◇景気対策 最低6兆円は必要
永濱利廣(第一生命経済研究所首席エコノミスト)
政府は足元のマーケットの混乱や世界経済の減速に対応すべく、5月26~27日に開催が予定されている主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)前に経済対策をまとめるとみられている。
経済対策の規模については、「5兆円超」や「10兆円前後」になるとの報道がある。予算規模は5月18日に公表される1~3月期の国内総生産(GDP)1次速報や金融市場の展開に大きく左右されることが想定される。また熊本、大分両県で4月14日以降続いている地震の復旧・復興に対して、大型の補正予算を組むことになるだろう。
◇8・6兆円のGDPギャップ
経済対策の規模を設定する際に一般的に参考にされる、潜在GDPと実際の実質GDPの乖離(かいり)を示すGDPギャップをもとに、経済対策の規模を予想してみる。
2015年10~12月期のGDP2次速報を反映した直近のGDPギャップは、内閣府の推計によればマイナス1・6%に拡大しており、金額に換算すると約8・6兆円となる。
政府は既に15年度に総事業規模3・5兆円の補正予算を決めており、16年度からその効果が表れることが期待されている。政府は15年度補正予算の経済効果として実質GDPを0・6%程度押し上げると試算しており、金額に換算すると3・2兆円程度となる。経済対策の内容にもよるが、少なくとも15年度補正予算に近い内容の経済対策を前提とすれば、16年度は事業規模の約9割分が実質GDPの押し上げに寄与する計算となる。
一方、15年度補正予算の経済効果が発揮されても、足元のGDPギャップを基準とすれば、まだ8・6兆円から3・2兆円を引いた残りの5・4兆円のデフレギャップが残ることになる。従って、少なくとも15年度補正予算に近い内容で足元のGDPギャップを解消するには、(5・4兆円を0・9で割った結果として)6兆円程度の追加の経済対策が必要となる。
ただ、2月末に上海で開催された主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の声明では、各国が機動的に財政政策を実施する旨の内容が含まれている。また、夏の参議院選挙を見据えた景気対策の意図もあることからすれば、サミットで国際的なリーダーシップを発揮して世界経済へ貢献する側面を前面に打ち出すという意図から、規模がさらに膨張して真水で10兆円規模の対策に拡大する可能性も十分に考えられよう。これに地震の復旧・復興の費用を加えれば、10兆円を超えてもおかしくない。
◇消費喚起の対策中心に
経済対策のメニューは、消費税率引き上げ後の個人消費の低迷がリーマン・ショック後以上に長引く中、政府が5月に公表予定の「ニッポン1億総活躍プラン」に沿った個人消費の喚起策が中心になると報道されている。
具体的には、3月24日開催の経済財政諮問会議において、民間議員がGDP600兆円の実現に向けて「消費の持続的拡大」と題して提案した内容が参考になる。この提言では、消費の持続的拡大として五つの柱の下、包括的な取り組みを進めるべきとしている。
一つ目の柱が「働く希望の実現」で、働きたい、働く時間を増やしたいなど、希望通り働くことができない状況にある約920万人の要望に応えることを目指す。10兆~14兆円程度の所得増と消費拡大が実現できるとしている。
具体的にはアベノミクスの成果を活用して就業促進や人材投資、多様な働き方改革、待遇改善を進めるメニューが並ぶ。中でも注目は、介護職員の待遇改善や、年金や健康保険の負担を回避するために働く時間を抑える「(年収)130万円の壁」の克服、同一労働同一賃金を実現する法令整備、長時間労働の抑制と有給休暇取得の促進がある。
二つ目の柱が………
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定価:720円(税込)
発売日:2016年4月25日
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