Quantcast
Channel: www.weekly-economist.com Blog Feed
Viewing all 1154 articles
Browse latest View live

目次:2017年12月19日号

$
0
0

CONTENTS

 

戌も笑う投資テーマ2018

20 成長の四天王と家電ドミノと新元号 ■井出 真吾

23 「ソニーサプライズ」 ニッポン電機復活が本格化へ ■小川 佳紀

24 人工知能(AI)が選ぶ! 年末年始の投資テーマ25■編集部/フィスコ

26 テーマ→半導体素材・化学 業種別指数は過去最高値更新中 ■広木 隆

28 テーマ→EV・自動車部品 外資傘下の部品メーカー 「大化け」期待 ■坂本 慎太郎

30 テーマ→生産性・人づくり革命 AI使い、従業員の「やる気」高める ■藤本 誠之

32 テーマ→銀行の構造改革 金融政策見直しの恩恵大きく ■平川 昇二

34 テーマ→小売り革命 給与増加で電子商取引企業に恩恵 ■平川 昇二

35 外食産業の構造変化 「シェアリング」席巻 ■鮫島 誠一郎

36 テーマ→電力・ガス自由化 市場価格高騰で淘汰の波 ■南野 彰

37 テーマ→「鉄冷え」の鉄鋼業界 中国しだいのニッポンの鉄 ■真田 明

 

エコノミスト・リポート

70 ビッグデータの活用 共通の前提ない現状 必要な情報の見極めを ■雨宮 慶

72 パーソナル・データ・ストア(PDS)と情報銀行

 

40 半導体 サムスンが初の年間首位 インテルは24年ぶり王座陥落 ■服部 毅

 

Flash!

14 天皇陛下の退位/フリーテル破綻

16 ひと&こと 枝野立憲民主、民進議員引き抜き/「ポテチ」巡り古巣キリンが神経戦?/てるみくらぶ粉飾、三井住友銀の不可解

 

Interview

4 2017年の経営者 眞鍋 淳 第一三共社長兼最高執行責任者(COO)

46 問答有用 蓮池 薫 新潟産業大学准教授

 「北朝鮮が追い詰められている今こそ好機」

 

駅伝のチカラ 経済価値と人間力

74 企業が支える人気 高まる市場価値 ■酒井 雅浩

76 インタビュー 「陸王」出演の俳優 和田 正人さん 「選手のセカンドキャリア 駅伝の魅力生かした活躍を」

78 選手の商品価値 競技力だけでは不十分 裾野広げる発信に取り組め ■神屋 伸行

80 ランナーの心理 行動経済学で見る目標タイム ゴール前の加速に科学的根拠 ■佐々木 勝

82 インタビュー 箱根駅伝がくれたもの 作家 黒木 亮さん 「捨て身の努力で自分が変わる驚き」

 

17 新連載 キラリ! 信金・信組 (1) 秋田県信用組合 創刊95周年企画 ■浪川 攻

 

84 未来学者 ジェレミー・リフキン インタビュー

 「消費主義から持続可能性へ 限界費用ゼロで変わる経済」

 

World Watch

60 ワシントンDC 中間選「トランプ信認」争点に 共和「地域化」で論点ずらし ■安井 真紀

61 中国視窓 「人格統治」へ大転換 毛時代思わせる左派路線に ■金子 秀敏

62 N.Y./カリフォルニア/英国

63 オーストラリア/インド/フィリピン

64 上海/ロシア/モロッコ

65 論壇・論調 難航する離脱「手切れ金」交渉 時間切れで「EU復帰」投票も ■増谷 栄一

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

19 グローバルマネー 「リバーサル・レート」と日銀の政治的事情

38 出口の迷路(11) 投機に流れるマネーを成長投資に ■菊池 英博

42 海外企業を買う(169) 呷哺呷哺餐飲管理 ■富岡 浩司

44 名門高校の校風と人脈(269) 飯田高校(長野県) ■猪熊 建夫

50 学者が斬る 視点争点 「いざなぎ超え」への大きな疑問 ■飯塚 信夫

52 言言語語

66 アディオスジャパン(81) ■真山 仁

68 東奔政走 憲法改正に漂う“ブレーキ感” 希望、公明退潮で合意形成に難 ■人羅 格

73 国会議員ランキング(6) 議員立法提出件数ランキング ■磯山 友幸

94 独眼経眼 景気ウオッチャー調査は成長軌道示す ■藤代 宏一

95 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Midterm election ” ■安井 明彦

96 ネットメディアの視点 150億PVの波及力で社会を動かす 「スロー&ストック」の独自記事 ■岡田 聡

100 アートな時間 映画 [否定と肯定]

101        クラシック [旅するクラシックvol.1 ロマンティック・ロシア・コンサート]

102 ローカル・トレインがゆく(3) 或る列車(上) ■文・金子恵妙/写真・田中紀彦

 

[休載]商社の深層

 

Market

88 向こう2週間の材料/今週のポイント

89 東京市場 ■三井 郁男/NY市場 ■針谷 龍彰/週間マーケット

90 ブラジル株/為替/穀物/長期金利

91 マーケット指標

92 経済データ

 

書評

54 『歴史としての大衆消費社会』

  『日銀と政治 暗闘の20年史』

56 話題の本/週間ランキング

57 読書日記 ■楊 逸 

58 歴史書の棚/海外出版事情 中国

 

13 創刊95周年のお知らせ

 

53 次号予告/編集後記


特集:戌も笑う投資テーマ2018 2017年12月19日号

$
0
0

 

成長の四天王と

家電ドミノと新元号

 

 国内外では今、人工知能(AI)やロボットなど先端技術の開発が進み、コミュニケーションや輸送、エネルギーといった幅広い分野で社会や生活を劇的に変える新たな「産業革命」が進行中だ。

 

 2017年は、株式市場も日経平均株価が10月に過去最長の16連騰を達成し、1992年1月以来、約26年ぶりの水準を回復。好調な景気や業績を支えに、これら先端技術の関連銘柄をはじめとする企業の株式が買われた

 

 

 こうした中、来年も株式市場で話題となりそうなテーマは多い。AIとビッグデータ、IoT(モノのインターネット)、EV(電気自動車)と自動運転、ロボットは、「成長の四天王」と言われる。今後も新しい技術やアイデアが出るたびに関連企業の株価に大きく影響するだろう。

 

 

 

 最後に勝ち残る企業をピンポイントで選ぶのは難しい。勝ち組候補の複数の企業への分散投資をおすすめしたい。

 

 EVに関しては電池業界だけでなく資源関連企業にも影響する。EVに積むリチウムイオン電池にはニッケル、チタン、コバルトなどの金属資源が欠かせないからだ。完成車メーカーがどのタイプの電池を採用するか、その動向が注目される。

 

 自動運転を活用した社会実験も着々と進んでいる。たとえば東名高速道路で夜間の一定時間帯に限って一番左の走行車線を自動運転トラック専用レーンにする計画があるそうだ。ドライバー不足を気にする必要がないことや事故が起きないだけでなく、人間と違って休憩が不要なうえ、余計な渋滞を引き起こさないので燃費の改善も期待できよう。

 

 栃木県や沖縄県など自動運転の小型バスで実験を進めている自治体もある。運転手の人件費をかけずに、通院や買い物などの住民サービスを充実できるとして大いに期待されている。まさに“待ったなし”だ。

 

 ◇2万6000円が視野に

 

 来年の株価予想には「日経平均3万円」という強気の見通しもあるが、少なくとも2万6000円は視野に入ってくるだろう。

 

 株価はEPS(1株当たり利益)とPER(株価収益率:市場心理の代理変数)の掛け算で決まる。EPSについては来期の予想増益率(市場予想)の8%を前提とすれば1685円となる。これにPERの標準的な水準である15倍を掛けると2万5300円程度となる。

 

 米朝軍事衝突、米国景気の減速、極端な円高など企業業績にマイナスの影響を及ぼすような外部環境の変化がなければ、市場心理が強気に傾かなくても日経平均の実力値はいずれ2万5000円まで引き上がるはずだ。予想以上に業績が改善して2桁増益となれば2万6000円も見えてくるだろう。

 

 もちろん一本調子で上がるとは考えていない。北朝鮮情勢に加え、サウジアラビアの内紛も火種として意識されそうだ。原油市場の混乱は投機マネーを通じて金融市場に波及するはずだ。個別業界では、薬価引き下げ圧力が強まっている製薬業界や人件費上昇に苦しむ運輸・物流業界も逆風が予想される。

 

 成長の四天王が逆風になる業界もある。自動運転の普及に悩まされているのが損害保険業界だ。自動運転車と通常の車で事故が起きた場合にどちらの責任か(過失割合)が確立されていないからだ。もし将来的に自動運転で事故がゼロになれば、そもそも自動車保険が不要になるという極端な話もある。

 

 銀行・保険などの金融セクターは、世界的な低金利の継続やフィンテックの台頭による他業態との競合激化で厳しい収益環境を強いられるだろう。

 

 ◇買い替え特需

 

 それでも来年は四天王以外にも投資テーマは少なくない。一つは家電製品の買い替え特需。日本では2009年5月~11年3月に家電エコポイント制度が実施された。地デジ対応テレビ、エアコン、冷蔵庫が対象だったが、テレビは通常の年間販売台数が800万台程度であるのに対し、0911年の3年間で実に5700万台が売れたという。一般にテレビの買い替えサイクルは7~8年とされることや、20年に東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えていることを考えると、来年にもテレビの買い替え特需が訪れる可能性は十分にある。さらにIoT化が進んでいることもあって、テレビと同時にエアコンや冷蔵庫にも買い替え需要が波及する“家電ドミノ”が発生するという見方もあるほどだ。

 

 忘れてはならないのは19年5月とされる新天皇陛下の即位だ。18年秋にも新元号が発表されると幅広い領域にビジネスの可能性が生まれる。昭和から平成に変わるときは天皇陛下(昭和天皇)の体調不良が理由だったため自粛ムードだったが、今回は生前退位なので「自粛すべき」という話にはならないだろう。

 

 典型例は公的書類などの作り直し特需が発生する印刷業界や紙パルプ業界だ。請求書や領収証の発行など業務書類を手掛けるシステム会社にも恩恵がありそうだ。

 

 連想ゲーム的ではあるが、新元号と似た地名やお店に多くの人が訪れたり、仮に、天皇陛下の即位をお祝いして新紙幣が発行されることになれば、駅の券売機や飲料などの自動販売機、銀行などのATMも更新が必要となる。中には社名変更する企業も現れるかもしれない。企業が社名変更すると、名刺や封筒、紙袋など社員が利用する物にとどまらず、看板やホームページ、新聞・雑誌への広告やテレビCMに至るまで、社名が入ったあらゆるものを作り直す必要が生じる。

 

(井出真吾・ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジスト)

週刊エコノミスト 2017年12月19日号

発売日:2017年12月11日

定価:620円


EVで組んだトヨタ・パナソニックに漂う不安

$
0
0
会見する豊田章男トヨタ社長(左)と津賀一宏パナソニック社長
会見する豊田章男トヨタ社長(左)と津賀一宏パナソニック社長

 トヨタ自動車がEV(電気自動車)シフトを一段と加速させた。

 

 トヨタとパナソニックは12月13日都内で共同会見を開き、電気自動車(EV)向け電池開発の協業に向けた検討を始めることで合意したと発表した。具体的には高容量の角型リチウムイオン電池や全個体電池の共同開発を目指す。

 

 トヨタの豊田章男社長は「2030年にトヨタ車の全販売台数の50%を電動車両にする」と述べ、同社としては初めてEVの数値目標を掲げた。

  

 内訳はEV100万台、ハイブリッド車(HV)・プラグインハイブリッド車(PHV)合わせ450万台の計550万台。現在、トヨタの電動車量はHV142万台、PHV5万台の計147万台。現在の3倍以上の目標について、豊田社長は「達成には電池性能の向上と安定供給が必須」と提携の理由を語った

2017年の東京モーターショーに出展されたトヨタのコンセプトEV
2017年の東京モーターショーに出展されたトヨタのコンセプトEV

 一方、津賀社長は「高性能の新型電池は単独で開発できない」とトヨタとの協業に意欲をみせた。

 

◇巻き返し期すトヨタ

 

 EVの量産モデルを持たないトヨタは欧米メーカーに水をあけられている。9月にマツダ、部品大手デンソーと共同でEV開発の新会社を設立したが、EVの中核部品である電池は新会社の領域外。供給先確保が最優先課題だ。

 

 パナソニックはもともとモバイル機器向けだった円筒型リチウムイオン電池をEV向けに米EVメーカーのテスラに独占供給し、世界生産で首位に立つが、テスラの16年の生産台数は約8万台。今後EVを量産する大手自動車メーカーへの供給が電池事業の鍵を握る。

 

 すでにHVのプリウス向けに電池を供給しているが、これまで電動化の見通しを示さなかったトヨタと組むのはリスクが大きかった。しかし、「トヨタがマツダと組み、他社も加わればボリュームが期待できるため提携を決めたようだ」(シンクタンク研究員)。

 

◇パナは「一本足」に不安

 

「100万台という数値目標を出したのは前進」と提携に前向きな見方がある一方、独フォルクスワーゲン(VW)が打ち出した25年までにEV販売300万台、うち中国向けは150万台という目標などに比べ、「トヨタ全体への影響は小さい」(遠藤功治SBI証券投資調査部専任部長)との指摘もある。

 

 というのも電池コストが高いEVの生産は、1車種当たり20万~30万台が損益分岐点とされる。複数モデルを投入すれば赤字は必至だ。また、量産効果を出すにはEV専用のプラットフォーム(車体基盤)も必要になる。

 

 すでに開発段階にあるVWや独ダイムラーに比べ、トヨタは「ガソリン車との共通基盤を考えている時点で遅れている」(アナリスト)。

 

 パナソニックは供給量を確保できるかが課題だ。テスラと共同で巨額を投じた米電池工場ギガファクトリーでは、円筒型・角型両方を生産するが、すべてテスラ向け。トヨタと共同出資する、HV用電池をつくるプライムアースEVエナジーの宮城、静岡工場の拡充が考えられるが、HV用とEV用は必要とされる容量が違うため、新たな生産ラインの設備投資が不可欠だ。角型を生産する中国工場の能力増強が必須とみられるが、社内では全体に占める車載事業の比率が3割近に迫り、「クルマ1本足」経営を不安視する声もある。

 

 両者の思惑が一致した提携劇だったが、巻き返しは容易でない。

(終わり)

関連する記事・ebooks

爆走EV GoGo

巨大市場狙う欧米勢 追撃トヨタの正念場

 

10月24日開幕した東京モーターショーで、自動車メーカーの多くが派手なデザインのコンセプトカー(試作車)を競う中、地味なデザインながら専門家の目を引いたのが、独フォルクスワーゲン(VW)が12月に市場投入するEV「e─ゴルフ」だ。ゴルフは同社の人気モデル。日本にもユーザーが多い。e―ゴルフを最前面に展示したVWの姿勢からは、同社のEVにかける「本気度」がうかがえた。続きを読む

 


西田厚聡・東芝元社長死去 WH買収を率いた豪腕 巨額買収の是非語らず

$
0
0

 あっけない幕切れだった。12月8日、東芝の社長、会長を務め、ウエスチングハウス(WH)の買収を決断した西田厚聡氏が死去した。73歳だった。

 

 2006年、想定された価格の2倍以上の54億㌦(6400億円)でWHを買収、この時に生じた「のれん代」と、自身が率いたパソコン部門の不正会計が、東芝の屋台骨を揺るがす経営危機を招いた結果となった。

 

 

 本誌は6月20日号「東芝と経産省」の取材で6月、横浜市の自宅に再三訪問し、インターホン越しにWH買収金額がなぜ6400億円までつり上がったのか聞いた。 

 

 西田氏は、「2回目の入札で2700億円を提示し、東芝が勝ったという連絡を受けたが、その後に三菱重工業が思い切った価格を出したいので3回目の入札になった」「重工の3回目の入札価格はうちに近かった」と述べ、4回の入札を経て、東芝が落札した経緯を語った。

 

◇語気を荒げた、ある発言

 

 また、三菱重工の西岡喬会長(当時)が、当時の記者会見で「(高値づかみした東芝は)つぶれる」と述べたことに対し「けしからん、ああいうことをを外に言うのはフェアではない」と語気を荒げていた。

 

 一方、WHの巨額買収そのものの是非については、「結局は買収した会社をどうマネージ(管理)していくかの問題。買収そのものが正しかったのか、間違っていたかは10年、20年経たないと判断できない。現在の経営陣は、自分たちのマネジメントの問題をすり替えようとしている」と反論した。

 

 しかし、6400億円という価格の妥当性や勝算については答えなかった。西田氏の買収構想の中には、世界に広がるPWR(加圧水型原子炉)で100基以上ある原子炉への燃料供給と保守業務が、当時19万人を擁する「東芝帝国」の人材と技術力を安泰にする無限の荒野に見えたのではないか、と問い掛けたが、答えてもらえなかった。

 

 死去から3日後の12月11日、東芝の原子力をはじめとする電力部門の主力工場である横浜市鶴見区の京浜事業所で、発電用タービン累計出荷容量2億㌔㍗達成記念の記者見学会が開かれた。工場の歴史は古く、1925年、芝浦製作所鶴見工場として設立され、45年5月29日の横浜大空襲で被災している。主力のタービン工場は、63年の操業で55年近い歴史を持つ。

 

 京浜事業所では3000人以上が働き、年間売り上げは約3000億円。この半分が火力、原子力発電所を含むタービン製造で占められている。ニッケルやクロムなどの合金鉄で作られたローター(回転体)は70㌧にもなり、これにチタン合金のブレード(羽根)を数千枚も組み込むことでタービンとなる。時速2800㌔で回転するタービンに許される誤差は、70㌧に対し100㌘以下だ。

 

「匠の技」(柴垣徹京浜事業所所長)を支えているのは工業高校出身の技術者。西田氏は、社長在任中、「年に1回程度は工場に足を運んでいました」(同)という。

 

◇裁判が終わったら…

 

 本誌は西田氏にインタビューを申し込んだところ、不正会計を巡って東芝が西田氏を含む歴代3社長らを相手に損害賠償を求め東京地裁に提訴、審理が続いていることを理由に応じなかった。しかし「何度も足を運んでくれ、丁寧に報じるつもりがあることはわかった。裁判が終わったら、一番最初にインタビューに応じる」と話してくれた。

 

 対面してじっくりと、その言葉を聞きたかった。

 

(金山隆一/酒井雅浩・編集部)

関連する記事・ebooks

CIAと英公文書が明かす 東芝と経産省失敗の本質

CIAと英公文書が明かす

東芝と経産省 失敗の本質

 

 東芝の現在の経営危機を招いた原因のひとつは、2006年の米原子力会社ウェスチングハウス(WH)買収であることは論をまたない。

 WH買収の25年前にあたる1981年8月11日、米中央情報局(当時はDCI、現在はCIAに統合)は報告書『ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力発電製造中止の影響』をまとめた。A4用紙2枚の簡略な報告書は、機密指定もない。しかし、その内容は今日の我々を驚かせる。続きを読む


目次:2017年12月26日号

$
0
0

CONTENTS

 

日本経済総予測2018

第1部 景気&マーケット

20 日本の経済構造は変わった 株価は3万円超えて上昇へ ■イェスパー・コール

23 日経平均株価 緩和継続と年金運用増で2万8000円へ ■松本 大 18年に3万円、20年に4万円 ■武者 陵司

24 シンクタンク見通し 強気、弱気に分かれる ■編集部

25 ドル・円相場 米株一段高で125円まで円安 ■柴田 秀樹 いったん円高後に年末118円へ ■上野 剛志

26 GDP 雇用回復で名目3%成長も ■野口 旭

28 設備投資・賃上げ 積極企業を優遇し、消極企業に懲罰 ■青木 大樹

29 五輪需要、省力化投資も後押し ■新家 義貴

30 消費 インバウンドは欧州、中東が増加へ ■宮嵜 浩

31 シャンシャンでパンダブームが全国に波及 ■中川 美帆

32 特別対談 イノベーションが日本を変える 米倉 誠一郎 × 吉川 洋

第2部 どうなる金融政策

36 日銀新体制で長期金利の上昇容認も ■高田 創

38 インタビュー 浜田 宏一 内閣官房参与、米エール大学名誉教授

40 『バブル』の著者が斬る あらゆる資産や制度にバブルは寄生する ■永野 健二

第3部 スマート機器が暮らしを変える

82 AIスピーカー アマゾンvsグーグル どっちが賢い? ■松本 惇

84 生まれ変わったaibo ■編集部

85 スマートタウン 広がる「省エネの街」づくり ■永井 隆

86 スマート映像端末 映像が空中に浮かび上がる ■志村 一隆

87 裸眼で見える3D空中映像も■志村 一隆/編集部

88 スマート契約 契約自動化で低コスト社会に ■志波 和幸

 

エコノミストリポート

93 新たな価値観 18年から成人になる「Z世代」 23億人の“新人類”が消費の主役に ■後藤 治

 

42 金 ドイツが金準備を米から移送 ■田代 秀敏

 

Flash!

13 トヨタとパナソニックがEV電池で提携/長崎地銀再編で公取委が異例の発表/佐川急便が東証に上場/西田厚聡・東芝元社長死去

17 ひと&こと クレディセゾン社長人事は難しい/「森友」異例の長期勾留は“忖度”/環境省の新規事業は経産省の縄張り荒らし?

 

Interview

4 2017年の経営者 北條 正樹 ダイフク社長

50 問答有用 霜田 正浩 元日本サッカー協会技術委員長、レノファ山口FC監督

 「日本代表選手に必要なことは自己解決力」

 

World Watch

64 ワシントンDC 国務長官の交代再浮上 ■会川 晴之

65 中国視窓 深刻な水質汚染と水不足 ■真家 陽一

66 N.Y./カリフォルニア/英国

67 韓国/インド/ミャンマー

68 成都/コロンビア/ジンバブエ

69 論壇・論調 ドイツで4党連立協議決裂 ■熊谷 徹

 

Viewpoint

3 闘論席 ■片山 杜秀

19 グローバルマネー 格差拡大で恩恵を実感できない庶民

44 海外企業を買う(170) ショッピファイ ■岩田 太郎

46 キラリ!信金・信組(2) さがみ信用金庫(神奈川県) ■浪川 攻

48 名門高校の校風と人脈(270) 慶応義塾女子高校(東京都) ■猪熊 建夫

54 学者が斬る 視点争点 チケット転売は望ましくない ■花薗 誠

56 言言語語

70 アディオスジャパン(82)■真山 仁

72 国会議員ランキング(7) 質問主意書提出件数 ■磯山 友幸

74 東奔政走 改憲発議は最速で来年6月ごろ? ■佐藤 千矢子

76 出口の迷路(12) 日銀保有国債の一部を永久化せよ ■松田 学

78 図解で見る IoT・AI時代の主役 電子デバイスの今(3) 発光ダイオード(LED) ■津村 明宏

90 福島後の未来をつくる(61) 廃棄物地層処分「特性マップ」 ■寿楽 浩太

102 独眼経眼 大企業の方がもうかっても支出せず ■足立 正道

103 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Revamping the tax code ” ■安井 明彦

104 ネットメディアの視点 「ネットでも受信料」狙うNHK ■山田 厚史

107 商社の深層(95) 崩れる商社とリース会社の垣根 ■五十嵐 雅之

108 アートな時間 映画 [わたしは、幸福]

109        舞台 [アテネのタイモン]

110 ローカル・トレインがゆく(4) 或る列車(下) ■文・金子恵妙/写真・田中紀彦

 

Market

96 向こう2週間の材料/今週のポイント

97 東京市場 ■藤戸 則弘/NY市場 ■村上 俊介/週間マーケット

98 欧州株/為替/原油/長期金利

99 マーケット指標

100 経済データ

 

書評

58 『過労死ゼロの社会を』『鈴木商店の経営破綻』

60 話題の本/週間ランキング

61 読書日記 ■荻上チキ

62 歴史書の棚/出版業界事情

 

57 次号予告/編集後記

日銀保有国債の一部を永久化せよ=松田学〔出口の迷路〕金融政策を問う(12)

$
0
0

“出口”とは、必ずしもマネタリーベースを元の水準まで引き下げることではない。

 

 

 

松田学 (東京大学大学院客員教授) 

 

 異次元金融緩和により、日銀保有国債は2013年3月末から17年9月末にかけて125兆円から436兆円に、マネタリーベース(現金+日銀当座預金)のうち日銀当座預金は58兆円から369兆円に膨れ上がった。日銀の出口戦略の難しさが議論されているが、何が何でも元の水準まで引き下げることが「正常化」だとは限らない。

 

 出口において想定されるのは、日銀の保有国債が満期償還されるのに応じて、長期間かけて当座預金が縮小していくことだが、バランスシートをいわば根雪化して残すという案もある。英金融サービス機構元長官のアデア・ターナー氏が提案する日銀保有国債の無利子永久国債化はそれにあたる。政府が日銀保有国債を乗り換える形で無利子永久国債を発行し、日銀が引き受けるのである。

 

 永久債は償還期限の定めがなく、無利子であれば利払いの必要もない。ターナー氏の案を日銀保有国債の全額で実施すれば、政府が将来税金で返済しなければならない普通国債の残高(17年度末865兆円)の半分以上が事実上消滅することになる。安倍政権は、アベノミクスで日銀に国債を積み上げた成果を土台にして、財政再建まで一挙に成し遂げた政権として歴史に名を残すことになろう。

 

 もちろん、ターナー氏の案はそのままでは現実的な政策にはならず、さまざまな弊害が懸念される。永久国債の日銀引き受けが常態化して財政規律や国債への信認が損なわれ、長期金利の急騰やハイパーインフレにつながるのではないか、といったものだ。

 

 しかし、永久国債化そのものを全面的に否定する必要はなく、一定の歯止めのもとに部分的に実施すれば、これらの懸念を払拭(ふっしょく)することができ、有効な政策ツールになりうる。

 

 本稿では一つの試論を示してみたい。

 

 ◇10兆円、100兆円の歯止め

 

 財政規律を維持するための歯止めとして、一年度に永久国債化する金額の上限を約10兆円とする。これは毎年度、一般会計で赤字国債の償還と発行を繰り返し、結果として借金のまま塩漬けとなっている額にほぼ相当する。永久国債は無利子ではなく変動金利付きとし、日銀にとっての資産性を確保する。

 

 日銀は永久国債を市中売却せず、変動金利収入を国庫納付する旨、政府と日銀は協定を結ぶ。政府の側では、永久国債について元本償還のための支出や利払いの負担が不要となり、事実上、約10兆円の国債が消滅する。

 

 二つ目の歯止めとして、永久国債化の総額の上限は、現在の日銀券発行残高(約100兆円)とする。日銀の資産となる永久国債は無期限債券であり、負債に計上される無期限・金利ゼロの債務である銀行券(無利子永久日銀債ともいえる)の発行残高の範囲内とするのが合理的だからだ。保有永久国債の金利収入を国庫納付しても、対応する債務も無利子であるため日銀に損失は出ない。

 

 永久国債化した金額の分、日銀当座預金は根雪として残ることになる。「マネーが膨らんだままではハイパーインフレが起きかねない」などと言われる。しかし、中央銀行の当座預金の量それ自体は実体経済にはほとんど影響を与えないという認識が、最近では各国の当局関係者の間にも定着しつつある。

 

 日銀が民間金融機関の行動に影響を与えるのは、当座預金の量というよりも、金利水準を通じてであろう。当座預金の総量は基本的に日銀と民間金融機関との間の債券売買などによってしか増減しない。銀行が市中への貸し出しなどの財源として日銀当座預金を引き出すという仕組みにはなっていない。

 

 インフレ率など実体経済に影響を与えるのは、民間金融機関が自ら信用創造によって生み出すマネーストック(市中マネー)のほうである。これはマネタリーベースに信用乗数をかけた量まで膨らむというものではなく、むしろ、市中の有効資金需要や金融機関に対する自己資本比率規制などによって決まる。

 

 将来、100兆円の範囲でバランスシートが根雪化しても、日銀は他の部分を増減させたり金利を調整したりすることで、金融政策は十分に遂行できる。インフレの原因となるようなことはないはずだ。

 

 

 

 ◇消費増税の年度に限定

 

 加えて、10兆円の永久国債化を今後、消費税の税率を引き上げるたびに、引き上げを行う年度に限って、その年度に満期が到来する日銀保有国債を対象に実施する。

 

 消費税の税率を引き上げれば恒久的に税収が増え、将来にわたって国債を減らす効果がある。日銀の出口に向けて懸念される国債の信認の問題(長期金利の上昇)を回避しやすくなる。しかし、増税時に経済へのマイナス効果は否めない。そのため、その年度に永久国債化を実施することで、通常は国債償還に充てる財源を代わりに支出へと回し、マイナス効果を相殺するのである。

 

 日本では財政規律を保つため、普通国債を60年かけて償還するとして、毎年度、国債発行残高の60分の1に相当する金額を債務償還費名目で一般会計から国債整理基金に繰り入れている。他国に例のない減債制度である。

 

 ところが、一般会計ではこの債務償還費の額の分、新規の国債発行額が多くなっている。つまり、国債を発行して国債を償還しているわけであり、減債といっても実質的には借り換えを繰り返しているのと変わらない。17年度予算の債務償還費は14・4兆円にのぼり、うち、財政法で発行が許されている建設国債を除いた赤字国債の償還分は今後、おおむね10兆円前後と見込まれる。

 

 この分を永久債化して日銀に封じ込めれば、国債残高は10兆円分減り、償還のために一般会計から積み立てる金額を10兆円削減してもよいことになる。削減した分、社会保障などの一般歳出を増やしても国債発行残高は増えない。国債償還に回っていたおカネが、増税(2%アップなら5兆円余り)を上回る規模の政府支出を通じて実体経済に回り、消費増税による経済へのダメージを回避できる。

 

 例えば、社会保障バウチャーとして国民に配布してはどうか。配布された金額を今後いつでも医療、介護、保育などの自己負担分や保険料に充てることができるとすれば、国民の将来不安の抑制にもつながるだろう。増税時に「見返り」があることで、国民は消費増税を受け入れやすくなる。マイナンバー制度を活用すれば、バウチャー配布を利便性、公平性の高い形で実施できるようになるだろう。

 

 日銀が保有する永久国債の総額は100兆円を上限とするので、一年度に10兆円を永久化するとしても、10回の消費税率引き上げに対応できる。

 

 もし将来、電子通貨の普及などで銀行券発行残高が100兆円から大幅に減少し、永久国債保有分に満たなくなった場合には、日銀は当座預金のうち、金利ゼロの法定準備金の部分を増やすよう預金準備率を引き上げればよい。

 

 AI(人工知能)やフィンテック、仮想通貨など、今後、通貨金融の世界は私たちの想像を超えて急激に変化していく。財政金融政策も、従来の思考の枠組みを超えた柔軟な発想が求められるのではないか。一見、劇薬にみえる永久国債も、使いようによっては、財政再建と出口戦略の円滑化に資するツールになりうる。

 

 

(松田学・東京大学大学院客員教授)

◇まつだ・まなぶ

 

 1957年生まれ。東京大学経済学部卒。81年大蔵省入省。大臣官房企画官、内閣審議官、財務省本省課長、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構理事などを経て2010年に退官。12年より衆議院議員を1期務める。15年から現職。著書に『国力倍増論』など。


物流システム「マテハン」で世界トップ 北條正樹 ダイフク社長

$
0
0

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── マテリアルハンドリングという聞き慣れない事業を展開しています。

 

 

北條 マテリアルハンドリング、略してマテハンという言葉を定義付ける前に、どんな産業に使われているかを紹介します。まず、私たちがマテハン事業を始めたのが、自動車の搬送システムです。完成車メーカーの工場で、生産ラインの各工程で生産中の自動車を運ぶものです。次に手がけたのが自動倉庫です。

 

── 今日、電子商取引(EC)の拡大で普及していますね。

 

北條 自動倉庫はネット通販業者の他に食品卸、医薬品卸など幅広い顧客がいます。当社は、倉庫というハードに、プラスアルファでコンピューター制御機能を付けて、在庫や入荷・出荷管理をします。要は、マテハンとは物流システムをハード・ソフト双方で総合的に提供することです。納めるシステムは、顧客1社1社で違います。私たちは物流システムのハードを作るメーカーでありながら、システム・インテグレーター(最適なものを選んで組み合わせる会社)としての性格も持っています。最近では、物流のコンサルタントのビジネスも増えています。

 

── コンサルタントの仕事とは。

 

北條 マテハンは、人手不足・自動化が追い風になっています。では、自動倉庫で荷物を拾い上げて仕分けするロボットを全面的に導入すればいいのでしょうか。荷物は大きさも形状も多様で、ロボットが苦手とします。また、1カ月に数回しか注文が来ない商品のピッキングにも、ロボットを導入するべきでしょうか。何でも自動化をすればよい、というものではありません。当社は、顧客の求めるもの、費用対効果を踏まえて、自動化をどこまで進めればいいのかを提案します。

 

── 顧客層は。

 

北條 自動車、半導体、ディスプレー、食品、ネット通販業者、空港運営者とさまざまです。当社はマテハン世界シェア、ナンバーワンです。それは、顧客の裾野が広いからです。ポートフォリオが広いと、ある産業の需要が落ちても、他の産業でカバーできます。

 

── 堅実な経営ですね。

 

北條 当社は1970年代、マテハンの知見を生かしてボウリングのピンをセットするマシンを製造していました。ブームに乗って、72年度にはボウリングマシンの売上高は全体の72%に達しました。会社の財務は向上しましたが、ブームが去れば全く売れない。発売当初から覚悟はしていたことなのですが。それ以来、「一気にもうかる商売は長続きしない」を教訓にして、地道に顧客を開拓し、一歩一歩信頼を獲得する路線を身上にしています。

 

── どのように信頼を獲得してきたのでしょうか。

 

北條 何ごとにも逃げないことを心がけてきました。これは、顧客の求める納期内に、必要な機能を入れて、求められるコスト内で工事を終わらせることを意味します。かつて、欧米の大手自動車会社にシステムを納入した際「Not Escaping Company(逃げない会社)」と褒められたことがあります。ビジネスライクな欧米の企業がコストが跳ね上がったことを理由に納入価格をつり上げることは珍しくありません。当社は時には採算よりも納期を守ることに注力してきました。

 

── 他の強みは。

 

北條 顧客のニーズから新商品を作り出す能力は随一です。当社社員が工場や倉庫など現場に行って、切羽詰まった納期内に顧客と新たなシステムを作ろうとする。一つ現場を仕上げると、社員には自信になります。顧客とイノベーションを生み出しているとも言えます。社員を育てているのは当社ではなく、顧客です。

 

 ◇ハイテク産業向け好調

 

── 国ごとのポートフォリオは。

 

北條 売上高ベースで、日本33%、北米24%、アジア36%です。日本は特にEC需要が伸びています。アジアの中では中国でディスプレー工場向けが伸びています。北米ではEC向けを伸ばせていないのが課題です。一方で、自動車工場や空港向け搬送システムが伸びています。空港向け搬送システムとは、手荷物を安全・安心な環境下で到着空港まで届けるシステムです。北米は、空港も多いうえ、設備更新需要も旺盛です。

 

── 足元の業況は。

 

北條 半導体・ディスプレー関連が好調です。これらはクリーンルームという特殊な環境で製造しています。そこでは、ウエハーやガラス基板を非接触で給電しながら搬送する技術や、ウエハーの加工面が腐食するのを防ぐため、一時保管中に窒素を充填(じゅうてん)する技術が不可欠です。当社は、従来の技術を高度化してこれらのビジネスを手がけており、今大きなウエートを占める事業分野になっています。

 

── 特殊な技術が求められるのですね。

 

北條 工場は稼働率を上げるために24時間操業が求められます。マテハンの品質は、最終製品の歩留まり率にも大きく関与します。当社は、工場の運転状況をモニターで見える化して、どこでトラブルが発生したかを監視し、稼働率を極限まで上げることを目指します。これらの技術が受け入れられて、世界の半導体大手の工場に採用されています。半導体はこれまでパソコンなどが主流で、需給動向に波がありました。その結果、設備投資にも波がありました。しかし、今後はデータセンターや車載半導体という新たな市場が拡大して、しばらくは好調が続きそうです。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A ホンダの二輪・四輪工場が米国やカナダに進出するお手伝いをしました。上司にものお

じせず、英語もよく分からない中、なんとかなるさと体当たりでした。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 社会人になって司馬遼太郎や宮城谷昌光を読むようになりました。『街道をゆく』は今でも寝る前によく読みます。

 

Q 休日の過ごし方

 

A ゆっくりワインを飲みます。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇ほうじょう・まさき

 富山県立福野高校(現・南砺福野高校)、早稲田大学第一商学部卒業後、1971年大福機工(現・ダイフク)入社。主に自動車設備畑を歩み、98年取締役。海外統轄担当取締役や米国やカナダ現地法人社長を経て、2006年副社長。08年4月から現職。富山県出身、69歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:物流システムの設計・製造・据え付け等

本社所在地:大阪市

設立:19375

資本金:150億円

従業員数:8689人(グループ計、20173月末現在)

業績(173月期)

 売上高:3208億円

 

 営業利益:230億円

特集:日本経済総予測2018 2017年12月26日号

$
0
0

 

日本の経済構造は変わった 

株価は3万円超えて上昇へ

 
 <第1部 景気&マーケット>

 

 1211日、日経平均株価は約26年ぶりの水準となる2万2938円73銭をつけた。

 トランプ米大統領がイスラエルの首都としてエルサレムを認めるとの方針が伝えられた同6日には2017年最大の下げ幅を記録したが、わずか3営業日で回復。この強固な株高の流れは18年も一段と加速するだろう。

 

 私は、4月下旬から始まるゴールデンウイークを前に日経平均が3万円に到達し、年末までには3万2000円程度まで上昇すると考える。さらに20年の東京五輪までにTOPIX(東証株価指数)構成銘柄のEPS(1株当たり利益)は2倍になり、日経平均では4万円になると見込んでいる。

 

 企業の収益力は大きく改善

 

 1212月から続く景気拡大期は、1965年11月から57カ月続いた「いざなぎ景気」を超え、戦後2位の長さとなっている。現在の日本経済の好景気は、循環的なものではなく、構造的な変化がもたらしたものだ。ほぼゼロ成長だった「失われた20年」を脱したと言える。

 

 その根拠の一つは、企業の収益性の大きな改善だ。8090年代は、日本の実質GDP(国内総生産)成長率が2・5%にならないと、日本企業は増益にならなかった。だが、この「失われた20年」の間、日本企業は技術革新やリストラ、コスト削減などにより生産性を上げて損益分岐点が下がった結果、実質GDP成長率が0・5%程度でも増益を確保できるようになった。日本の輸出企業は海外に生産拠点を移すなど円高耐久力もつけており、1ドル=100~105円でも増益になるため、国際競争力も全く劣っていない。

 

 企業の収益性の改善は、正社員の増加にもつながった。総務省が12月に発表した10月の労働力調査によると、正規雇用者は前年同月比68万人増の3485万人で、前年同月比では35カ月連続の増加となっている。正社員の増加は、雇用が量的・質的に改善していることを示しており、国民の所得も増えて購買力の伸びにもつながっていくだろう。

 

 実際、働いている人に分配されるお金の総額である実質雇用者報酬は伸びている。17年7~9月期は前年同期比1・8%増で、15年4~6月期以来、10期連続で増加。さらに17年1月以降、ゼロかマイナスが続いていた実質賃金の伸び(前年同月比)は10月、10カ月ぶりにプラス(0・2%)に転じた。

 

 実質賃金は就業者1人当たりの平均賃金であるため、無職の人が賃金を得るようになっても平均以下であれば、1人当たりは減少する。だが、その実質賃金の伸びもプラスになったことは、雇用環境の一層の改善が進んでいることを裏付けている。

 

 そんな環境の中、これからの将来に希望を抱く若者は恵まれている。厚労省の賃金構造基本調査(16年)で、基本給である所定内給与を年代別に見ると、10代から39歳まではすべての年代が15年比で増加している。

 

 若年層の賃金増

 

 また、17年の大卒の初任給は前年比0・9%増の20万7800円で、14年から4年連続で増加。いずれは労働力の中心となる若年層の雇用環境の改善が、今後の日本経済に好循環をもたらすだろう。

 

 アベノミクスの開始以降、日本株市場には多くの外国人投資家が入ってきた。外国人投資家は旧民主党政権と異なり、安倍晋三政権がトップダウンで異次元の量的緩和を進める金融政策や財政政策を実行し、規制強化はしないことを評価している。

 

 さらに10月の衆院選で与党が大勝し、安倍政権が継続されることも、外国人投資家は好感している。来年4月に任期を迎える黒田東彦・日銀総裁の去就は別にしても、現在の金融緩和路線が引き継がれることに対する信頼も厚い。

 

 外国人投資家はベンチマーク(基準)と比較して日本株の資産配分を3%程度低くしており、この資産配分がベンチマークまで戻ると、約8兆円が日本株市場に入ってくることになる。

 

 企業収益が増えることも、外国人投資家の買い増しにつながる。みずほ証券によると、3月決算の東証1部上場企業全体では18年3月期の最終利益が前年比で11・2%増加すると見込んでいるが、17年4~9月期の実績は同22・7%増となっており、上方修正される可能性が高い。PER(株価収益率)が15倍程度と割安な日本株に、外国人投資家がさらに投資する要因となりそうだ。

 

 日本株の投資先としては、メガバンクが魅力だ。金融庁によると、日本のメガバンクの海外への貸出金は過去10年で約3倍に増加し、海外収益比率は約40%に上昇した。米国の金融規制強化や、欧州の金融危機などの影響で、今後の成長が見込めるアジア企業への融資額が多いのも強みだ。

 

 

 

 実質3%成長も

 

 さらに安定的に日本株が上昇するには、日本人投資家の動きが重要になる。生命保険会社など国内の機関投資家が日本株への投資を増やさないと株価の上昇は続かないからだ。

 

 その意味では、100兆円超の資産を運用する巨大機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が14年に日本株の運用比率を12%から25%に引き上げたことは大きい。外国人投資家の買い増しやGPIFの下支えにより、今後も株価の上昇が続けば、民間の機関投資家なども日本株への投資を増やさざるを得なくなり、更なる高値を目指すことになるだろう。

 

 米国では、18年に中間選挙があるため、トランプ政権が国民の支持を得ようと、法人減税などの経済政策を進めることになるだろう。これにより18年の米国経済は3・5~4%の成長が見込める。米経済の成長に引っ張られるように、米国での現地生産や輸出の多い日本企業はさらに業績が向上していくだろう。日本の実質GDP成長率は2・5~3%まで上昇する可能性もある。

 

 

(イェスパー・コール、ウィズダムツリー・ジャパンCEO)

週刊エコノミスト 2017年12月26日号

発売日:2017年12月18日

定価:670円



第60回 福島後の未来:原発に一番近い病院で取り組んだ独居被災者向けの「木工教室」=小鷹昌明

$
0
0

◇おだか・まさあき

 1967年埼玉県生まれ。93年獨協医科大学を卒業。同大学病院に勤務後18年目に東日本大震災が発生。震災1年後の2012年に南相馬市立総合病院に赴任、現在に至る。著書に『ドクター小鷹、どうして南相馬に行ったんですか?』(香山リカとの共著)(七つ森書館)など。

診察室で高齢者の方々を診察していても、仮設住宅に赴いて往診しても、被災地の問題は解決しない。あるプロジェクトを思い立った。

 

 大学病院を辞めて福島県南相馬市の総合病院に赴任してきたのは、医師になって19年目の2012年4月、震災から1年が経過していた。

 

 

 当時の混沌(こんとん)は解消されていたが、それでもなおインフラの不備やコミュニティーの崩壊、そして何よりも、若い世代が流出し、7万1000人いた市の人口が、震災後に1万人にまで減少した。赴任した頃には4万6000人まで回復していたが、65歳以上の高齢者が3割強を占め、仮設や借り上げ住宅の生活者は合計で2割にのぼっていた。


 

 ◇「半年で交代ですか?」

 

 病院も250床に対して14人の常勤医が震災直後に一時4人まで減った。私を含め医師は15人に戻ったが、半数近くの医師は月単位か1年で異動する派遣で、私も「今度新しく来た先生ですね。また半年くらいで交代ですか」という質問を数人の患者から受けた。この病院で完結するような標準医療を提供するには、人の手はまだまだ足りなかった。

 

 神経内科を立ち上げ、在宅診療も始めたが、椅子に座って診療だけしていても南相馬市の医療問題は解決しないことを早々に理解した。そこで行政と連携し、医療講演を繰り返し、神経難病患者のためのシステム作りを目指した。仮設住宅で暮らす高齢者に出張インフルエンザワクチン接種や健康サロンも開いた。

 

 地震・津波・原発事故というトリプル災害で家と家族と仕事を奪われ、仮設住宅での生活を余儀なくされている人たちの動向に、すぐに関心が向くようになった。

 

 被災地のなかでも原発問題を抱えるこの地域の疎外感は特異的なものと感じた。とにかく子供がいなかった。だから本当に静かで高齢者世代も孫のお守りをする必要がなかった。結果として、老人は家に閉じこもりがちになる。「孤立死」の多発は目に見えている。高齢化が加速度的に進行するこの地域の医療をどうしていけばいいのか。仮設住宅の集会所でサロン活動やラジオ体操、ハイキングなどを催しても、参加する人は女性が圧倒的に多く男性は少ない。とくに熱心に仕事をしていた男性ほど、それをなくしたショックが大きく、人生の方向性を見いだせず、将来の展望を描けない人がいた。

 

 新たなコミュニティーを築けない、そうしたシニア世代の男たちは自宅に引きこもりがちになり、結果として孤独となり、アルコールに依存したり、パチンコで少ない賠償金を浪費したり、最悪のケースには孤独死や自殺といった事件が社会問題になるのは、もはや明らかだった。

 

 当院の在宅診療部の定例会合で、独居男性の将来を問題視する声が高まり、できるだけのことをしたいという機運が生まれた。活動の候補にのぼったのが「木工教室」だった。

 

 中高年男性の興味は何をおいても手作業だ。かつて1次産業や製造業に就いていた人たちが少なくない。彼らの願いは「土いじり」や「創作」だ。仕事を失い、引きこもっている人たちに今一度、物づくりの楽しさ、働く意欲を取り戻してもらいたい。議論を重ね、1310月下旬、木工教室のためのチーム・ホープ(HOHP)、つまり引きこもり=H、お父さん=O、引き寄せ=H、プロジェクト=Pが誕生した。病院の有志9人がメンバーとなった。

 

 

創設時のチームHOHPのメンバー 筆者提供

 

 ◇打ち込める何か

 

 街の復興に貢献したいという私たちの願いを、協力してくれそうな方々に打ち明けていった。その結果、全国建設労働組合総連合のボランティア指導が決まり、内装業を営む工場の一角を、アトリエとして無償で間借りすることもできた。

 

 協力を申し出てくれた工具メーカーから木工道具が供与され、うわさを聞きつけたNPO(非営利法人)から製造の依頼も受けた。そして警戒区域を解かれたが、復興の進まない南相馬市小高区で頑張っている職員たちの憩いの場として、区役所内に設置されるカフェで使用するテーブルの注文を受けた。正月返上で準備したチーム・ホープ「男の木工」の第1回が13年1月の第3日曜日、参加者2人で始まった。3カ月かけてテーブル5卓を完成させた。その活動は区役所内でのカフェのオープンに大きく貢献し、うれしいことに集いの場の提供へとつながった。

 

 お昼だけの時間限定の営業だが、区民は「そこに行けば誰かに会える」という空間へと変化した。木工教室の初回の参加者は2人だったが、1年後には15人に増えた。

 

 年齢は33歳から最高齢は80歳。男女比は12対3。震災以前は、小高区や鹿島区の沿岸部に住居を構えていたが、津波で家をなくした人が8人いた(仮設住宅の人が7人)。

 

 徐々に参加者が増え、生産速度は増し、精度が上がっていくことは喜ばしかったが、作業中の彼らは地味で常に寡黙である。これまでに何度か、新聞社やテレビ局からインタビューを受けてきたのだが、多くを語ることはなかった。世間話で談笑することさえもなかった。

 

 そんなことより、正確に計測し、真っすぐに木を切り、滑らかにカンナをかけ、垂直にビスを差し込み、塗装を繰り返す作業だけを考えているようだった。そして、製品が完成したときにだけ、ほんの少し笑みを浮かべる。彼らの培ってきた満足感や充実感は、そういうことなのだろう。「とにかく良い物を造る」という結果が何より優先されるのだ、と理解した。運営方法にも工夫を重ね、県と市からいくばくかの助成金を得ることで、発注者に無料で木製品を寄贈することを可能にした。「男の木工」での彼らの取り組みを見ていると、私たちは何か勘違いをしていたかもしれないという気になってくる。引きこもりから引き出し、コミュニティーを創出させ、人との触れ合いの場に慣れさせようなどということは、行き過ぎたお節介だったのかもしれない。

 

 彼らに必要なものは、「コミュニティー」でも「絆」でも「語らいの場」でもなく、「没頭できる何か」であり、熱中してできることへの取り組みであった。“コミュニティーの創出”や“ソーシャル・キャピタル”といったものは、付加的な現象なのである。まずは、ここに居られること、ここでやれるという自信のための空間が必要なのである。

 

 そのことに気づいた私たちは、無理に彼らをおしゃべりに引っ張り出すようなことはやめた。それよりも必要なのは、とにかくこだわりの域に達するような製品を造ってもらう結果にあった。“打ち込める何か”が存在したうえでの「コミュニティーの場」である。

 

 ただ、質の高い製品を造るためには、職人からの指導は不可欠であり、仲間たちとの協働も大切である。そうしたなかで自然と対話が生まれてくれば、それでいいだろうし、なかには運営をマネジメントすることに新たな価値を見いだしてくれる人も現れるかもしれない。大切なことは、この木工教室に愛着を感じてもらえるかであり、極端なことを言えば「自分のよりどころ、あるいは居場所として、この場を大事に育てていきたい」と思ってもらえるかである。

 

 無口だが、一つのことに集中し、自分を奮い立たせ、維持していく。そのなかには、個人としての葛藤もあるだろう。その自己とのバランス調整を、この作業は確実に支えているような気がする。

 

 

(小鷹昌明・南相馬市立総合病院医師)

2017年12月26日号 週刊エコノミスト

$
0
0

発売日:2017年12月18日

定価:670円

日本経済総予測2018

 

日本の経済構造は変わった

株価は3万円超えて上昇へ

 
 <第1部 景気&マーケット>

 

 1211日、日経平均株価は約26年ぶりの水準となる2万2938円73銭をつけた。

 トランプ米大統領がイスラエルの首都としてエルサレムを認めるとの方針が伝えられた同6日には2017年最大の下げ幅を記録したが、わずか3営業日で回復。この強固な株高の流れは18年も一段と加速するだろう。

 

 

 私は、4月下旬から始まるゴールデンウイークを前に日経平均が3万円に到達し、年末までには3万2000円程度まで上昇すると考える。さらに20年の東京五輪までにTOPIX(東証株価指数)構成銘柄のEPS(1株当たり利益)は2倍になり、日経平均では4万円になると見込んでいる。

 

続きを読む


第61回 福島後の未来:廃棄物地層処分「特性マップ」と未来への問題先送りの懸念=寿楽浩太

$
0
0

◇じゅらく・こうた

 

 1980年千葉市生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。博士(学際情報学)。東京大学大学院工学系研究科特任助教などを経て2017年から現職。専門は科学技術社会学。13年から経済産業省の放射性廃棄物WG委員。

高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する丁寧な理解活動は欠かせないものだが、そこに未来への死角がありはしないか。

 

 2017年7月28日、当初の予定から半年強遅れて、政府は高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する「科学的特性マップ」を公表した。

「マップ」は地層処分を実施する場所を選ぶ際に考慮する必要があると思われる科学的特性とその地理的な分布を「大まかに俯瞰(ふかん)」できるよう、日本地図上で示したものとされる。

 

 政府と地層処分の「実施主体」である原子力発電環境整備機構(NUMO)は、このマップはいわゆる「最適地」を示すものではなく、マップの色分けに基づいて直ちに関係自治体に処分場候補地としての調査の受け入れを求めることもないと強調している。

 

「マップ」の提示は高レベル放射性廃棄物の最終「処分の実現に至る長い道のりの最初の一歩」に過ぎず、あくまでも広くこの問題の存在を知らせ、議論のきっかけにしてもらう趣旨だというのが政府・NUMOの説明だ。

 

 かねて不透明さが批判されてきた原子力分野で、処分地選定の情報公開が進むことそのものはよいことだ。しかし、理解に努めようとする政府の活動そのものが目的化することで、問題そのものを解決に導くどころか、未来への問題の先送りや新たな利権構造の出現さえもたらしかねないと考える。

 

 


 

 ◇専門知を反映しない安易

 

「マップ」はもともと13年夏から秋にかけて総合資源エネルギー調査会の放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)で議論されていた。その問題意識は、明らかに安全確保に問題のある地域が政治的理由などで選ばれる懸念を排し、公明正大さを高めよう──というものだった。つまり、このスクリーニング(ふるいがけ)の大きな目的は処分場候補地選定作業への社会の不信の払拭(ふっしょく)であった、

 

 ところが、議論はこれからという段階で、突然、「最終処分関係閣僚会議」が1312月に発足し、その場で「国が、科学的根拠に基づき、より適性が高いと考えられる地域(科学的有望地)を提示する。その上で、国が前面に立って重点的な理解活動を行った上で、複数地域に対し申し入れを実施する」ことが決定された。この決定内容はWGには全く示されていなかった。ある日突然、WGの検討の前提条件となったのである。この前後には「全国100カ所程度を政府が適地として提示の方針」といった、真偽不明の報道まであった。

 

 その後、「地層処分技術ワーキンググループ」を追加設置して専門的・具体的に「科学的有望地」の要件や基準を検討したところ、全国規模で入手可能な現時点の科学的データから言えることは、積極的な意味での適地や「有望地」の絞り込みではなく、むしろ、主には明らかに「不適」な地域(例:火山、活断層の近傍など)の除外にとどまった。強いて「適地」だと言えるのは廃棄物の地上輸送をできるだけ短くして安全性やセキュリティーを高める上で、沿岸部が好ましいという点に限られた。

 

 その結果、当初は単に「適性が高い」「低い」といった言い方をしていた色分けも、最終的には「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」「好ましくない特性があると推定される」といった回りくどい言い方になったし、「科学的有望地」の語のイメージとは裏腹に、安全上、特に優れた地域をピンポイントで示すこともできなかった。

 

 もちろん、専門的な検討の結果を踏まえて政策の修正を図ることは悪いことではない。しかし、ピンポイントの絞り込みなどできないのは、実は専門家にとっては以前から当たり前のことであった。だからこそ、NUMOが現在、公募しているのは「処分場候補地」そのものではなく、候補地としての適性を調べる調査を受け入れてくれる地域なのである。調査は3段階が法律で定められているが、政府やNUMOはそれに合計20年程度もの時間をかけるとしている。有望地などそうそうわからないからこそ、そうした制度になっているわけだ。

 

 議論してはじめてわかったことを反映させる修正ではなく、むしろ専門知をきちんと参照せずに安易に飛びついたアイデアを後から修正することになったことが問題なのである。

 

 ◇目的化する理解活動

 

 さらに根深いのが、政策に内在するこのような不整合や改善余地を、政策そのものを見直すことによって解消するのではなく、政策の「趣旨」「真意」を社会に伝達する「コミュニケーション」(政府はこれを「理解活動」と呼ぶ)の展開と、その継続的改善によって解消しようとする傾向が顕著になっていることである。

 

 唐突に登場した「科学的有望地」の語は、処分場候補地選定作業への社会の不信を払拭するどころか、むしろ、全国の複数の県や市町村から「狙い撃ち」への警戒心を招き、受け入れないとの意思をあらかじめ示す自治体が相次いで現れた。ジャーナリズムの報道にも批判的なものが多く目につくようになった。これでは「候補地探しの前進」という彼らの政策目標に対しても逆効果だ。ところが、政府やNUMOは、そうした問題への対処として、「科学的有望地」の「真意」を「説明」するシンポジウム、意見交換会、説明会、出前講義など、「理解活動」のメニューを拡充し、全国で精力的に実施した。

 

 

NUMO職員から説明を受ける地層処分セミナーの参加者(鹿児島市)

 

「真意」の説明を続けた末に、政府は結局、やはり「科学的有望地」の語は「誤解を招く」として、16年後半になって「科学的特性マップ」へと用語を変更した。このため、16年末までを予定していた「有望地」の提示は17年に越年したのである。

 

 紆余(うよ)曲折の末に生まれた、「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」という「マップ」の回りくどい表現についても、「科学的有望地」などと安易に銘打たなければもっとすっきりした表現を用いることができ、その方がよほど早道ではなかったか。

 

 そうした「理解活動」の場に参加した市民からの声は、原子力政策全体の今後、核燃料サイクル政策などの個別政策の問題、あるいは、地層処分以外の代替策の検討などに及び、既存政策の説明や「処分地探し」の範疇(はんちゅう)にはとどまらないのもしばしばだ。

 

 政府はこうした問いかけに対しても既存の原子力政策や地層処分の合理性・正当性を説明する「理解活動」で対応しているが、市民の声の多くは説明の充実というよりも、むしろ、解決策の共考や、その上での民主的な意思決定への参加を求めているものだと筆者は理解している。

 

 ところが、「理解活動」は選択肢ではなく決定の内容を説明するものに過ぎないから、こうした市民の問いかけには受け皿がない。

 

 ◇伝達活動という利権

 

 さらに悪いことに「コミュニケーション」には終わりがなく、常に改善の余地が残る。他方で、シンポジウムの開催や媒体の作成・配布にはそれなりの手間やコストがかかる。こうした「コミュニケーション」の性質から、あたかも「理解活動」の継続そのものが政策の遂行、行政の実践、事業の実施であり、成果であるかのように当事者を幻惑するのも問題だ。その結果、理解活動そのものが自己目的化し、いたずらに時間を消費する一方で、問題を未来に先送りしてしまう懸念がある。

 

 そこからは結果的に広告業界やイベント業界と結びついた利権構造が生じ、担当者レベルでの日々の努力とは裏腹に、政策や事業そのものは停滞するのではないか。なぜなら「もっとコミュニケーションが必要だ」「もっとその手法を改善しよう」という状態が続くことが、関係者にとってもっとも都合がいい構造をつくり出してしまうからである。

 

 政策が抱える不備や矛盾、改善余地に政策そのものの質の向上や不断の見直しで対処せず、政策への支持を得るための説明の拡充にまい進しようとする姿勢は、原子力政策全体、さらには近年の政府のさまざまな政策分野に一般的に見られる傾向でもあるように思われる。

 

 確かに行政の透明性や政策のわかりやすい説明は重要で有意義だ。しかし、それが新たなタイプの問題の未来への先送りを生まないか、注意深く目を向けていく必要がある。

 

 

(寿楽浩太・東京電機大学准教授)

特集:世界経済総予測 2018年1月2・9日合併号

$
0
0

カネ余りが生み出す怪現象

金融危機は必ず起こる

 

 米美術品競売会社サザビーズの株価が、高値圏で推移している。7月、2007年につけた史上最高値(57・6ドル、終値ベース)を更新する57・7ドルをつけ、足元も50ドル台で推移する。世界的にあふれたマネーが美術品にまで流れ込み、同社の株高を演出しているようだ。

 

 米国で08年から実施された3回の量的緩和(QE)や、欧州・日本のQEなどで世界的にマネーがだぶつき、あらゆる資産に流入している。典型的なのは株価だ。

 

 米国では17年、主要3指数(NYダウ、S&P500指数、ナスダック)がそろって史上最高値を更新し続け、日経平均株価もバブル崩壊後の最高値を塗り替えた。足元では調整しているものの、ドイツ・DAXやブラジル・ボベスパ指数など先進国・新興国かかわらず世界各国で軒並み史上最高値を更新した。

 

 また、カナダ、豪州、ニュージーランド、韓国で不動産価格が高騰し、社会問題にまで発展している。明治安田生命の小玉祐一チーフエコノミストは「カネ余り状態では手っ取り早く利益を生む方向に資金が流れる。不動産価格高騰は、その現象を象徴する」と指摘する。

 

 ◇ゴールドも同時高

 

「リスクオン相場」を象徴するような珍現象も出ている。

 

 17年7月には、過去200年間で7回デフォルト(債務不履行)を引き起こしたとされるアルゼンチンが100年債を、さらに11月には西アフリカ・ナイジェリアも30年債を発行した。特に原油が主な外貨獲得源のナイジェリアは、米国のシェールオイルブームで対米輸出減にあえぎ、成長率はマイナス圏にもかかわらずだ。

 

 みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長は「新興国が国際市場で発行する債券の年限は通常5年程度で、30年債以上を発行できるのは異例。それほど投資家から高金利商品への需要があることの裏返しでは」と分析する。

 

 一方で、リスクオン局面では値崩れしやすい金も底堅く推移する。株式や国債が配当や利払いといった利益を生み出す局面では、価値は不変だが金利も生まない金の魅力が相対的に低くなる。このトレード・オフの通説に反する現状を、マーケット・ストラテジィ・インスティチュートの亀井幸一郎代表は「ロシア疑惑を抱える米トランプ大統領や北朝鮮、イラン・サウジアラビア関係などの政治・地政学リスクを意識して、『何があってもおかしくない』という市場関係者の懸念が、金価格を支えている要因」と指摘する。

 

◇バブルの兆候

 

 世界全体に高揚感が漂った17年に引き続き、18年も好調な世界景気を予想する声は多い。国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行ともに18年の成長率は17年を上回ると予測する。

 

 このうち、IMFは企業・消費者心理に支えられて投資、貿易、製造活動が活発化することを成長要因と見る。一方で、中長期リスクとして「地政学的緊張、国内政治の対立」(政治イベント)や「世界金融の急激な引き締め」などを挙げた。

 

 政治イベントで注目を集めるのは、世界の景気のけん引役である米国の中間選挙だ。欧州連合(EU)を巡っても、英国の離脱交渉で厳しい局面が予想され、3月にはEU懐疑派が少なくないイタリア総選挙が予定される。

 

「世界金融の急激な引き締め」での注目点は、米国の金融政策だろう。米連邦準備制度理事会(FRB)では2月に、議長がイエレン氏からパウエル氏に交代する。実体経済が好調にもかかわらず低物価が続く米国で、いかに金融の正常化を進めるのか。パウエルFRB新議長の手腕が注目される。

 

 マネーの流動性に警告を与える兆候も出ている。企業によるPIK(ピック)債(ペイ・イン・カインド)発行が増えているのだ。原則として利息は現金で払うのだが、それが困難になった場合は、新たに発行する債券で払える仕組みだ。投資家にとっては、現物(債券)支給というリスクを抱えるため、利回りが高いのが魅力だ。低金利時代の「イールド・ハンティング」(利回り狩り)の格好の対象となっている。

 

 だが、発行企業が新規発行債券による利払いを選んだ場合、債務が膨張する。1990年代に日本の金融危機を招いた一因とされる「銀行による追い貸し」を彷彿(ほうふつ)とさせる。市場関係者からは「ここまでリスクの高い金融商品の需要が出てくること自体が、バブルの兆候」と懸念の声が高まる。

 

 世界銀行のポール・ローマー・チーフ・エコノミストは、本誌のインタビューで「次の金融危機は必ず起こる。『もし』ではなく『いつか』の問題だ」と指摘する。景気循環、市場環境、政治イベント。好調な滑り出しになりそうな18年だからこそ、小さな変化に神経を研ぎ澄ませ、来るべき危機へ備えが必要だろう。

(種市房子、谷口健・編集部)

 

週刊エコノミスト 2018年1月2・9日号

発売日:2017年12月25日

特別定価:720円


週刊エコノミスト 2018年1月2・9日号

$
0
0

発売日:2017年12月25日

特別定価:720円

2018世界経済総予測

 

カネ余りが生み出す怪現象

金融危機は必ず起こる

 

 米美術品競売会社サザビーズの株価が、高値圏で推移している。7月、2007年につけた史上最高値(57・6ドル、終値ベース)を更新する57・7ドルをつけ、足元も50ドル台で推移する。世界的にあふれたマネーが美術品にまで流れ込み、同社の株高を演出しているようだ。

 

 米国で08年から実施された3回の量的緩和(QE)や、欧州・日本のQEなどで世界的にマネーがだぶつき、あらゆる資産に流入している。

 

 典型的なのは株価だ。

 

 米国では17年、主要3指数(NYダウ、S&P500指数、ナスダック)がそろって史上最高値を更新し続け、日経平均株価もバブル崩壊後の最高値を塗り替えた。続きを読む


目次:2018年1月2・9日号

$
0
0

世界経済総予測2018

16 カネ余りが生み出す怪現象 金融危機は必ず起こる ■種市 房子/谷口 健

Part1 米国経済

21 インタビュー ポール・ローマー 世界銀行チーフ・エコノミスト

 「物価上昇待っての政策動員は遅い 経済学者は現実を受け入れろ」

26 インタビュー ラグラム・ラジャン シカゴ大学経営大学院教授

 「金融分野で増える借金投機 引き締めが重なれば重大事態も」

24 ワールド・ダラーと米金利 ■堀井 正孝

28 景気循環 歴史的転換点  ■嶋中 雄二

30 FRB パウエル新体制  ■小野 亮

32 中間選挙 与党惨敗の歴史 ■前嶋 和弘

Part2 世界経済

34 中国 最大リスクは債務問題 ■吉川 健治

36 インタビュー 国分 良成 防衛大学校長

37 ロシア プーチン流に変化 ■安達 祐子

38 欧州政治 統合の正念場 ■田中 素香

40 ECB 低物価と副作用 ■山口 勝義

41 インド 総選挙とインフレ ■佐藤 隆広

Part3 地政学リスク

42 インタビュー イアン・ブレマー ユーラシアグループ社長

 「脆弱な米政権と盤石な習体制 主導国不在続き危険度は増す」

44 中東情勢 サウジの内憂外患 ■福富 満久

46 北朝鮮 核抑止力求め ■宮本 悟

47 インタビュー ポール・ゴールドスタイン 米外交コンサルタント、パシフィック・テック・ブリッジ社長兼CEO

48 エコノミストが選ぶ2018年の注目テーマ 菅野 雅明/木内 登英/吉川 雅幸/河野 龍太郎/白井 さゆり/藤田 勉

50 日本の経営者はこう見る! 18年の注目テーマは「米国政治」 片野坂 真哉 ANAホールディングス社長/小林 栄三 日本貿易会会長、伊藤忠商事会長/進藤 孝生 新日鉄住金社長/筒井 義信 日本生命保険社長/三毛 兼承 三菱東京UFJ銀行頭取

 

Flash!

52 ひと&こと 出版業界の再編主導するCCC増田氏の剛腕/予算管理で異例の「不手際」JICA見直し論も再燃か/好調任天堂に漂う不安 「殿様気質」にリスク

 

World Watch

70 ワシントンDC エルサレム問題で見えるユダヤ系ロビーの存在感 ■堂ノ脇 伸

71 中国視窓 輸入強化をアピール 貿易均衡で一帯一路推進 ■岸田 英明

72 N.Y./カリフォルニア/英国

73 韓国/インド/インドネシア

74 台湾/ロシア/サウジアラビア

75 論壇・論調 大火口実に弱者追い出す北京市 政策の誤り象徴する「低端人口」 ■坂東 賢治

 

Part4 マーケット

86 インタビュー ジム・オニール 元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長

 「18年の世界市場はさらに有望 中国の中間層が直接間接に追い風」

88 米国株■豊島 逸夫/馬渕 治好/鈴木 浩一郎

90 米国金利■倉持 靖彦/城田 修司/荒武 秀至

91 原油■芥田 知至/藤沢 治/藤 和彦

92 銅■江守 哲/大越 龍文/新村 直弘

93 中国株 ■酒井 昭治/欧州株 ■桂畑 誠治/新興国株 ■鈴木 清一郎

94 新興国通貨 ■山田 雪乃

96 米ドルとサウジ ■小西 丹

98 ビットコイン ■志波 和幸

99 原油乱高下を読み解く ■高井 裕之

100 近代資本主義の崩壊 ■水野 和夫

Part5 2018新技術

102 中国の技術革新 ■高口 康太

103 シリコンバレー ■櫛田 健児

104 半導体は成熟せず ■服部 毅

105 インタビュー 浜 矩子 同志社大学教授

 

Interview

4 2018年の経営者 青柳 俊彦 JR九州社長

80 問答有用 松本 零士 漫画家

 「まだへたばるわけにはいきません」

 

Viewpoint

3 闘論席 ■佐藤 優

15 グローバルマネー 再びの量的緩和を避けたいFRB

53 国会議員ランキング(8) 予算委員会質問回数 ■磯山 友幸

54 海外企業を買う(171) センチュリーリンク ■清水 憲人

56 出口の迷路(13) 短期金利2%なら36兆円の逆ザヤに ■野口 悠紀雄

58 アディオスジャパン(83) ■真山 仁

60 学者が斬る 視点争点 自然を活用した防災・減災を ■柘植 隆宏

62 言言語語

76 名門高校の校風と人脈(271) 日比谷高校(東京都)(上) ■猪熊 建夫

79 キラリ!信金・信組(3) 糸魚川信用組合(新潟県) ■浪川 攻

84 東奔政走 「北」と「池」に揺れた2017年 ざわつき始めた安倍1強の足元 ■前田 浩智

112 独眼経眼 在庫循環は景気回復の終盤戦に入った ■斎藤 太郎

113 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Predatory industrial policy ” ■安井 明彦

114 ネットメディアの視点 恐慌の引き金を握っていた20年前 報道の役割は、発信から解釈へ ■土屋 直也

119 商社の深層(96) 伊藤忠、丸紅、三井物産が団体設立 ベンチャー企業を核にAI推進 ■池田 正史

120 アートな時間 映画 [デヴィッド・リンチ:アートライフ]

121        美術 [ゴッホ展 巡りゆく日本の夢]

122 ローカルトレインがゆく(5) 木次線 ■文と写真・杉山淳一

[休載]エコノミスト・リポート

 

Market

106 向こう2週間の材料/今週のポイント

107 東京市場 ■隅谷 俊夫/NY市場 ■櫻井 雄二/週間マーケット

108 中国株/為替/白金/長期金利

109 マーケット指標

110 経済データ

 

書評

64 『シルバー民主主義の政治経済学』

  『アメリカ 暴力の世紀』

66 話題の本/週間ランキング

67 読書日記 ■高部知子

68 歴史書の棚/海外出版事情 アメリカ

 

69 第58回「エコノミスト賞」募集要項

 

63 次号予告/編集後記

鉄道、流通、不動産で九州を元気に 青柳俊彦 JR九州社長

$
0
0

── 国鉄民営化から30年がたちました。

 

青柳 本州の3社と比べ、JR九州は鉄道事業が赤字の会社だったため、いかに効率よく運営し、鉄道に乗っていただくか、どういうふうに利用していただくかが課題でした。一番需要が高かった福岡─熊本間という本来ならドル箱路線が当時は高速道路に負けていた。鉄道事業本来のあるべき姿に戻らないといけない、というのが30年前のスタートでした。

 

 

── どんな取り組みを進めてきましたか。

 

青柳 国鉄時代の延長線上で鉄道事業に取り組めば即つぶれてしまう。乗っていただくための戦略、そしてリピーターになってもらうサービスは何かを常に考えてきました。その一つが車両のデザインです。

 

── 大人が見てもかっこいいと思う車両が多いです。

 

青柳 工業デザイナーの水戸岡鋭治さんに最初にデザインしてもらったのが1988年、福岡県内を走る香椎線のアクアエクスプレスのデザインでした。

 走っている写真を見てお子さんが乗ってみたいと思うきっかけになるデザイン、かっこいいから乗ったら「便利でサービスもいい」と思ってもらう。それが我々の原点で、今も忘れていません。

 

── 水戸岡氏との出会いは大きかった。

 

青柳 92年に運輸部に着任する前年、水戸岡さんが「鉄道大航海時代」という大論文を書かれ、初代社長の石井幸孝に見せました。彼は動くホテルをイメージした車両を考案し、「これからは鉄道の大航海時代が始まる」と言っていました。これを受け水戸岡さんに頼んだのが92年に運行を始めた特急つばめでした。

 時速130キロの在来線高速化や列車本数の頻度アップなどの改革は理性に訴える戦略、乗り心地やデザインは感性に訴える戦略という認識で進めてきました。

 

 アクアエクスプレスは、大きな前面窓や、海が見えやすいように座席を窓に向けて配置、つばめはホテルのような空間を車内に持ち込むなど、従来の鉄道車両にない斬新なデザインが話題を呼び、ここ数年巻き起こっている観光列車ブームに先鞭(せんべん)をつけた。

 

── 水戸岡氏がデザインした周遊型の豪華寝台列車「ななつ星in九州」も人気です。

 

青柳 2013年10月から運行を始めました。週2回の運行で1回の運行は最大30人、3泊4日で1人67万5000円からと決して安くないですが、18年2月までの運行分の応募倍率は平均16倍です。

 

 熊本地震と九州北部豪雨、台風の影響で、長崎と鹿児島を往復するルートに限定していましたが、地元の方々が地場の産品を差し入れてくれたり、民間芸能を催してくれたり、家族のような地元の方々のおもてなしのおかげで、ななつ星の価値は下がりませんでした。17年12月に日豊本線が運転再開し、大分や宮崎を通るルートで運行しています。

 

 ◇意識した投資家目線

 

── 不動産と流通にも力を入れています。

 

青柳 民営化スタート時、1万5000人の社員のうち、鉄道事業だけなら1万2000人で列車を動かせる。残る3000人分の食い扶持(ぶち)をどうするかが課題でした。なんでもやろうと取り組んだのが不動産です。

 

 最初は熊本県の美咲野で2000戸の大団地を開発しましたが失敗し、減損もしました。そこで我々の強みである「街中で機能の高いものを提供しよう」とぶれずにやってきたのがいまの成功につながりました。15、16年には九州最大戸数の分譲マンションを発売し、現在も毎年500~600戸を売り出しています。

 

── ファクトシート(決算の補足資料)には最初にEBITDA(税引き前・償却前・利払い前営業利益)が出てきます。

 

青柳 投資家向けに何を伝えるべきか勉強しました。EBITDAで見ると鉄道で4割、残り6割は駅ビル(流通)と不動産、建設で稼いでいます。鉄道を基盤に不動産と流通が一緒になって伸びていく、という気持ちがあった方がいい。それが九州の元気の源になる事業ならチャンスを生かしてやっていきたい、という考えです。

 

── 16年10月の東証1部上場から1年がたちました。

 

青柳 18年度が最終の中期経営計画で、経営安定基金も固定資産税の減免措置もなくなり、完全な民営会社になります。

 

 鉄道を運行する仕事は上場しても変わりませんが、意識は生まれ変わる方向にシフトしないといけない。外部の人と話して「会社は変わった」と思われるよう新しいステージを目指そう、と社員には訴えていきます。

 

── 今後力を入れていく開発は。

青柳 21年春に熊本駅ビルを開業する予定で、長崎本線連続立体交差事業に伴い、長崎の駅ビルも再開発していきます。

 

 福岡市内では、天神の大名小学校跡地の開発に名乗りを上げ、青果市場跡やウオーターフロント構想も視野に入れています。

 

── 海外展開は。

 

青柳 5年前に中国の上海にレストランをオープンし、現在は4店で営業。タイにも17年に事務所を開き、日本の駐在員向けのサービス・アパートメントの運営を行いたい。

 

Interviewer 金山隆一・本誌編集長

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 前半は科学技術庁(現・文部科学省)の日本原子力研究所に出向。民営化前の4カ月はJR準備室、JR九州となってからは総合企画本部で在来線の時速130キロ化、その後、鉄道の仕事すべての基幹業務システム化、九州各地の列車運行を一元管理する総合指令化──の三つに取り組みました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 司馬遼太郎『竜馬がゆく』など。本の虫ではないですが、何でも読みます。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 家でぼうっとしています。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇あおやぎ・としひこ

 1953年生まれ。福岡県出身。ラ・サール高校(鹿児島県)、東京大学工学部卒業。1977年国鉄入社、87年国鉄民営化に伴い、JR九州総合企画本部経営管理室副長、2005年取締役鹿児島支社長、12年専務取締役を経て、14年から現職。64歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:運輸、建設、不動産、流通・外食

本社所在地:福岡市博多区

設立:1987年

資本金:160億円

従業員数:1万6922人(2017年3月末現在、連結)

業績(17年3月期、連結)

 売上高:3829億円

 営業利益:587億円


短期金利2%なら36兆円の逆ザヤに=野口 悠紀雄〔出口の迷路〕金融政策を問う(13)

$
0
0

*筆者の意向により、ネット非掲載です

連載の記事一覧は以下から

目次:2018年1月16日号

$
0
0

CONTENTS

 

ザ・100年企業

第1部 日本的経営の源流

18 持続的な成長への岐路 100年企業に学ぶ知恵 ■桐山 友一

20 インタビュー パナソニック 津賀 一宏社長

  「100年の歴史は正負の両面 幸之助の教え胸にイノベーション起こす」

22 第一次世界大戦と100年企業 国産化促した輸入途絶と特需 エネルギー革命も起業を牽引 ■板谷 敏彦

24 100年の転機(1)関東大震災・昭和恐慌 無審査融資があだに 銀行危機とデフレ不況 ■横山 和輝

25 安全自動車

26 SMBC日興証券

27 NTN

28 100年の転機(2)敗戦 船舶など国富の25%被害 経営陣が大幅に若返り ■永江 雅和

29 関西ペイント

30 グローリー

31 神戸屋

32 100年企業と日本的経営 「合本主義」と「人間主義経営」 公益・持続可能性にこだわり■横山 渉/編集部

34 GSユアサ

35 100年の転機(3)高度成長とオイルショック 10%成長が20年近く継続 日本的企業システム定着 ■田中 彰

36 シチズン時計

37 駿河台学園

38 象印マホービン

第2部 長寿企業の強さ

80 データで見る100年企業7つの秘密 ■赤間 裕弥

83 100年の転機(4)バブル経済と崩壊 「リスクマネー」が消失 内部留保蓄積の悪循環 ■村瀬 英彰

84 帝人

85 東洋電機製造

86 日本板硝子

87 日本精化

88 100年の転機(5)リーマン・ショック ドル枯渇で設備投資抑制 円高で競争力に揺らぎ ■松原 聖

89 ハナマルキ

90 ホーチキ

91 松井証券

92 守山乳業

93 これから100周年を迎える主な企業 ■編集部

 

12 新春特別インタビュー ヴォルフガング・シュトレーク マックス・プランク社会科学研究所名誉研究員

  「危機は再びやってくる」

 

エコノミストリポート

77 電気飛行機の開発競争 2020年代に空飛ぶタクシー 中型旅客機でも電動化が進む ■野村 宗訓

 

11 新春国際金融展望 人民元建てパンダ債で加速する 日系企業の中国事業展開 ■田代 秀敏

52 エネルギー バイオマスバブルで国民負担増 経産省が事業抑制策導入へ ■石川 和男

  太陽光、風力も同様問題

 

Interview

4 2018年の経営者 中里 克己 東京海上日動あんしん生命社長

44 問答有用 TELYUKA CGアーティスト

  「みんなのそばにいる普通の女の子に」

 

World Watch

62 ワシントンDC メキシコ人主役のピクサー映画 ヒットに見る映画界の成熟度 ■井上 祐介

63 中国視窓 「サプライチェーン金融」注目 中小企業向けに新たな潮流 ■神宮 健

64 N.Y./カリフォルニア/スウェーデン

65 韓国/インド/マレーシア

66 広州/ブラジル/南アフリカ

67 論壇・論調 「危険水域」に達した寡占 民主主義破壊する巨大企業 ■岩田 太郎

 

Viewpoint

3 闘論席 ■古賀 茂明

17 グローバルマネー 明治維新150年の日本に必要なこと

39 商社の深層(97) 「スゴイ」より「ヤバイ」が決め手 埋もれた知財で物産が虫歯予防の錠剤 ■編集部

43 キラリ!信金・信組(4) 足立成和信用金庫(東京都) ■浪川 攻

48 学者が斬る 視点争点 独の健全財政は政府への信頼から ■嶋田 崇治

50 海外企業を買う(172) イルミナ ■児玉 万里子

54 言言語語

68 アディオスジャパン(84) ■真山 仁

70 出口の迷路(14) 第三者検証で日銀は独立性を取り戻せ ■高橋 亘

72 東奔政走 安倍政権で初めて選挙のない年 「宿願」の改憲より「宿題」が待ったなし ■平田 崇浩

74 名門高校の校風と人脈(272) 日比谷高校(東京都)(下) ■猪熊 建夫

100 独眼経眼 内部留保は悪なのか ■藤代 宏一

101 ウォール・ストリート・ジャーナルのニュース英語 “ Employment-visa ” ■安井 明彦

102 ネットメディアの視点 誰もが発信するネットでプロの仕事を 寄付モデルで広告主の影響を避ける ■渡辺 周

104 アートな時間 映画 [嘘八百]

105        舞台 [壽 初春大歌舞伎]

106 ローカルトレインがゆく(6) SL大樹 ■文・黒崎亜弓/写真・助川康史

 

Market

94 向こう2週間の材料/今週のポイント

95 東京市場 ■三宅 一弘/NY市場 ■堀古 英司/週間マーケット

96 インド株/為替/穀物/長期金利

97 マーケット指標

98 経済データ

 

書評

56 『働き方改革の経済学』『オペレーションZ』

58 話題の本/週間ランキング

59 読書日記 ■孫崎 享

60 歴史書の棚/出版業界事情

 

55 次号予告/編集後記

ニーズに合わせて革新的な生命保険を提供 中里克己 東京海上日動あんしん生命社長

$
0
0

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 東京海上日動あんしん生命はどんな会社ですか。

 

中里 1996年の保険自由化によって損害保険、生命保険が相互に参入できるようになり、東京海上グループとして生命保険をスタートしました。創業時には「おかしいな、人間が生命保険に合わせている」というメッセージを掲げ、お客さま本位の生命保険のあり方を追求するコンセプトを打ち出しました。もう一つ、革新的な商品・サービスを提供することも創業の精神として取り組んでいます。

 

 

── 大手生保との違いをどう打ち出していますか。

 

中里 グループとして生損保一体なのが独自の強みです。その象徴的な商品が、業界唯一といっていい「超保険」。火災保険や地震保険、傷害保険とばらばらだったものを一つにまとめ、さらに生命保険も提供しています。お客さまの生涯にわたるリスクを一覧化し、コンサルティングしながら生損保両面から守っていくのがコンセプト。2002年に発売以来、多くのご支持をいただいています。

 

 1610月には、超保険で生命保険の保険料を割り引く「生保まとめて割引」も導入しました。こうした発想をできることが生損保一体で取り組むメリットと考えています。

 

 まさにゼロからスタートした東京海上日動あんしん生命。0310月の東京海上あんしん生命と日動生命の合併を経て、17年6月末には保有契約件数が557万件を突破し、右肩上がりで成長を続けてきた。国内損保事業、国内生保事業、海外保険事業、金融・一般事業の四つの分野を展開する東京海上グループの中で、生保事業は成長のけん引役に位置づけられている。

 

── 他にもユニークな商品が多いですね。

 

中里 1711月から契約者の方々が歩くと保険料の一部が返ってくる「あるく保険」の一般販売を始めました。お客さまにウエアラブル端末を貸与して装着してもらい、1日平均8000歩を歩くと保険料の一部を2年後にキャッシュバックする業界初の商品です。健康増進の取り組みをサポートすることで、できるだけ(医療の)出費がかからないようにしようというコンセプトですね。

 

── 従来の医療保険や死亡保険ではカバーしきれないリスクが増えています。

 

中里 当社では12年から「生存保障革命」と題して、そうした空白領域を保障する商品を開発してきました。最近では、長期の入院などで働けなくなるリスクを保障する「家計保障定期保険NEO 就業不能保障プラン」を1611月に発売し、17年度上期(4~9月)の加入件数は前年同期比1・5倍と伸びています。1711月からは「生存保障革命Nextage」という取り組みを始め、「あるく保険」を一歩として「未病・予防」といった領域へと(商品開発を)広げていきたいと考えています。

 

── 低金利の環境が長く続き、一時払い終身保険は販売休止が相次ぎました。

 

中里 それでも、老後の生活資金への不安は根強くあります。そこで、保険商品として何かできないかと、17年8月に発売したのが変額保険「マーケットリンク」です。これは、保険料を回払い(月払いまたは年払い)でお支払いいただき、運用実績によって将来の満期保険金の上昇が期待できる商品です。資産運用にはリスクが伴いますが、「マーケットリンク」は長期にわたって積み立て、投資対象を分散することで、そうした運用リスクを軽減できます。

 

── 運用先は選べるのですか?

 

中里 国内株式型や外国債券型、国内外の株式・債券に投資するバランス型など8種類から選べます。こうした回払い変額保険も他社はあまりやっていません。お客さまのニーズに合わせて、一歩先を行く商品を提供していきたいと思っています。

 

 ◇運用を多様化・高度化

 

── 保険料の運用環境も厳しくなっています。

 

中里 健全性を維持することが大前提ですが、資産運用の多様化・高度化を進めています。資産運用能力の高さで定評のある米デルファイ社が12年、東京海上グループの傘下となりましたが、16年度から当社の運用資産の一部を委託し始め、17年度からその規模を大きくしています。グローバルな保険グループならではのシナジー(相乗効果)を発揮していきたいですね。

 

── 今後の目標は。

 

中里 17年度は現在の3カ年の中期経営計画の最終年度です。生命保険会社の売上高に相当する新契約年換算保険料は、長期貯蓄性商品を除いたベースで年平均成長率10%を目標としており、17年度末にはクリアする見込みです。また、現中計では生保の事業利益の増加額で1000億円到達を目標に掲げています。今後の金利水準次第となりますが、17年9月末時点の業績予想ではこちらも17年度末で達成できる見通しです。今年度は次の中計に向けた布石を打つ重要な一年でもあります。

 

 より長期のビジョンとしては「日本を代表する生命保険会社」になることを掲げています。規模だけでなく成長性や健全性、収益性などあらゆる面で高いレベルを目指し、お客さまをはじめステークホルダー(利害関係者)から評価されることで、従業員もやりがいや誇りを持てるようにしたいですね。

(構成=桐山友一・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 

A 入社以来の営業部門から本社に異動し、営業推進をつかさどる「営業開発部門」にいました。さまざまな仕組みを変革していかなければならず、「戦略の大切さ」を学びました。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 童門冬二の『上杉鷹山の経営学』です。変革にチャレンジする、一本筋の通った経営姿勢に共感しました。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 下町の散策と食べ歩きです。家族や気の置けない仲間との食事の時間を楽しみにしています。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇なかざと・かつみ

 1963年生まれ。埼玉県出身。埼玉県立春日部高校、一橋大学経済学部卒業後、85年東京海上火災入社。東京海上日動火災理事東東京支店長、東京海上日動あんしん生命執行役員営業企画部長、常務取締役兼営業企画部長などを経て、2017年4月から現職。54歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:生命保険事業

本社所在地:東京都千代田区

設立:199686

資本金:550億円

従業員数:2588人(20173月末現在、単体)

業績(173月期、単体)

 経常収益:156700万円

 

 経常利益:1747700万円

第三者検証で日銀は独立性を取り戻せ=高橋亘〔出口の迷路〕金融政策を問う(14)

$
0
0

この5年、日銀は無理を重ねてきた。だが、自ら方向転換はしづらい。

 

 

高橋亘(大阪経済大学教授)

 

 黒田日銀は無理を強いられ、無理を重ねたまま、5年の総裁任期の幕を閉じようとしている。その間、ドグマ(教条)的な経済理論に依拠し、派手なパフォーマンスで短期的な成果を狙ったため、次第に政策の柔軟性を失ってきた。

 

 このままでは、経済の裏方として働き、中長期的な視点からバランスのとれた政策を行うという日銀の良識や良心が失われていくことが心配だ。日銀が本来の姿を取り戻すことも出口の大事な課題である。

 

 この5年間の「無理」としては、(1)大胆な金融緩和により短期にデフレ脱却ができるとしたこと、(2)達成の目算のないインフレ目標政策の導入、(3)銀行経営を軽視したマイナス金利の突然の導入、(4)財政弛緩(しかん)を許した事実上の財政ファイナンス──などが挙げられる。

 

 大胆な金融緩和については、副総裁の一人の「実現できなければ辞任する」との安易な発言に反して目標は未達だが、同時に国民に金融緩和でデフレが簡単に脱却できるという誤ったメッセージを送ったことも問題であった。

 

 日銀は白川方明前総裁時代から、日本経済の深刻な問題は人口・労働力による成長弱化であり、これがデフレの背景でもあり、経済政策の優先課題であることを指摘してきた。政府はようやく「生産性革命」などに本腰を入れ始めたが、日銀の誤ったメッセージにより、これまで本当の問題を軽視してきたとしたら不幸である。

 

 ◇無理を重ねた5年間

 

 インフレ目標についても、黒田日銀は2%を国際標準とするが、達成可能な目標を実現して期待をアンカーする(つなぎとめる)ことこそが標準である。日銀は2%未達の理由として、国民が過去から現在にかけての現実に即してインフレ率を予想するという「適合的期待」を目の敵にしているが、本来、インフレ目標政策は、目標とするインフレを実現し期待を定着させるというまさに「適合的期待」を前提にしており、的外れな批判だ。

 

 そもそも適合的期待の問題は「期待の粘着性」などとして、それ以前に日銀が調査研究のなかで公表していた。インフレ目標導入に際してそうした研究成果が軽視されていたとしたら残念である。

 

 日銀は2016年9月、緩和強化策として、インフレ目標を達成しても緩和を続けるというオーバーシュート型コミットメントを導入したが、これにより欧米のような目標達成の前の出口入りを難しくした。

 

 三つ目の銀行経営について、金融緩和は本来、銀行の経営環境を改善して貸し出しを増加させる。ところが、黒田緩和の下で銀行の本業である資金利益は悪化を続けた。これは本来の姿でない。

 

 これに拍車をかけたのが16年2月の突然のマイナス金利の導入である。実はマイナス金利政策は将来の政策手段として有望視されるが、突然の導入は今後の政策余地を狭めてしまった。

 

 16年9月、銀行経営への打撃も緩和すべくマイナス金利政策はイールドカーブコントロール(長短金利操作)に改められたが、日銀良識派の措置であろう。

 

 四つ目の財政については、黒田日銀が、保有する長期国債を銀行券(紙幣)の流通残高以内とするという銀行券ルールを放棄して以来、財政再建は日銀自身の健全性の問題にもなった。政府の中期試算が示すように、財政再建の行方は潜在成長力の上昇による歳入の持続的増加にかかっている。

 

 政府は財政再建の前提を「名目3%、実質2%成長」としてきたが、実際の成長力はいまだに実質1%以下にとどまっている。日銀は自分自身の問題として、この前提に異議を唱え、より現実的に堅めの試算の必要性を指摘すべきだった。

 

 日銀が上記のような「無理」を強いられ続けた背景には、中央銀行の独立性が脅かされてきたという事情がある。

 

 安倍晋三内閣は12年の発足時、当時の白川日銀に露骨な政治圧力をかけた。日銀は1998年施行の新法で金融政策の自主性を明記されたものの、白川日銀は日銀法改正までちらつかされ政治圧力に苦しんできた。このため日銀側も、政治とのあつれきを避けるべく「消極的な独立性」に終始した。

 

 ◇英政府は中銀の独立性を尊重

 

 そもそも日銀の独立性は、法改正当時の政治による大蔵省たたきの副産物として生まれたという不幸な経緯があり、政治側に日銀を積極的に独立させるとの意識は薄い。欧州や英国では、中銀の独立性と財政規律は表裏一体のものであることを明確に意識し、財政インフレを排除すべく財政均衡法を定めたのに対し、日本では財政構造改革法はわずか1年で停止された。

 

 最近では、「物価の財政理論(FTPL)」が政府と中央銀行を合体させてバランスシートを捉える「統合政府」の概念を用いて財政インフレ論を再燃させている。

 

 何よりの問題は政治側の中央銀行の独立性への尊重の薄さである。英国とは大きく異なる。

 

 英国のブレア政権で財務相としてイングランド銀行に独立性を付与したブラウン元首相は、リーマン・ショック時のイングランド銀行の対応に不満を述べつつも、イングランド銀行の独立性を尊重したと確言している。17年9月、イングランド銀行が主催した独立20周年国際会議でのことだ。英国と日本の相違は、より一般的に政権へのチェック勢力に対する政治姿勢の反映でもある。英国では新聞各紙の党派性は自明だし、公共放送のBBCも圧力をはねつけ政権批判を辞さない。

 

 一方、日本では、政治側のマスコミ攻撃が強まり、世界的にも報道の自由のランキングが低くなってしまっている。中銀の独立性に対する相違もこうした政権の政治姿勢の違いを反映したものだけに根が深い。

 

 日銀は今後、黒田再任か否かにかかわらず、新たな出発に向けてこれまでを検証し、再出発すべきだ。16年9月に包括的な検証を行ったが、自らによる検証はどうしても自己弁護的になる。また日銀内の良識派が、強硬な量的拡大派に押し切られる可能性も高い。

 

 参考になるのが、海外の中銀で行われている第三者検証だ。例えばスウェーデン中銀は、06年から4年ごとに外部の学者による検証を受けている。第3回目の検証は1015年を対象に、キング前イングランド銀行総裁、グッドフレンド米カーネギーメロン大教授が約1年かけて行った。中銀内外を含めて約45人との面談などを踏まえて16年1月に公表された報告は、「複数の経済シナリオを検討する必要性」や「将来金利決定・公表の妥当性」の評価から「役員構成の見直し」の提言などまで踏み込んだ、約140ページの読み応えのあるものだ。中銀の理事会などによる返答も公表されている。

 

 

 日本の場合も、政治に左右されない第三者によって、政策のみならず、独立性の状況などの検証がされるべきだ。審議委員の任期をずらすことで政策の継続性を企図したのに、総裁ごとに政策が激変する現状では、本来、自主独立であるべき審議委員のあり方も問題となる。この間、独立性の付与を経験した他の中銀の知見や、日銀法制定に関わった学者らの意見も貴重だろう。

 

 2018年は日銀法施行20年である。中央銀行の原点に返って、より積極的に、時として政府をただすような独立性を発揮することこそ、日銀のみならず日本経済再生の道である。

 

(高橋亘・大阪経済大学教授)

◇たかはし・わたる

 

 

 1954年生まれ。78年東京大学卒業、日本銀行入行。金融研究所長などを務める。神戸大学経済経営研究所教授などを経て現職。


特集:ザ・100年企業 2018年1月16日号

$
0
0

持続的な成長への岐路 

100年企業に学ぶ知恵

 

<第1部 日本的経営の源流>

 

 

 100年前の1918(大正7)年。第一次世界大戦が終結したこの年、現在も脈々と続く数々の企業が産声を上げた。その後、1920年代の不況や第二次世界大戦、高度成長、バブルと崩壊など幾多の試練をくぐり抜けてきた100年企業。日本経済がなかなか力強い成長軌道に乗らず、総人口も減少する中で、次の100年をどう切り開いていけばいいのか。100年企業の歩みから学ぶべきことは少なくない。

 

 第一次世界大戦は1111日、ドイツが英国など連合国と休戦協定を締結し、4年間にも及んだ戦闘に終止符を打った(ベルサイユ条約による講和成立は19年6月)。当時の日本は「大戦ブーム」と呼ばれた好景気にわいていた。18年は実業家の小林一三が、関西で箕面有馬電気軌道を阪神急行電鉄(略称・阪急電車)と社名変更し、宝塚少女歌劇団(現・宝塚歌劇団)が東京で初公演した年でもある。明治大学経営学部の佐々木聡専任教授は「電気の時代が花開き、都市型の第3次産業が発達した時代だった」と語る。

 

 

 

 ◇常に次の事業の種

 

 この時期に創業した企業に共通するのは、欧米の技術を積極的に取り入れて国産化したり、時代の変化に合わせた製品やサービスを提供しようとしたりする果敢な意欲だ。「松下電気器具製作所」として第一歩を踏み出したパナソニックや、住宅用などのガラス生産を始めた日本板硝子、時計の国産化を目指したシチズン時計などが該当するだろう。その後、幾多の試練に見舞われたが、法政大学経営学部の二階堂行宣准教授は「危機になってから事業を転換するのではなく、常に次の事業の種をまいて変化の余地を残す強さがあった」と指摘する。

 

 アベノミクスによる戦後2番目の景気拡大となる中、日本経済は持続的な成長への岐路に差し掛かっている。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった技術が日進月歩で発展し、韓国や中国企業が台頭するなどグローバルな激しい競争にさらされる日本企業。激動の時代を生き抜くヒントが100年企業に隠されている。

 

(桐山友一・編集部)

週刊エコノミスト 2018年1月16日号

発売日:2018年1月9日

特別定価:670円


Viewing all 1154 articles
Browse latest View live