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特集:マイナス金利に勝つ! 資産運用

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◇個人向け国債の人気に火

◇「金利」に群がるマネー

 

桐山 友一/種市 房子(編集部)

 

 個人のマネーが「金利」を求めてさまよっている。

 鳥取銀行のインターネット支店「とっとり砂丘大山支店」で取り扱う定期預金。日銀がマイナス金利の導入を決めた直後の2月、新規預け入れ額は前月比2・7倍に急増した。その時の金利は1年物の「大山定期」(1口500万円)で0・40%、「砂丘定期」(同300万円)で0・35%、「らくだ定期」(同100万円)が0・30%。マイナス金利で多くの銀行が定期預金金利を0・01%へと引き下げるなか、同支店の“高金利”に預金者が殺到した。「2月は問い合わせの電話も鳴りっぱなしでパンク状態。これほど反響が大きいとは……」(鳥取銀行経営統括部)と驚く。2月の新規預け入れのうち、鳥取県外からが96%。特に関東圏からが5割を超えている。

 高知銀行のインターネット支店「よさこいおきゃく支店」の定期預金も、2月は1人100万円までの1年物「よさこいおきゃく定期」で0・40%の金利に申し込みが集中。「販売額は1月に比べて倍増した」(高知銀行経営統括部)という。

 ただ、鳥取銀行が3月15日、大山定期などインターネット支店の定期預金金利を0・28%に引き下げると、「新規の預け入れもやや落ち着いた」(同行経営統括部)。金利に敏感に反応する個人の今が浮かび上がる。

 金利を追い求める動きは、個人向け国債にも現れた。財務省が4月6日に発表した3月の個人向け国債の応募額(4月15日発行分)は、前月比71・4%増の4003億円と大幅増。応募額はそのまま4月分の発行額となる。現在のように毎月、個人向け国債を募集するようになった14年2月発行分以降では、最も多くなっている(図1)。

 

 売れ筋は、実勢金利に応じて半年ごとに適用利率が変わる変動金利型10年満期の「変動10年」だ。0・05%の「最低金利保証」に注目が集まり、人気に火が付いた。また、固定3年と固定5年の金利も0・05%。他の元本保証型金融商品の利回りが下がるなか、思いがけず相対的な“高金利”が出現した。従来、家計では国債は「あまりに低金利」と敬遠されて、保有額は減少の一途をたどってきた。しかし、マイナス金利によって再び、脚光を浴びた形だ。

 

◇勧誘に必死の銀行、生保

 

「間もなく定期預金が満期になりますが、定期の金利は低いので投資に回しませんか」──。

 東京都内に住む40代の女性会社員の携帯電話に4月13日、口座を持つメガバンクの支店から電話がかかってきた。この銀行に約20年間、口座を持つが、直接電話がかかってきたのは初めて。4月25日に満期を迎える300万円の3年物定期預金は、これまで満期のたびに自動更新を繰り返してきた。しかし、マイナス金利の環境下では、銀行にとって預金の増加は大きな負担。銀行も今、預金から投資へ個人マネーを動かそうと必死だ。

 しかし、個人に投資への備えがあるとは言いがたい。女性会社員は今年3月、付き合いのあった生命保険会社の女性営業員から、ひっきりなしに一時払い終身保険に勧誘された。一時払い終身保険とは契約時に保険料を一括払いし、一生涯を保障してもらう死亡保険のこと。途中で解約しても、保険料を運用した解約返戻金(解約時に戻ってくるお金)が戻ってくる。「契約するなら今ですよ」。女性営業員の言葉に折れ、女性会社員は200万円で契約。決め手となったのは、当時は1・0%の予定利率(契約者に約束する利回り)が、4月2日から0・6%へと大幅に引き下げられることが決まっていたことだ。

 マイナス金利政策によって生保各社も運用難に直面し、一時払い終身保険の販売を見合わせる生保も相次いだ。しかし、一時払い終身保険は予定利率さえ引き下げれば、生保にとって一定の収益が見込める商品だ。セールスの勢いは衰えない。女性会社員は「少しでも有利に安心して運用できるなら」と契約したが、保険コンサルタントの後田亨氏は「一時払い終身保険は契約後、一定期間は解約返戻金が払い込み保険料を下回る事実上のマイナス金利。資産運用の対象には不向きだ」と指摘する。

 

◇退職金、年金にも余波

 

 マイナス金利は、個人の退職金や企業年金にも影響を及ぼしている。大和ハウス工業は4月13日、16年3月期連結の最終利益予想の大幅下方修正を発表した。退職金や年金を将来支払うために積み立てる「退職給付債務」について、金利低下によって積み増す必要が生じた849億円を特別損失に計上するためだ。従来予想の最終利益1540億円を1000億円に修正した。LIXIL(リクシル)グループも12日、退職給付債務の損失計上などにより、最終損益を50億円の黒字から200億円の赤字へ下方修正した。

 退職給付債務は一定の利回り(割引率)を見込んで運用する。各社がこの割引率の算定の参考にするのが長期金利で、割引率が下がるほど退職給付債務は大きくなる。長期金利の指標となる10年国債の利回りは15年3月末、0・398%とプラス圏だったのが、今年2月、史上初めてマイナスになり、3月末はマイナス0・049%まで沈んだ。業績の下方修正を迫られる企業はさらに相次ぎそうだ。

 企業コンサルティング会社、タワーズワトソンの大海太郎社長は「割引率の引き下げだけでなく、多くの企業は積み立てている退職給付債務の運用難にも直面している」と話す。タワーズワトソンの推計によれば、15年度の国内年金基金の運用利回りはマイナス1・2%と、7年ぶりのマイナスとなった。その大きな要因は、中国経済の低迷などによって株式などのリターン(収益)が低迷したことだ。その一方、日銀が今年1月、マイナス金利の導入を決定し、国債などの金利はさらに低下(債券価格は上昇)。多くの年金基金は「これ以上の金利低下余地は少ない」と判断して国債の保有比率を落としており、国債価格の値上がりで得られたリターンを逃す形になった。

◇さらなるマイナス化?

 

 日興リサーチセンターによれば、今年3月末までの1年間で、「先進国株式」「新興国債券」などさまざまな投資対象資産のうち最もリターンが高かったのは、実は国債などの「日本債券」(5・4%)だった(図2)。その一方、リスクも高い半面、リターンも高いはずの新興国株式などはマイナス。同センター資産運用研究所の藤原崇幸氏は「日本国債のリターンが最も高くなることは10年に1、2度くらいの出来事」と言う。プロですら運用に悩む環境で、個人が投資に戸惑うのも無理はない。

 利回りを求めても、預金など安全資産から得られるリターンは、限りなくゼロに近づいている。日銀は4月27~28日、次回の金融政策決定会合を予定し、さらなるマイナス金利幅の拡大も取りざたされる。マイナス金利に勝つ資産運用を考える時が来ている。


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