◇“TPP最大の受益国”ベトナム
石井 順也
(住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト・弁護士)
世界経済が中国の減速や原油安などに直面して動揺する中、ベトナム経済の好調さが際立っている。2015年第4四半期(10~12月)の実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比7・0%と、10年第4四半期以来5年ぶりとなる7%超えを記録した。15年通年の成長率も6・7%と前年の6・0%から加速し、停滞が目立つ東南アジア経済の中でも突出する。ベトナムは昨年10月に大筋合意した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に加盟し、最もTPPの恩恵を受ける国になるとみられている。昨年11月のベトナム視察の状況も交え、ベトナム経済の好調の理由を探りたい。
首都ハノイ西部でイオングループが展開する大型ショッピングセンター(SC)「イオンモール・ロンビエン」。ベトナム初出店となるイタリアの衣料品ブランド「テラノバ」や香港ブランド「ジョルダーノ」など、地上4階の店内に専門店約180店が軒を連ね、買い物客が通路を埋め尽くしていた。モール内の広場では、人気ゲーム・アニメ「ポケットモンスター」のキャラクター「ピカチュウ」のイベントを写真に収めようと、スマートフォンを構えた人だかりが幾重にも重なっていた。イオングループではベトナム3カ所目のSCとして昨年10月にオープンし、初日には16万人が訪れたという。筆者が訪れた11月22日も変わらず熱気にあふれていた。
ベトナムで個人消費が高水準で伸びている。ベトナム統計総局によると、昨年12月の小売販売額(ホテル・外食・サービス含む)は前年同期比8・0%増。15年通年でも11・4%増と、02年以来13年連続で毎年1割以上、増加を続けている。また、ベトナム自動車工業会によれば、新車販売台数は15年、前年比55・2%増の24万4900台と大幅に増加した。ベトナムではバイクが市民生活の足となっているが、乗用車1000台が駐車可能なイオンモールではほぼすべての駐車スペースが埋まっており、急速にライフスタイルが変わりつつあることを実感した。
◇外圧テコに構造改革
こうした旺盛な消費を支えているのが、GDPの8割超に相当する輸出の急速な伸びである。ベトナムの輸出は15年、1624億3900万ドル(約19兆1800億円)と前年比8・1%増。中でも、韓国サムスン電子などベトナムへ進出する外資の貢献が大きく、携帯電話やコンピューター、関連部品などの比重が増しているのがここ数年の特徴だ。ベトナムの輸出国は14年、米国がトップの19・1%を占め、中国は2位の9・9%と、他の東南アジア諸国連合(ASEAN)各国に比べて中国の比重が低い。米国が堅調に景気拡大を続ける一方、中国経済が減速する中で、ベトナムの輸出構造が伸びを支えている。