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特集:世界史に学ぶ金融政策 国家と中央銀行 政治圧力と中銀独立性の戦い 2016年4月5日特大号

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 ◇【Part 2】歴史の知識を広げる

 ◇FRBも政治に左右されてきた

 

加藤出

(東短リサーチ・チーフエコノミスト)

 

 世界最古の中央銀行は、1668年設立のスウェーデン・リクスバンクである。その後、表のように次々と中央銀行が設立された。その当初の設立動機は国によって異なるが、中央銀行という組織形態が現在まで長く存続している最大の理由は、紙幣を印刷する機能を政府から分離することにあると言える。

 その典型例が日本銀行である。明治維新になってしばらくの間、政府は不換紙幣を発行して財政赤字を埋めていたが、明治10(1877)年2月に西南戦争が勃発する。その戦費を明治政府は大量の紙幣発行で賄ったため、激しい物価高騰が生じた。

 その4年後、松方正義大蔵卿(現在の財務相)は、インフレの反省を踏まえ、欧州に見習って中央銀行を創立することを主張した。通貨価値安定の役割を中央銀行に担わせつつ、それを中心とした金融システムを確立することが重要だと松方は考えた。その翌年(1882年)10月に日銀は業務を開始する。

 ◇英中銀への独立性付与

 

 とはいえ、紙幣発行機能を中央銀行に持たせても、それで実質的な独立性が確立されたわけではない。

 例えば、英国では、1997年にブレア率いる労働党政権が誕生するまで、イングランド銀行(BOE)に公定歩合を決定する権限はなかった。それは財務相が持っていた。このため、選挙が近づくと財務省は利上げの必要性があってもそれを延期したりした。しかし、そういった金融政策運営は経済を不安定化させる。またそれは、海外の企業や投資家が英国に投資することをためらわせる要因にもなっていた。

 97年5月の祝日の朝、当時BOE幹部だったマービン・キング(後に総裁)の自宅にエディ・ジョージ総裁から電話がかかってきた。「エディだ。今すぐ銀行に来てくれ」。休日なのに何があったのかと思いながら駆けつけたキングに、総裁は「ゴードン・ブラウン財務相から、新政権はBOEに独立性を与えることを決定した、との連絡が今朝来た」と語った。インフレ目標は政府が設定するが、それを達成するための金利操作などの権限は完全にBOEに委ねられることになった。

 この朝の情景を、キングはジョージが2009年に亡くなった際の追悼文で感慨を込めて描写している。それ以降、BOEの金融政策のアクションに政府が干渉することは実際なくなり、金融市場における英国のマクロ経済政策の信認は高まった。ロンドンのBOEにある貨幣博物館では今でも、ブレア政権がBOEへの独立性付与を発表した日のBBCニュースを流している。

 ◇国債価格を巡る政治圧力

 

 米国でも同様に、政府が米連邦準備制度理事会(FRB)の政策判断に露骨に圧力を加えることは近年見られなくなっている。しかし、それが定着するようになったのは、実はそんなに昔のことではない。………


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