安平泰への4億円の報酬支払いを最終承認した本社の竹内康雄・副社長は米子会社の会長も兼務する。DPAの合意により、OSZの贈賄疑惑に関しても米司法省の管轄権が生じる可能性が高い。

 

「今回の社内弁護士の問題提起により、米司法省から15年の社内調査が『不十分だった』と指摘されるなら、もう一度、事実関係そのものを洗い直す必要が出てくる」(同弁護士)という。

 

 ◇取締役会は結論を先送り

 

 17年12月22日の取締役会ではこの問題が協議されたが、結論は先送りされた。6人の社外取締役は旭化成工業の会長・社長や伊藤忠商事の副会長などいずれも大企業での経営経験を持つ。社外取締役はその責務を果たすため、決然とした判断を示すべきではないだろうか。

 

オリンパスは、本誌の取材に対し「(1)安平泰の訴訟提起、(2)社内弁護士による社外取締役への通知──は、いずれも事実だ」とコメントしている。

(編集部)

 

*週刊エコノミスト2018年2月6日号掲載

パンダノミクスが来た!潤う動物園 上野のグッズ売上高は7割増

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シャンシャン(手前)と母親のシンシン=東京都台東区の上野動物園で2018年2月1日
シャンシャン(手前)と母親のシンシン=東京都台東区の上野動物園で2018年2月1日

中川 美帆(パンダジャーナリスト)

 

ジャイアントパンダ「シャンシャン」の公開でフィーバーに沸く東京・上野動物園。2月1日からは抽選なしの先着順で観覧できるようになり、さらなる集客が予想される。パンダが動物園の運営と経営に与える影響は?

 このところ、外の運動場に出て木登りをしたり、母親のシンシンにじゃれついたりと元気に動き回っている東京・上野動物園のメスの子パンダ、シャンシャン。1月25日には体重が16・4㌔になり、昨年6月12日の誕生から5日目の178・9グラムに比べ、ずいぶん大きくなった。お客さんの前に出ても、嫌がるそぶりを見せず、よちよち歩き回ったり、木の上ですやすや眠ったりしている。

 

 昨年12月19日の公開開始から今年1月21日までにシャンシャンを観覧したのは、抽選で当たった1万2083組(4万1804人)。その期間の営業日数で割ると、1日約1500人になる。2月1日からは先着順で1日9500人まで観覧できるので、経済効果も跳ね上がりそうだ。

 

シャンシャンを見るため上野動物園の前に列を作る人たち=東京都台東区で2018年2月1日
シャンシャンを見るため上野動物園の前に列を作る人たち=東京都台東区で2018年2月1日

入園者はパンダで増減

 

 上野動物園の入園者数はパンダに大きく左右される。2008年4月にリンリン(オス)が死んで、36年ぶりにパンダがいなくなると、08年度の入園者数は60年ぶりに300万人を割り、人気急上昇中の旭山動物園(北海道)に国内トップの座を明け渡しそうになった。17年度は4~12月の入園者数が前年同期比10・4%増の318万336人となっており、16年度の入園者数(384万3200人)や入園料収入(11億7600万円)を上回る見通しだ。

 

 パンダは動物園の“経営”にプラスになるのか。

 

 

 都立の上野動物園には、税金が投入されている。06年度からは、指定管理者制度により公益財団法人「東京動物園協会」が運営を担う。都は入園料収入を得る一方、多額の委託料(16年度で56億1513万円)を協会に支払い、獣舎の建設などの費用も負担。ただし、基本的な運営は任せているため、協会の財務状況を見ていく。

 

 

東京4園のうち6割を稼ぐ上野

 

 東京動物園協会は、上野動物園、多摩動物公園、葛西臨海水族園、井の頭自然文化園の都立4園を運営する。各園単体の収支は明らかにしていないが、16年度の4園合計の経常収益(都からの委託料や寄付金など)は82億9750万円、経常費用(職員の給与や飼料費など)は82億9999万円で、248万円の赤字だ。

 

 ただし、公益法人は費用が収入を上回る「収支相そうしょう償」規定を採用するため赤字は必然。これでは経営状況を判断しづらいので、会計区分のうち、利益を得てもいい事業だけに特化した「収益事業会計」に着目する。

 

 

 16年度の収益事業会計は、経常収益26億918万円に対し、経常費用は24億2737万円で、1億8180万円の黒字を確保している。経常収益の9割超に当たる25億6537万円は販売収益だ。これは園内の売店や飲食店などの収入を示す。筆者の取材によると、このうち上野動物園の販売収益は約6割となる15億1500万円に上る。

 

1月の売店売り上げは7割増

 

 東京動物園協会は17年度予算で、上野動物園の売店や飲食店などの収入を15億6400万円と見込んでいる。ただし、これは17年6月に誕生したシャンシャンの影響を考慮しておらず、上方修正される可能性が高い。1月2~18日の売店の売上高だけを見ても、前年同期に比べ約70%増えている。

 

 売店の売上高が急増しているのは、シャンシャンをあしらったグッズや食べ物が続々と発売されて、大人気になっているためだ。シャンシャンの生後10日目を再現したぬいぐるみ「ほんとの大きさパンダの仔284g」(2376円)は売り切れる日も珍しくない。ネットオークションでは定価の2倍でも売れている。

 

新パンダ舎は面積2倍

 

 インフラ整備の面でも人気を持続させる要因がある。20年3月までの完成を予定する新パンダ舎建設だ。これはシャンシャン誕生前から決まっていた、パンダ舎を移転して建て替える事業。建て替え後のパンダ用のスペースは屋内外で約2000平方㍍と、現状の2倍近くに広がる。関連施設も含めた総事業費は約22億円で、このうち都の18年度予算案に8億9000万円を計上している。

 

 シャンシャンブームによる経済効果は、「動物園外」にも及ぶ。その波及先の一つは警備会社だ。17年4月~18年3月の警備費は、シンテイ警備が約8200万円で受注。だが、恐らくこれだけでは足りない。警備員の数は、1月まで1日20人ほどだったが、2月以降は40~45人と倍増させるためだ。春の繁忙期には、さらに増やすことも検討している。

 

 上野周辺では、シャンシャンをモチーフにしたお菓子やぬいぐるみも人気で、販売業者の利益も見込まれる。

*ほかに国内でパンダを飼育するアドベンチャーワールド、神戸市立王子動物園については週刊エコノミスト2月13日号「パンダノミクスが来た!」にて。

木の恵みを人の暮らしのそばへ 市川晃 住友林業社長

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 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 住友林業の特徴は。

 

市川 1691年、別子銅山(愛媛県)の採掘に必要な備林を整備したことから歴史が始まりました。明治に入り、銅の精錬による煙や伐採により、山が荒廃してしまった。見かねた別子鉱業所支配人の伊庭貞剛が1894年に大造林計画を立て、多い時には年間200万本以上を植えました。当時では世界でも例のない大規模な造林事業です。

 

 それ以来、サステナビリティー(持続可能性)を強く意識してきました。「保続林業」という考え方です。CSR(企業の社会的責任)や「環境」なんて、言葉すらなかった時代から、社会貢献として植林を続けてきました。「国土報恩」の精神です。

 

 

── 持続可能性のある林業とは。

 

市川 木を資源として見直し、供給側の構図を変えていきたい。1975年に参入した住宅事業は、売り上げの4割以上を占める大きな柱です。「安心して暮らすため、木造住宅を近代化することが林業に携わる企業の使命」との信念です。

 

── 地震の多い日本で、木造は不安です。

 

市川 戦後の住宅不足を受け、木造住宅が粗製乱造されました。当然、質の差は激しく「木造は弱い」というステレオタイプを日本に植え付けてしまいました。

 

 しかし、世界最古の木造建築である法隆寺を例に挙げるまでもなく、建築物の強さを決めるのは素材ではなく建て方です。当社は高層ビルに用いられる柱と梁(はり)で強固に枠をつくる「ラーメン構造」を、木造住宅で初めて実現しました。耐震性に優れており、東日本大震災、熊本地震で、住宅の倒壊は一棟もありません。

 

── 住友林業の住宅のよさは。

 

市川 伝統的な住宅でみられる「通し柱」は、土地の制限や生活様式の変化とともに、日本の住宅に合わなくなっています。梁で支えるラーメン構造の「ビッグフレーム構法」は、柱や壁の制約を受けにくく、空間と敷地を有効活用できます。

 

 林業に携わる若者の比率は増えている。国勢調査によると、90年に6・3%だった35歳未満の割合は2015年には171%だ。

 

── 日本の林業は若年層比率が高まり、成長産業と呼べる状況です。

 

市川 都道府県が設ける林業の職業知識を教える学校が、ここ数年で11校新設され、全国に17校あります。林業系学部や森林を持つ大学も27校あり、若者が増えているのは確かです。しかし産業としては課題が多い。「3K」と言われた環境は改善されてきているものの、裾野を広げるには、さらに近代化を進める必要があります。加工技術の向上、ロボットによる作業の効率化です。

 

── 林業をさらに育てるために、必要なことは。

 

市川 木の用途を広げることが欠かせません。住宅以外の中・大規模建築物での木造や、木の質感を生かした建物を普及させるため、11年から担当部署を設けて「木化事業」を強化しています。17年には東京都国分寺市で、上部が木造、下部が鉄筋コンクリートの「ハイブリッド」で7階建てのオフィスビル、大阪府箕面市で木造の大規模リハビリテーション施設を竣工しました。

 

── 1711月にゼネコンの熊谷組と業務・資本提携を結んだ狙いは。

 

市川 大規模な木造建築事業に向けて、施工能力強化のためです。熊谷組も間もなく創業120年と、歴史を持つ企業同士のシナジー(相乗)効果もある。お互いの事業領域を広げることができ、売上高で1500億円程度の効果を見込んでいます。

 

── 足元の業績は。

 

市川 1618年度の中期経営計画で、19年3月期に連結で、売上高1兆1700億円、経常利益550億円、ROE(株主資本利益率)10%を掲げました。18年3月期は売上高1兆2200億円、経常利益535億円の見込みで、目標を1年前倒しでほぼ達成します。来期は目標を上回ることが至上命令です。

 

 ◇木を「時間財」に

 

 主力事業のうち、国内の住宅事業は厳しい環境です。14年4月の消費税率8%への引き上げによる反動減以降、低調な状況が続いています。受注件数ベースでは、17年度上期は前年同期比03%増となり、ようやく回復傾向がみられますが、1910月に10%への増税もあり、楽観はできません。

 

── 海外事業は好調です。

 

市川 17年3月期の実績で、経常利益の3割を海外事業で上げました。海外で住宅事業に参入するため、00年代から積極的にM&A(合併・買収)に取り組んできました。年間受注件数は、国内8000棟に対し、米国6000棟、豪州3000棟です。

 

── 林業の将来は。

 

市川 日本では古くから、暮らしと木が密接に結びついていました。神の宿る山を保護し、里山で実を拾い、植林で育てた木で家を建て、文化を育んできたのです。木の家は、人にやすらぎを与えてくれます。無垢(む く)材を使った床では、子どもは自然に寝そべり、足をどんどんとさせて木の感触を味わおうとします。

 

 木は人が植え、しっかり管理することで永遠に持続できる唯一の資源。木を切ることを「自然破壊」と批判するのは、守るべき森林と管理する森林を区別できていない議論です。木はサステナビリティーのある社会に欠かせませんが、育つのに時間がかかります。300年以上、木を軸にした事業を続けてきた当社は、木を「時間財」にする使命を果たしていきます。

 

(構成=酒井雅浩・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 32歳で大阪からシアトルに転勤し、木材の買い付けを担当しました。アラスカ州、オレゴン州、ワシントン州の森林を走り回っていました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 物の見方を変えてくれる本です。司馬遼太郎の歴史小説や、マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』には考えさせられました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 妻と街歩きをして、最近のトレンドを見て回ります。

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 ■人物略歴

 ◇いちかわ・あきら

 1954年生まれ。兵庫県出身。兵庫県立尼崎北高校、関西学院大学経済学部卒業。78年住友林業入社。2002年営業本部国際事業部長、05年住宅本部住宅管理部長、08年取締役常務執行役員などを経て、10年から現職。63歳。

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事業内容:木材建材事業、住宅事業など

本社所在地:東京都千代田区

設立:19482

資本金:326億円

従業員数:18379人(2017930日現在・連結)

業績(173月期・連結)

 売上高:11133億円

 

 営業利益:539億円

目次:2018年2月13日号

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CONTENTS

 

AIに勝つ! 社労士 司法書士 行政書士

20 社労士にITソフトの大波 人事・労務の業務が3分の1 ■谷口 健

24 AIに負けない7人の先駆者

 社労士 岡本 洋人/山本 純次 司法書士 荻野 恭弘/星野 大記/島田 雄左 行政書士 石下 貴大/伊藤 健太

28 人事が使い始めた「HRテック」 ■山野 高将

30 業界団体に聞く! 大西 健造 全国社会保険労務士会連合会長 「人の心に関わる領域が価値になる」

31          遠田 和夫 日本行政書士会連合会長 「1万ある業務の幅広さが強み」

32 覆面座談会 「“手続き屋さん”はもういらない」

34 市場が注目する24企業 「働き方改革」や補助金も追い風 ■小林 大純

 

73 エコノミストリポート まぼろしのチャイナドリーム 生活苦の「IT農民工」が急増 ■矢作 大祐

 

36 米景気 米企業債務にバブルの兆候 ■荒武 秀至

40 政策 効果が薄い政府の成長戦略 ■村上 尚己

 

Flash!

13 コインチェックから仮想通貨500億円消失/パウエル新FRB議長に不安の声

 

World Watch

64 ワシントンDC イエメンからサウジへの攻撃 ミサイル技術はイラン発か ■会川 晴之

65 中国視窓 日中が第三国で協力へ ビジネス展開拡大狙う ■真家 陽一

66 N.Y./カリフォルニア/スウェーデン

67 韓国/インド/フィリピン

68 香港/チリ/南アフリカ

69 論壇・論調 独でネット規制法施行 言論統制か無法地帯の改善か ■熊谷 徹

 

Interview

4 2018年の経営者 市川 晃 住友林業社長

16 挑戦者 2018 天沼 聡 エアークローゼット社長

50 問答有用 ミカ・ストルツマン マリンバ奏者

 「楽曲を自分の音で自分の音楽にしていく」

 

2ケタ成長 光ファイバー・半導体

78 中国の通信網整備がけん引し年20%成長 ■松本 裕司

80 光ファイバー日本3社 多芯化で強み ■種市 房子

81 クラウドが需要押し上げ ■津田 建二

82 光ファイバー網を支えるシリコンフォトニクス/ロジック半導体は3種類が役割分担

84 AI半導体 テスラもカリスマ技術者迎え参入 ■服部 毅

86 王者インテルとAMD・クアルコム乱戦

87 データセンターは年5%成長も収益性の低下が課題 ■羽賀 史人

 

パンダノミクスが来た!

89 パンダで潤う動物園 「客寄せ」効果は抜群 ■中川 美帆

91 ミニ知識(1) 新たに誘致進める動物園

92 ミニ知識(2) 高額なレンタル料や保険料

93 かわいい特命大使 中国の巧みなパンダ外交 ■中川 美帆

95 海外事情 ウィーンでも入場者がパンダで増減

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

19 グローバルマネー “ステルス”ETF買い入れ減額はあるか

38 東奔政走 野中氏の訃報に思う落日「経世会」 ■前田 浩智

42 福島後の未来をつくる(64) 事故の原因は「私」の心の中にもある ■石橋 哲

44 国会議員ランキング(12) 経済産業委員会の質問時間 ■磯山 友幸

45 商社の深層(101) 住商は「胆力」の兵頭氏が社長昇格 ■編集部

46 海外企業を買う(176) ロイヤル・カリビアン・クルーズ ■児玉 万里子

48 名門高校の校風と人脈(276) 長崎東高校/佐世保南高校(長崎県) ■猪熊 建夫

54 学者が斬る 視点争点 生態系「遺伝資源」の利用と保護を ■柘植 隆宏

56 言言語語

70 アディオスジャパン(88) ■真山 仁

72 キラリ!信金・信組(7) 大阪シティ信用金庫(大阪市) ■浪川 攻

76 出口の迷路(18) 円高恐れず好景気で引き締めを ■重見 吉徳

102 独眼経眼 「消費主導の景気回復」は無理筋 ■斎藤 太郎

103 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Starving of the beast ” ■安井 明彦

104 ネットメディアの視点 信頼度と中立性の二兎を追うフェイスブック ■土屋 直也

108 アートな時間 映画 [ロープ/戦場の生命線]

109        舞台 [二月大歌舞伎]

110 ローカル・トレインがゆく(10) 静岡鉄道 ■文と写真・黒崎 亜弓

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/

週間マーケット

98 欧州株/為替/原油/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『21世紀の長期停滞論』『陸軍中野学校』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■荻上チキ

62 歴史書の棚/出版業界事情

 

57 次号予告/編集後記

コインチェックの仮想通貨流出 顧客獲得の優先が失態招く

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スマホから注文できる手軽さで人気だったが…
スマホから注文できる手軽さで人気だったが…

 500億円超の仮想通貨がわずか20分で消失した。1月26日、仮想通貨取引所コインチェック(東京都渋谷区)が預かっていた仮想通貨NEM(ネム)が不正に送金された。

 

 世界中でやりとりされるネムの取引データが記録された「ブロックチェーン」(ネット上の取引台帳)には送金記録が残っており、26日0時2分から21分の間に5億2300万XEM(ゼム、NEMの通貨単位)、約576億円が送金されたことが分かった。同社によれば流出したNEMはすべて利用者の資産だった。被害者は26万人。 

  

 仮想通貨の流出事件としては、2014年に起きた仮想通貨取引所マウントゴックスからの流出額470億円などを上回り、過去最悪となった。金融庁は1月29日、コインチェックに業務改善を命ずる行政処分を下した。

 

ずさんな管理

 

 コインチェックからの流出は、仮想通貨の送金に必要となる「秘密鍵」が盗まれたために起きた。秘密鍵とは仮想通貨を保管するウォレット(財布)のパスワードにあたる文字列だ。ウォレットに入っている仮想通貨は秘密鍵を使って出し入れされる。

 

 仮想通貨の送金は秘密鍵とインターネット環境さえあれば可能だ。秘密鍵が手に入れば、取引所のシステムに侵入する必要もなく、パソコンからでも送金できてしまう。仮想通貨に関する技術に詳しい杉井靖典カレンシーポート社長は、「今回の問題は秘密鍵をいかに厳重に管理するかに集約される」と指摘する。

 

 このため秘密鍵は不正アクセスされやすい「オンライン環境」ではなく、ネットから切り離した「オフライン環境」で管理することが望ましい。これを「コールド保管」という。コインチェックは、仮想通貨のビットコインやイーサリアムについては秘密鍵をコールド保管していたが、ネムにはしていなかった。

 

 安全性を犠牲に利便性を追求

 

 もう一つの問題が5億2300万XEMという大量のネムを一つのウォレットで管理していたことだ。財布が一つということは一回の不正アクセスで大量に盗まれるリスクが高いということだ。実際、大半が最初の5分間で流出している。仮想通貨に詳しい中島真志・麗澤大学教授は「“たくさんの卵を一つの籠に入れるな”という鉄則がある」と話す。卵とは機密性の高いデータ、籠とはデータを格納する場所を指す。

 

 さらに、コインチェックは送金にあたって複数の秘密鍵が必要となる「マルチシグネチャー」という仕組みも導入しておらず、一つの秘密鍵で入出金できる「シングルシグネチャー」方式だった。コールド保管もマルチシグネチャーも「技術的には導入はさほど難しくない」(杉井氏)にもかかわらず、コインチェックが導入していなかったのは、ユーザー獲得のために取引の安全性を犠牲にし、利便性を追求していたためと見られる。

 

「即日出金」と仮想通貨の種類の多さが強みだった

 

 コインチェックの強みは仮想通貨の送金時間が短く「即日出金」に対応している点だ。スマートフォンから簡単に注文でき、こうした利便性の高さによって推定200万人を超えるユーザーを獲得している。取り扱い仮想通貨も13種類と国内トップクラスで、現物取引高も国内首位にある。

 

 だが、こうした利便性は、安全性との両立が難しい。例えば、コールド保管の場合はオフラインからオンラインへの移動という処理が必要なため、即日出金への対応は難しくなる。また、マルチシグネチャーにするとデータの処理量が増え、利用者から取る手数料が上がることになる。

 

 さらに、仮想通貨は個々に技術的特徴が異なり、管理方法も個別に構築する必要があるが、それに必要なコストや人材を十分に割いてこなかったとみられる。和田晃一良コインチェックCEO(最高経営責任者)は26日深夜の会見で「セキュリティーは最優先だった」と話したが、実態を見る限り顧客獲得を優先していたと見るほかない。

コインチェック流出会見で謝罪する和田晃一良コインチェックCEO(左)と大塚雄介COO
コインチェック流出会見で謝罪する和田晃一良コインチェックCEO(左)と大塚雄介COO

売買手数料で数千億円稼ぐ

 

 コインチェックは、ネムを預けていた利用者に日本円で返還する方針を示した。返金総額は460億円。保有する仮想通貨の売却や第三者の支援に頼らず「現預金で対応する」とした。資本金9200万円のコインチェックのどこから潤沢な資金が出てくるのか。

 

 コインチェックはビットコインを含め13種類の仮想通貨を取り扱っている。人気が集中するビットコインは、どの取引所も利用者の獲得競争で優位に立つため「(送金)手数料無料」などのキャンペーンを行っている。一方、「アルトコイン」(ビットコイン以外の仮想通貨)はビットコインほど人気がないため、取引所間で競争原理が働かず、手数料は実質的に取引所の「言い値」になっている。

 

 コインチェックのアルトコイン販売所では手数料を明記していないが、実質的な手数料にあたる「スプレッド」(売値と買値の差)はおおむね3%から10%程度だった。コインチェックはネムだけで残高が576億円あった。その他のアルトコインも含めれば数千億円の残高は確実で、さらに売買が頻繁に行われ、そこから数%の手数料を徴収していたのだから460億円の現預金が手元にあったとしても不思議はない。

 

投機マネーで潤う取引所

 

 仮想通貨全体の時価総額は足元で50兆円以上に膨らんでいる。仮想通貨と交換される法定通貨のシェアを見ると円が約50%と圧倒的に多く、世界的に見ても国内取引所が「主戦場」になっていることが分かる。膨大な投機マネーが取引所を通過し、その過程で取引所は巨額の手数料を吸い上げている。

 

 17年4月に施行された「改正資金決済法」は、仮想通貨取引所を認可制として市場を整備し、最終的には「フィンテックの促進」を図ることが目標だったはずだ。しかし、現実には個人投資家に“仮想通貨に国がお墨付きを与えた”との誤認を広めて大量の投機マネーを呼び込み、取引を仲介する取引所に巨額のお金がため込まれる結果になっている。これではフィンテック促進とは程遠い。「金融庁は、“お墨付き”というイメージを早めに変えるべきだった」。(中島氏)

 

不正流出の再発リスクも

 

 金融庁は1月27日、コインチェックはじめ認可を得てはいないが改正資金決済法施行前から仮想通貨取引業務を行っていた「みなし業者」を含め、全取引所へセキュリティー体制などの自己点検を求めた。結果次第では立ち入り検査も辞さない強い態度を示している。

 

 しかし、技術進歩の早い仮想通貨業界では法令対応だけでは限界がある。柔軟な自主規制による対応も必要だ。

 

 国内に二つある仮想通貨業界団体の一つ「日本仮想通貨事業者協会(JCBA)」の奥山泰全(たいぜん)会長は「業界としては、管理体制を高めるために自主規制で徹底させる必要はある」としている。

 

 ただ、現状はJCBAと「日本ブロックチェーン協会(JBA)」の2団体が両立し、意見の相違などから統合への道筋が見えていない状況だ。

 

 仮想通貨は、中央銀行が発行し流通量を自由にコントロールする法定通貨と違い、個々の利用者側が主体的に関わることで公平な価値交換システムを実現するという理想があったはずだ。業界団体も仮想通貨の利用者には違いない。統合がままならなければ、不正流出が再発するリスクはくすぶり続ける。

(高城泰・金融ライター/編集部)

*週刊エコノミスト2018年2月13日号「FLASH!」掲載

2月6日号週刊エコノミスト「ビットコインの真実」

特集:AIに勝つ!社労士・司法書士・行政書士 2018年2月13日号

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社労士にITソフトの大波 

人事・労務の業務が3分の1

 

「人事労務の作業にかける時間が3分の1になり、稼いだ時間を採用戦略や社員と話す時間など、より経営に重要な業務に充てている」

 

 

 仕事のマッチングサイトを運営するクラウドワークス(東京・渋谷区)は、2011年の設立以降、事業が急拡大するなかで、人員も積極的に拡充し、人事労務の業務が“パンク”しつつあった。従業員数は、1412月の上場時に30人だったが、半年で100人、今では約300人になった。冒頭の言葉は、同社の人事担当役員・佐々木翔平氏の発言だ。

 

 クラウドワークスの人事労務担当者たちの“危機”を救ったのが、インターネット上で人事労務業務を一元的に管理できるクラウド型人事労務ソフト「スマートHR」だった。

 スマートHR(東京・千代田区)が提供するこのインターネットサービスでは、従業員自身が氏名や生年月日、住所、基礎年金番号などを入力する。企業の人事労務担当者は、同サイトから直接社会保険などの申請も行える。

 

 従来は、従業員が配られた紙に情報を書き込み、それを人事労務の担当者がエクセル(表計算ソフト)などに打ち込み、それを印刷して各役所に提出していた。また、従業員データの管理もできるため、住所変更や年末調整、扶養の追加、氏名変更も簡素化できる。導入企業は1511月の正式公開から、2年弱で9000社(18年1月時点)を超えた。

 

 こうした新しい人事労務サービスは、スマートHRだけではない。従業員管理や行政手続き以外にも、給与計算や勤務時間管理などの分野で多くのIT企業が参入している。

 

 企業向けクラウド型会計ソフトで急成長中のフリー(東京・品川区)もその1社だ。17年8月に人事労務分野に参入。同社は、「人事労務担当者は300人規模の企業なら計算上0・5人になる」との試算を出している。同様のサービスを展開するネオキャリア(東京・新宿区)も、同社の「ジンジャー」で、従業員の入退社手続き書類や役所への書類申請などの業務時間が約10分の1に短縮できるとしている。

 

 ◇給与も勤務管理も自動

 

「スマートHRなどのIT企業は、社会保険労務士(社労士)にとって脅威だ」

 

 東京都内に事務所を構える複数の社労士が、そう本音を漏らす。

 

 そもそも社労士の主な業務は、社会保険や労働保険関連の分野で、さまざまな役所に提出する申請や手続きを代行する。労働保険関連ではハローワーク(公共職業安定所)に、健康保険では健保組合・協会に、年金は年金事務所に、という具合だ。

 

 ただし、こうした業務は、企業内の人材が行えば、社労士の資格がなくてもできる。その一方で、企業が、社会保険や労働保険関連の業務を外部に委託する際は、社会保険労務士法(社労士法)が適用され、社労士に委託しなくてはいけない。

 

 

 つまり、社労士の顧客は基本的に中小企業だ。しかし、その中小企業で今、クラウド型の人事労務ソフトが広がり始めているのである。

 

 クラウド型ソフトを提供する企業同士の連携も活発だ。

 

 9500社が導入するクラウド型の勤務時間管理サービス「キングオブタイム」を提供するヒューマンテクノロジーズ(東京・港区)は、マネーフォワード(東京・港区)のクラウド型給与計算ソフト「MFクラウド給与」と連携。これによって、「キングオブタイム」の勤務時間データを使って「MFクラウド給与」側に読み込み、ほぼ自動で給与計算ができるようになった。また、スマートHRとマネーフォワードは提携を強化し、二人三脚で間接部門の効率化を目指している(図3)。

 

 

 

 企業の勤務時間管理は、紙のタイムカードで、そして、勤務データの管理はエクセルに移して、電卓で給与計算をするという従来の流れが今、大きく変わろうとしている。

 

 ある社労士は危機感を隠さない。

「社労士の従来型の仕事は、社会保険や労働保険の手続きや給与計算の代行で、『企業の担当者がするより間違えないこと』が売りだった。だが、人手を使った労働集約型のこの仕事がIT化で崩れようとしている」

 

 ◇政府は電子申請を推進

 

 日本政府が行政手続きのオンライン化を進めていることが、社労士だけでなく、司法書士や行政書士の危機感も増幅させている。

 

 総務省は01年、「電子政府の総合窓口(e-Gov(イーガブ))」の運用を始めたが、使い勝手が悪く広がっていなかった。しかし、15年4月に民間企業などが作る外部システムと連携できるようにし、大きく広がっている。

 

 総務省が外部システムと連携することに商機を見いだしたのが、スマートHR、フリー、ジンジャーなどだった。e-Govは企業担当者や一般の人には使いにくいが、連携で利用者が簡単に申請できるように使い勝手を良くした。e-Govでの電子申請件数は、14年度の320万件から16年度には647万件と急拡大している。

 

 e-Govでは、厚生労働省、国土交通省、経済産業省、金融庁など4100件以上の行政手続きが行える。だが、社労士も関わる社会保険・労働保険分野だけに絞ると、オンライン申請率は非常に低い。総務省によると、社会保険・労働保険のオンライン申請率は全体の約9%と、1割にも満たない。司法書士が関連する登記のオンライン申請率は66%、税理士が関与する国税申告は58%だったことと比べると、その差は歴然だ(図2)。

 

 

 

 政府による電子申請の推進で、司法書士や行政書士の立場も安泰ではなくなっている。

 

 不動産登記が主な業務の司法書士は、登記の電子申請率が66%だが、「今は最後の申請がインターネットというだけで、実際には必要書類の紙も多い。しかし、今後ペーパーレス化が進めば関連業務がどんどん減っていく」(司法書士関係者)。

 

 ある司法書士は、「司法書士の分野では今でこそ紙が原本だが、『不動産登記法』や『商業登記法』で電子認証を取ったPDFファイルでも認められる方向性にある。紙の移動がなくなるので、郵送もしないし、法務局に行かないし、書類を棚に整理する業務もいらなくなる」。

 

 そもそも登記件数の減少にも歯止めがかかっていない。土地と建物の登記件数は、05年の1757万件から15年は1174万件に減少している(『司法書士白書2017年版』)。

 

 一方、行政書士の業務を見ると、政府による手続き電子化で一つの仕事が“奪われた”。国交省の「自動車保有関係手続のワンストップサービス(自動車の新車新規登録等手続の窓口)」、通称OSSである。

 

 OSSは、例えば、新車を購入する際、検査・登録、保管場所証明、自動車諸税納付などが必要だが、それを、一般の人もインターネット上でできる。OSS自体は、05年に始まっているが、今年からは本格的に広がる見込みだ。17年4月からは、中古車関連の手続きもできるようになり、今年から、申請可能な地域が全国的に広がっているためだ。

 

 助成金のポータルサイト運営などで他士業からの評価も高い石下貴大行政書士は、「行政書士の業務は1万種類とも言われ、ITやAIで全ての許認可や申請がすぐに自動化されるとは思わないが、今後、簡素化する流れは止められない」と語る。

 

 野村総合研究所と英オックスフォード大学の共同調査では、AIなどによって30年ごろには、社労士の業務の79%が自動化され、司法書士は78%、行政書士は93%自動化されるとした。それが本当に起きるかは誰にも分からない。だが、ITが士業の業務を効率化し、一部を代替し始め、今後は、AIが士業の枠組みさえ“破壊”する可能性もある。

 

 

(谷口健・編集部)

週刊エコノミスト 2018年2月13日号

発売日:2018年2月5日

特別定価:670円



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AIに勝つ!

社労士・司法書士・行政書士

 

社労士にITソフトの大波 

人事・労務の業務が3分の1

 

「人事労務の作業にかける時間が3分の1になり、稼いだ時間を採用戦略や社員と話す時間など、より経営に重要な業務に充てている」

 

 仕事のマッチングサイトを運営するクラウドワークス(東京・渋谷区)は、2011年の設立以降、事業が急拡大するなかで、人員も積極的に拡充し、人事労務の業務が“パンク”しつつあった。従業員数は、1412月の上場時に30人だったが、半年で100人、今では約300人になった。冒頭の言葉は、同社の人事担当役員・佐々木翔平氏の発言だ。

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円高恐れず好景気で引き締めを=重見吉徳〔出口の迷路〕金融政策を問う(18)

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今、起こり始めているのは、「景気後退に備えて緩和余地を作っておく」という世界の引き締め競争だ。

 

重見吉徳(JPモルガン・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト)

 日銀は、世界経済が同時好景気に沸く現在のうちから、長期金利の誘導目標をゆっくりだが着実に引き上げ、同時に「これは出口に向けた一歩である」と明示することが望ましいだろう。

 

 重要なのは、金融市場に対して「一歩、後ろに戻ることができている」という対話をすることであり、逆に言えば「必要ならば、再び一歩前に踏み出すことができる」という政策の余地を示すことである。

 

 これは当然のように足元で円高圧力を生むだろう。しかし、円高とひとことで言っても、次の二つのうちの、どちらの円高が望ましいだろうか。筆者は、現時点で後者を選択しなければ、やがて前者が起きると考えている。

 

 (1)米国が将来、景気後退に陥り、米連邦準備制度理事会(FRB)は積極的な金融緩和で対応するが、日銀は現時点において出口を見送るために、金融緩和の余地が(将来時点で)相対的に小さくなる結果、円が買い戻される。

 

 (2)海外景気の勢いが強く、海外の長短金利に上昇圧力が生じている現時点で、日銀も出口に立ち、円が買い戻される。

 

 (1)の出口を見送る選択肢では、現時点では一段の円安になる可能性があるだろう。しかし、円の実質実効レートの歴史的低水準や、限界にまで膨らんで自律的に縮小しつつある量的質的金融緩和の現状を踏まえれば、米国が景気後退に陥る将来時点においては、大幅な揺り戻しの円高が生じると考えるのが自然だろう。

 

 一方、(2)の出口に立つ選択肢では、現時点も円高となり、将来時点も円高の可能性がある。仮に両者のケースで、将来時点のドル・円レートの着地水準を同じと置いても、変動幅、すなわち実体経済や金融市場に対する影響は、(1)の出口を見送る選択肢の方が大きいと思料される。

 

 筆者は、日本国内の実体経済とインフレ期待の安定にとって、(2)が望ましいと考えている。

 

 まず、現時点を考えると、国内経済は完全雇用に限りなく近いため、幾分の円高という引き締め圧力を許容することで、景気の持続不可能な過熱を防ぎ、景気の山をなだらかにすることができる。それは、今の景気拡大を延命させることと同義である。

 

 次に、米国が景気後退に陥る将来時点を考えると、現時点で出口に一歩でも二歩でも踏み出している分、FRBの金融緩和によるドル安・円高を防ぐための手立てを幾分確保しているため、景気の谷の深さを緩やかにすることができる。もし「その程度では不十分で対応不能」と考えるなら、なおさら速やかに出口に立つべきだろう。

 

 ◇今のつらさを選んだFRB

 

 以上を言い換えれば、経済政策がカウンターシクリカル(景気循環抑制的)になるのか、プロシクリカル(景気循環増幅的)になるのかということである。

 

 より一般的な言葉で表現すれば、「良い時に他よりも少しつらい思いをする見返りとして、将来つらい時に他よりもつらさを和らげる手段を持っておく」ほうが、「良い時にもっと良い思いをする代償として、つらい時に打つ手がなく、もっとつらい思いをする」よりもよいはずではないだろうか。

 

 この前者を既に実践したのが、ほかならぬFRBである。米国は景気が良いうちに、ドル高を背負い、これを乗り越えることができたように見える。このFRBの引き締め姿勢について「将来の緩和余地を確保したいため」との議論がある。重要なポイントは、それと同時に、米国が景気後退時に通貨安という手段を確保しているということであり、裏を返せば、日本は円高に見舞われるということであろう。

 

 金融政策は、マクロ経済学であると同時に、ゲーム理論でもある。言い換えれば、他のプレーヤーが存在する。自国の経済状態だけを考えて政策を実行すればよいのではなく、他国がどのような政策を取ってくるかを予想し、そればかりでなく、他国もまた自国がどのような政策を打ってくるかを予想していることも把握しながら、自分たちの政策を検討する必要がある。

 

 

 ここで重要なのは、緩和競争や通貨安競争があったのなら、全く同じ理屈から、引き締め競争もありうるということだ。

 

 振り返れば、緩和競争とは、自国に通貨安を積極的に呼び込むための競争ではなく、自国の通貨高を避けるための競争であった。他国(特に貿易赤字の大国、米国)が大胆かつ継続的に金融緩和を実行するならば、自国(特に貿易黒字の小国)もこれに追随しなければならない。たとえ当該赤字国の通貨安(=ドル安)が本来ならば長期の国際不均衡(インバランス)を解消するために資するはずのものとしても、緩和に追随しなければ自国は通貨高に陥り、引き締め圧力が生じてしまう。貿易赤字の大国による金融緩和は、当該国にとってはマクロ経済学だが、貿易黒字の小国にとってはゲーム、つまり駆け引きでもある。

 

 対する引き締め競争とは、景気後退に陥った時に、他国に比べ、より大きな緩和余地を残しておくための競争であり、やはり景気後退時の自国通貨高を避けるための競争である。この競争は、どこかの国の景気が他に先んじて良くなり、当該国が金融引き締めを開始する時にスタートする。

 

 日銀や円という観点から考えれば「今、出口に立たなければ、将来の景気後退時に、金融緩和の余地が相対的に見て小さいために、少なからぬ円高圧力が生じる」恐れがあるし、この意味では、景気が非常に良好な現在のうちに出口に立つ方がよい。

 

 確かに、インフレ目標を何が何でも達成し、オーバーシュート(目標を上回る状態)までも許容することで、インフレ期待を高めにアンカーする(固定する)かどうかは、将来の経済・金融政策運営や為替レートの長期均衡水準にとって非常に重要かもしれない。ただ筆者は、日本がそれだけ高インフレの期間を経験する前に、米国は景気後退に陥ると見込む。

 

 ◇同時引き締めの危うさ

 

 また今、出口に立つと「前回の日銀引き締め時(06年)の二の舞いになる」との指摘もあろうが、前回、日本が景気後退に陥ったのは、日銀による引き締めのせいではなく、米国の景気循環のためである。そして、それは今回もまた同じことであろう。

 

 残された期間が長くないならば、今の日銀にできることは、好景気だからこそ出口に立ち、幾分の円高も許容しつつ、将来に金融緩和の余地を確保しておき、来るべき景気後退での円高やディスインフレの圧力を最小限にとどめ、次の機会をうかがうことだと考える。今、手を打たなければ、インフレ率のオーバーシュートの前に、インフレ期待の大幅なアンダーシュートが生じてしまう恐れがあるだろう。

 

 ただし、これはゲームである。他のプレーヤーがいることを忘れてはならない。皆が同じことを考えて、皆が出口に立とうとすれば、これまで巨大な流動性に支えられて上昇してきた株式市場をはじめとする世界の相場が一気に巻き戻され、終焉(しゅうえん)を迎える恐れがある。現在のように世界の景気が良い状態の時は、多くの国が同時に引き締めを選択する可能性があり、過剰流動性相場の下で大きな危うさを抱えていることを念頭に置く必要がある。

 

 

(重見吉徳、JPモルガン・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト)

 ◇しげみ・よしのり

 

 

 大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。農林中央金庫に入り、投資業務などに従事。野村アセットマネジメントで運用業務、アール・ビー・エス証券の外国債券ストラテジストなどを経て、2013年から現職。


第64回 福島後の未来:事故の原因は「私」の心の中にもある 「ひとごと」ではなく将来を考える=石橋哲

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 ◇いしばし・さとし

 

 

 1964年和歌山県生まれ。東京大学法学部卒。日本長期信用銀行(現・新生銀行)や産業再生機構などを経て201112月国会事故調事務局に参加。

福島第1原発事故は、「原子力ムラ」ばかりの責任ではない。国民一人ひとりが自分のこととして受け止めないと、いずれ同じような大震災を招く。

 

 テーマは、福島第1原発事故の原因究明のため国会に設置された「国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)」の報告書を出発点に、社会のシステムについて世代を超え考える場を作り出すことだ。福島原発事故で何が起き、そして事故から得られる教訓とは何かを参加者とともに考える。

 

 


 ◇原発事故は「自分ごと」

 

 福島原発事故の根本的な原因について、こんなことが言われている。原発は、電力会社や行政など「専門家」と言われる「原子力ムラ」に任せきりだった。その結果、「ムラ」の同調圧力が「グループシンク(集団浅慮)」を招き、事故につながった──と。しかし、本当に彼らだけの責任だろうか。

 

 国会事故調は、衆参両院の全会一致で成立した東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(国会事故調法)に基づき、2011年12月8日に設立された。「東電事故調」や「政府事故調」など、事故の当事者が手がけた自己点検とは、組織や活動の性質が根本的に異なる。「国民の代表」であり「国権の最高機関」である国会が、法的権限(国政調査権)を背景に、本来的な役割である「行政監視」を憲政史上初めて行使したものだ。

 

 実は国会の機能は、歴史的には「立法」よりも「行政監視」のほうが先に立つ。国会事故調のような行政監視の取り組みは、海外では普通に行われている。

「事故は人災である」。国会事故調が12年7月に報告書を発表した当時は、このフレーズばかりが大きく取り上げられた。事故の責任者を特定・断罪しない点を非難する国内メディアも多かった。

 

 しかし、海外で高く評価され、私自身、国会事故調の肝だと考えているのは、このフレーズの先にある。

 

 具体的には、以下の通りだ。

 

 ▽「事故の背後にあるのは自らの行動を正当化し、責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織、制度、さらにはそれらを許容する法的な枠組みであった」

 

 ▽「関係者に共通していたのは、およそ原子力を扱うものに許されない無知と慢心であり、世界の潮流を無視し、国民の安全を最優先とせず、組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思い込み、常識)であった」

 

 ▽「当委員会(国会事故調)は、事故原因を個々人の資質、能力の問題に帰結させるのではなく、規制される側とする側の『逆転関係』を形成した真因である『組織的、制度的問題』がこのような『人災』を引き起こしたと考える。この根本原因の解決なくして、単に人を入れ替え、あるいは組織の名称を変えるだけでは、再発防止は不可能である」

 

 ▽「ここにある提言を一歩一歩、着実に実行し、不断の改革の努力を尽くすことこそが、国民から未来を託された国会議員、国権の最高機関たる国会であり、国民一人ひとりの使命である」

 

 国会事故調は、規制当局の独立性を担保し、事故を招いたマインドセットを克服するため、透明性や公開性の徹底と確保を狙いとした7点を提言した(表)。そのうえで、「当委員会は、国会に対しこの提言の実現に向けた実施計画を速やかに策定し、その進捗(しんちょく)の状況を国民に公表することを期待する」と念押しした。

 

 

 

 事故から7年、報告書発表から5年半。事態はどう進んだだろうか。

 

 ある国会議員は「報告書は敗戦の原因を分析した『失敗の本質─日本軍の組織論的研究』(戸部良一ほか)を読むようだ。自分の手には負えない」と突き放した。国会事故調が法律に沿って半年で解散したことを「知らない」と答えた議員もいた。「実施計画」の議論は現時点まで確認できない。

 

 メディアでも「原発事故」をタイトルに打つことが敬遠されるムードだという。政治家や専門家だけではない。

 

 上司や仕事仲間を「そんたく」して言うべき言葉をのみ込み、「自分ごと」をできる限り矮小(わいしょう)化して課題の多くを「ひとごと」として片付ける。そんな態度を「スマートさ」だと勘違いし、うのみにした他人の意見を「自分で考えたフリ」にして吐き出す。すると周囲も、「事務処理能力が高い」と評価してくれる。

 

「ムラ」と同じ現象は、私たちの心の中や日常生活の至るところにあふれている。私たちは未来の国民から託されているはずの「事故の再発防止」という使命を放棄したままだ。

 

 社会現象としての災害は、それまでに積み上げられた原因が、あるとき飽和点に達し、決壊することで起きるものだ。

 

 本来なら、会議室で述べるべき違和感を、会社ではなく、飲み屋のグチとして発散していないだろうか。それが次の事故への一歩を進めるのかもしれない。

 

「福島原発事故とは何だったのか?」子どもたちも将来、海外の人たちから聞かれるときがくる。国会事故調の報告書は、そんなときにも役立つはずだ。しかし、報告書は分厚く、地味で、手に取りにくい。

 

 ◇広がるプロジェクトの輪

 

「わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)」は、国会事故調の報告書をできるだけ多くの人に理解してもらいたいという思いを共有した元事務局メンバーや社会人、学生有志らが12年9月に設立したものだ。

 

 まず作ったのは漫画のような「ストーリーブック」(http://naiic.net/storybook)と、2~3分程度の動画6本で報告書の概要を把握できるイラスト動画(http://naiic.net/iv)だ。プロジェクトはいま世代や立場を超えた対話を通じて内省を深め、自己革新への契機を得る「場」になっている。

 

 プロジェクトに参加した福島県立福島高校の生徒は14年秋に「ガチ輪読会」、通称「ガチリン」を自主的にスタートした。

 

 参加した生徒はいう。

「『自分の頭で考えろ』とよく言われるが、無意識のうちに他人の意見をただ受け止めただけなのに、自分で考えたフリをし、思考停止に陥っていることがしばしばあることに気づかされた」

「私たちは原発政策に賛成か反対かを話し合っているのではない。原発事故を取り巻くさまざまな状況を知ることで、社会の構造や仕組みを探っている。自由に意見を言い合い、対話を続ける過程で自分と向き合い、大切なことに気づく」

 

 ガチリンは、同校の先生方の協力も得て、すでに5期目に入っている。

 

 私自身も、プロジェクトへの参加を通じて大きな力をもらっている。世代や立場を超えて対話し、互いに学び合い、自分を変える「ワクワク感」は、将来へのイノベーションにつながると確信している。

 

 日本は将来、「愛する国」として、選択肢に残り続けることができるだろうか。読者の皆さんにとっても、ひとごとではない。私たちはみな未来に対する責任と使命を担っている。

 

 あなたは今日、何をしますか。ぜひ「飲み屋のグチ」を撲滅する大作戦に一緒に取り組みましょう。

 

 

(石橋哲・政策研究大学院大学客員研究員、元東京電力福島原子力発電所事故調査委員会〈国会事故調〉事務局・調査統括補佐)

幅広い備品群でクルマの激変を好機に 森谷弘史 カルソニックカンセイ社長

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 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 

 

── 主力の自動車部品は。

 

 

 

森谷 カルソニックとカンセイという大きな部品メーカーが合併してできたため、非常に幅広い製品群を持っているのが強みです。最大の柱はコックピットモジュールなど内装事業で全体の3割強を占めます。

 

 

 

 次いでラジエーターなど熱交換器とエアコンなど空調器をまとめたサーマル(熱)関連が3割弱、速度メーターなどの計器類を含めたエレクトロニクス(電子部品)関連が2割、さらにマフラーなど排気関連が2割という構成です。今後は電気自動車(EV)化の流れもあり電子部品が増えていくでしょう。

 

 

 カルソニックカンセイは、日本ラジエーター製造(1938年創業)として始まったカルソニックと、関東精器(56年創業)として始まったカンセイという、日産自動車を顧客とする2大手部品メーカーが2000年に合併して誕生した。05年には日産の連結子会社となるが、17年に日産が米投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)傘下のCKホールディングス(HD)が実施した株式公開買い付けに応じたことで同社の完全子会社となる。

 

 

 

── 2大部品メーカーの合併は大変でしたか。

 

 

 

森谷 当時、日産の買い付け部門にいた私は、非常に近い立場で合併を見ていました。ちょうど自動車業界にも「モジュール化」、つまり、パソコンなど電子機器のように、標準化されたモジュール部品を組み合わせて製品を設計するという新しい流れが起きていました。相乗効果が出るまでは時間がかかるとの見方もありましたが、スムーズに一つの組織としてまとまりました。日産がモジュール化で他社に先行できたのは合併の効果だと思います。

 

 

 

── 具体的な効果とは。

 

 

 

森谷 当社の強みは製品群の広さのほかに、コックピットモジュールなど通常は完成車メーカーが内製する製品の開発をリードしていることです。これは他社にはない特長で、クルマの開発の全工程を理解しているからできることです。

 

 

 

 クルマは自動運転化や電動化、インターネットとつながるコネクテッド化など複数の領域で技術革新が進んでいて、完成車メーカーは開発のための人材や技術が不足しています。重要パーツの開発を任せられる当社のような部品メーカーとのつながりは、完成車メーカーにも大きなメリットだと思います。

 

 

 

── 日産傘下を離れた理由は。

 

 

 

森谷 コックピットモジュールのように設計から生産までできる部品メーカーは少ないです。この強みを生かして、日産以外の完成車メーカーにも部品をOEM(受託生産)供給していくためにCKHDの傘下に入りました。現在は日産向けの比率が80%です。中期経営計画では21年までに日産以外のシェアを20%から30%に増やすことが目標です。

 

 

 

── EV、自動運転で激変する環境にどう対応しますか。

 

 

 

森谷 EVの「日産リーフ」は、当社製のインバーターとバッテリーのモニタリングシステムを採用しています。今後、これらの需要が高まれば、他メーカーに供給する機会も増え、モーターやバッテリーを手がける部品メーカーと連携するなどビジネスの幅が広がると見ています。

 

 

 

 また、EVになってもコックピット回りの部品やエアコンは必要です。EVの場合、エアコンをつけると燃費が低下するので高効率の製品が求められます。また、EVへの過渡期の技術として期待される、発電のためにエンジンを回す「レンジエクステンダー」には排気マフラーが必要です。EV化は幅広い部品を持つ当社には追い風です。

 

 

 

 ◇サイバー対策で先行

 

 

 

── M&A(企業の合併・買収)の計画はどうですか。

 

 

 

森谷 中期経営計画では21年に売上高25%増を目標にしていますが、これは自社だけで達成する計画です。しかし、M&Aに興味はあります。そこで強みになるのがM&Aの専門家集団のKKRの存在です。実際、M&Aを行ったらどのような成長シナリオが描けるか議論しています。

 

 

 

── 海外展開は。

 

 

 

森谷 現在、世界15カ国に79拠点を構えますが、創業80周年の今年、ルーマニアに80カ所目の拠点としてメーター関連の電子部品工場を設けます。これまで欧州には電子部品の工場がありませんでしたが、近年は需要が拡大しています。そこで人件費が比較的安い東欧に注目しました。

 

 

 

── 新規事業は。

 

 

 

森谷 自動車業界で今までになかった試みとして、クルマのサイバーセキュリティー技術を開発する新会社ホワイトモーションを、フランスのIT企業クォークスラブと合弁で17年に設立しました。次世代車と目されるコネクテッドカーの課題は、サイバー攻撃によって突然ハンドルが利かなくなるといった危険があることです。クルマの場合、人命に関わるためハッキングを防ぐソフトウエアの需要が増えると見ています。ソフトの更新需要が常にあるため利幅も期待できます。

 

 自動車業界は1回売り切りの低利なビジネスが多いですが、セキュリティー分野をきっかけに高収益のビジネスを確立することも可能です。

 

(構成=大堀達也・編集部)

 

 

 

 ◇横顔

 

 

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

 

 

A 日産で部品調達を担当していました。製造拠点のあったメキシコやスペインに赴任し、異文化

 

の中で仕事とプライベートを充実したものにできたことが今につながっていると思います。

 

 

 

Q 「私を変えた本」は

 

 

 

A 大の読書好きですが、小学生のときに読んだ『少年少女世界文学全集』で本が好きになりました。読書は人間の成長に欠かせない投資だと思います。

 

 

 

Q 休日の過ごし方

 

 

 

A 平日と同じ4時半に起床し、静かな数時間を読書や映画鑑賞に充てています。これは至福の時間です。

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 ■人物略歴

 

 ◇もりや・ひろし

 

 1957年生まれ。山形県出身。宮城県立仙台第二高校、山形大学人文学部卒業後、1980年日産自動車入社。2006年CVP執行役員、07年カルソニックカンセイに入社し常務執行役員に就任。12年副社長を経て、13年4月から現職。60歳。

 

………………………………………………………………………………………………………

 

事業内容:自動車部品の開発・製造

 

本社所在地:さいたま市

 

創立:1938

 

資本金:16億円(20181月末時点)

 

従業員数:22424人(連結)

 

業績(173月期・連結)

 

売上高:1126億円

 

特集:みんなの「労働法」 2018年2月20日号

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 対応できない会社はつぶれる!

 高まる労務リスクに必要な備え

 

 労務に詳しい社会保険労務士や弁護士のセミナーが今、各地で大盛況だ。

36(サブロク)協定の内容を、皆さんの会社の管理職は知っていますか。皆さんはよく分かっているつもりでも、疑ってください。知らないほど怖いものはありませんよ」――。

 

 

 東京・丸の内のオフィスビルで1月25日に開かれた「『働き方改革』の実現に向けたセミナー」。講師となった三井住友海上経営サポートセンターの経営リスクアドバイザーで、社会保険労務士の斎藤英樹さんの声が響く。

労務や働き方改革のセミナーに高い関心が集まっている

 

 東京商工会議所共済センターの主催で、会員企業の労務担当者ら約130人が参加。すでに1カ月前に定員を超える申し込みがあり、参加者の枠を増やして対応したという。

 

 斎藤さんが言及した「36協定」とは、労働基準法第36条で定める時間外・休日労働についての労使協定のこと。36協定のない時間外・休日労働や協定を超える時間外労働も違法になる。

 

 斎藤さんは管理職向けに自社の36協定についてのペーパーテスト実施などを提案した。これら労務上の社内体制の見直しと同時に斎藤さんが強調したのは、労働時間を減らしても生産性を維持・向上する手を打つこと。仕事の段取りを部下と共有するなど具体的に対策を示し、参加者のメモを取る手が止まらない。

 

 セミナーに参加した都内のあるメーカーの労務担当者は、「労働時間の長い部署が一部あり、労働時間削減のため何かできることはないかと申し込んだ」と話す。同時に悩ましく感じているのは、新卒採用などで労働条件や福利厚生が重視される傾向が強まっていること。「労働条件などが悪いと感じられてしまうと、口コミなどでどんどん広がる可能性がある。今のうちに是正できることはやりたい」と危機感を強めた。

 

 ◇「人手不足倒産」も

 

 企業側に労務への意識が高まる背景の一つには「人手不足」がある。

 

 

 厚生労働省が1月30日に発表した2017年平均の有効求人倍率は前年比0・14ポイント上昇して1・50倍となった(図1)。上昇は8年連続で、統計史上過去最高だった1973年の1・76倍に次ぐ2番目の高水準。また、1712月の有効求人倍率(季節調整値)は1・59倍に達した。総務省が発表する完全失業率も、17年平均で2・8%と7年連続で改善し、少子化や景気拡大を受けて人材の“争奪戦”が激しさを増している。

 

 

 仕事があるにもかかわらず、人手が足りずに倒産に至る「人手不足倒産」も増えている。帝国データバンクによれば、17年の人手不足倒産は前年比34件増の106件。2年連続の増加で、人手不足倒産を調査し始めた13年(34件)に比べれば3倍となった。業種別に見ると建設業が29件と最多で、サービス業の27件と続く(図2)。

 

 

 帝国データバンク東京支社情報部の内藤修副課長は「雇用を確保するために人件費が高騰し、企業側の負担が増えている。人手不足倒産は今年も増えていくだろう」と見る。

 

 帝国データバンクが人手不足倒産に分類した事例の一つが、負債約3億円を抱えて大阪地裁から昨年12月、破産開始手続き決定を受けた防災設備工事業者、クラシタ電気設備(大阪市)だ。好調な建設市況を受けて16年9月期には売上高約6億1000万円を計上したものの、職人不足から外注費が増加。価格競争も激しく、資金繰りが限界に達した模様だ。良い労働条件を求めて働き手が流れ、多くの企業が新規採用難ばかりでなく社内の人材も流出する事態に直面している。

 

 労働条件や働き方の改善に積極的に取り組む会社も出てきている。オリックスは今年4月から、国内のグループ14社で平均3・3%の賃上げとなる月額1万円のベースアップを実施。賃上げは5年連続となるほか、5営業日以上の連続休暇を取れば奨励金を支給する「リフレッシュ休暇取得奨励金制度」で奨励金を一律5万円に引き上げる。グループ人事・総務本部の三上康章本部長は「働き方の見直しで平均残業時間も短くなっており、生産性が上がった分を社員に還元したいと考えた」と話す。

 

 ◇「働き方改革」の圧力

 

 J・フロントリテイリング(JFR)は昨年6月、傘下の大丸松坂屋百貨店など2社の有期雇用社員約1600人を、原則として無期雇用の「専任社員」に転換した。売り場に立つ販売員が中心で、賃金は正社員の8390%ほどだが、その他の待遇はほぼ同じ。労働契約法改正で今年4月から、同じ企業で5年を超えて働く有期雇用労働者が申し込むと無期雇用に転換する「無期転換ルール」が始まるのを前に、「優秀な人材確保のため」(JFRグループ人事部の梅林憲部長)と一歩を踏み出した。

 

 1月22日に開会した通常国会で、政府は働き方改革関連法案を最大の目玉に位置づけ、安倍晋三首相は「戦後の労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革」と意気込む。

 

 関連法案では、同一労働同一賃金の実現や時間外労働の上限規制などを盛り込んだ。厚労省は中小企業については影響が大きいとして、残業上限規制は20年度から、同一労働同一賃金は21年度からの適用と、現在の予定からそれぞれ1年延期する方針だが、働き方の見直しに残された時間は少ない。

 

 ◇労基署の監督強化

 

 労務への関心が高まるもう一つの背景が、労働基準監督署が長時間・過重労働への監督を強化していることだ。1512月に電通の女性新入社員が過労自殺したことや、政府の働き方改革への旗振りを後押しに、業種などの「聖域なく」(労基署関係者)長時間・過重労働に厳しく目を光らせるようになった。最近目立つのは、IT・メディア業界や大規模病院など医療業界に対する是正勧告だ。TBSに対しては今年1月、36協定を超える時間外労働をさせたとして、三田労基署が是正勧告した。

 

 また、日赤医療センター(東京都渋谷区)には渋谷労基署が昨年3月、同様に医師に対して36協定を超える時間外労働をさせたとして是正を勧告。北里大学病院(相模原市)も相模原労基署が昨年12月、就業規則で医師の勤務時間を定めず、違法な残業をさせたとして是正勧告した。ある病院関係者は「勤務時間も忘れて熱心に仕事に取り組む医師が多く、そうした医師に医療体制は支えられている」と話す。ただ、賃金は比較的高額であっても、医師も労働者であることには変わりない。

 

 杏林大学病院を運営する杏林学園(東京都三鷹市)も昨年10月、三鷹労基署から医師に36協定を超える残業をさせ、残業代も不足していたとして是正勧告を受けた。杏林学園が対象となった医師約600人に対し、昨年4~9月分の残業代の割り増し分として支払った金額は約3億円にのぼる。医師でなくとも可能な業務を看護師などへ移したり、勤務時間を細分化して24時間のシフト勤務を確保する変形労働時間制を医師にも導入するなどしたという。

 

 労務や働き方は、会社経営や働く人の人生を大きく左右するリスクとなった。事業主も労務担当者も、働く人も皆、無知ではいられない。

 

(成相裕幸・編集部)

 

(桐山友一・編集部)

週刊エコノミスト 2018年2月20日号

発売日:2018年2月13日

定価:620円


目次:2018年2月20日号

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CONTENTS

みんなの「労働法」
18 対応できない会社はつぶれる! 高まる労務リスクに必要な備え■成相 裕幸/桐山 友一
21 「未払い賃金」の大問題 多額請求が経営を揺るがす ■松本 祐徳
22 大解説 どれほど変わる?! 働き方改革関連法案 ■峰 隆之
25 労基署はこう動く! 長時間・過重労働に厳しく ■森井 博子
28 本当に大丈夫? 「裁量労働制」の大きな誤解■河野 順一/桑原 敬
30 雇い止め続出? 有期雇用の「無期転換」ルール ■倉重 公太朗
31 派遣法の改正 10月から「違法派遣」に? ■山口 寛志
32 困ったモンスター社員 いきなり解雇はトラブルの元 ■向井 蘭
33 ブラック企業の見分け方 頻繁な社名変更に要注意
34 意外と知らない! 労働法の基礎知識 Q&A ■松本 祐徳
38 これって、どっち? 「請負契約」のグレーゾーン ■山口 寛志

76 景況 日本でもスロートレード脱却か ■山本 大介

Flash!
75 ひと&こと 仮想通貨業界団体の統合 進展なくいら立つ金融庁/シェアハウス投資で悶着「知らなかった」スルガ銀行/知事に訴えられた新潟知事 「言葉に重みが……」の声

World Watch
58 ワシントンDC 「eスポーツ」プロリーグ発足 フランチャイズ制でファン形成 ■井上 祐介
59 中国視窓 「二人っ子政策」の誤算 教育費高騰で広がる格差 ■岸田 英明
60 N.Y./シリコンバレー/英国
61 オーストラリア/インド/ミャンマー
62 香港/ロシア/イラン
63 論壇・論調 パウエルFRB新議長が就任 勢いづく2%目標反対派 ■岩田 太郎

Interview
4 2018年の経営者 森谷 弘史 カルソニックカンセイ社長
44 問答有用 伊勢崎 賢治 東京外国語大学教授
 「紛争に勝つことよりも、いかに統治するかが大事です」

緊急 米国発 マネー激流
第1部 日米株、米金利、ドル・円
11 米国の金融正常化の序章 脱「流動性相場」の試練  ■編集部
12 米国株 馬渕 治好/大川 智宏
13 日本株 香川 睦/重見 吉徳
14 ドル・円 宇野 大介/上野 剛志
15 米金利 市川 雅浩/丹治 倫敦
第2部 新興国
78 年間債券発行額2兆ドル突破 中東・アフリカ地域で急増 ■長谷川 克之
80 フラジャイルと呼べる状況ではない ■中島 将行
81 原油 1バレル=50ドル台後半~70ドル台後半、80ドルも ■江守 哲
82 クレジット 経常赤字、過大な対外債務国に注意 ■中空 麻奈

84 インタビュー 湯〓 英彦 広島県知事 「グローバルなリーダーを育成」

Viewpoint
3 闘論席 ■池谷 裕二
17 グローバルマネー 「法律家」がトップに就いたFRB
39 国会議員ランキング(13) 農林水産委員会の質問時間 ■磯山 友幸
40 海外企業を買う(177) ダウ・デュポン ■小田切 尚登
42 名門高校の校風と人脈(277) 今治西高校(愛媛県) ■猪熊 建夫
48 学者が斬る 視点争点 独に学ぶ増税時の政策選択 ■嶋田 崇治
50 言言語語
64 アディオスジャパン(89) ■真山 仁
66 東奔政走 野党統一会派の迷走と「額賀降ろし」 安倍1強にあらがう二つの騒動 ■平田 崇浩
68 出口の迷路(19) 戦前の国債直接引き受けより強烈 ■平山 賢一
70 商社の深層(102) 豊田通商社長人事に見る 総合商社への脱皮の本気度 ■河村 靖史
71 キラリ!信金・信組(8) 第一勧業信用組合(東京都) ■浪川 攻
72 図解で見る 電子デバイスの今(6) 次は“光る半導体”がブレーク 自動車用ヘッドライトと顔認証 ■津村 明宏
92 独眼経眼 日本の生産性改善は実はトップクラス ■藤代 宏一
93 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Post-mall age ” ■安井 明彦
94 ネットメディアの視点 社会課題からエンタメまで 「ポジティブなインパクト」の先に ■古田 大輔
96 アートな時間 映画 [野球部員、演劇の舞台に立つ!]
97        クラシック [東京・春・音楽祭]
98 ローカル・トレインがゆく(11) 坊っちゃん列車 ■文・波多野恵理/撮影・藤井啓司

[休載]挑戦者 2018、エコノミスト・リポート

Market
86 向こう2週間の材料/今週のポイント
87 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット
88 中国株/為替/金/長期金利
89 マーケット指標
90 経済データ

書評
52 『消費低迷と日本経済』
  『北朝鮮 核の資金源』
54 話題の本/週間ランキング
55 読書日記 ■高部知子
56 歴史書の棚/海外出版事情 中国

51 次号予告/編集後記

戦前の国債直接引き受けより強烈=平山賢一〔出口の迷路〕金融政策を問う(19)

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国債市場の参加者は思考停止に陥っているが、一度動き出せば想定以上のリスクにさらされる可能性がある。

 

平山賢一(東京海上アセットマネジメント運用戦略部長)

 日本銀行の量的・質的金融緩和導入から5年を経て、多くの債券ファンドマネジャーに2018年の見通しを聞いてみると、「微修正はあっても、現在の金融政策のスタンスが大きく変わることはない」と現状維持を決め込む意見が多いことに驚く。日銀の市場操作方針に沿った売買を愚直に繰り返せば、ここ数年は容易に利益を積み上げることができた。国債市場参加者の多くが、この願望にも似た見通しを抱きつつ、財務省の入札と日銀の市場操作にだけ神経を集中させることに慣れ切ってしまっているわけだ。

 

 これは、1940年代前半の国債市場参加者が、政府の国債消化策に従い、自律的な市場の価格決定機能を低下させていった状況に似ているとは言えないだろうか。当時は三分半利債(利率3・5%)が、3・7%の利回り水準でくぎ付けされた。現在は日銀のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)により10年国債利回りがゼロ%にくぎ付けされている。水準こそ違うが、国債市場参加者の思考停止状態は共通している。

 

 ここでは、現代と同様に国債市場参加者が思考停止に至った戦前・戦時期の国債市場を確認することで、現在の国債市場の脆弱(ぜいじゃく)性と今後の金融政策の課題を考えてみたい。

 

 1932年以降に実施された日銀による国債の直接引き受けは、経済に大きな影響を及ぼした政策として知られている。だが、現在の日銀による市場を介した国債購入は、それ以上に強烈な政策として位置付けられよう。

 

 というのも戦前の国債引き受けは、日銀が引き受けた国債の90%程度は、そのまま5大銀行をはじめとする金融機関に売却されたため、日銀が国債を丸抱えしたわけではなかったからである。むしろ、国債残高に占める日銀の保有比率は、40年に約14%でピークアウトし、45年には約5%まで低下している。現在は財務省から発行された国債を国債市場から購入しているとはいえ、日銀の保有比率は41%(2017年9月末、国庫短期証券を含む)まで上昇しており、国債に対する関与率は戦前期の比ではないほど大きいのである。

 

 国債残高に占める預金取扱金融機関の保有比率は約17%まで低下しており、戦時期に割り当てを実施して市中金融機関による国債消化に躍起になった政府とは全く異なる状況にある(1945年の同保有比率は約56%)。この間に、5大銀行をはじめとする大銀行は、軍需産業等への融資拡大が至上命題として課されたため、戦時末期には日銀が引き受けた国債の主たる売却先は地方銀行だった。重要なポイントは、国債利回りを固定化する価格統制を実施しつつも、金融機関などを介して広く国民に国債保有を促していた点である。

 

 現在は、10年国債利回りの水準を固定化する点では共通するものの、国債保有は日銀に集中させている点で大きく異なっている。本来は、累増する国債所有構成の多様化を図るべきところを、日銀への集中化が進み、一方で、機動的に投資戦略を変える海外投資家の保有比率(約11%)が高まっているのである。

 

 

国債の日銀引き受けでらつ腕を発揮した高橋是清蔵相

 

 ◇資本逃避を防ぐ

 

 国債保有構成の相違に加えて、現代の国債市場は戦前・戦時期と比較すると、主として三つの相違点があることを指摘したい。

 

 第一に、戦前期は日銀の引き受け実施に先駆けて、資本逃避防止法が制定され、国内資金の海外流出を抑制した点を挙げることができる。国内の余剰資金は国内で還流することになり、資本逃避による市場変動を回避することが容易になった。

 

 現代では、グローバルな資金移動を抑制し、国内資金が海外に流出することを回避することは難しい。市場性のある長期債利回りを固定化するイールドカーブ・コントロール政策も、戦前期のように容易にできるとは限らないと言えよう。

 

 第二に、戦前期は、国債の標準発行価格制度が採用され、国債の時価が下落しても発行価格で評価することが可能になった。これは時価会計が採用されていた戦前期にあっては、国債評価損計上リスクが低減するため、非常に強い国債保有動機を投資家にもたらすことになった。

 

 現代の場合には、国際金融規制などもあり、国債保有に伴う時価評価損失を全く計上しないというわけにはいかない。国債保有が日銀に集中する中で、再び金融機関などの保有比率を引き上げるためには有効な手立てかもしれないが、実現可能性は低いと言えよう。

 

 第三に、戦前から戦時期にかけては、金融財政当局による一元的な統制行政が実施され、国債管理政策・金融行政をつかさどる大蔵省やその他省庁と日銀が一体となって金融統制を実施していた。しかし、現代は、国債の調達管理を円滑に行いたい財政当局、金融機関の効率・健全経営を推進したい金融当局、物価の安定を図りたい中央銀行の方向性は、必ずしも一致していない。

 

 ◇変動率は上がっている

 

 これらの市場環境の違いは、国債市場のリスクにも反映されている。残存年数1年超の国債全銘柄に投資した際に得られる収益率(月次リターン)の年間標準偏差により、国債市場のリスク(変動率)を算出した(図)。

 

                               

                               

 戦前期に日銀による国債引き受けが実施された期間に、国債市場のリスクは急速に低下し、戦時期には長期金利が固定化されたため国債リスクは消失したと言える。それだけ、金融統制が発揮され市場の変動抑制に成功していたわけである。

 

 一方、現代にあっては、量的・質的金融緩和が採用された2013年や、マイナス金利が導入された16年など政策変更があった年には、国債市場のリスクが低下するのではなく、むしろ上昇している。13年以降も、ある程度の変動率が維持され、1940年代のように短期金融市場並みの水準までリスクが低下しているわけではない。同じように長期金利を固定化しているという点で共通しているものの、戦時期と現代の国債市場は別物であると考えてもよさそうだ。

 

 一見、静かな国債市場だけに、変化し始めたときには大きな衝撃が生じる可能性もある。そもそも、日銀が金融引き締めを実施した時代を知らない債券ファンドマネジャーも増えており、その時には見通しさえ立てられずに右往左往するかもしれない。

 

 また、海外投資家の中には、安いコストで調達できる日本円を活用して日本国債を保有すると、容易に利ザヤが稼げる状況を利用する層が一定程度存在しているのも心配の種だ。これらの投資家は、金融政策の転換により状況が変化すれば、瞬時に運用戦略を変更し、持ち高を整理するために日本国債の売り手に回ることになるからだ。

 

 さらに、株式市場は、国債市場とは対照的に、2017年末から様子が違ってきている。一部の株式ファンドマネジャーは、世界的な景況感の良さと、米国の政策金利引き上げを背景に、これまで避けられてきた銀行株を買う動きが出始めている。金利上昇により業績回復が期待できる銀行株に対する見通しの変化は、従来の金融政策を背景とした投資行動とは一線を画しているものと言えよう。

 

 18年は金融政策の微修正が想定されているが、出口を考えるならば、戦前に行われた、資本逃避規制、国債評価額制度は難しいとしても、政策当局者間の協調、意思統一くらいは確保すべきだと言えそうだ。

 

 

(平山賢一・東京海上アセットマネジメント運用戦略部長)

 ◇ひらやま・けんいち

 

 

 1966年神奈川県生まれ。89年横浜市立大学商学部卒業、大和証券投資信託委託入社。94年青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了。97年東京海上火災保険入社。東京海上アセットマネジメントチーフファンドマネージャー兼チーフストラテジストなどを経て、2016年から現職。著書に『振り子の金融史観』『「増やすより減らさない」老後のつくり方』など。



2018年2月20日号 週刊エコノミスト

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発売日:2018年2月13日

定価:620円

みんなの

「労働法」

 

対応できない会社はつぶれる!

 

高まる労務リスクに必要な備え

 

 労務に詳しい社会保険労務士や弁護士のセミナーが今、各地で大盛況だ。

36(サブロク)協定の内容を、皆さんの会社の管理職は知っていますか。皆さんはよく分かっているつもりでも、疑ってください。知らないほど怖いものはありませんよ」――。

 

 

 東京・丸の内のオフィスビルで1月25日に開かれた「『働き方改革』の実現に向けたセミナー」。講師となった三井住友海上経営サポートセンターの経営リスクアドバイザーで、社会保険労務士の斎藤英樹さんの声が響く。

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目次:2018年2月27日号

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CONTENTS

 

A1時代の食える弁護士

20 押し寄せる変革の波 賢い活用が命運握る ■酒井 雅浩/谷口 健

22 企業法務弁護士ランキング チェンバース&パートナーズランキング

25 スター弁護士インタビュー ケン・シーゲル外国法事務弁護士 モリソン・フォースター東京オフィス代表

 「日本を魅力的な投資先に 長く厳しく働いてこそ弁護士」

26 法律事務所ランキング チェンバース&パートナーズランキング

8大法律事務所トップに聞く

28 西村あさひ 保坂 雅樹 アンダーソン・毛利・友常 江崎 滋恒/三村 藤明

30 長島・大野・常松 杉本 文秀 森・濱田松本 棚橋 元 TMI総合 田中 克郎

32 シティユーワ 片山 典之/栗林 康幸 大江橋 国谷 史朗 ベーカー&マッケンジー 武藤 佳昭

34 若手教育や事務所の立地 AIが変える大手の業務と働き方■酒井 雅浩/谷口 健

37 AIで弁護士業務が激変!? 米国で1.6兆円の「リーガルテック」 日本でも期待■谷口 健/酒井 雅浩

 

78 IT ブロックチェーンの本領はAIとIoT シェア経済の起爆剤にも ■大堀 達也

80 労働組合 与党・経営側との協調も視野に 少子高齢化対応へ進化を ■石川 和男

82 危機管理 巨大リゾート経営の「贈賄王」 オリンパス深セン工場を支配か ■編集部

 

Flash!

13 金融市場の動揺、恐怖指数急騰の不安定相場へ/黒田総裁が再任へ、金利抑制の長期戦/情報開示拒むコインチェック、具体的な再開時期を言及せず

17 ひと&こと 政治主導波紋の検察人事、官邸と近い実力次官留任/西村あさひに内容証明通知、贈賄調査報告書への疑念で/医師報酬は引き上げ、首相と医師会の蜜月背景か

 

Interview

4 2018年の経営者 杉浦 広一 スギホールディングス会長

94 挑戦者 2018 宮田 昇始 SmartHR社長

50 問答有用 松村 圭一郎 文化人類学者

「『うしろめたさ』のような共感が社会を動かす」

 

晩婚子育て層の「逆算」資産形成術

85 「使いながらの運用」で人生100年生き抜く ■野尻 哲史

88 iDeCoとつみたてNISA活用 ■前山 裕亮

90 見くびってはいけない年金 ■井戸 美枝

91 生命保険で資産形成は不利 ■後田 亨

92 家計のバランスシートを作ろう ■荻原 博子

 

エコノミスト・リポート

42 五輪を巡る腐敗 ロシアドーピング不正の教訓 東京五輪の「疑惑」に厳しい視線 ■北島 純

44 ドーピングを違法に 通常国会に法案提出へ

 

World Watch

64 ワシントンDC 通学と学習の費用対効果 世銀が有効な教育投資を提言 ■安井 真紀

65 中国視窓 「暗黙の元利保証」を規制 違反した金融機関に罰則 ■神宮 健

66 N.Y./シリコンバレー/英国

67 韓国/インド/インドネシア

68 瀋陽/ブラジル/南アフリカ

69 論壇・論調 中国が台湾境界に新航路 民間旅客機も圧力の手段に ■坂東 賢治

 

Viewpoint

3 闘論席 ■片山 杜秀

19 グローバルマネー すでに「低福祉・低負担」国家となった日本

41 キラリ!信金・信組(9) 内閣府が地方創生で選定 健闘が光る信金・信組続々 ■浪川 攻

45 商社の深層(103) 使う側が主役になる電力新時代 EVで豊田通商が新たな挑戦 ■編集部

46 海外企業を買う(178) 緑城服務集団 ■富岡 浩司

48 名門高校の校風と人脈(278) 早稲田実業学校高等部(東京都) ■猪熊 建夫

54 学者が斬る 視点争点 仮想通貨を良貨として育てるには ■西部 忠

56 言言語語

70 アディオスジャパン(90) ■真山 仁

72 出口の迷路(20) 衰えた市場に金利急騰リスク ■平田 英明

74 福島後の未来をつくる(65) 第1原発と住民が対話する環境づくりが重要 ■吉川 彰浩

76 東奔政走 北朝鮮に「対話」の戸口開く米国 日本に潜む“置き去り”リスク ■及川 正也

84 国会議員ランキング(14) 文部科学関連委員会の質問時間 ■磯山 友幸

102 独眼経眼 設備投資バブルが招くデフレ ■藻谷 俊介

103 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Rust Belt ” ■安井 明彦

104 ネットメディアの視点 仮想通貨は新興宗教か? 国家の支配に抗し、連帯で支える ■山田 厚史

108 アートな時間 映画 [犬猿]

109        舞台 [Endless SHOCK]

110 ローカル・トレインがゆく(12) くろしお ■文・中川美帆/写真・T.H

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■村上 俊介/週間マーケット

98 インド株/為替/穀物/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『テヘランからきた男』

  『エネルギー政策論』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■孫崎 享

62 歴史書の棚/出版業界事情

 

57 次号予告/編集後記

2018年2月27日号 週刊エコノミスト

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定価:670年

発売日:2月19日

 

AI時代の食える弁護士

 

押し寄せる変革の波

賢い活用が命運握る

 

 弁護士業界にも、AIの波が押し寄せている。新技術に詳しい弁護士の間では、AIが市場を席巻するのは、「近い将来」という見方がもっぱらだ。

 

「法律は一定の基準に基づいて判断するので、AIとの相性がいい。コンピューターのアルゴリズム(演算式)を用いれば『過去の判例によれば結論はこうだ』とのアウトプットは簡単」(ベンチャー企業に詳しい弁護士)という。

 

「AIの判断をどこまで信頼できるのか」という批判はあるが、「技術革新で安価にリーガルサービスを受けられるようになれば、必ずニーズはある」と分析する。


「薬が効く」原点は「患者さんの悩みを聞く」 杉浦広一 スギホールディングス会長

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 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── スギ薬局の特徴は。

 

 

杉浦 42年前、26歳で創業したときの「地域の医療に関わる」という強い理念に基づき、どう貢献するかを重視しています。今で言う地域包括ケア(医療や介護、生活支援など地域で総合的に支援)、在宅医療に携わりたいという思いは変わっていません。

── 具体的なこだわりは。

 

杉浦 調剤設備を全店に備えているのはこだわりそのものです。食品の売り上げが高いドラッグストアがありますが、当社は「ヘルスアンドビューティー」が軸です。患者様の話をよく聞き、「大丈夫。良くなりますよ。食養生(体調に合わせ栄養を考えた食事をとること)も大事にして、この薬を飲んで」と安心する言葉をかけると、薬はよく効くものです。

 

── 薬剤師は不可欠ですね。

 

杉浦 薬剤師を3人配置すると、薬剤師の人件費だけで月給30万円として約100万円かかります。調剤室の面積は約20坪(66平方メートル)ですが、これを商品の売り場にしたら、1坪当たりの月間売り上げが10万円として、売り上げが200万円増えます。調剤室を設置するとその分、売り上げは減るし、人件費が上がります。それでも処方箋調剤や患者様に薬剤師が応対することにこだわっています。

 

── なぜですか。

 

杉浦 薬剤師も医療を通じて人のために働きたいからです。お客様や患者様にいつでも相談してもらい、薬局での治療が困難なら病院を紹介する。私たちは人のために尽くしたい。その思想、理念は変わりません。

 

 関東、中部、関西でスギ薬局を展開するスギホールディングス。妻の昭子副社長と1976年に始めた16坪の薬局が出発点だ。2017年末現在、1093店に成長したが、2店舗目の開業は12年後、20年目までは約20店舗だった。急成長は最近20年ほどのことだ

 

── 2店舗目までの12年はどんなことに心血を注ぎましたか。

 

杉浦 年中無休で朝7時から夜11時まで薬局を開け、お客様一人一人の名前や渡した薬などを記憶し、次に来られた際は「いらっしゃいませ」ではなく、「症状は良くなりましたか」などと声をかける。親切丁寧に応対し、ファンになってもらうよう努めました。お客様との関わり方を身体に染み込ませました。

 

── 商売になりましたか。

 

杉浦 長いときは1人に1時間かけて接客したため、長時間待ってもらうこともありました。それでも来ていただき、20坪ほどの店でも薬や化粧品だけで1日数百万円売れました。

 

 2店舗目も3店舗目も、店長がこの姿勢を続けてくれて「病院よりよく効く」と言われるようになった。薬剤師が悩みを「聞く」ことは、薬が「効く」につながります。1000店舗に拡大すると私の管理は難しくなるが、「イズム」(考え方)はできています。

 

── 1000店へ飛躍の契機は。

 

杉浦 創業当初から「将来は1000店で4500億円」とは考えていませんでした。一人一人のお客様や患者様に対し、親切丁寧に応対してきた結果だと実感しています。

 

── 店舗が増えると社員教育が一層大事になりますね。

 

杉浦 社員教育はうちの神髄です。手を抜いたらあっという間にだめになります。店舗数が急に増えれば、経営の質や接客レベル、社員の質を保つのが難しくなる。その葛藤です。

 

 ◇病気予防のアドバイスも

 

── 国の社会保障費の削減は大きな課題です。

 

杉浦 約20年前から薬剤師が患者様の自宅に訪問する在宅医療に取り組んでいます。病気になって医療や介護のお世話になるのは大変です。そのためには病気にかからないように、健やかに過ごせることが大切です。最近では食生活を支援する管理栄養士の採用を増やして教育しています。来店のお客様に、管理栄養士が糖分や塩分、脂質の抑制など食生活についてアドバイスしています。

 

── 食生活への注意で十分ですか。

 

杉浦 運動も大事です。当社と行政などとが、共同でウオーキングなどのイベントを開いています。特に高齢者は筋力の低下を防止することが大切です。歩けなくなることは、いろいろな病気の元になる。自宅で簡単なスクワットやウオーキングを行うとともに、併せてサプリメントをはじめ栄養補助食品などの摂取をお勧めします。

 

── 集客にはつながりますか。

 

杉浦 すぐに売り上げにはつながりませんが、「スギさんで運動を教えられた」「元気になった」と喜ばれており信頼につながります。固定客やファンが増え、結果として売り上げが増えます。

 

── 他にどんな事業に取り組んでいますか。

 

杉浦 訪問看護にも取り組んでいます。珍しいと思いますが、薬局がやるべき仕事です。病院は患者さんがたくさんいて、手が回りません。薬局の出番だと思います。

 

── 今後の抱負は。

 

杉浦 売上高8000億円を目指し、主に関東、中部、関西で年間約100店舗を出店していきたい。もちろん、理念の合う企業とのM&A(企業の合併・買収)も考えています。

 

(構成=米江貴史・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃は

 

A 創業間もない頃で、年中無休、盆正月なしでひたすら働いていました。

 

Q 「感銘を受けた本」は

 

A 中村天風の著書からは人生の生き方を学び、ピーター・ドラッカーからは経営を教わりました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 今でも年中無休ですが、最近は年2回休みを取って、妻と海外旅行に出かけています。

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 ■人物略歴

 ◇すぎうら・ひろかず

 1950年、愛知県西尾市生まれ。県立西尾高校、岐阜薬科大学薬学部製造薬学科卒業。薬局勤務を経て76年スギ薬局(現スギホールディングス)創業。2009年5月から現職。67歳。

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事業内容:ドラッグストア「スギ薬局」の経営管理

本社所在地:愛知県大府市

創業:197612

資本金:1543400万円

従業員数:連結4927人(20172月末現在)

業績(172月期・連結)

 売上高:43079500万円

 

 営業利益:2283200万円

第65回 福島後の未来をつくる:第1原発と住民が対話する環境づくりが重要=吉川彰浩

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 ◇よしかわ・あきひろ

 

 

 1980年茨城県生まれ。東電学園卒。99年東京電力福島第1原子力発電所に配属、2008年福島第2原発へ転勤し被災。126月に東電を退職し、一般社団法人AFWを設立し、代表に就任。

次の世代のために責任をもって託せる環境をつくりたい。

かけがえのない「ふるさと」と「人生」を二度と失わないために。

 

 東日本大震災による津波が福島第1原子力発電所を襲った当時、私は東京電力の社員として福島第2原子力発電所で勤務していました。事故から丸7年が経過しようとしている今でも、死への恐怖感や、避難が始まった町の状況に心を奪われながら働いていたことを鮮明に覚えています。今でこそ、事故を防げなかった会社に対する責任追及の矛先が、現場で働く人たちに向けられることはほとんど見聞きすることがありません。しかし、事故が起きてしばらくの間は、身分を明らかにすることが家族にまで影響する状況があり、当たり前に社会に身の置きどころがありませんでした。

 

 

 


 そうした状況は、当時は過酷極まる環境で働く人たちを事故収束現場から遠ざける(辞めさせてしまう)ことにつながり、ひいては現場力の低下を招き、より事故収束を遅れさせ、震災・原子力事故からの復興を妨げる悪循環を生み出していました。何より私個人が辛かったことは、発電所で働く人たちの多くは、長年地元で暮らしてきたからこそ、原子力事故による被害を受けた人たちだったことです。

 

 この状況をなんとか改善できないだろうか。そう考え、私は2012年6月に東京電力を退職。地域で暮らし、事故収束に当たった一人の人間の声を広く社会に伝えることを通じ、働く人たちの作業環境の改善を訴えるとともに、事故収束を支えていくという面で正当なる評価を社会にしてほしいと活動を始めました。当初は個人で活動していましたが、徐々に仲間が増え、13年には任意団体「Appreciate FUKUSHIMA Workers(AFW)」を立ち上げ、原発作業員の方々へ支援物資を送る活動を始めました。

 

 全国からのさまざまな支援もあり、また当事者の環境改善への取り組みが進んだことで、過酷なる作業現場は少しずつ改善していきました。一方、放射性物質による汚染により二度と戻ることができないと思われた地域は、徐々に避難指示が解除されていき、事故の起きた福島第1原発を傍らに置きつつ、人々が暮らす場所としての復興・再興が進められてきました。

 

 そうした中、私たちの活動の重点は作業員の方々向けの支援から、原発事故を乗り越えて原子力事故の被害地域である旧避難区域や、現在も残る避難区域を次の世代に残すための取り組みへとシフトしていきました。任意団体は1511月に一般社団法人化し、名を当時の思いを忘れないために頭文字を一つずつ取り、一般社団法人AFWとして現在に至っています。

 

 現在の活動の中心は、東電の社員だった知識を活かし、第1原発の廃炉状況を社会や地域に分かりやすく伝える取り組みと手法の開発や、被災した福島県沿岸部の浜通り地区で長年暮らしてきた人間としての経験(生活者・避難生活者目線)を活かし、この地を訪れる人たちを案内する地域ガイドです。対話を通じ社会課題を解決していくにあたって、最難関地域と言える場所で、サイエンスコミュニケーション・リスクコミュニケーションの在り方とそれをもった解決方法を模索し、国、東京電力といった組織に提言しています。福島第1原発と地域住民の方、また福島県沿岸部の浜通りと、そこを訪れる人たちをつなぐ橋渡し役です。

 

 

17年3月31日に一部避難解除となった浪江町から見える福島第1原子力発電所

18年2月7日筆者撮影

 

 ◇課題を共有し解決の糸口に

 

 こうした取り組みを行う背景には、原発事故がもたらした課題の解決には、原発関係者と地域住民、また、浜通り地区に住む人たちとその他の地域に住む人たちが、互いに対話できる環境をつくることが重要だという考えがあります。

 

 一例として、福島第1原発の廃炉を進めていく際、増え続ける汚染水をどう処分するかといった課題があります。原子炉内の溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却に使われる水は、高濃度の汚染水を浄化したものです。デブリの冷却水は、冷やす→汚れる→浄化する→冷やすといった循環冷却が行われています。その過程の中で、事故当時の水素爆発の影響により、原子炉建屋地下に地下水が染みこむ状況が現在も続いています。さまざまな対策で染みこむ量は減少したものの、毎日染みこみ、汚染された水を浄化し、蓄え続けた結果、処理済み水は80万トンを超え、処理待ち分も含めると総量は100万トンを超える状況です。

 

 処理済み水はトリチウム(三重水素)と呼ばれる放射性物質以外は、ほぼ取り除けてはいます。希釈して海に捨てる方法もある。そんな議論が原発側で行われています。しかし、暮らしの当事者目線で見たらどうでしょう。専門家とされる人たちが科学的には問題がないと言っても、原子力そのものを知ることもない、分からない人にとっては、事故後それは忌避感も相まって深刻な状況の中にあります。福島第1原発は事故により、社会とより悪い意味でつながりは深まり、負の象徴として捉えられ福島県への風評被害の源として扱われ続けています。

 

 現在は蓄え続けてからの先は決められない状態が続いています。解決は誰もが積極的に関与したくないものとなっています。これは福島第1原発の廃炉を片付けと取った時、逃れられない放射線を出すゴミをどうするのか?といった問題で、社会と現場双方にとって、現時点で最良とされる選択ができない状況が続いていることを表しています。それによって事故の当事者でもない未来の世代が問題を引き継いでしまうと誰もが知っているにもかかわらずです。

 

 こうした課題の解決策をいったい、誰がどう判断したらよいのか。現在は国や東京電力など、解決の当事者である原子力関係者が判断していますが、私は、地域住民との対話を通じて判断していくことが重要だと考えています。

 

 処理済み水を環境に放出した際の影響といった専門的なことは専門家に絶対の自信を持って明らかにしていただきたいです。しかし放出先の環境とは、私たちの暮らす地域そのものですから、それならば、専門家の判断がそこで暮らす人たちの目にどう映るのかを専門家の人たちにも知ってもらうことも重要だと考えるわけです。それには原発関係者の人たちと地域住民の人たちが、お互いの課題を共有し、解決につなげていくことが望ましいのではないかと思っています。

 

 こうした考えのもと、AFWでは東京電力、国、地域住民との間を取り持ち、廃炉がどのように進んでいるのかを共有しながら、双方の思いを聞き合う活動にも取り組んでいます。

 

 対話には、お互いを知る環境が必要です。それには原発事故によって失われた「信頼関係」の構築が必要なことは自明です。さらに信頼関係の構築には「事故への清算」も必要になります、清算とは、人々の安寧な暮らしが日常として回復し、永続的に保障される状態・仕組みが構築されることと思います。

 

 しかし、そうした状況は待っているだけでは訪れることはないでしょう。よりよい未来のためには、歩み寄り、対話できる環境づくりをしていくことが必要です。そうした環境づくりの重要性を社会全体で認識し、そうした環境を永続的な仕組みとして構築していくことが事故から7年が過ぎようとしている今、急ぐことが必要だと考えています。

 

 福島第1原発に関わる課題に限らず、社会には解決が求められるさまざまな課題があります。しかし、解決に当たり当事者だけで議論し、判断することが多いのではないでしょうか。私は、対立構造ではなく対話を通じて解決することが、いかなる課題解決にも通じると思っています。そして、それをこの場所で実現できたなら、震災・原子力事故の教訓を、社会に光をもたらすものに転じることができると信じています。

 

(吉川彰浩・AFW代表)

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