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2018年1月16日号 週刊エコノミスト

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発売日:2018年1月9日

特別定価:670円

 

ザ・100年企業

 

持続的な成長への岐路 

100年企業に学ぶ知恵

 

<第1部 日本的経営の源流>

 

 100年前の1918(大正7)年。第一次世界大戦が終結したこの年、現在も脈々と続く数々の企業が産声を上げた。その後、1920年代の不況や第二次世界大戦、高度成長、バブルと崩壊など幾多の試練をくぐり抜けてきた100年企業。日本経済がなかなか力強い成長軌道に乗らず、総人口も減少する中で、次の100年をどう切り開いていけばいいのか。100年企業の歩みから学ぶべきことは少なくない。

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未来学者 ジェレミー・リフキン氏インタビュー 限界費用ゼロで変わる経済

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「第3次産業革命」の理論的主導者で、独メルケル首相のアドバイザーでもあるジェレミー・リフキン氏が本誌の単独インタビューに応じた。今、人類が直面している問題とその解決策について聞いた。

(聞き手=稲留正英/種市房子・編集部)

── 今回、来日した目的は?

 

リフキン 日本の人々に、この地球で本当に起こっていることを伝えるためだ。現在、人類は有史以来、かつてない困難に直面している。現人類であるホモサピエンスが地球に登場したのは、わずか20万年前の出来事だ。その人類は、19世紀と20世紀に計二つの産業革命を経験した。双方とも化石燃料に依存している。そして、今ではあまりにも多くの二酸化炭素、メタン、窒素酸化物を大気中に排出し、その分子が熱の拡散を妨げ、気候変動を引き起こしている。

 

 気候変動は、この地球の水の循環サイクルを変えている。これは、今まで、語られてこなかった真実だ。地球は豊富な水からなる惑星だ。我々のエコシステムは、何百万年もかけ、地上を覆う雲と降雨からなる水の循環サイクルを構築してきた。二酸化炭素などの地球温暖化ガスで地球の温度が上昇すると、大気は今までより気温が1度上がるごとに、7%も多くの水分を大洋や地上から吸収することになる。これにより、従来はありえなかったような水にまつわる極端な事象を引き起こすことになる。

 

「このままでは地球上の種の半分を失う」

 

── 世界各地で異常気象が頻発している。

 

リフキン 世界中で起こっている洪水、長引く夏場の日照り、何百万エーカーも焼く山火事、大西洋における巨大ハリケーン。地球のエコシステムは現在進行形で崩壊しつつある。これは、指数関数的に増加する水の循環サイクルを地球のエコシステムがもはや受け止めることができなくなっているからだ。

 

 世界の科学者たちは、地球は生命が誕生してから過去4億5000万年の間で、6度目の大量絶滅の時期を迎えていると話す。過去の5回の大量絶滅期、地球の気候はその変動の頂点に達すると、自己修正機能を働かせ、その過程で地上の全ての生物多様性を素早く消し去る行動に出る。そして、新しい生命が誕生するのに平均で1000万年が必要とされる。

 

 科学者たちは、人類が今のまま経済活動を続ければ、今後80~90年で地球上の種の半分を失うだろうと予測する。地球が最後にこのレベルの大量絶滅を経験したのは6500万年前だ。

 

 だから、今こそ、我々の経済活動を、地球環境と調和するように転換すべきだ。非常に挑戦的な任務だが、全ての人々が力を合わせるなら、今後30年間でそれを実現することができる。

 

 我々は新たな経済ビジョンと計画を持ち、21世紀の新たな産業を興し、新しい雇用を創出し、インフラを整備し、そして、気候変動に対応できる。すでに、EU(欧州連合)が「デジタルヨーロッパ」、中国が「チャイナインターネットプラス」として、この計画に参加している。日本もぜひ、このプランに参加してもらいたい。

 

「3つのインターネットが経済を根底から変える」

 

── 何が起きているのか。

 

リフキン 過去、人類は経済分野で少なくとも七~八つの経済における大きなパラダイムシフトを経験してきた。

 

 今回の局面では三つの決定的なテクノロジーが出現した。それは、(1)経済活動をより効率的に管理・運営する新たなコミュニケーション技術、(2)より効率的に動かす新しいエネルギー源、そして、(3)より効率的に移動するための新しい交通・物流技術からなる。

 

 我々がインターネットと呼ぶコミュニケーション革命では、世界中で25億人がスマートフォンを所有し、しかも、ほぼ、限界費用(新たに財やサービスを1単位生産するために必要な費用)がゼロでつながっている。そして、今、このデジタル通信革命は、欧州と中国において、デジタル化された再生エネルギーのインターネットと連携しつつある。ここでは、何百万人もの人々が自ら風力や太陽光で発電し、自ら消費したり、エネルギーのインターネットを通じ融通しあっている。

 

 そして、このデジタル化された通信とエネルギーのインターネットは、GPS(全地球測位システム)誘導の自動運転からなるデジタル化された交通・物流のインターネットとつながる。これは、自動運転の電気自動車、燃料電池車による交通・物流インターネットとなる。この三つのインターネットは、経済の運営・管理方法、エネルギー供給手段、移動手段を根底から変えることになる。

 

 IoT(モノのインターネット)はこの三つのインターネットを支える基盤となる。我々は全ての装置・機器にセンサーを搭載し、経済活動をリアルタイムでモニターし、あらゆる情報を集めることになる。2030年までにはセンサー数は世界中で100兆個に達すると予測されている。IoTは人類にとりグローバルな脳と中枢システムになる。歴史上初めて、全ての人類が現実と仮想の両空間でつながり、直接共同作業を行うことができるようになる。

リフキン氏の著書『限界費用ゼロ社会』(2014年、NHK出版)は話題を呼んだ。
リフキン氏の著書『限界費用ゼロ社会』(2014年、NHK出版)は話題を呼んだ。

「消費主義から持続可能性にシフトする」

 

── それはどういう世界か。

 

リフキン 劇的に起業の機会を増やすことになる。しかも、その「つながる」ための限界費用はゼロに近い。この仕組みの利点は以下の通りだ。人々は誰もが中小企業、協同組合、地元の互助会などの組織に所属し、独自のバリューチェーン(財やサービスがその仕入れから加工、物流、販売に至るまでの一連の流れ)を持っている。IoTの登場により、誰もが、そこで発生するビッグデータにアクセスできる。

 

 そこから自分のバリューチェーンに沿ったデータを「採掘(収集)」し、分析する。そして、独自のアルゴリズムを作成し、自分のアプリケーション(応用ソフト)に適用する。そのことによって、総合エネルギー効率を大幅に改善し、環境への負荷も減らし、かつ限界費用も引き下げることができる。これがデジタル革命の本質だ。

 

 限界費用の大幅な低下は資本主義のビジネスモデルに変化をもたらす。なぜなら、限界費用が下がることは、利益が減ることを意味するからだ。標準的な経済理論では、効率的な市場で利潤を最大化するには、財・サービスを限界費用で売ればよいとされる。だが、我々は、このように限界費用がゼロ近辺にまで下がるほどの劇的な生産性の向上を予想していなかった。

 

── 何が起こるのか。

 

リフキン デジタル化による限界費用の低下に直面すると、資本「市場」は、資本「ネットワーク」に移行する必要が出てくる。つまり、これまでの「売り手と買い手」の関係から「プロバイダーとユーザー」の関係に、「所有からアクセス」に、「消費主義から持続可能性」に関係がシフトする。

 

 この場合に、どのようにお金を稼げばよいのか?

 

 限界利益が非常に低いので、それぞれの取引マージンは非常に小さく、単に一つの製品やサービスを売るだけでは、利益を得ることはできない。一方、取引のフローは膨大で、かつ、1日24時間、週7日間休みなしだ。これは、株式の取引に似ている、1株当たりの手数料は非常に小さいが、フローが巨大になることで、手数料は膨大になる。

 

── 00年発行の『エイジ・オブ・アクセス』ではシェア経済について言及していた。

 

リフキン 限界費用がゼロに近づくことが、シェア経済の誕生を促した。今では若い人々を中心に自分で音楽、ブログ、ビデオを作成し、シェアしたり、ウィキペディアに貢献したり、何百万人もの学生が最良の大学の最良の教授による無料のオンライン授業を受け、大学の単位を取得している。これらは、限界費用がゼロに近いので、GDP(国内総生産)には反映されないが、これは、人々の生活の質を大きく変える。

 

 今後、資本主義はこのシェア経済と共存していくことになる。

 

 これまで、我々はデジタル化と限界費用のゼロ化は、デジタル信号で扱えることが可能な音楽や文字など仮想空間にのみ影響を与えると考えていた。それが物理的な世界に移行するとは思っていなかった。それを、IoTが現実のものにしようとしている。

「電力業界は新しいビジネスモデルを実行している」

 

── どんな事態が現実世界で起こるのか。

 

リフキン 今、電力業界がその問題に直面している。まず、ドイツの事例を紹介し、今後12カ月の間に、日本の電力業界が直面する事態を予想したい。

 

 ドイツでは今、電力の35%が再生可能エネルギーから来ている。2040年には100%になるだろう。非常に興味深いのは、太陽光と風力発電のコストがこの20年間、等比級数的なカーブに沿って下がってきたことだ。1978年には1キロワット時当たりの太陽光の発電コストは78ドルだった。今は55セントだ。米政府の研究機関では、風力は1キロワット時当たり2・8セント、太陽光は3・5セントまで下がっている。もはや、化石燃料と原子力の時代は終わった。

 

 シティバンクが2015年に出したリポートによると、化石燃料業界には100兆ドルの「座礁資産(キャッシュを生まない資産)」があるという。この「炭素バブル」は世界史の中で最大のものだ。原子力業界も同様に巨額の座礁資産がある。サブプライムローンバブルが、ないに等しく見える水準だ。

 

── ほとんど知られていない「不都合な事実」だ。

 

リフキン ドイツには、EnBW、RWE、エーオン、バッテンフォールの四つのメジャーな電力会社がある。私は、5年前、エーオンのヨハネス・タイソン会長に会い、次のように新しいビジネスモデルをアドバイスした。

 

 IT企業、通信、物流企業などと組み、デジタル化された再生可能エネルギーのインターネットを管理・運営する。そして電力が必要な何千もの企業とパートナーシップを結び、彼らのために、ビッグデータを分析し、アルゴリズムや応用ソフトの作成を支援するサービスを提供する。このことを通じて、何千ものパートナー企業は、その総合エネルギー効率、生産性を大幅に引き上げ、環境負荷を大きく引き下げることが可能になる。その見返りに、彼らは、改善した生産性による利益の一部を電力会社に還元する。一方、エーオンはそこで得た利益により、化石燃料と原子力発電の座礁資産を次の30年間、注意深く償却する。

 

 エーオンは昨年、私が提示したのと同じプランを実行した。会社を再生可能エネルギーと化石燃料・原子力発電の二つの会社に分割し、後者を市場に売りに出した。今では、ドイツで2番目に大きいRWEも同様の取り組みを行っている。

 

── 中国の取り組みはどうか。

 

リフキン 中国の李克強首相は私の『第三次産業革命』を読み、国家発展開発委員会と国務院に、その実現に向け指示した。その後、中国の国家電力部門は5年間で820億ドルを投じ、中国の配電網をデジタル化すると発表した。この結果、何百万人もの中国人が自ら発電した太陽光や風力の電力を、デジタル化された電力のインターネットで融通することが可能になる。

 

── 自動車業界はどう変わるのか。

 

リフキン コミュニケーションとエネルギーの二つのインターネットが交通・物流のインターネットを可能にする。カーシェアリングの時代に入ると、現在の世界の車の保有台数の8割は不要となり、残りの2割は電気自動車と燃料電池車になる。では、自動車会社はどうすべきか。ここで、独ダイムラートラック・バス社の事例を紹介したい。

 

 同社は、過去数年間に販売した40万台のトラックに、センサーを装備した。それらのセンサーは交通の状態、天候、倉庫の空き状況などのデータを収集し、データセンターに送っている。彼らはヨーロッパをはじめ、物流を必要とする世界中の企業とパートナーシップを結び、このビッグデータを共有しようとしている。この分析を通じて顧客は生産性を上げ、そこで得た利益を、ダイムラーに支払う。これが、交通・物流のインターネットのビジネスモデルになる。同社は、GPS誘導の自動運転トラックでも先行している。

 

── 全てがつながるインターネットの世界には、巨大なプラットフォーム企業による情報の独占や、サイバー犯罪など課題も多い。

 

リフキン 「ダークネット(暗黒のインターネット)」と言われる問題だ。欧州の政策立案者たちは、彼らの能力の少なくとも50%をこの問題の解決に費やす必要があることに気付き始めた。グーグルやフェイスブック、アマゾンのような企業が国家の規制なしに、今の行動規範から外れないと考えるのは楽観的すぎる。この問題に対する戦いは始まったばかりだ。(終わり)

 

◇Jeremy Rifkin  1945年生まれ、米国出身の未来学者、経済理論家。「経済動向財団」代表。ペンシルべニア大学ウォートン校の経営幹部教育プログラムの上級講師。欧州委員会、ドイツ、中国をはじめ、世界各国の首脳や高官のアドバイザーを務める。主な著書は『エントロピーの法則』(1980年)、『エイジ・オブ・アクセス』(2000年)、『第三次産業革命』(2011年)、『限界費用ゼロ社会』(2014年)など。

インタビュー全文 ラグラム・ラジャン

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◇インタビュー全文 ラグラム・ラジャン シカゴ大学経営大学院教授

 

◇金融分野で増える借金投機

引き締めが重なれば重大事態も

 

2008年のリーマン・ショックを的確に予想し、背後にある金融市場の問題点を指摘、いち早く規制強化を提言したラグラム・ラジャン氏。足元の資産価格上昇、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策、世界中に広がる仮想通貨の評価を聞いた。(聞き手・岩田太郎=在米ジャーナリスト)

 

※1月2・9日合併号に未掲載の分も含めて、インタビューを全文掲載しました。

 

── リーマン・ショックから2018年で10年が経過する。足元の景況感をどのように見るか。

■やっと世界中で同時に経済回復が進行するところまでこぎつけた。過剰なレバレッジ(借金投機)は多くの地域で収束し、ある程度の安定がもたらされた。ただ、そうした安定は極端に規模の大きい量的緩和による流動性によってもたらされた。この流動性が米国のプライベートエクイティやカナダ、オーストラリアの不動産市場などで再びレバレッジを招くことになった。こうして、米国や中国における企業部門など一部の地域で資産価値のインフレが起きている。

 では、どこでレバレッジが危険なレベルまで積み上がっているのか、また、「いつまでも安価にお金が借りられる」との前提で行われている影のレバレッジ(「シャドーバンキング(影の銀行)」による、銀行融資の形を取らない投資)は、どうなのか。こうしたマネーへのアクセスが絶たれた場合、ポジション(投資)を速やかに解消しなくてはならず、金融危機の一因となる。

── そうしたシナリオへの対応はできているのか。

■金融危機後に銀行規制は強化された。大半の金融機関では以前と比べ自己資本が大幅に増強され、少数の例外を除けばより「健康」になった。だが、十分な注意を払われていないのがシャドーバンキングだ。前回の金融危機から学ぶべき教訓があったとすれば、それは「すべてがつながっている」ということだ。レバレッジが積み上がり、そこに金融引き締めが重なれば、問題が起こる。銀行システムとシャドーバンキングが比較的隔離されていたとしても、ストレスに耐えうる免疫があるか確かではない。

── あなたは、成功した場合の報酬が過度に高い「ゆがんだインセンティブ体系」が前回の危機の大きな要因だと分析している。それは是正されたか。

■金融機関では損失や失敗に対して、後で報酬の返却を請求される仕組みなどが整備されており、よく是正された。だが、年金基金・保険会社・プライベートエクイティのように、まだ報酬構造の是正が手付かずの分野がある。過剰なリスク引き受けが銀行から別のセクターに移っただけなのだ。中央銀行は、量的緩和はリスク引き受けを拡大させ経済成長させることが目的だったと言うだろう。しかし、問題はモノづくりなど真の経済活動が増えておらず、金融分野でのリスク引き受けが伸びたことだ。

―― トランプ政権は、規制撤廃を唱える人物をFRB、米証券取引委員会(SEC)、米通貨監督庁(OCC)など規制当局の高位に指名・任命しているが、こうした動きは金融危機の再来の確率にどう影響するか。 

■ルールの変更が、「どんな政策が有効か」という基準ではなく、イデオロギーから行われることがある。民主党政権は規制強化派の任官をする傾向があるし、共和党政権は規制撤廃派を任官する傾向がある。加えて米国では複数の規制当局の重複があり、各組織が権力誇示のため規制をやり過ぎる傾向もある。これは効率化する必要がある。

 数年ごとに規制を変えると不確実性が増大するため、頻繁にルールを変えることに適さない分野もある。バーゼル銀行資本規制が好例だ。 誰が影響を受け、誰が損をするのか、どんな手段が有効か、を見極める必要がある。エビデンスに基づいて理性的な変更を加えていくべきだろう。

── 規制の強化と撤廃の適切なバランスは、どこにあるか。

■まだ大き過ぎて潰せない銀行がある。巨大銀行は金融危機後、さらに大きくなり、特権を持つこととなった。これは実質上、中小金融機関に資本要件で能力以上の厳しい規制の網をかぶせたことの、皮肉な結果でもある。中小銀行が持たない特権を大手が持たないように制度を改善する必要がある。バーゼル銀行資本規制については、数年ごとに基準を改定して業界全体に不確実性を呼び込むよりは、まず結果を見極めたほうがよい。同時に、銀行でのインセンティブ構造に規制を集中させるべきか、他の分野にも規制を広げるかを検討する必要がある。私自身は、節度がある規制を金融全体に適用することが望ましいと思う。

── 見極めにはどれくらいの時間が必要か。

■ 現時点で注意が必要なのは、規制や監督の不足よりも、冒頭で述べたマネーの動きの変調、つまり  流動性の問題が起こる可能性だ。流動性問題には特有の対応が必要となる。だから、現行規制のサイクルが一巡するのを待ち、次の対応を決めるのがよい。それには、3~4年はかかるだろう。

── 2018年の米経済・世界経済の予測は。

 

■ 科学的に予測するすべを持たないため、コメントはできない。だが、現在の経済環境がよいものだと言うことはできる。直近で、成長の向かい風になる要因は見当たらない。正常化が進行するにつれ、中期的にどのような影響が出てくるかは見極めが必要だ。極端なレバレッジが進んでいるなか、投資機関が引き締めに対応できることが望まれるが、対応しきれないところも出てくるだろう。

仮想通貨は過大評価 高額紙幣廃止は個別事情考慮を

── 仮想通貨はバブルか。

■使途がかなり限られているのにもかかわらず価値が急上昇する資産は、(17世紀のオランダでバブルを引き起こした)チューリップの性格を帯びていると言えよう。チューリップは美しく鑑賞を楽しめるが、それほどまでに高い価格が相応なのかは別の話だ。

 では、仮想通貨の価値はどこから生じているのか。価値が一番大きい通貨が、一番効率的な取引のメカニズムを持っているとは限らない。また、流通量が増えた場合、仮想通貨に価値を与えている特徴が失われるかもしれない。匿名性を例にとろう。仮想通貨の流通量が20億個であれば誰も気にしないが、500億個になれば、多くの中央銀行は匿名性についての懸念を持つ。そうなれば、情報開示が求められるかもしれない。開示が義務付けられれば、取引が減少するだろう。

── 仮想通貨の価値を判断するポイントは。

■もしこうした通貨に固有の価値がなく、その役割が売買取引だけであるなら、通貨の価値のどれだけの部分が手数料に過ぎないのか。仮想通貨の流動性プレミアム(流通するがゆえに支払われる上乗せ手数料)は過大評価されているように見受けられる。また、通貨の所有権は通貨の所持者ではなく、仮想通貨の仕組みをコントロールする者が保有している。これらの理由で、仮想通貨が正当化できる以上の価値を持ち始めていることを心配している。

── かつて総裁を務めたインドの中央銀行であるインド準備銀行(RBI)が、あなたの退任後の1611月に実施した高額紙幣廃止について、「性急すぎた」と評価している。

■インドの高額紙幣廃止については、一晩で廃止された紙幣流通量の87%分を代替する十分な供給がなかった。このため、人々が日常でよく使われる種類のお金へのアクセスを失ってしまった。RBIの準備不足だった。

── 欧州中央銀行(ECB)は500ユーロ(65000円超)紙幣を廃止する予定だ。

■インドと欧州の状況は違う。500ユーロ紙幣が廃止されても、多くの人は困らない。500ユーロ札は多くの場合、麻薬などの違法取引に使われている。廃止されれば、今まではスーツケースに詰め込めたものが、より細かい通貨を必要とするためトラックに満載しなければならなくなる。インドにおいて7.5ドルに相当する500ルピー紙幣や15ドルにあたる1000ルピー紙幣が廃止された際には、比較的貧しい人もそれらを日常的に使っていたため、彼らは困ったわけだ。

―― 高額紙幣廃止は良いことか。

 

■良いことだとは思えない。国によっては現金取引を好むため、事情はそれぞれだ。また、マネーの流れを電子取引に移して追跡するために規制当局が高額紙幣廃止を好むのは論を待たないが、中央銀行はシニョレッジ(通貨発行益)という  大きな収益源が減る。減収分は政府が補填しなければならない。だが、そうした矛盾を解決する政府内調整は可能だと思う。

QEと景気好転の因果は不明

── FRBが、利上げや資産縮小にあたり留意するべき点は。

FRBは市場にその意図を明確に知らせている。FRBの量的緩和(QE)第1弾(QE1)を除き、私はQEを支持していない。

── QEが目標を達成しなかったと?

■わからない。「QEに効果があった」と強く主張することはできるし、長期金利に影響をもたらしたことは事実だ。しかし、QEと実際の経済活動に強い因果関係は見られないのだ。エビデンスの欠如のため、私は「QEを実施すべきだ」と言わない。それだけ大規模にやるなら、十分な証拠に基づくことが重要だ。そうしたことを踏まえると、安定した金融正常化(金融緩和の終息)が必要であった。そして現在、FRBはその途上にある。だから世界中から引き締めを遅らせるよう大きな圧力を受けているFRBの正常化路線は称賛されるべきだ。出口戦略は重要だし、米経済は可能な限りの成長を続けている。また引き締めによるドル高で、(輸出面などにおいて)他国を手助けする役割も果たしている。

―― この時点での引き締めが、不必要に米経済を冷やすとの論調もある。

■金利の方向が急激に変われば、比較的安定した成長や景況感を冷やす懸念はある。だが、米労働市場は非常に引き締まっており、雇用主は十分な数の働き手が見つからない状況だ。賃金の上昇はどこかの時点で必ず現れる。賃金が上昇を始めても、すぐに物価が力強く上昇するわけではないが、いずれそうなる。これらを総合的に考えれば、FRBはインフレについて1~2年先を予想して行動しなければならない。政策の効果がそれくらいのズレを経て表れるからだ。

── 物価が上がらないことに対しては、市場で懸念も強い。

■物価上昇率が急に予想より高い状況になれば、FRBは後手に回ったと見られてしまう。そうなれば、実際の経済活動や資産価格が崩壊するなど大きな悪影響が出る。現在の環境下では、インフレ率が今すぐに高まらなくても、いずれ強まる将来を見越さなければならない。人々は、「インフレなど存在しないではないか」などと言うだろう。だが、賢明な金融政策立案者は、経済の法則、いや、規則性と言うべきか、によって、供給が引き締まれば物価は必ず上がることを否定しないものだ。

── それが、イエレンFRB議長が言う「インフレの謎」に対するあなたの答えか。

■私の答えは、FRBの考え方をはっきりとした形で説明したと思う。つまり、ミステリーは残っても、ミステリーが解決されるのを待つことはできない。 経済の法則は、不規則性が一時的に観察されても、いずれ明確化する。それがFRBの考えの表側にあることだ。一方で、裏側では、相当に緩和的な政策によってマネーがあふれている現状を懸念しているはずだ。金利がこの低レベルで長くとどまれば、(レバレッジが膨らみ、システミックリスクの恐れが高まるなど)金融システムに次の問題が起こるからだ。

── 米株式市場についての懸念は。

■私自身は今、投資を引き揚げたりしないが、より多くの投資をするかと言えば「ノー」だ。専門家は「バブルで過大評価されすぎだ」「世界経済の成長はまだ続くので過小評価されている」など両方の意見を述べている。私は株価の予測はしないのだが、株式投資で大切なのは、何かに過剰依存しないよう十分ヘッジした上で、ポートフォリオを多様化しておくことだ。

―― FRBの金融引き締めが新興国にもたらす影響は。

■歴史的に見て、米金融政策の引き締めは、ある程度の資金の逆流を起こす。だが、過去の事例が今回も同じ形で繰り返すとは限らない。米国が慎重に引き締めを続けても、日欧など他の先進国ではいまだ比較的金利が低いため、新興国への投資はより高いリターンをもたらし続ける可能性がある。いくらかの資金逆流は起こるが、パニック的なものにはならないということだ。

―― 新興国はFRBの引き締めに備えているのか。 

■ほとんどの新興国は準備ができている。また、(緩和的な金融環境下で与えられた猶予を利用して) ショックに備える緩衝システムも築いてある。ただ、対外債務の大きいトルコや財政赤字が膨らんだブラジルなど、現時点で危機ではないが、FRBの引き締めで問題が起こる脆弱性を持つ国がある。未解決の問題を直しておくべき国がある。金融が引き締まってくれば、借金レベルの高い企業や家計の問題が顕在化してくる。 

 

 

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 ■人物略歴

 ◇Raghuram Rajan

 

 1963年、インドのマディヤプラデシュ州生まれ。米マサチューセッツ工科大学博士号。シカゴ大学経営大学院教授や国際通貨基金(IMF) チーフエコノミストを経て、201316年にインド準備銀行総裁。1516年に国際決済銀行(BIS) 副議長も兼任。 現在はシカゴ大学経営大学院教授。近著『I Do What I Do』では、インドの高額紙幣廃止にも触れている。54歳。

インタビュー全文 ポール・ローマー(世界銀行チーフエコノミスト)

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◇物価上昇待っての政策動員は遅い

◇経済学者は現実を受け入れろ

 

 

経済学の“異端児”に米金融政策の行方や世界の成長見通しを聞いた。

(聞き手=岩田太郎・在米ジャーナリスト)

 ※1月2・9日合併号の未掲載分も含めたインタビュー全文掲載しています。

 

 

── 謎は解けたか。

■謎の答えは、わからない。そのことは正直に認めるべきだ。物価が上昇しにくくなっているのは厳然たる事実だ。労働市場が引き締まるような短期的なマクロ政策を積極的に打てば、賃金も上昇し物価に波及する。そのためには金融政策だけでなく、財政など他の手段も行使しなければならないだろう。「インフレ率が実際に上がるまで待つべきだ」という考え方は間違っている。(景気後退局面になっても利下げする余裕がなくなるような)将来の危険について、今、決断しなければならないからだ。

 

── 経済理論と異なる次元で実体経済が進行しているように見える。

■かつて経済学界には、インフレ期待(人々の将来のインフレ率の予想) は、ファンダメンタルズによって理性的・自動的に決まるという考え方があった。これに対し、経済学者ケインズは「インフレ期待は自己実現を予言するようなものだ」と看破した。インフレ率は、人々の期待によって変化するものだ。アニマルスピリット(動物的衝動)を唱えるケインズの 「経済予想は人々の意識で変わり得る」という旨の主張は正しかったのだ。生産活動とインフレの関係は、われわれが考えていた以上に複雑であるし、通貨供給量とインフレの関係も、想像以上に複雑であることが判明した。

── その考え方は今日の経済学では受け入れられているのか。

■一部の経済学者は「ファンダメンタルズによって現状を語れない説は受け入れがたい」と言う。だが、それは摩擦のない世界で物理現象を考察するようなものだ。世界は摩擦でできているのに。だから、「いいかげん、現実を受け入れたらどうだ」と言いたい。経済モデルが何らかの現象を固定化することを願うのは無益だ。

── FRBと欧州中央銀行の引き締めによる新興国への影響は。

■一部諸国では短期の負債や持続的でない為替レート設定などで、経済管理が理想ほどしっかりしていないのが現実だ。これらの新興国の脆弱(ぜいじゃく)性が、米金融引き締めなど他国の政策変更で表面化する。だが、新興国は「先進国の政策変更でこうなった」と言い訳をせず、正しい対応策を打っておけば影響を制御できる。

── 17年のノーベル賞経済学賞を行動経済学が専門のリチャード・セイラー教授が受賞した。その意義は。

■教授の受賞は、象牙の塔で理論をこね回すのが重要なのではなく人々の行動の複雑性を探求し、人々に実用益をもたらせる「科学としての経済学」が認められたことを意味する。「科学は芸術のようなものだ」と言って、直接的な利益をもたらさない研究に閉じこもることとは違う。

 

 ローマー氏は、経済学者がごまかしのために数学を使っているとして「数学もどき批判」を展開。シカゴ学派で合理的期待形成モデルを主張するノーベル賞経済学者ロバート・ルーカス氏を批判して、経済界に議論を巻き起こした。(本誌16年5月31日号)

 

── 論争は、どうなったか。

 

■わからない。マクロ経済学者がどうとらえたか気にするより、現在の仕事に集中しなければならないからだ。誰が論争に勝ったのかは重要ではない。若い研究者たちが「経済学には違うやり方がある。違う考え方でアプローチできる」と思えるなら、私の起こした議論は成功だったわけだ。エビデンスを用いて判断するやり方が盛んになるなら、本望だ。

金融規制は原発対策を参考に 犯罪温床の仮想通貨には規制を

── リーマン・ショックから10年がたとうとしている。

■経済学者たちは「なぜ予測できなかったのか」という自問を行っているが、まだ結論が出ていない段階だ。ただ、各国政府は新たな規制政策を採用し、次の金融危機の確率を下げた。民間金融機関も次の危機への備えをするようになった。「次の危機は前回より規模が大きく、予想よりも早く起こる」との認識も共有されるようになった。

 

―― その認識の下、金融機関はどのような行動をしているか。

■危機に備える強固な財務体質にするために、従来行っていたような金融商品投資をとりやめて自己資本率を高めておくという手段を取った機関がある。この方法は、実際に危機になれば、資産を投げ売りしなくてもよいかもしれない。しかし、平時の投資が低迷して、(行き場を失った)マネーがよりリスクの高い金融商品に流れるという副作用があることに留意すべきだ。

 

―― 「大きすぎてつぶせない」銀行は、リーマン・ショック前に比べてさらに大きくなっている。

■その通りだ。危機後の対応で「システム上重要な銀行」が指定され、これらの金融機関に資本増強などの規制が求められた。システム上重要な銀行に対する規制は価値あるものだと思うが、問題なのは銀行の大きさではなく、金融機関の相互依存だ。この問題点は消えていない。「大きすぎてつぶせない」銀行だけでなく、相互に依存する中小規模の金融機関によって引き起こされた危機は案外、数が多い。例を挙げよう。198090年代初頭の米貯蓄貸付組合(S&L)危機では、多くの金融機関が連鎖して倒れた。これは、S&Lの資金調達の流動性が低くなったために資産を投げ売りし、S&Lと取引のある大手銀に影響が出た結果だ。既に強化されたはずの規制も、抜け穴が用意されたり、緩和・撤廃され始めており、次の危機は比較的すぐに起こる可能性がある。

 

── 規制強化と規制撤廃のバランスはどこでとるべきか。

■規制は、最初はいつもやりすぎになる傾向がある。規制を強化しすぎると、「行きすぎだ」との声が出る。しかし、いずれ浸食される性格のものなので、当初は行きすぎくらいでちょうどだ。

 

── 金融規制のあり方は。

■金融セクターを原子力発電のように扱うべきだ。役に立つが、極めて危険なものである。新しい事業の安全性の証明の立証責任は規制当局でなく、業界に負わせるべきだ。「金融セクターは複雑すぎるため規制できず、危機が起こるのは避けられない」との声もあるが、航空業界を見ればよい。膨大な数の人が、衝突のリスクのある不安定な乗り物で高速移動する。極めて複雑だが、規制によって非常に安全な旅を提供できるようになっている。金融業界や原子力業界が航空業界に学べるのは、国家運輸安全委員会(NTSB)のように規制・処罰権限を持たない事実究明に特化した機関があることだ。なぜなら、金融世界特有の問題として、前回の危機で実際に何が起こったかのコンセンサスがまだ存在しないからだ。そうした組織を国内レベル・国際レベルで創設し、再発防止に役立てるべきだ。

 

|| ノーベル経済学賞の受賞者であるコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授は、「ビットコインを非合法化せよ」と言っている。

■仮想通貨の勢いを止めることは困難だ。ビットコインは現在バブルなのだろうか。バブルとは現在価値のあるものが、突然価値を失うことと定義できる。ビットコインは明らかにその特徴を備えている。人々が「ビットコインには価値がある」と考えるからこそ価値が生じ、「フォーク」と呼ばれる分裂まで始まっている。ある日、価値が暴落する可能性はあるのか。もちろんだ。国際金融システムに悪影響を及ぼす可能性も、大規模にはならないだろうが、ある。だが、より深刻な問題がある。

|| それは何か。

■ビットコインが違法行為やランサムウェア(身代金を要求するマルウエア)  による身代金要求などの犯罪を助長していることだ。仮想通貨を規制すべるき最も大きな理由は、高額紙幣廃止論と同じで、犯罪者に隠れた取引手段を与えないことだ。スティグリッツ教授のように「非合法化せよ」とは言わないが、規制はするべきだ。違法な秘密取引ができないように、お金の流れを可視化しておくべきだ。

|| 高額紙幣の廃止は、好影響をもたらすか。

 

■高額紙幣廃止については、主目的は犯罪防止だ。「国家権力がお金の流れを監視できる警察国家は恐ろしいので、高額紙幣の廃止には反対だ」という声もあるが、間違っている。事実は逆だ。人々は、国がお金の流れを監視して、ランサムウェアや誘拐による身代金要求などの犯罪を取り締まることを期待している。だが同時に国家権力がその権力を濫用しない仕組みづくりも必要だ。高額紙幣廃止の流れはゆっくりとしたものになろう。

私欲が世界成長もたらす 新興国への知識拡散ためらうな

── 足元の米景気はゴルディロックス(熱くもなく、冷たくもない)経済と言われる。
その通りだ。だが、それで現状満足に陥ってはならない。日本など、ゴルディロックス経済の特徴が表れている他国も同様だ。人間は、想像力の欠如とも言うべきか、期待や予想を低く設定しすぎる傾向がある。しかし、実際はより良い状態が目指せるはずだ。米国はより早い成長が可能だ。そればかりでなく、「取り残された」と感じる人が少なくなり、「生活が着実によくなった」と思える、より平等な成長の果実の分配ができるはずだ。新興国や発展途上国でも、より良い状態が目指せる。経済成長に対して受け身になって、トライすることを恐れてはならない。現状満足こそが大きな成長リスクだと思う。


──
 現時点で米経済や世界経済の成長をもたらしているのは何か。
私欲だ。私欲は、イノベーションや発見、探検など、進歩の動機になる。政府の役割は、緩やかに人々の相互協力を促進して、個々が持つ私欲の力を発揮させることだ。 数十億の人が同じ方向で力を合わせて仕事をすれば、驚くべき成果を出せる。一方で、私欲が高じると、借金投機などで悪影響をもたらすこともある。だから政府は、人々が暴走しないよう、防止の役割も果たさなければならない。ただし、制約をかけたとしても、競争や野心的な先行事業、実験など進歩をもたらすことを妨害してはならない。

 ローマー氏は、経済は資本生産性が低下してもイノベーションによって継続成長できる、とする「内生的成長論」を唱えている。

──
 今後、イノベーションのスピードは加速するか。
内生的成長については、イノベーションのスピードが落ちてきたと言われる。それについての確かな結論はない。世銀のチーフ・エコノミストとしては、今はフロンティア(最先端技術を持つ国・地域) の成長よりも、新興国がイノベーションのフロンティアに追いついて経済を成長させるチャンスが増えていることに注目している。どこがフロンティアであるにせよ、知識の拡散や実用化に遅れが生じている。世界規模で見れば、知識拡散のスピードを上げて、新興国が追いつくことで、経済成長を加速させられる余地が大きい。フロンティアでの技術革新のペースがなぜ落ちてきたかを説明する説は多くあるが、なぜフロンティアからの知識の拡散が遅いのかを説明する研究は少ない。その理由を追究しないことは、経済学者の重大な間違いだ。
──
 米経済や世界経済の成長を阻害するものがあるとすれば何か。
循環サイクルと長期傾向を分けて考えることが大切だ。循環サイクルで考えれば、次の金融危機は必ず起こる。「もし」ではなく、「いつか」だ。それによって景気後退も起こる。だが、それらは一時的なものだ。より重要な問いは、「長期的な成長傾向を阻害するのは何か」 だ。
──
 では、長期的な成長のために考えるべき要素は。
人々の相互協力だ。これは経済成長の重要な動力源だ。国家単位で見た場合、国民の統一感は、相互協力を促進するものだ。だから、国の内部分裂は相互協力を難しくして、経済の成長を阻む大きな要因となる。世界経済で見た場合、知識が国際的に分散するのを妨げることが、阻害要因だ。(外資が他国メーカーなどに出資するような)直接投資などによる知識や専門性の国際的な拡散は、学習機会の増大を意味する。知識の拡散手段としての直接投資を受容することは重要だ。直接投資に対しては「自国の企業・産業を保護しなければならない」との反対論も出てくるだろう。しかし、彼らが最先端の知識を学ぶことは非常に重要だ。これは、自国の労働者や市民が利益を得ることを意味する。そうした知識をもたらすのが外資であれば、それを喜んで受け入れるべきだろう。

 

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 人物略歴
 
PaulRomer
 米コロラド州出身。シカゴ大学で物理学の学士号、同大学大学院で経済学の博士号を取得。同大学教授、スタンフォード大学教授、ニューヨーク大学教授を経て201610月から世界銀行チーフ・エコノミスト。62歳。

 

 

誰もが発信するネットでプロの仕事を 寄付モデルで広告主の影響を避ける=渡辺周・ワセダクロニクル編集長

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渡辺周(ワセダクロニクル編集長)

 

わたなべ・まこと◇1974年生まれ。日本テレビを経て、2000年から朝日新聞。特別報道部などで調査報道を担当する。退社後、2017年2月にワセダクロニクルを創刊。9月に日本外国特派員協会の「報道の自由推進賞」受賞。


 

 16年間勤めた朝日新聞を辞めて、調査報道に特化したメディア「ワセダクロニクル」を始めた。IT音痴と言われてきたが、媒体はウェブを選んだ。

 

 創刊特集は「買われた記事」。報酬を伴う医療記事を20年以上前から読者に届けていた事実を明らかにした。登場するのは製薬会社、電通、共同通信、地方紙。ネットメディアでの「ステマ」(宣伝だと明かさない記事)が問題になるよりずっと前に、伝統あるメディアが似たようなことをしていた。

 

 複数テーマを並行して取材している中で、「買われた記事」を創刊特集にしたのは、広告収入を左右する電通と製薬会社を既存メディアは追及できないと考えたからだ。実際、新聞やテレビは「買われた記事」問題を追わない。ワセダクロニクルの報道を受け、電通の役員が株主総会で業務の見直しを明言するという絶好のタイミングがあったにもかかわらずだ。医療記事の読者には、持病について必死で情報を探す患者が多い。見て見ぬふりをするのは背信行為ではないか。

 

 ワセダクロニクルはなぜ調査報道に特化したメディアなのか。それは誰もがネット上で自分のメディアを持てる今こそ、プロのジャーナリストとしての仕事が求められると思ったからだ。

 

 調査報道の「調査」は単に調べものをするという意味ではなく、隠された事実を掘り起こす「探査」だ。膨大な時間がかかる。しかも訴訟リスクまで抱える。経営を考えれば割に合わないが、手間をかけリスクを取らないと、ジャーナリストという職業は成り立たないのではないか。

 

 寄付モデルを選んだのは、広告主の影響を受けたくないからだ。

 

 朝日新聞で、製薬会社から医師への資金提供を分析した記事を書いたことがあった。記事を受けて社説が予定されたが中止になった。朝日新聞も医師を招いてイベントを開いており、中には朝日新聞が主催者でありながら医師への謝礼は製薬会社が払っているケースがあったことが影響したようだ。社内で検証するということだったが、結果が公表されることはなかった。

 

 ◇ジャーナリストの世界連携

 

 もちろん、寄付文化がないと言われる日本でやっていくのは大変だ。だが「買われた記事」の発信に伴いクラウドファンディングをしたところ、350万円の目標に対し、552万円超が集まった。手応えは感じている。

 

 ワセダクロニクルは非営利の調査報道組織がつくる世界のネットワーク「GIJN」(Global Investigative Journalism Network」に日本から初めて加盟した。2017年11月に南アフリカで開かれたGIJNの世界大会には、127カ国から1200人のジャーナリストが集まり、取材スキルなどのセッションが開かれ刺激になった。

 

 だが一番の収穫は、具体的なテーマで連携取材をすることを他団体と合意できたことだ。企業や政府が世界展開している時代に、取材する側だけが国内に閉じこもっていては太刀打ちできない。連携取材の成果は、英語にすれば世界に広めることができる。これまで日本のメディアは国内の需要で完結していたが、ネットメディアであれば読者対象を簡単に世界に広げられる。

 

 南アフリカの大会では、資金をどうやって調達するかというセッションも盛んだった。万国共通、経営は悩みの種なのだ。だがしかめっ面をしたジャーナリストはいなかった。自分が追いかけているテーマを成就させようとする熱気であふれていた。メディア企業ではなくジャーナリズム組織を目指すという初心を改めて確認した。

 

*週刊エコノミスト2018年1月16日号掲載

目次:2018年1月23日号

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CONTENTS

 

市場を動かす すごい技術2018

18 自己修復するガラス 割れてもくっつく素材を発見 ■米江 貴史

20 量子コンピューター 「組み合わせ最適化」に威力■和島 英樹/編集部

21           インタビュー 西森 秀稔 東京工業大学教授 「日本の人材不足が心配だ」

22 がん治療 「最終兵器」CAR-T療法 ■村上 和巳

23 センサー付き飲み薬 体の中からアプリに通知 ■村上 和巳

24 超巨大ロケット 東京─NYを37分で結ぶ ■大貫 剛

25         インタビュー 袴田 武史 アイスペース社長 「月面開発で100億円調達」

26 全固体電池 EV搭載用の固体電解質を発見 ■松木 喬

27       インタビュー 菅野 了次 東京工業大学教授 「材料はそろった。5年で実用化へ」

28 進化する自動運転 「手放し運転」「自動車線変更」へ一歩 ■鶴原 吉郎

30 藻からジェット燃料 インタビュー 出雲 充 ユーグレナ社長 「ミドリムシで航空機を飛ばす」

31 炭化ケイ素繊維 航空機エンジン、火力発電にも ■吉田 智

32 AIが心を読む 頭に浮かぶだけで文字に ■阿部 周一

33         日銀総裁の表情で政策を分析■水門 善之/勇 大地

34         インタビュー 曽我部 完 グリッドCEO 「企業に先端のAIを提供」

35 5G 実用化へ日韓が先行 ■佐野 正弘

36 ドローン プロペラと固定翼を併用 ■春原 久徳

37 毛髪で健康診断 1本の髪は「細胞の標本」 ■編集部

 

Flash!

11 トランプ政権1年の暴露本が波紋/経営トップの2018年展望

13 ひと&こと イオンがローソン買収のうわさ/つみたてNISAで勝ち組は“黒船”

 

エコノミストリポート

87 通勤ライナーで“痛勤”から解放 「座りたい」「座らせたい」 私鉄で相次ぐ座席指定列車導入 ■梅原 淳

 

14 新連載 挑戦者2018 柴山 和久 ウェルスナビ社長 「暗闇に向かって跳べ」

 

40 電力 業界は3グループに再編へ ■塩田 英俊

78 雇用 人手不足でなぜ賃金が上がらないか ■中川 藍

82 診療報酬 安倍政権「お友達」を厚遇 ■田中 尚美

 

Interview

4 2018年の経営者 小笠原 浩 安川電機社長

46 問答有用 蛭子 能収 漫画家・タレント 「わがボートレース人生をすべて語ろう」

 

World Watch

62 ワシントンDC 米議会の候補選びは政党主導でなく ■安井 真紀

63 中国視窓 縫製業で進む工場自動化 ■岩下 祐一

64 N.Y./シリコンバレー/英国

65 オーストラリア/インド/ベトナム

66 台湾/ロシア/サウジアラビア

67 論壇・論調 欧州のビットコイン懐疑論 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■池谷 裕二

17 グローバルマネー 経済政策論争を昇華させる術

38 福島後の未来をつくる(62)  貧弱な日本のガスパイプライン ■吉武 惇二

42 キラリ!信金・信組(5) 千葉信用金庫(千葉県) ■浪川 攻

43 国会議員ランキング(9) 安倍内閣5年間の国会質問回数ランキング ■磯山 友幸

44 名門高校の校風と人脈(273) 防府高校(山口県) ■猪熊 建夫

50 言言語語

68 学者が斬る 視点争点 ビットコインが良貨になる可能性 ■西部 忠

70 アディオスジャパン(85) ■真山 仁

72 海外企業を買う(173) バンク・オブ・ニューヨーク・メロン ■小田切 尚登

74 出口の迷路(15) 長期金利目標を5年に短期化せよ ■木内 登英

76 東奔政走 周到な「河野外交」の向かう先 ■及川 正也

84 図解で見る 電子デバイスの今(4) 車載で拡大する画像センサー ■津村 明宏

96 独眼経眼 いざなぎ超え景気の半分はグレー ■藻谷 俊介

97 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ The Supreme Court ” ■安井 明彦

98 ネットメディアの視点 政治の主流に躍り出るeデモクラシー ■山田 厚史

99 商社の深層(98) 曲がり角のコイルセンター事業 ■井戸 清一

100 アートな時間 映画 [風の色]

101        クラシック [モルゴーア・クァルテット 結成25周年記念コンサート vol.2]

102 ローカル・トレインがゆく(7) ひたちなか海浜鉄道 ■文・杉山淳一/写真・助川康史

 

Market

90 向こう2週間の材料/今週のポイント

91 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット

92 欧州株/為替/原油/長期金利

93 マーケット指標

94 経済データ

 

書評

56 『アフター・ビットコイン』『海の地政学』

58 話題の本/週間ランキング

59 読書日記 ■ミムラ

60 歴史書の棚/海外出版事情 中国

 

55 次号予告/編集後記

長期金利目標を5年に短期化せよ=木内登英〔出口の迷路〕金融政策を問う(15)

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既に事実上の正常化は進んでいるが、緩和の副作用と出口のリスクを軽減するには、もう一歩必要だ。

 

 

木内登英(野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)

 

 2017年の1年間に日本銀行の金融政策は全く変更されなかった。これは13年4月に量的・質的金融緩和が導入されて以降、初めてである。17年は景気情勢が良好であったことが政策変更が見送られた背景だとの指摘も聞かれるが、これは正しくないだろう。景気情勢は良くても物価上昇率は高まらず、目標水準の2%を依然として大幅に下回っている。以前であれば、追加緩和措置が検討されていたはずである。

 

 物価上昇率が高まらないなかでも、以前のように追加緩和が実施されないのは、日銀の政策姿勢が既に大きく変わっているからである。その起点となったのが、16年9月の総括的な検証と、短期金利に加えて長期金利も操作するイールドカーブ・コントロールの導入だった。これは、金融機関の収益見通しを悪化させる長期・超長期金利の過度の低下を抑え、金融機関との関係修復を目指すとともに、国債買い入れ策の持続性を高めることを意図した枠組みであったと考えられる。それ以前の攻めの政策とは異なり、守りの政策である。この時点でいわばレジームチェンジ(体制・制度の変更)が生じたのであり、それゆえ、よほどの経済・金融環境の悪化でもない限り、追加緩和措置は見送られるようになったのである。

 

 むしろ、明示的ではないが事実上の正常化が、それ以降は着実に進んだとみるべきだろう。イールドカーブ・コントロールの導入で国債買い入れ増加ペースを政策の操作目標から外したことにより、その決定権は、政策委員会から現場のオペレーションに事実上移った。ここで、現場主導での事実上の正常化を進めることができるような環境が整った。

 

 

日銀審議委員として緩和の修正を求め続けてきた

 

 ◇現場主導の正常化の限界

 

 実際、年間80兆円程度の残高増加という国債買い入れペースの「めど」が残るなか、1711月までの1年間での日銀が保有する長期国債増加額(前年同月差)は、61兆円にまで縮小した(図)。現在の国債買い入れを瞬間風速でみれば、おそらく年間50兆円前後増のペースであろう。イールドカーブ・コントロールの導入により、国債買い入れが限界に達して流動性が極度に低下することで、金融市場が大きく混乱するリスクは減った。

 

 しかし10年金利を目標とする限り、海外で長期金利が上昇する場合には、長期金利目標を維持するために国債買い入れ増加ペースを再び拡大させることを強いられる。現状のイールドカーブ・コントロールのもとでは、国債買い入れ増加ペースを着実に縮小させることはできないのである。

 

 また日銀は、長期・超長期金利の低下が生保・年金の資産運用悪化や銀行の金融仲介機能の低下を通じて経済に悪影響を与えるとの考えを、16年9月の総括的な検証のなかで初めて認めたが、それを1711月には「リバーサル・レート理論」という形でさらに強調している。しかし10年金利を目標としている限り、長期・超長期金利の上昇余地は限られ、金融機関の収益改善は実現できない。

 

 こうした点を考慮した場合、筆者が望ましいと考え、また実際のところ18年に実現可能性が相応にあるとみられるのが、長期金利の目標を10年物から5年物国債とする短期化措置である。従来の金融政策によって蓄積した副作用を軽減させるメリットがある。

 

 長期金利は期間が1年以上のものを指すが、より短い期間の方が短期金利の影響力が働くため、金利をコントロールするために売り買いする長期国債の量は少なくて済む。そのため、国債買い入れ増加ペースをより着実に縮小させ、買い入れの限界を回避することができる。

 

 

 

 仮に年間60兆円程度の国債買い入れが続いた場合には、18年中ごろにも買い入れは限界に近づき、国債の流動性を極度に低下させることで国内金融市場の混乱を生じさせてしまうリスクがある。それは海外にも波及し、グローバルな金融不安の引き金になってしまう可能性もある。金利目標の短期化によって、そうしたリスクを軽減させることができる。

 

 また、5年以上の長期金利を上昇させる形でイールドカーブをスティープ化(長短金利差を拡大)させることを通じて、金融機関の収益環境を改善させることができる。金融仲介機能の回復を助けるだろう。

 

 金利目標を10年から5年に短期化しても、その水準を0%で変えなければ、政策変更ではなく、技術的な調整であると日銀は説明することができる。そのため、2%の物価目標との整合性が問われないという利点もある。この点から、10年金利目標を引き上げることでイールドカーブのスティープ化を目指す明示的な正常化策と比べても、その実施に向けたハードルは格段に低いだろう。しかしそれは、紛れもなく事実上の正常化策なのである。

 

 金利目標の短期化は、将来の正常化において、潜在的な緩和の副作用が明らかになるリスクを軽減することにもつながる。

 

 長期国債買い入れの対象が短期化すれば、日本銀行が保有する国債の平均残存期間が縮小する。それは、将来、日銀がバランスシートを正常化させるため、償還期限を迎えた保有国債の借り換えを行わずに国債保有残高を削減させていくとき、それに要する時間を短くすることができる。

 

 また、保有国債の平均残存期間が縮小することで、正常化の過程で起こる日銀の収益悪化を軽減することができる。正常化の過程では、日銀は金融機関の超過準備への付利金利を引き上げるため、利子支払いが保有国債の金利収入を上回り、日銀の収益は大きく悪化すると考えられる。保有国債の平均残存期間が縮小すれば、低金利の国債がより早く満期を迎え、高い金利の国債に迅速に置き換えることができるので、日銀の利子収入が早期に高まるようになるからである。

 

 さらに、短めの長期国債の利回りを安定させることは、保有国債の平均残存期間がそれにおおむね対応する銀行、とりわけ地域銀行の財務の安定維持に貢献する。

 

 日銀は、このように多くのメリットがある長期金利目標の短期化を18年の早ければ前半にも実施する可能性があると筆者は考える。

 

 銀行、特に地域銀行にとって、こうした修正は大いに歓迎され、直接的な収益の改善の程度は大きくなくても、景況感の大幅な改善をもたらす可能性がある。現状で銀行は、日銀の金融政策は今後も変わらず、利ざやの縮小で収益環境は着実に悪化していくと考えているが、日銀の政策姿勢が金融機関の収益環境を改善する方向に修正されていくとの期待が高まるためである。

 

 ◇円高リスクは甘受すべきだ

 

 他方で、金融市場において、長期金利目標の短期化は、明示的ではなくても事実上の正常化ではないかとの見方が浮上すれば、為替市場では円高が進むだろう。債券市場は既に昨年9月以降、事実上の正常化が進んでいるとの認識であるため、この措置に過剰に反応することはないだろう。しかし為替市場は、債券市場と比較して海外プレーヤーの比率が高く、日銀の政策意図を十分に捉えてこなかったため、目標金利の短期化はサプライズとなる可能性が考えられる。

 

 しかし、円高を恐れて日銀が事実上の正常化進展をためらえば、既に述べたような金融市場の混乱など、円高進行と比べて格段に大きなリスクを先行き高めてしまう。異例の金融緩和が既に長期化したもと、もはや無傷での正常化を望むことはできない。ある程度の円高のリスクは甘受すべきだろう。

 

 

(木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)

 ◇きうち・たかひで

 

 

 1963年生まれ。87年、野村総合研究所入社。2004年、野村証券に転籍し、07年に同社金融経済研究所チーフエコノミスト。127月、日銀政策委員会審議委員に就任。177月から現職。近著に『異次元緩和の真実』。


「モーターと制御」を主力に産業ロボも展開 小笠原浩 安川電機社長

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 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 主力のサーボモーターはどのようなものですか。

 

小笠原 サーボモーターは、モーターの回転を決められた位置に正確に「止める」ことが得意です。当社のサーボモーターは、35キロメートル以上ある山手線1周に例えると、誤差2センチ内の位置に止める精度を持ちます。競合はいますが、当社のサーボモーターは精度・品質が高いことから世界シェアトップです。

 

 

── どのようなものに使われますか。

 

小笠原 正確な位置決めが求められるあらゆる産業機械に使われています。需要先のひとつとして産業用ロボットの関節があります。産業用ロボットが、モノをつかみ正確な位置に運ぶのに役立ちます。電子部品を、基板上の決められた位置に正確に素早く置くチップマウンターにも多く使われます。

 

── 事業のポートフォリオは。

 

小笠原 売上高ベースで、サーボモーターやインバーターなど、モノの動きを制御する機器であるモーションコントロールが48%、ロボットが35%、システムエンジニアリングが12%です。

 

── 産業用ロボットメーカーのイメージも強く、ファナック、ABB(スイス)、KUKA(独)と共に世界4大メーカーと言われます。

 

小笠原 世界トップ4の中で、サーボモーターを含む電気部品を製造しているのは当社とファナックだけです。あとの2社は、電気部品については外部から調達しています。だから当社は、サーボモーターなどの電気部品とのすり合わせをして、柔軟にロボットを開発・製造できるのです。

 

── ロボットはどのような用途に使われますか。

 

小笠原 主には自動車産業向けです。特に、放電を利用して金属同士をすき間なく溶接する「アーク溶接」で強みを発揮します。他には、さまざまなモノを運ぶ用途や、半導体・電子部品の製造工程でも多く使われます。

 

── サーボモーターと産業用ロボット双方を製造する狙いは。

 

小笠原 当社は「モーターとその制御」をコアとする会社です。歴史的に見れば、当社は元々、九州の炭鉱で、石炭搬送用の巻き上げモーター製造からスタートしました。その後、サーボモーターを世界で初めて開発し、その応用として産業用ロボットの関節に使っているという経緯があります。ロボットは一つの製品に過ぎず、ロボット専業のメーカーではないのです。

 

── ロボット専業メーカーとの差別化ポイントは。

 

小笠原 モーターとその制御をなりわいとすることで、裾野を広く持てるということです。ロボットを大量に製造して、顧客の要望もあまり聞かずに「これは当社のこんな技術を詰め込んだ、当社の標準的なロボットです」と持っていくだけでは顧客は満足しません。「こんな製造工程が欲しい」という顧客の声に耳を傾けて、ロボットだけではなく、FA(ファクトリーオートメーション)機器も含めたシステムとして提案できる、裾野の広さが大事と考えます。

 

── モーターから事業が広がってきたのですね。

 

小笠原 はい、引き続き、モーターからの広がりという路線で事業をやっていこうと思います。しかし、モーターが不要になる時代がいつか到来する可能性はあります。また、産業用ロボットが別のモノに置き換わる可能性だってあります。そうした市場の変化には、先に手を打てるよう敏感でいなければなりません。

 

── 足元の受注状況は。

 

小笠原 中国を中心として需要は旺盛で、前年同期比3割増の過去最高レベルで推移しています。この結果、18年2月期(決算期を今年度から変更)連結決算は売上高・最終利益ともに上方修正して、過去最高を更新する計画です。

 

── 国内需要はどうでしょうか。

 

小笠原 国内需要も右肩上がりですが、伸びが著しい中国にはかないません。

 

 ◇対中国製でも価格競争力

 

── そんなに中国の需要が強いのですか。

 

小笠原 中国では、スマートフォンなど最先端の製品を製造する工場は、中古の機械設備は絶対に使いません。常に最先端の機械設備を求めており、2年で新たな設備に替えます。中国では今後も、スマートフォンや電子部品そして半導体全般、また見落としがちな分野としてはLED(照明)でも需要の伸びが大きく見込まれます。

 

── 中国にもサーボモーターや産業用ロボットを製造する現地メーカーがあるのでは。

 

小笠原 当社のサーボモーターは性能や品質が良く、故障が少ない。しかしそれだけではありません。部品調達や生産の現地化を徹底的に進めていることで、中国製品と比べても安く製造でき、コスト競争力があるのです。16年度、当社は世界で250万台のサーボモーターとアンプを製造しましたが、うち半分は中国の瀋陽で製造しています。

 

── それは意外ですね。

 

小笠原 当社のロボットも中国の常州工場で、材料調達から一貫して現地で生産をする地産地消体制を敷き、開発チームも現地に置いています。顧客のニーズをすぐに吸い上げ、反映できるのも強みです。

 

── とはいえ、中国工場で働く日本人の人件費は高いのでは。

 

小笠原 中国の現地メーカーで働く中国人の人件費は年々上がっています。そのことは、当社のコスト競争力を強める追い風になっています。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A ソフトを開発する部門で、猛烈に働いていました。気の遠くなるような作業も多いのですが、「物事は必ず終わる」ということを学びました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 弘兼憲史さんの「島耕作」シリーズです。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 妻と買い物です。

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 ■人物略歴

 ◇おがさわら・ひろし

 愛媛県出身。松山南高校、九州工業大情報工学科卒業。1979年安川電機入社、主にソフトウエア開発畑を歩み、2006年取締役、15年代表取締役・専務執行役員。16年3月から現職。62歳。

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事業内容:産業機械、ロボット製造

本社所在地:北九州市

設立:19157

資本金:306億円

従業員数:14632人(連結)

業績(20173月期、連結)

 売上高:3948億円

 

 営業利益:304億円


第62回 福島後の未来をつくる:貧弱な日本のガスパイプライン 自由化や水素社会へ整備急げ=吉武惇二

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 ◇よしたけ・じゅんじ

 

 1947年山口県生まれ。慶応義塾大学商学部卒。東京ガスなどを経て現職。2007年京都大学大学院博士課程修了、博士号(エネルギー科学)取得。著書に『シェールガスの真実』(共著、石油通信社刊)。

 天然ガスは、現在も将来も、日本のエネルギー源として欠かせない。火力発電の燃料として、あるいは、都市ガスの原料として重要であるためだ。日本が液化天然ガス(LNG)を輸入するようになってから50年近くがたつ。

 

 しかし、LNGを生かすためのインフラはいまだに不十分だ。最も大きな課題の一つがガスパイプラインである。

 

 


 

 日本はLNGのほとんどを輸入に頼り、国内には35カ所前後のLNG受け入れ基地がある。海外から輸入したLNGを受け入れるためのインフラは十分だと言える。

 

 しかし、輸入したLNGを国内に行きわたらせるためのガスパイプラインは国土の6%程度をカバーしているにすぎない。

 

 例えば、東京と仙台以北は高圧幹線で接続されていないし、大阪から広島以西には伸びていない(図)。パイプラインがつながっていない地域では都市ガスを融通できない。米国やドイツなど欧米各国に比べても少ない状況にある(表)。

 

 

 

 国内の都市ガス事業は人口の集中する都市部で、かつ原料を調達するのに適した地域を中心に発達してきた。各都市部を結ぶ地域への普及は後回しにされてきた面がある。

 

 確かに、パイプラインの整備には多大なコストが必要だ。費用を負担するのは都市ガス会社だ。経営的に大きな負担になる。

 

 だが、費用対効果の高い地域に絞ってパイプラインを整備すれば、投資コストを十分上回る多くのメリットがあるはずだ。供給の安定化や市場の拡大、災害時の対応力強化などだ。

 

 何よりも大きなメリットは、エネルギー自由化によって期待できる電力・ガス各社の競争を活性化する点だ。競争を通じて多彩なサービスが生まれ、電気料金やガス料金の値下げにつながれば、消費者も大きな恩恵を受ける。パイプラインが新たに整備された地域では、産業の活性化にもつながる。

 

 パイプラインを敷設する上で大事なのは、供給安定性の向上を図る観点から、受け入れ基地同士や各地域を連結し、供給の手薄な地域をバックアップする仕組みを構築することである。

 

 東京ガスは16年3月に茨城港の日立LNG基地を運転開始した。日立基地は同社としては初めて東京湾外に設置したもので、同基地と既存の「栃木ライン」(栃木県真岡市)を結ぶ高圧ガスパイプライン「茨城─栃木幹線」を建設し、扇島(横浜市)、根岸(同)、袖ケ浦(千葉県袖ケ浦市)の東京湾沿いにある既存の三つのLNG基地と接続。首都圏の需要地に対し、関東南部と北部から相互にバックアップできる体制の整備を進めている。

 

 実は列島を縦断するガスインフラ整備は、これまで幾度も構想が持ち上がりながら、いつの間にか立ち切れとなってきた。なかなか実現しない理由は、企業にとって巨額の投資に見合うだけのメリットを見いだせないためだ。ガスの小売り全面自由化が実現した今、パイプライン投資を民間主導で行うことはますます難しくなっている。国家主導でなければ、国土強じん化やエネルギーセキュリティーの向上などを目的としたインフラ整備を実現するのは困難だ。

 

 そこで、ガスインフラを構築するのに比較的低コストな手法として、全国に張り巡らされた高速道路下の空間地に沿ってパイプラインを敷設することを提案したい。その際、道路管理者である国や自治体を統括する国土交通省と、ガス事業を所管する経済産業省との連携が欠かせない。

 

 ガスインフラの整備には一見、長い時間がかかりそうだが、見事に整備を進めているのが、韓国と台湾だ。韓国は、すでに全国的なパイプライン網を構築。台湾も、内地型の天然ガス火力発電所の建設を呼び水に、全国を縦貫するパイプライン網を形成している。日本は、ガスインフラにおいて、両国に後じんを拝しているのが現状だ。

 

 ◇しわ寄せは消費者に

 

 天然ガスは、今後、解決が求められるエネルギー分野の課題への対応にあたって重要な役割を果たす。特に将来の「水素社会」の実現に向けた懸け橋になるだろう。

 

 水素と天然ガスはどちらも気体燃料だ。インフラや輸送技術の面で共通点が多い。現に天然ガス自動車の燃料タンクや充填(じゅうてん)設備で培った高圧ガス関連技術は、燃料電池自動車(FCV)にも生かされている。

 

 将来的に海外から液化水素を輸入することになれば、LNG船を使った超低温輸送技術が生きるだろう。水素パイプラインを敷設するとすれば、天然ガスパイプラインのノウハウも役に立つ。天然ガスの関連技術そのものが、水素社会の実現に貢献できるのである。

 

 また、エネルギー業界は、電力とガスを合わせた「総合企業の時代」が到来する。これまで別々の規制や市場の中で事業を展開してきた電力業界とガス業界が今や、自由化によって同じ市場で競争する環境になった。エネルギー関連企業は消費者に対していかに最適なサービスやシステムを提案・導入できるかが重要になる。

 

 さらに、これまで業界にはなかった「技術革新の時代」が来る。あらゆるモノがネットにつながるIoTやビッグデータ、人工知能(AI)といったデジタル技術がこれまでにないスピードで進化している。エネルギー関連企業も従来とは異なる発想や技術が必要だ。

 

 こうした転換期にある中で、ガスパイプラインの整備が遅れたままでは、エネルギー関連企業もその能力を存分に発揮することはできない。しわ寄せは当然、消費者にもおよぶ。大きな転換期に向け、パイプラインの整備を急ぐ必要がある。

 

(吉武惇二・早稲田大学次世代科学技術経済分析研究所招聘研究員)

特集:すごい技術2018 2018年1月23日号

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自己修復するガラス

 

割れてもくっつく特殊素材を発見

 

「スマホを落としてガラスが割れてしまった」。でも心配ご無用。割れた破片と破片を押しつけると元通りに──。

 

 

 こんな話が近い将来、実現するかもしれない。東京大学の相田卓三教授(超分子化学)らのグループは、割れても破片同士を数十秒間押しつけると、くっついて修復する特殊なガラス素材を開発した。

 

割れたガラスの破片同士(上)をくっつけて自己修復したガラス(下)=東京大学相田研究室提供

 

 一般にガラスといえば、窓ガラスやコップの素材などを思い出すが、これらはケイ素などを材料とする「無機ガラス」を指すことが多い。

 

 これに対し、いわゆるプラスチック製レンズやコップなど樹脂製の素材は「有機ガラス」と呼ばれる。軽くて丈夫で加工しやすく、比較的安いため、食器棚のガラス部分など家具の一部に使われるケースも増えている。また水族館の大型水槽では高い水圧に耐えるためにアクリル樹脂を貼り合わせたものが使用されている。

 

 相田教授らが開発したガラスは有機ガラスで、「ポリエーテルチオ尿素」という高分子材料で作られている。この材料で作ったガラスは、分子と分子が鎖のように絡み合っている。面ファスナー(マジックテープ)による接着のような弱い結合である「水素結合」によって、もろくはなく粘り強いものになっている。2025度の常温でも人の力で押さえつければ「自己修復」できる。

 

 これまでゴムのような柔らかい物質では、ちぎれるなどしても、その部分同士を押しつけることで、分子同士が絡み合っていく現象が起き、復元できる素材はあった。ただ、ガラスのような硬い物質では、最低でも120度程度の高温に加熱しなければ復元は不可能だった。その点で今回の発見は画期的だ。ただし、無機ガラスで自己修復する物質は今のところ見つかっていない。

 

 今回のガラスは、新薬開発など病気の治療に役立てる物質の研究中に偶然見つかった。性質の異なるたんぱく質同士を貼り合わせて融合させる「分子のり」をつくる過程で生成されたが、従来にない不思議な性質を示した。調べ始めると、硬くさらさらとした表面なのに、破損した面同士を押しつけるとくっつくことが分かったという。

 

 

マンガ・いまいずみひろみ

 

 ◇疲労破損防ぐ材料も

 

 自己修復してリサイクルできる物質探しは最近の世界的な潮流だという。修復可能なガラスは、破損しても廃棄せずに半永久的に使い続けることができる。スマホやパソコン、メガネなどさまざま用途に利用の可能性が広がる。イタリアのベネチアガラスの工芸作家からも試しに使ってみたいと連絡があった。実用化に向けては、酷暑や極寒、水中などに対する耐性のほか、つないだ部分の傷を完全にきれいにするなどの課題があるという。研究は始まったばかりだ。

 

 用途はリサイクルだけではない。相田教授らのグループの柳沢佑・学術支援専門職員によると、機械や輸送機器などで使い続けることによって疲労などが起きる部位に、負担がかかってひびが入っても修復できる材料として使うことも可能だという。柳沢さんは「振動がかかる部位だと、ひびが入ることもあるが、このガラスの材料は起きにくい。寿命がこれまでの材料より2倍、3倍となれば、多少高価でも使われるのではないか」と話している。

 

(米江貴史・編集部)

週刊エコノミスト 2018年1月23日号

発売日:2018年1月15日

定価:620円


2018年1月23日号 週刊エコノミスト

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発売日:2018年1月15日

定価:620円

市場を動かす

すごい技術2018

 

自己修復するガラス

 

割れてもくっつく特殊素材を発見

 

「スマホを落としてガラスが割れてしまった」。でも心配ご無用。割れた破片と破片を押しつけると元通りに──。

 

 

 こんな話が近い将来、実現するかもしれない。東京大学の相田卓三教授(超分子化学)らのグループは、割れても破片同士を数十秒間押しつけると、くっついて修復する特殊なガラス素材を開発した。

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満期なき株ETFの売却は難しい=左三川郁子〔出口の迷路〕金融政策を問う(16)

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日銀は国債だけでなく、株式も大量購入している。すでに保有額は22兆円を超え、出口の困難になっている。

 

左三川郁子(日本経済研究センター金融研究室長)

 日銀は2016年9月に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)政策を導入し、金融政策の操作目標をマネタリーベース(量)から金利に切り替えた。それまで年間80兆円としていた長期国債の買い入れ目標を「めど」に改めた結果、買い入れ額は年間60兆円程度まで減少した。

 

 しかし、株価指数連動型上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)などリスク性資産については、買い入れのペースを変えていない。特に、ETFは16年7月に買い入れ額(保有残高の年間増加額)を約6兆円に倍増し、日銀は国債市場と並びETF市場でも最大の買い手となっている。ETFの保有額は1711月末で22・2兆円、時価総額でみた日銀の保有シェアは74%に上昇している。黒田東彦総裁は171031日の会見で「株式市場の時価総額では3%の保有であり、現時点では大きなリスクはない」と語ったが、ETFを買い続ける必要性を疑問視する声も少なくない。

 

 そもそも中央銀行がリスク性資産を買い入れる目的は何か。黒田総裁はETFの買い入れについて「現在の長短金利操作付き量的・質的金融緩和という金融緩和の枠組みの一つの要素であり、株式市場のいわゆるリスクプレミアムに働きかけることを通じて、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていくことが実施の目的」と説明している。

 

 リスクプレミアムとは、将来の不確実性の対価として上乗せされる金利や価格を指す。リスクプレミアムが小さくなれば、投資家は安心して株に投資できるし、企業にとっては同じ発行株式数でより多くの資金を調達できるようになる。

 

 では日銀は具体的にどの指標をリスクプレミアムと考えているのか。ここでは株式益利回り(1株当たり利益〈PER〉を株価で割ったもの)と安全資産利子率(10年物国債の流通利回り)の差をリスクプレミアムとしてみよう。投資対象として最も安全なものの一つと考えられている国債との利回りの差を、株式におけるリスクの上乗せ分と考えるのが妥当だからだ。

 

 株のリスクプレミアムは、アベノミクスが始まる前の12年夏ごろから、量的・質的緩和が導入された13年春ごろまでは急速に縮小していたが、量的・質的緩和開始以降は目立った傾向が確認できない。量的・質的緩和の下で長期金利が大幅に低下していた(10年物国債の利回りが低下していた)ため、定義上、リスクプレミアムが拡大しやすい環境にあったことや、長短金利操作の導入以降は長期金利がゼロ%近傍にとどまっているため、株価が上昇してもリクスプレミアムの縮小につながりにくい面もあるだろうが、リスクプレミアムの動きからETF買い入れの効果があったと結論付けることは難しい。

 

 ◇ユニクロの浮動株の6割

 

 日銀は、株価が下落している局面では数日にわたりETFを買い続ける一方、株価が大きく上昇すると、購入を見合わせる傾向にあるようだ(図)。1710月に株価が16営業日連続で上昇した局面では購入を見合わせたため、買い入れのペースが落ちた。黒田総裁は会見で、「特定の株価水準を念頭において、そうした水準を維持するために行っているわけではない」と語ったが、日銀のETF買いが株価を下支えしていることは筆者らの実証分析からも確かめられる。

 

 

 

 日本経済研究センターの金融研究班では、日銀がETFを購入した日としなかった日に分け、東証株価指数(TOPIX)の(1)前日終値から当日前場の終値までの値上がり率と、(2)当日の前場終値から後場終値までの値上がり率を比較した。分析の結果、日銀がETFを買い入れた日の後場は、前場に比べて株価の値上がり率が大きくなる傾向にあることが統計的にも確かめられている。

 

 ETFを大量に購入し続けた結果、日銀は複数の企業で事実上の大株主となっている。日銀が10%を上回る株式を(間接的に)保有する企業の数は1710月末で24社にのぼる。20%以上の議決権を保有している会社を一般に「関連会社」と呼ぶが、日銀の保有割合が2割に迫る企業もある。浮動株ベースで見ると、日銀の保有比率はさらに高まる。衣料品の販売を手がけるユニクロを傘下に持つファーストリテイリング株の保有比率は、浮動株ベースではすでに6割を超えている。日銀が年間6兆円のペースでETFを買い続けると、20年末にはファーストリテイリングの浮動株をすべて買い切る計算だ。市場に流通している浮動株が減ると、個別株の市場流動性が低下し、個別銘柄の価格発見機能を弱めることにもつながりかねない。

 

 日銀は信託銀行を通じてETFを購入しているため、株主総会で日銀が直接議決権を行使することはない。しかし、コーポレートガバナンス(企業統治)機能の低下を通じて、企業の経営判断に少なからず影響を及ぼしている可能性はある。

 

 ◇バランスシートから切り離す

 

 リスク性資産を保有することによる日銀の財務への影響も軽視できない。日銀の17年度上半期決算報告資料によると、9月末時点での含み益(評価損益)は4兆2710億円だった。筆者らの試算では、11月末には5兆9264億円の含み益が発生している模様だ。しかし、株価が仮に1410月の追加緩和前の水準(日経平均で1万6000円台)に下がれば、ETFの含み益は消失する。大きな経済ショックがなくとも、含み益がなくなる可能性は十分にある。

 

 株式は国債と違って満期償還がないため、売らなければ保有し続けることになる。金融正常化の過程で、日銀がETFを市場で売却するとアナウンスすれば、その時点で株価を大きく揺るがしかねないし、現在の保有規模を考えれば売却は長期間に及ぶ可能性が大きい。その間、日銀の財務は価格変動リスクや信用リスクにさらされ続ける。日銀はリスク性資産をどうやってバランスシートから切り離していくのか。

 

 一つの選択肢として銀行等保有株式取得機構に売却することが考えられる。同機構はバブル経済崩壊後に、銀行のリスク要因として浮上した企業との株式持ち合いをスムーズに解消するために02年に設立された。日銀は市場を介さず時価で売ることができるため、株式市場への影響を抑えながら出口戦略を進めることができる。しかし、同機構が日銀からの買い受けを可能にする制度変更が必要になるほか、財源の問題や日銀から買い取ったETFをどうやって投資家に売却するかという問題などが生じる。

 

 それ以外にも、日銀が保有したETFを個別株に交換し、企業側に自社株買いを促すなどの方法が考えられる。

 

 いずれにしても20兆円規模のETFを最終的に売却するには、相当の時間を要するとみられる。また、自社株買いに関しては、中央銀行が企業の経営判断に踏み込む財政政策の色彩を帯びた措置を、国会の議決を必要としない金融政策として採用してよいのかという問題も浮上しかねない。

 

 日銀がETFを大量に購入し、保有し続けた結果、17年度上期には2560億円の配当金(分配金)収入を手にした。16年度1年分の1・5倍に相当する規模である。日銀はリスク性資産の出口についての方針を早めに示すとともに、多額の運用益が得られている間にETFの分配金収入を含む運用益の一部を引当金として積み立てておくなどの準備が必要だろう。

 

(左三川郁子・日本経済研究センター金融研究室長)

 

 ◇さみかわ・いくこ

 

 

 1967年生まれ、福岡県出身。90年英ロンドン大学SOAS法学部卒業、日本経済新聞社入社。97年日本経済研究センター出向。2004年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、10年慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。同センター主任研究員などを経て16年から現職。著書に『量的・質的金融緩和』(共著)、『マイナス金利政策』(共編著)など。


2018年1月30日号 週刊エコノミスト

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発売日:2018年1月22日

特別定価:670円

2018

よい節税

悪い節税

 

過度な節税は脱税

 

銀行と税理士の責任必至

 

 2018年度の与党税制改正大綱で、大増税時代の幕が開いた。企業の負担軽減策が目立つ一方、中間富裕層に関わる増税が目白押しとなった。

 

 

 特に、資産税である相続税は、徴税強化の流れが続く。相続税は15年、「二重」に増税された。まず、最高税率は50%から、「6億円超は55%」に引き上げられた。富裕層の狙い撃ちだ。また遺産のうち、課税されない「基礎控除額」を引き下げ、課税対象者が「庶民」にまで広がった。

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日本一暮らしやすい路線に 星野晃司 小田急電鉄社長

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 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 小田急電鉄の特色は。

 

 

星野 120・5キロの路線距離に、東には世界最大のターミナルである新宿、西には日本有数の観光地である箱根、江ノ島を抱え、ビジネスと観光のターミナルを持っています。平日は新宿へ向かうビジネス客、休日は箱根や江ノ島に向かう観光のお客様がいます。そこをブランドでもある特急専用のロマンスカーでつないでいるのが一つの特徴です。

 

── 強みは。

 

星野 乗降客10万人超の駅が11駅あります。起点の新宿や代々木上原、30キロ地点には町田、40キロ地点には本厚木があり、この規模の駅が点在している私鉄は珍しいです。小田急は新宿と箱根のターミナルだけでなく、他の駅間を行き交う人にも支えられています。背景には大学や企業といった集客施設が沿線に点在している強みがあります。

 

 通勤・通学と観光路線の顔を持つ小田急。ラッシュ時の混雑は首都圏屈指で、代々木上原駅(東京都渋谷区)─登戸駅(川崎市多摩区)11・7キロの複々線化を進めてきた。残っていた代々木上原駅─梅ケ丘駅(東京都世田谷区)2・2キロの工事が終わり、3月17日にフル活用するダイヤが始まる。

 

── 複々線完成に要した年数は。

 

星野 構想から半世紀、着工から30年かかりました。工事区間は路線全体の1割にも満たないですが、住宅が密集している地域で、高架化や地下化により踏切廃止の工事も進みました。踏切廃止など立体交差は東京都の事業で、線路を2本から4本にした小田急の工費は約3200億円です。50年先を見据え、輸送を改善して質を高めるという思いを持って大工事を決めた先輩たちは、大きな決断をしたと思います。

 

── 複々線完成の効果は。

 

星野 朝ラッシュのピーク1時間(下北沢着午前7時半~8時半)の運行本数は27本が限界でしたが、線路が倍になることで36本に増やせ、輸送力は約4割増強できます。列車がスムーズに走れるようになり、町田から新宿の所要時間は12分短縮して37分になります。また混雑率は192%で首都圏ワースト3でしたが、平均150%程度に緩和します。混雑緩和で乗降時間の短縮も期待でき、定時性の確保も期待できます。

 

── 代々木上原から先の対策は。

 

星野 乗り入れている東京メトロ千代田線への直通電車を増やし、流れを新宿方面と分散します。千代田線はビジネス拠点が多く、代々木上原からの千代田線利用者は増えており、朝の新宿方面との比率は約5545です。

 

「小田急は混んでいて遅い」と敬遠されていましたが、東急線やJR南武線などから切り替える利用客が、年間3~4%、約3000万人増えると期待しています。

 

── 他に期待できるメリットは。

 

星野 複々線の完成で便利になることにより、沿線の魅力を抜本的に高められます。併せて主要駅の自治体や大学、企業と連携して使いやすい駅や周辺開発を進めています。小田急が「日本一暮らしやすい沿線になる」アプローチです。

 

 ◇インバウンドも大きな柱

 

── インバウンド(訪日外国人)数は伸びていますか。

 

星野 箱根や江ノ島などの観光地だけでなく、新宿も人気があります。1999年に鉄道で初めて、新宿に外国人利用客の案内所を作りました。新宿と小田原の2カ所の利用者は2012年度が9万人でしたが、16年度は28万人でした。17年度は三十数万人と見込んでいます。東南アジア中心に、中国や韓国に加え、最近は欧米が増えています。

 両拠点を持つ我々にとってインバウンドは大きな柱として育てたいですね。20年度までの関連収益230億円を目標としています。

 

── まだ伸びそうですね。

 

星野 昨年12月にはインバウンド専用周遊券「箱根鎌倉パス」の発売を始めました。3日間有効でグループ各社の交通機関が使える箱根や鎌倉の周遊券サービスに加え、小田急線内も自由に乗り降りできます。

 

 一方、インバウンド関連ベンチャーを支援する事業も始めています。取得したビルに貸しオフィスやイベントスペースなどがあります。イベントの提供や商品の企画に向けて、アイデアを出してもらう狙いです。

 

 16年9月にはPRを図り、バンコクに駐在員を配置しました。現地での発信力は高まり、新宿・小田原の旅行案内所の利用者は17年度上期は前年度同期比で27%増加しました。国は20年東京五輪を控え、欧米などからの長期滞在型観光客を見据えています。当社は今年2月にパリにも駐在員を置きます。現地に駐在員がいると、情報量は収集も発信も格段に違います。

 

── 今後の方針は。

 

星野 20年を見据えた長期ビジョンでは、複々線の効果最大化、沿線外のホテル進出などを盛り込んでいます。百貨店をはじめ流通は苦戦しています。4月からの3カ年計画では、百貨店とショッピングセンターの融合を図ります。藤沢で始めており、内装の変更などを進めています。町田や新宿でも展開する方針です。

 

 駅の機能は変わっていくでしょう。これまでは主に「住む」「買い物する」という機能でしたが、サテライトオフィスや、子どもの学びや遊びのスペースといった多様な機能を持つ拠点に作り替えていきたいと思っています。

(構成=米江貴史・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A ほとんどをグループ事業部で過ごしました。20代で関わった人事から、商売中心になりました。不動産や建設を担当し、人間関係や事業の視野が広がり、グループ全体あっての小田急だという考え方になりました。

 

Q 「私の好きな本」は

 

A 時代小説をよく読みます。佐伯泰英、上田秀人、辻堂魁が好きです。勧善懲悪な話はスッキリします。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 趣味はゴルフですが、それ以外は家族と過ごしています。妻や子どもと一緒に買い物や食事、映画に出かけたりします。家では天ぷらなどの料理もします。

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 ■人物略歴

 ◇ほしの・こうじ

 1955年生まれ。神奈川県出身。県立厚木高校、早稲田大学政治経済学部卒業後、78年4月小田急電鉄入社。専務取締役交通サービス事業本部長などを経て2017年4月から現職。62歳。

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事業内容:鉄道、百貨店などの流通、不動産など各事業の運営

本社所在地:東京都新宿区

設立:1923年5月(前身の小田原急行鉄道)

資本金:6035900万円

従業員数:単体3637人(20178月)

業績(173月期、連結)

 売上高:52303100万円

 

 営業利益:4994600万円

特集:2018よい節税悪い節税 過度な節税は脱税 2018年1月30日号

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過度な節税は脱税

銀行と税理士の責任必至

 

 2018年度の与党税制改正大綱で、大増税時代の幕が開いた。企業の負担軽減策が目立つ一方、中間富裕層に関わる増税が目白押しとなった。

 

 特に、資産税である相続税は、徴税強化の流れが続く。相続税は15年、「二重」に増税された。まず、最高税率は50%から、「6億円超は55%」に引き上げられた。富裕層の狙い撃ちだ。また遺産のうち、課税されない「基礎控除額」を引き下げ、課税対象者が「庶民」にまで広がった。

 

 

 

「半世紀に一度」ともいわれた増税からわずか3年で、今度は課税逃れへの対策を強化した。国税当局が立法趣旨に反した節税に厳しい姿勢を示したことで、これまで相続税対策をしてきた人も、対策の練り直しを迫られることになる。

 

 ◇「節税のための事業はない」

 

 問題視された相続税の課税逃れは、二つある。まず、「小規模宅地等の特例」を活用したものだ。

 

 小規模宅地等の特例は、相続の発生によって、被相続人(死亡者)の家族が生活基盤を失うことがないようにという配慮から設けられている。相続する土地の用途によって「事業用」(店舗や工場など)、「居住用」(自宅)、「貸付用」(賃貸アパートや賃貸駐車場など)──の3種類ある。例えば居住用なら、被相続人の(1)配偶者、(2)同居する親族、(3)持ち家のない別居の親族──が相続する場合、相続税評価額を80%減額できる。

 

 親から宅地を相続する子は、親と同居していなくても、持ち家がなければ適用されることになる。このため、相続前に自分が住んでいる持ち家を、親族らにあえて譲渡・贈与。その後も住み続けながら、形式上は持ち家がないことにして特例を受けて節税するという「悪用」が後を絶たなかった。

 

 今回の改正で、もともと自分の所有していた家や、3親等内の親族が所有する家に3年以内に住んでいた場合は、特例が適用されないことになった。

 

 小規模宅地等の特例は、相続税の申告に当たって一般的に使われている。15年の増税に合わせ、面積の上限が拡大するなど使い勝手がよくなったこともあり、適用件数は大幅に増加した。

 

 17年度税制改正では、タワーマンションにかかる固定資産税が、高層階ほど高くなるよう改められている。相続税は固定資産税の評価額を使って算出するため、タワーマンションは高層階の税額が相対的に低く、富裕層が節税策として購入する動きが広がったためだ。今回も、相続税の節税策抑制に向け、小規模宅地等の特例に何らかの見直しが行われるのは確実とみられていた。

 

 特に厳しい目が向けられたのは「事業用」だ。相続税の節税をするためだけに、直前に賃貸物件を購入するような動きだ。

 

 相続財産は、現金で持っていると評価額が高いが、土地と建物に替えると、一気に下がる。また、土地は更地よりも建物のあるほうが評価額が低い。

 

 そのため、銀行や税理士、住宅メーカーが節税効果をうたい、富裕層に賃貸マンションやアパートの建設を提案する営業攻勢が続いていた。賃貸経営に不安を感じる顧客に、住宅メーカーは「一括借り上げ」(サブリース)による「家賃保証」のシステムを持ちかけて獲得するケースが目立つ。しかし家賃収入の減額や契約の途中解除により、資産を失ってローンをかかえるという事案が社会問題化した。

 

「節税のために始めた事業は、事業とは呼べない。節税は本来、後から付いてくるものなのに、銀行や税理士、住宅メーカーが仕事ほしさに提案している。立法趣旨に著しく反しており、『過度な節税』ではなく脱税だ」。国税庁関係者は手厳しい。

 

 ◇すぐに埋められた抜け道

 

 一般社団法人を設立する課税逃れは、より深刻だ。

 

 一般社団法人は、議決権を持つ社員に「持ち分」がないため、不動産などに相続税がかからない。資産を持つ親が、一般社団法人を設立。資産を移転して自分の子ら親族に代表を継がせれば、相続税を免れた上、自由に資産を使うことができる。

 

 一般社団法人は、08年の制度改正で手続きが緩和され、営利目的でも設立ができるようになった。設立要件も「公序良俗に反しない」限りはすべての事業が対象となる。しかも費用は登記の6万円だけだ。東京商工リサーチの調査によると、16年に新設された一般社団法人は5996社。設立数は毎年右肩上がりで、12年の1・6倍に急増している。

 

 手軽な節税策として「新興の大手税理士事務所が顧客獲得に向けたセミナーを開き、積極的に指南している」(大手税理士法人幹部)ことも背景にあった。中間富裕層の間で急激に広まり、問題視されていた。

 

 今回の見直しで、役員の過半数を同族が占める一般社団法人では、同族の役員が1人死亡した場合、一般社団法人の財産に対して相続税を課税するよう改められる。

 しかし、税理士業界の中では、抜け道を封じる改正は「まだ先」という見方が根強かった。一般社団法人の制度改正から10年しかたっていないためだ。「それだけ国税当局が憤っている証拠」(相続税制に詳しい税理士)と驚きが広がった。

 

 中小企業経営者ら中間富裕層の間では、自社株の相続について、持ち株会社を利用した節税策が定着している。持ち株会社と一般社団法人は「箱」が変わるだけで、基本的な節税の仕組みは同じだ。

 

 ここでも、銀行や税理士、住宅メーカーが登場する。貸出先に悩む複数の大手銀行が、富裕層に節税策として一般社団法人設立を持ちかける「勧誘専門部隊」を抱えている。

「相続税の節税になる」と近づき、一般社団法人を設立して資産を移す。その後、移転した財産を担保に、賃貸マンションやアパート経営を勧め、事業の実体を整える。

 

 いずれの課税逃れも、銀行は、不動産を購入・建築するために多額の融資ができる。金利収入に加え、富裕層との取引のきっかけが生まれる。投資信託や証券など資産運用に引き込み、手数料収入を期待することもできる。不動産を自前で紹介し、仲介手数料を稼ぐケースまである。一石四鳥の仕組みだ。顧客獲得に苦しむ税理士は、税務相談や税務書類作成で報酬を得る。

 

 

 

 ◇税理士の提訴も

 

 しかし税制改正前の現在でも、国税当局が「相続税の節税以外に目的がない」として認めず、追徴課税されるケースが増えている。国税庁関係者は「税制だけでなく、一般社団法人の仕組みそのものに精通していなければ成功しない。実例を見ても、それほど理解できていないのではという事案が目立つ。そもそも、税金は相続税だけではなく、全体では節税になっていない例もあった。『うまい話』と飛びつくと、痛い目をみる」と注意喚起する。

 

 節税策に詳しい税理士は「国税当局から追徴課税を受けた顧客から、損害賠償を求めて提訴されることも考えられる」と指摘する。

 

 この税理士によると、銀行や税理士は提案する際、「将来、税制改正されると節税効果がなくなる可能性があります」というリスクを十分に説明しないという。税制改正で抜け道が封じられた結果、顧客にとっては節税のつもりが、資産移転を実行したことに伴う所得税や贈与税など、本来は支払う必要のなかった税金が余分に発生しただけということにもなりかねない。

 

 一般社団法人の節税策を顧客に提案した経験のある税理士は、「将来の制度改正まで保証することは不可能だ。そういったリスクがあることは、当然理解しているはず。今後課税される部分については、あくまで顧客の自己責任」と開き直る。顧客を勧誘する銀行側も、「税務相談は税理士以外がすることは禁止されている。顧客と税理士の間の問題だ」と押しつける。

 

 相続税は15年の改正で課税対象者が広がったとはいえ、このような複雑な節税策は富裕層だけのもの。実行に時間と手間、経費が必要なため、多額の節税ができなければ見合わないためだ。

 

「節税策と徴税強化のいたちごっこは昔から変わらない」(国税庁関係者)。相続増税により、納税者の負担感は大きい。不公平さを打ち消すため、立法趣旨に反した過度な節税に対して、今後も国税当局が厳しい姿勢で臨むことは避けられない。

(酒井雅浩・編集部)

 

(池田正史・編集部)

週刊エコノミスト 2018年1月30日号

発売日:2018年1月22日

特別定価:670円



目次:2018年1月30日号

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CONTENTS

 

2018よい節税悪い節税

20 過度な節税は脱税 銀行と税理士の責任必至■酒井 雅浩/池田 正史

23 庶民に徴税強化の一方で恩恵むさぼる政治家と官僚 ■編集部

24 Q&A 相続に向き合う 節税よりも家族のかたち■監修・阿部惠子

26 一般社団法人 「過度な節税」に追徴強化 ■長嶋 佳明

28 持ち株会社 事業承継なら大きなメリット ■青木 寿幸

31 小規模宅地特例 貸付事業の適用要件厳格化 ■遠藤 純一

34 税制改正のポイント 富裕層向け課税強化の傾向続く ■星野 卓也

37 地方消費税 「独り負け」 東京都を待ち構える次の試練 ■編集部

 

緊急 2大地政学リスク 北朝鮮とイラン

13 北朝鮮が突然の「対話モード」 「日本の孤立」リスクを避けよ ■武貞 秀士

15 イラン 国内に広がった異例の反政府デモ 「ハメネイ体制」崩壊の始まり ■福富 満久

 

38 対談 銀行不安時代 友田 信男 東京商工リサーチ常務情報本部長 × 吉沢 亮二 S&Pグローバルシニア・ディレクター

 

エコノミスト・リポート

78 「一帯一路」と「インド太平洋戦略」 要衝港湾の運営権を中国に スリランカを揺るがす投資攻勢 ■石井 順也

 

81 ひと&こと 赤字続きの島根銀行 君臨相談役が頭痛の種/中国企業から損害賠償請求 オリンパスの新たな「火種」/みずほFG異例の社長交代 「興銀の後もまた興銀」の声

 

Interview

4 2018年の経営者 星野 晃司 小田急電鉄社長

16 挑戦者 2018 徳重 徹 テラモーターズ社長

46 問答有用 中田 吉光 青森大学男子新体操監督

 「男子新体操は“攻め”あるのみ。止まったら負け」

 

科学でわかった!疲れはとれる ■渡辺 勉/編集部

84 「疲労感なき疲労」にご用心

87 休んでも回復しない! 慢性疲労症候群をご存じですか

88 あなたの疲労はどの程度? 唾液で、血液で、指先で測る

90 疲労診断を受けてみた 「自律神経乱れて要注意」 ■藤枝 克治

91 疲労科学が導きだした 疲れない睡眠・食事・オフィス そのいびき、大丈夫?

94 「働き方改革」の主眼は経済成長 ■黒崎 亜弓

95 インタビュー 常見 陽平 働き方評論家 「ますます『働きすぎる』社会に」

 

76 インタビュー 井上 亮 オリックス社長 「円高によるクラッシュ警戒」 

82 英国 EU離脱交渉の進展阻む英国議会の「拒否権」 ■増谷 栄一

 

World Watch

64 ワシントンDC トランプ大統領が“うっちゃる” 米国政治ウオッチャーの見識 ■馬渕 治好

65 中国視窓 増える知的財産トラブル 日系現地法人の防衛策 ■前川 晃廣

66 N.Y./カリフォルニア/ルーマニア

67 韓国/インド/シンガポール

68 上海/ブラジル/セネガル

69 論壇・論調 米インフラ整備の財源不安 目玉の減税が邪魔する皮肉 ■岩田 太郎

 

Viewpoint

3 闘論席 ■片山 杜秀

19 グローバルマネー 金融政策の違いによる円安期待は続かない

41 商社の深層 (99) 伊藤忠が日中越境EC事業に本腰 CITIC案件のてこ入れも期待 ■池田 正史

42 福島後の未来をつくる (63) 交付金の構造を変えない限り原発の事故は避けられない ■伴 英幸

44 国会議員ランキング (10) 衆議院憲法審査会の発言時間 ■磯山 友幸

50 学者が斬る 視点争点 GDP速報の修正幅は小さくできる ■飯塚 信夫

52 海外企業を買う (174) 閲文集団 ■富岡 浩司

54 名門高校の校風と人脈 (274) 八代高校/玉名高校(熊本県) ■猪熊 建夫

56 言言語語

70 アディオスジャパン (86) ■真山 仁

72 東奔政走 30代市長が気を吐く「夕張」「千葉」 人口減少社会に向き合う首長の挑戦 ■人羅 格

74 出口の迷路 (16) 満期なき株ETFの売却は難しい ■左三川 郁子

102 独眼経眼 水面下で賃金上昇が進んでいる ■小林 真一郎

103 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Socialism ” ■安井 明彦

104 ネットメディアの視点 IT企業となるトヨタ シェアカーとマイカーの矛盾抱え ■土屋 直也

108 アートな時間 映画 [サファリ]

109        舞台 [かさぶた]

110 ローカル・トレインがゆく (8) かわせみ やませみ(上) ■文・金子恵妙/写真・田中紀彦

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■佐々木 大樹/週間マーケット

98 中国株/為替/白金/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『異次元緩和の真実』

 『強いAI・弱いAI』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■小林よしのり 

62 歴史書の棚/出版業界事情

 

57 次号予告/編集後記

 

第63回 福島後の未来:交付金の構造を変えない限り原発の事故は避けられない=伴英幸

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◇ばん・ひでゆき

 

 1951年三重県四日市市生まれ。早稲田大学卒業。生活協同組合専従を経て、89年脱原発法制定運動の事務局スタッフ。90年原子力資料情報室スタッフとなる。95年同事務局長。98年より現職。

国策への協力とその見返りとしての交付金という構造にメスを入れよ。

 

 原子力発電の許認可権が2012年9月、経済産業相から原子力規制委員長に移り、規制の独立が実現した。つまり、原子力規制委員会から合格証をもらった事業者は、自らの判断で原発の稼働ができる。だが、実際には立地自治体との安全協定によって、増設や機器類の大きな変更などについて稼働前に了解を得ることになっている。

 

 


 ◇自治体は消滅する

 

 個々の原発の稼働に対する経産相の判断がなくなり、紳士協定である安全協定に基づいて立地自治体が運転の諾否を判断しなければならない。しかも、事故のリスクがあると告げられている原発に対する稼働諾否の判断である。地元自治体としては重い判断を迫られることになったわけだ。

 

 判断の重さの実感は、いっそう重くなったのではないだろうか。これを意識してか、玄海原発の再稼働判断に際して、佐賀県知事は県内5カ所で住民向け説明会を主催し、政府から再稼働を進める原子力政策を説明させた。

 

 また、知事が「広く意見を聴く委員会」と専門家委員会を設置して意見聴取や安全性の検討を進めたことは、従来にない取り組みではあった。これらは県民の理解促進のための取り組みという。さらに、経産相から政府として責任を持って原子力政策を進めるという確認も得て、再稼働に合意した。国の責任で再稼働を進めるという構図を作ったのだった。

 

 実際に事故が起きたらどうなるのかは、福島の現実を見れば明瞭だ。放出された放射能による影響は広範囲であり、時間的にも長期に及ぶ。事実上の自治体消滅である。

 

 国は責任を取らないし、取れない。事故を起こした東京電力への政府の対応を見れば、こちらも一目瞭然だ。政府は東電を破産処理させ、経営者の責任を問うた上で、事故の後始末を政府の責任で行うべきだったが、これを回避した。再稼働の判断を国に求める責任回避が許されるのだろうか。県民の財産と命を守るのが、自治体の責務だ。

 

 

福井県知事の再稼働同意に反対する市民(2017年11月27日)

 

 ◇地域振興は“まぼろし”

 

 経産省は再稼働を進めるために、「見なし発電」を改めることにした。事故以降に原発の停止が続いているが、交付金のうち発電電力量をベースに支給する部分は発電していると見なして交付を続けていたが、再稼働が進まないことから、原子力規制委員会が合格証を出したにもかかわらず、知事が同意しないことによって再稼働に入れない原発に対しては見なし部分を従来より13%も低く見積もることに運用変更した。

 

 他方、補助金の交付対象自治体を30キロ圏内に拡大した。補助金の名称は「エネルギー構造高度化・転換理解促進事業費補助金」である。目的は経産省によれば「原発依存度低減という方針の下で、廃炉が行われる市町村をはじめとする原発立地自治体等において、エネルギー構造の高度化などに向けた取組を進め、地域の理解を図っていく」ための補助金で、2年ほど前から導入された。

 

 この補助金を17年度から原発立地30キロ圏内の自治体に拡大して支給することに変更したのだ。本来なら廃炉への対応として導入した補助金だが、長期停止の場合にも適用するという。経産省はこれを再稼働容認へのインセンティブとして活用したのだ。

 

 これが奏功して、玄海原発の30キロ圏を市域にもつ佐賀県の糸島市は拡大決定の3日後に再稼働を容認した。防災対策は30キロ圏内に拡大されたが、交付金は立地とその周辺自治体のみでは不公平といった声があったのだろう。

 

 また、再稼働同意のためではないと否定するが、どう考えても再稼働を進める意図が見えてくる。さらに、名目を違えた支給対象拡大は論理的にも破綻している。

 

 他方、補助金行政をあてにした地方自治体の原発依存が、むしろ原子力行政を硬直化させている側面があり、原発への補助金を増やす政策は重大事故の再発の温床となりかねない。

 

 また「もんじゅ」の廃炉が1612月に決定したが、これに続く廃炉措置申請が提出されない状態が続き、廃炉の審査にも作業にも入れない状態が続いている。原子力規制委員会は昨年7月ごろから再三、申請を出すように原子力研究開発機構に求めているが、機構側は福井県の合意が得られないことから申請できない旨を返答している。

 

 福井県側は機構の廃炉組織体制に不安があり、これが確かなものにならないので合意できないでいるとしていた。申請後の審査と並行して具体的な組織体制を検討していけば、より具体的になると考えるので、正当な理由とは考えにくい。

 

 昨年8月に福井県は「もんじゅ」の所管の文部科学相に対して「『もんじゅ』の廃止措置に関する要請書」を手渡した。「もんじゅ」の安全・着実な廃炉措置の推進は当然の要望であるが、加えて福井県をエネルギーの総合研究開発拠点地域とすること、交付金を増額すること、北陸新幹線の早期整備、舞鶴若狭自動車道の4車線化など「もんじゅ」とはおよそ関係のない項目が並んでいる。この要望に対する政府の支援が回答された1122日に福井県は廃炉措置申請に合意した。

 

 こうした事態を見ていると、交付金による地域振興を期待して原発を誘致しても、結局のところ、地域振興にはつながらなかったことがわかる。しかし、国への依存体質は全く改まっていないし、国もこの状況を利用して政策手段としている。国策への協力とその見返りとしての交付金という構造を変えない限り、事故の再発は避けられないだろう。

 

(伴英幸・原子力資料情報室共同代表)

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 ◇原子力規制行政の独立

 

 福島原発事故が日本の原子力行政にもたらした大きな変化の一つが、原子力規制行政の独立である。国際原子力機関などから指摘され続けてきた規制の独立が、皮肉なことに未曽有の原発事故の後にようやく実現した。このことにより原発の許認可権者が、従来の経済産業相から原子力規制委員長に移った。

 

 更田(ふけた)豊志(とよし)原子力規制委員長は、規制委員会が安倍政権の意向に沿って運営されているのではないか、との記者の質問に答えて以下のように回答している。

「政府や産業界の意向にとらわれずに純粋に規制に徹することが規制機関の本質であり、原発を動かすとすれば、これくらいの設計や対策が満たされることを求めるのが規制機関の役割で、実際に原発を動かすか動かさないかは規制機関が判断しているのではない」

 

 これは昨年1113日、日本記者クラブでの記者会見の席上のことである。

 

 ここで語られている要点は以下の二つ。

 

 一つは、現行の規制基準が絶対の安全を保証するものではないことである。原発を運転するのに最低限必要な基準で合否を判断しているのであって、重大事故の可能性を認めている点である。それゆえ、重大事故が起きた時の対処設備が要求されている。

 

 もう一つは、原発稼働の可否を規制委員会が判断しないとしていることだ。規制基準に合格した原発の稼働の判断は事業者にあるわけだ。

 

 これら2点は目新しいことではなく、福島原発事故以前からその状態だったのだ。国務大臣が原発の運転を許可したからと言って、絶対の安全が保証されるわけではないし、事業者が運転を義務づけられたわけでもない。だが、作られた安全神話と国策への依存によってこうした本質が見えなくされていたと言える。

 

(伴英幸)

 

金融緩和政策に「限界」はない=嶋津洋樹〔出口の迷路〕金融政策を問う(17)

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今の段階で金融緩和を縮小すれば、日本経済は再び総需要の減少と雇用の悪化、物価の低下に見舞われかねない。

 

嶋津洋樹(MCPチーフストラテジスト)

 

 

金融緩和政策には限界があるという議論がある。ここでいう「限界」とは、総需要の停滞とともに雇用情勢が悪化し、物価が低下するなど、経済が緩和的な金融環境を必要としているにもかかわらず、中央銀行がそれを提供できない状態を指している。「弾切れ」と表現されたりもする。

 たとえば、かつては政策金利がいったんゼロまで引き下げられてしまうと、一段と緩和的な金融環境を作り出すことは不可能だと考えられていた。不可能でなくても、かなり困難だとの見方は少なくなかっただろう。

 

 バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長は2017年5月のリポートのなかで、たとえ中央銀行がこうした「弾切れ」に陥ったとしても、金利の一段の引き下げや通貨の下落(為替安)、株価の引き上げ、または予想物価上昇率を押し上げることで緩和的な金融環境を作り出せると述べている。

 

 具体的には、政策金利をマイナスにすること、中央銀行が長期間にわたって低金利を維持すると約束したり、残存期間の長めの国債を購入したりすることで、長期金利を引き下げること、株式などの金融資産を購入することなどが考えられるだろう。

 

 それでも芳しい効果が得られない場合は、中央銀行が政府と協力することも提案している。政府が中心となって民間企業に賃上げを要請することや、財政支出に伴って政府債務の対国内総生産(GDP)比が上昇し、金利が上がった時に、中央銀行が金融緩和でそれを抑制する方針を示すことなどを念頭に置いているようだ。こうしたバーナンキ前FRB議長の考え方は、経済が緩和的な金融環境を必要としている限りにおいて、金融緩和政策には「限界」がないことを示している。

 

 もちろん、中央銀行が政府と協力する場合、中央銀行が単体で緩和策を実施する場合に比べ、「中央銀行の独立性」を損なうリスクは避けられない。しかし、バーナンキ前議長は「中央銀行の独立性」について、それ自体が目標ではなく、手段に過ぎないと言い切る。

 

 さらに、FRB議長を退任した直後の自著では「国家の長期的なメリットのために、政治家からはまったく支持されない決定を下す。これこそが、政治から独立した中央銀行であるFRBの存在意義ではないか。FRBはまさにこの目的のために作られたのだ。他の誰もできない、あるいはやろうとしないことをするために」とも記している。

 

 つまり、「中央銀行の独立性」はあくまで、国家の長期的なメリットといえる総需要と雇用の安定を、物価を通じて達成するためのものであって、その逆ではないのである。バーナンキ前議長のこうした考えに基づけば、総需要と雇用が物価の低下とともに悪化し続けた「失われた20年」は、日本銀行が十分に緩和的な金融環境を作り出さなかったことに原因の一端があると言えるだろう。

 

 ◇成功した異次元緩和

 

 日銀が黒田東彦総裁の下で採用した「量的・質的金融緩和(QQE)」に始まる一連の「異次元緩和」は、それまでの限界を突破し、日本経済が必要とする緩和的な金融環境を作り出したという点で画期的であった。総需要と雇用が増加し、物価も「デフレとは言えない」ところまで回復したのは、一連の「異次元緩和」が日本経済の必要とする緩和的な金融環境を提供したことの証左と言えるだろう。

 

 もちろん、「デフレとは言えない」ことと、デフレから完全に脱却したこととは同義ではない。それどころか、2017年11月の消費者物価(CPI)は前年同月比0・6%上昇と、日銀が「物価安定の目標」として掲げる「前年比上昇率2%」の未達は明白だ。このことは、日本経済が依然として緩和的な金融環境を必要としていることを示すだろう。

 

 過去の日本の物価が1%近辺で推移していたことや、最近の欧米の物価が停滞していることを引き合いに、現在の日本で2%の物価目標を達成することは困難との主張もある。しかしこの主張は、予想物価上昇率の違いを考慮に入れていない。現在の日本と欧米の予想物価上昇率の違いは言うまでもないが、沖本竜義・オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院准教授の研究では、1985年から95年までの日本の予想物価上昇率は1・5~2・0%程度と比較的高く、安定的であったことが示されている。つまり、日本は欧米と違い低物価上昇率の国だと考えている人が多いが、それは思い込みに過ぎず、欧米並みの2%程度のインフレ目標を設定することは決して不合理ではない。

 

 そもそも、物価目標の達成が困難との状況を踏まえた海外での議論の主流は、目標とする物価上昇率の引き上げや、物価目標の未達期間に応じて、目標を上回る物価上昇率を許容する物価水準目標の導入など、インフレ目標政策を強化することである。今の段階で緩和的な金融環境を縮小すれば、日本経済は再び総需要の減少と雇用の悪化、物価の低下に見舞われかねない。

 

 それではなぜ今の段階で金融緩和政策を縮小し、出口へ向かう必要があるのだろうか。筆者が見る限り、共通するキーワードは「副作用」のようだ。たとえば、日銀が国債を購入し続けると、流動性が低下し、いつでも売れるという安心感がなくなるなどの理由で買い手が減り、かえって長期金利の急騰(国債価格の暴落)という「副作用」を招くというものが典型だ。

 

 

 

 ◇副作用批判の矛盾

 

 しかし、少し考えてみればわかることだが、日銀が国債を購入し続けるのであれば、買い手の減少は問題にならない。極端に言えば、日銀がすべての国債を購入すればよいだけのことである。そもそも国債の価格は売り手と買い手の言い値が一致して決まる。日銀という買い手がいる限り、売り手がいなくなって国債価格が暴騰(長期金利の急低下)することはあっても、国債価格の暴落というのは起こり得ない。

 

 このように言うと、長期金利の急低下が財政規律の弛緩(しかん)という「副作用」を通じて、ハイパーインフレを引き起こすとの批判が出る。しかし、日銀が国債を購入するのは金融緩和政策を通じて「物価安定の目標」を達成するためである。しかも日銀が「物価安定の目標」として掲げる2%は、それが未達の状態とハイパーインフレとの間にあるはずだ。2%目標が達成されれば日銀は緩和をやめ、必要に応じて引き締め措置を講じる。なぜいきなりハイパーインフレになるのだろうか。

 

 あるいは別の批判として、国債には金融取引などに絡む一定の需要があるため、日銀がすべてを購入することは不可能だとの見方もある。日銀が買いたくても、売ってくれる投資家がいなくなり、日本経済が必要とする緩和的な金融環境を十分に提供できなくなってしまうという考え方だ。しかしその一方で、すでに述べたように日銀が国債を購入し続けると、買い手がいなくなるという「副作用」が懸念されている。両者は明らかに矛盾している。

 

 ここで掲げた「異次元緩和」が国債価格の暴落やハイパーインフレをもたらすという批判は、それぞれ説明がつかないところがあるうえ、相互に矛盾を抱えている。

「異次元緩和」は、それまでの日銀の金融緩和政策と異なり、日本経済が必要とする緩和的な金融環境を提供することで、総需要と雇用を回復させ、物価をプラス圏に引き上げることに成功した。とはいえ、デフレからの脱却に成功したとは言えず、「物価安定の目標」には依然として距離があるのも事実だ。このことは、日本経済にとって依然として「異次元緩和」が必要なことを意味するだろう。

 

「異次元緩和」が国債価格の暴落やハイパーインフレを招くという批判は、緩和的な金融環境の早過ぎる縮小を招きかねず、日本経済を再び総需要の減少と雇用の悪化、物価の低下という事態に陥れかねない。

 

(嶋津洋樹・MCPチーフストラテジスト)

 ◇しまづ・ひろき

 

 

 1974年宮城県生まれ。98年明治大学法学部卒業、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、みずほ証券、BNPパリバ・アセットマネジメント、SMBC日興証券などを経て、2016年から現職。著書に『アベノミクスは進化する』(共著)など。


目次:2018年2月6日号

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CONTENTS

 

世界が見たビットコインの真実

20 欲望渦巻く“投機マシン” 金融市場の撹乱要因に ■大堀 達也/松本 惇

22 インタビュー 「Lisk」 機能的なブロックチェーンを開発 マイクロソフトも注目

23 ビットコイン生んだナカモト・サトシの夢 仮想通貨がドルに代わる日は来るか?

25 知らずにビジネス会話は乗り切れない! 仮想通貨の「基礎知識」 ■編集部/監修・志波 和幸

28 金融エリートの挑戦 シリコンバレーと香港の胎動

シリコンバレー 「Omniex」 数百億円の大口取引を実現する

香港 「Digitas」 イーサリアムの採掘工場を運営

31 日本の未来? 中国、仮想通貨詐欺が頻発 ■高口 康太

32 仮想通貨はこう動く 乱高下は“2階建てバブル”が原因 相場の7つの材料 ■高城 泰

35 確定申告はどうやるの? 「雑所得」となった仮想通貨益 申告漏れには重いペナルティー ■向山 勇

38 「ICO」の“ババ”を避けるには “本物”見極めは至難の業 ■編集部

39 お宝ICO率=ベンチャー生存率 初心者はHPのチェックから

40 モバイル決済先進国 指紋やQRコードで支払い ■両角 真樹

42 中央銀行もデジタル通貨 現金が消える未来 ■中島 真志

43 100年前に提唱された「マイナス金利」通貨

 

Flash!

13 日銀決定会合で現状維持、政府との「ねじれ」続く金融政策/主権なき国憂う保守派、西部邁さん死去

15 ひと&こと メルカリ上場時期で観測、官報の決算開示遅延で/相次ぐ病院の労働問題、経営陣は報道に戦々恐々/証拠隠しで裁判やり直し、十二指腸内視鏡感染問題

 

Interview

4 2018年の経営者 芳井 敬一 大和ハウス工業社長

16 挑戦者 2018 林 良太 フィナテキスト社長

46 問答有用 コーネル・ムンドルッツォ 映画監督

  「難民の少年を宙に浮かせたのは、観客を挑発するため」

 

エコノミスト・リポート

82 年金・労働市場改革と法人減税 実業家出身のマクリ氏が大胆手腕 アルゼンチン経済に復活の兆し ■浅野 貴昭

83 投資による成長余地大

84 1人当たりGNIは南米随一

 

74 不祥事 オリンパスの中国贈賄疑惑 問題提起の法務部員をパワハラ ■編集部

80 米家電見本市 機械の操作は“指”から“声”へ 人工知能の覇権争いが本格化 ■志村 一隆

 

World Watch

60 ワシントンDC 中間選挙は民主に追い風か 政権の硬軟使い分けに注目 ■堂ノ脇 伸

61 中国視窓 習独裁を憲法に明記へ 監察部門トップも兼務か ■金子 秀敏

62 N.Y./シリコンバレー/英国

63 韓国/インド/タイ

64 台湾/ロシア/イスラエル

65 論壇・論調 英中銀が新デジタル通貨導入へ 各国中央銀行との資金決済に利用 ■増谷 栄一

 

Viewpoint

3 闘論席 ■佐藤 優

19 グローバルマネー 仮想通貨ブームの宴の後には何が残るのか

44 名門高校の校風と人脈(275) 豊中高校(大阪府) ■猪熊 建夫

50 学者が斬る 視点争点 リニア入札不正の原因と対策 ■花薗 誠

52 言言語語

66 アディオスジャパン(87) ■真山 仁

68 東奔政走 総裁選の“一騎打ち”避けたい首相 「出馬すべきか」岸田氏の悩みは深い ■佐藤 千矢子

70 海外企業を買う(175) アルタ・ビューティー ■岩田 太郎

72 出口の迷路(17) 金融緩和政策に「限界」はない ■嶋津 洋樹

76 キラリ!信金・信組(6) 都留信用組合(山梨県) ■浪川 攻

77 国会議員ランキング(11) 厚生労働委員会の質問時間 ■磯山 友幸

78 商社の深層(100) 伊藤忠の社長人事で見えた岡藤CEOの危機感と次の一手 ■編集部

85 図解で見る 電子デバイスの今(5) スマホ用需要急拡大の有機EL 韓国、中国勢が次々新工場 ■津村 明宏

94 独眼経眼 楽観論の一点の曇りは個人消費 ■足立 正道

95 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Net-neutrality ” ■安井 明彦

96 ネットメディアの視点 「リツイートでも名誉毀損」 橋下氏がジャーナリストを訴えた ■山田 厚史

100 アートな時間 映画 [スリー・ビルボード]

101        美術 [神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展]

102 ローカル・トレインがゆく(9) かわせみ やませみ(下) ■文・金子 恵妙、写真・助川 康史

 

Market

88 向こう2週間の材料/今週のポイント

89 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■高堀 伸二/週間マーケット

90 ブラジル株/為替/穀物/長期金利

91 マーケット指標

92 経済データ

 

書評

54 『世界史のなかの産業革命』

  『日本の中小企業』

56 話題の本/週間ランキング

57 読書日記 ■楊 逸

58 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

 

53 次号予告/編集後記

特集:世界が見たビットコインの真実 2018年2月6日号

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欲望渦巻く“投機マシン”

 

金融市場の撹乱要因に

 

 仮想通貨の代表格「ビットコイン」が1月17日、大暴落した。2017年12月に付けた最高値の1BTC(ビットコインの単位)=230万円超から一気に半値になった(図1)。

 

 暴落の引き金について、さまざまな臆測が飛び交った。まず、3月にアルゼンチンで開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、仮想通貨の国際的な規制がテーマになるとの観測が流れたことが一つだ。また、中国と韓国で、仮想通貨への投機の過熱と詐欺の横行を懸念した金融当局が規制強化に乗り出したことも要因の一つと見られる。

 

 

 

 ◇カネ余りが誘因

 

 さらに、昨年急拡大した新たな資金調達法である「ICO」(イニシャル・コイン・オファリング)が原因との見方もある。ICOは企業などがビットコインなど仮想通貨建てで資金調達を行うもので、昨年は世界で4000億円超が調達された。ビットコインを得た企業の多くが価格上昇のタイミングでこぞって売却した可能性がある。

 

 昨年末からのビットコインの値動きは、まるで「ジェットコースター」だ。230万円超で天井を打ったビットコインは乱高下している。17年末、仮想通貨全体の時価総額は70兆円に膨張した。その中で最も取引量の大きいビットコインは、「アルトコイン」と呼ばれる1450種超の他の仮想通貨の値動きに影響する。規制を検討する見通しのG20は、乱高下する仮想通貨を金融市場の撹乱(かくらん)要因と見る可能性がある。

 

 ビットコインと交換された法定通貨のシェアを見ると、17年1月に9割超を占めていた中国人民元に代わり、足元で過半に迫っているのが円だ(図2)。

 

 1年前にシェアが数%だった円が一気に首位に躍り出た理由の第一は、先進国の中で日本銀行だけが量的緩和を継続することによるカネあまりがもたらした「資産バブル」。不動産価格をつり上げている投機マネーは仮想通貨に及んでいる。金融庁がFX(外国為替証拠金取引)規制を強化するとの観測も追い打ちをかけた。レバレッジの上限が下がり投資妙味が減ると見た日本のFX投資家が仮想通貨にくら替えし始めた。FX・証券大手マネーパートナーズでは、17年3月に2000件を超えていた月間の新規口座開設数が11月にはおよそ1200件に激減した。

 

 

 第二が17年4月の「改正資金決済法」施行だ。同法は「仮想通貨取引業務」を国の認可制としたものだが、国が“仮想通貨にお墨つき”を与えたとの誤認が広がって仮想通貨への警戒感が弱まり、海外を含む個人投資家の資金が流入した。第三は規制強化を受け仮想通貨取引所の閉鎖が相次いだ中国、韓国の投資家が日本の取引所を使い始めたこともある。第四は、中韓だけでなく広く海外の仮想通貨投資家が、安全資産の「円」にいつでも代えられる日本の取引所を使っていることもある。今や日本は仮想通貨取引の主戦場だ(図3)。

 

 日本の投資家を見ると学生からトレーダーまでさまざまだ。今春、金融業界への就職が内定している大学4年生のSさん(22)は、昨年12月に「リップル」「イーサリアム」「ネム」という人気の3通貨を5000円ずつ購入したところ、翌日リップルの価格が3倍に跳ね上がった。卒業旅行の資金をつくるため、すぐにその一部を売却した。Sさんは毎月1万円ずつ仮想通貨に投資するつもりだという。

 

 ◇「億り人」

 

 日本の個人投資家の多くはSさんのように上昇相場に乗って購入した人と見られる。価格が数万円だったころまでにビットコインに数百万円以上を投じた人の中には、数億円の仮想通貨資産を持った人もおり、「億(おく)り人」と呼ばれている。

 

 さらに上手もいる。ビットコイン価格が非常に安かったころに入手した古参の利用者だ。その一人、大学教員のGさん(40)はソフトウエアながら貨幣的機能を持つビットコインに注目、研究者仲間と一つの「ウォレット」(仮想通貨を入れる財布)を共有し、他人から無償で得た分や海外取引所で買った分を入れた。ここ数年はウォレットの存在さえ忘れていたが、昨年の暴騰劇で思い出し、改めてウォレットの中身を覗(のぞ)いたところ約500BTCが入っていた。12月の高値時点では11億5000万円になっていた計算だ。ただ、「どう処分するかは自分の一存で決められない。多分、そのままにしておくのではないか」(Gさん)。

 

 実は、今のビットコイン相場で一番もうけているのがこうした古参の利用者だ。「バブルともいわれる今の環境で仮想通貨に投資するのは、古参を喜ばせるだけ」(廉了・三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員)との声もある。

 

 ただ、ビットコインの資産が数億円程度の人たちの売買は、個々では市場を動かす要因にはならない。ビットコインの価格を動かしているのは、さらに巨大な額を持つ大口投資家と見られる。廉氏はビットコインの保有額100億円以上(171218日時点)の大口投資家の上位200人が、ビットコインを最初に購入した時期を調べ、さらに四半期ごとにその保有額を合計した。すると、ビットコインの誕生から増減を繰り返しつつも右肩上がりで増えていき、17年7~9月期、同1012月期に爆発的に増加していた(図1、コインを積み上げたグラフ)。17年下半期の口座開設者は上位200人中87人おり、200人の保有額7・9兆円中、2・6兆円を占める。

 

 廉氏によれば、これら大口投資家はレバレッジの高い先物取引を活用している場合が多い可能性があるという。ただ、いきなり100億円以上を購入する投資家は限られる。「ヘッジファンドの可能性もあるが、多くはビットコインの『採掘者』(27ページ参照)や、ICOでビットコインを得た人たちではないか」(廉氏)。採掘者とは、高性能コンピューターを駆使して自らビットコインを生み出して稼ぐ人たちだ。価格が暴落するとしたら、先物取引でロスカット(損切り)や強制売却を迫られた大口投資家が売却し「売りが売りを呼ぶ」状況に陥ったときだろう。実際、1月の暴落では大口投資家の売りがトリガーになったと見られる。

 

 ◇「イナゴタワー」崩壊

 

 ビットコインの価格グラフで「1712月」の突出した部分は、はるかに小さい金額を投資した個人投資家が大量に流れ込んで形成されたため「イナゴタワー」と呼ばれている。イナゴとは短期売買を繰り返して稼ぐ個人投資家で、一気に集まっては、瞬時に離散する行動からそう呼ばれる。イナゴタワーの崩壊で本当に痛むのは、古参の利用者や大口投資家ではなく、「ビットコインの永続的上昇」という幻想を抱いた個人投資家かもしれない。

 

 ◇ビットコイン生んだナカモト・サトシの夢 仮想通貨がドルに代わる日は来るか?

 

 米証券取引委員会(SEC)のツイート 「ICO詐欺に注意してください」

 

 一般ユーザーの返信 「詐欺といえば、発行体が自由に発行でき、発行上限も決まっていないコインがある。『ドル』というコインだが知っていますか? 」──。

 

 ビットコイン暴騰前の17年夏、SECがツイッターの公式アカウントでつぶやいた内容をめぐり、「炎上」騒ぎが起きた。世界的金融不安の元凶になってきた基軸通貨ドルへの痛烈な批判にビットコイン信奉者は沸き返り、「リツイート」(つぶやきの支持)が急増した。

 

 実は、ビットコインの正体不明の開発者、ナカモト・サトシ氏の開発動機がドルに対するアンチテーゼだったと言われる。ナカモト氏がビットコインの論文をまとめた08年当時、世界はリーマン・ショックの直後だった。財政危機によって国家の信用が落ち、通貨の価値も損なわれた。根本原因は「フィアットマネー」(法定通貨)にあると見たナカモト氏が、国家から独立した通貨として考案した“貨幣的価値の交換手段となるソフトウエア”がビットコインというわけだ。

 

 

 事実、ビットコインは特定の発行者なしで流通し、発行上限も2100万枚になるようすべてがプログラムされている。これを可能にするのが、過去から現在までの取引データを可視化する「ブロックチェーン」(25ページ参照)だ。個々の「ブロック」にはビットコインの取引データが格納される。

 

米CESでもブロックチェーンは注目の的 提供=志村一隆氏

 

 ◇「起源の石」

 

 一番最初に作られたブロックは、特別に「ジェネシス・ブロック」(起源の石)といわれる。そこには、ナカモト氏によるものと見られる言葉が刻まれているという。

 

The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks」(『タイムズ』2009年1月3日付 英財務相が2回目の銀行救済の瀬戸際にある)。この言葉は英大手紙『タイムズ』の見出しだ。当時、欧州ではリーマン・ショック後の金融不安で銀行の破綻が相次ぎ、政府が英国では巨額の公的資金で救済するなど度々経済に介入した。

 

 さまざまな問題を抱えた国家が管理する法定通貨と、不十分な金融サービスしか提供できない既存の金融機関。それを置き換える新たな経済システムを目指して、ビットコインは創出された。残念ながら、足元は、開発者の理想から大きくそれ“投機マシン”と化している。

 

 しかし、その技術のコアとなるブロックチェーンは、記録した情報の書き換えが事実上不可能で、透明性の高い契約を可能にする「スマートコントラクト」に活用でき、金融から製造業まで幅広い分野で応用が期待されている。

 

 実際、ビットコインに次ぐ仮想通貨として普及しているイーサリアムは、貨幣的な使い方だけでなく、スマートコントラクトに使えるなど実用的な価値もある(27ページ参照)。

 

 現在は、さらに改良を加えたブロックチェーンも出てきている。その一つが「中国版イーサリアム」と呼ばれるブロックチェーンプロジェクト「NEO(ネオ)」だ。同名の仮想通貨も時価総額ランキングで8位に入っている(1月24日時点)。

 

 ネオは、イーサリアムのブロックチェーンが抱える「同時に複数のスマートコントラクトは実行できない」という課題を解決した技術として注目されている。その課題とはブロックチェーンの大きさに起因する「スケーラビリティー問題」と言われる。つまり、ブロックサイズが小さいために処理能力に限界があるのだ。ネオはこの問題を独自技術で改善、同時並行で複数のスマートコントラクトの処理を可能にしたとしている。

 

 当初は、「銀行に比べ格段に安いコストで送金できる」と言われたビットコインだが、その採用するブロックチェーン技術の限界から、既存の金融機関が提供する決済サービスに対して、手数料で完全な優位性が見いだせていない。一定時間に処理できる取引件数も、クレジットカード会社のシステムにはるかにおよばない。しかし、ネオの技術はこの限界を突破するとの期待がかかる。

 

 ◇ブロックチェーンの可能性

 

 

 17年8月、東京都心のオフォスビルの一室で、日本の投資家数百人を前に、ネオの技術的特長について熱心に講演する男性の姿があった。ネオ創業者のダー・フォンフェイ(達鴻飛)氏だ。フォンフェイ氏は、投資家に対し「ブロックチェーンの精神は『信頼』だ。すべてのサービスの取引をネオ上で処理したい」と語った。

 

ネオの創業者、ダー・フォンフェイ氏

 

 講演の合間に、本誌記者がフォンフェイ氏に「ビットコインはドルのような通貨になるか?」と聞くと、「現状では、投機的な目的だけに使われており、難しいだろう」と言い、「優れたブロックチェーン技術はたくさん出てきている。その可能性を見てほしい」との答えが返ってきた。

 

 ブロックチェーンは1月に米国で開かれた世界最大の家電見本市CES(セス)でも、動画配信や電力分野での応用例が紹介され、注目を集めた。

 

 現在、日銀や米連邦準備制度理事会(FRB)など世界の中央銀行もブロックチェーンを使ったデジタル通貨を研究している。果たして、仮想通貨がドルなどの基軸通貨に取って代わるのか。過熱するビットコイン相場とは距離を置きつつ、金融エリートたちが水面下で密かに世界を変えようとしていることを見逃すわけにはいかない。

(大堀達也・編集部)

(松本惇・編集部)

週刊エコノミスト 2018年2月6日号

発売日:2018年1月29日

定価:620円


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