◇日本の潜在成長率はマイナスの可能性
◇実情見誤った政策は経済に害
大山 剛
(監査法人トーマツ リスク管理戦略センター長)
日本経済は、昨年10~12月期の実質GDP成長率がマイナス0.3%に落ち込んだ後、今年に入ってからも個人消費や輸出は不振な状況が続いている。このままでは2四半期連続のマイナス成長も現実味を帯びてきた。一般的に、GDP成長率が2四半期連続でマイナスに落ち込むと「リセッション(景気後退)」と呼ぶ。
日銀が「景気は底堅い」と言いつつ、予防的視点からマ イナス金利を2月に導入したり、政府の国際金融経済分析会合で、多くの学者たちが来年4月からの消費税引き上げの延期を進言したのも、リセッションを前に した状況下では仕方がないようにみえる。
もっとも最近、こうした政策判断の前提を突き崩しかねない新たな可能性がみえてきた。日本の潜在成長率が、マイナスに落ちているかもしれないのだ。
例えば、日銀が物価上昇率の決定要因として重視している需給ギャップをみると、設備稼働や企業の人手過不足を敏感に反映する「短観加重平均DI(全産業規模)」が、従来は同じような動きを示してきたにもかかわらず、2013年ごろから乖離(かいり)する様子が目立ち始めた。つまり、短観では設備や人の不足感が強まっているのに対し、需給ギャップは均衡したまま横ばいで推移しているのである。
需給ギャップから乖離し始めた指標は、短観だけではない。肝心の消費者物価指数(CPI)上昇率との乖離も、やはり13年ごろから目立つようになってきた。具体的には、需給ギャップが、均衡のまま横ばいで推移するなか、コアコアCPIも、短観と同様に需給のタイト化(CPI上昇)を示している。
◇実は全速力の可能性も
確かに、今の日本経済をみると、有効求人倍率は1.28倍(2月)と、バブル期以来の高水準に達し完全雇用状態にある。このほか、企業収益も、15年度をみれば既往ピークの水準にある。見方によっては、景気は「絶好調」状態だ。この一見矛盾した状況を、整合的に説明する鍵が潜在成長率に隠されているのではないか。
日銀の推計によると、足元の潜在成長率は0%台前半から半ばである。ただし、これが仮にマイナスに落ちていたならば、日本経済は今、景気循環のピーク近くにあり、全速力で走っていることになる。にもかかわらず、実際の成長率はマイナス、あるいは……
(『週刊エコノミスト』2016年4月19日号<4月11日発売>39ページより転載)
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定価:620円(税込)
発売日:2016年4月11日