◇オバマ氏志半ばの気候変動対策
◇実施は次期大統領に委ねられる
安井 真紀
(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)
任期が残り1年となったオバマ大統領は、自らの政治的遺産(レガシー)の一つに気候変動対策を掲げている。
オバマ大統領は、2008年の大統領選から、気候変動への取り組みを前面に出していた。だが政権1期目は、09年にコペンハーゲンで開かれた国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で合意採択に失敗。エネルギー業界と共和党の反対や、10年のメキシコ湾原油流出事故等が重なり、その後も気候変動対策の法制化を実現できなかった。
政権2期目は、13年に気候行動計画を発表し、温室効果ガス排出削減目標を示した。15年8月にはクリーンパワープラン(CPP)を発表。同年12月、国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で中国を国際的な枠組みに引き込み、20年以降、5年ごとに各国の温室効果ガス削減目標を見直すパリ協定合意を主導した。
16年1月に行った任期最後の一般教書演説でも、オバマ大統領は気候変動対策の必要性を強調。未来のビジネスチャンスと捉え、環境技術への投資と化石燃料からの転換の加速を訴えた。
ただ、こうしたオバマ大統領のレガシー作りは、必ずしも順調ではない。15年12月の米国輸出入銀行の権限再承認に際しては、融資における業界の差別禁止が法律に明記され、石炭火力発電所向け融資の制限が事実上撤廃された。また、米国各州とエネルギー業界がCPP差し止めを求めて起こした訴訟は長期化すると見られる。
さらに、環境保護団体等に配慮して、オバマ大統領が反対してきた原油輸出解禁が、包括予算に含めて昨年末に可決された。再生可能エネルギー向けの税優遇延長との引き換えによるものだ。この原油輸出解禁も、民主党の政治的譲歩と見られている。
◇民主党で高い対策意識
『ニューヨーク・タイムズ』とCBSニュースは15年11月、気候変動に関する世論調査を行い、民主党支持者と共和党支持者のことを「違う星に住んでいるかのようだ」と評した。
調査によると、温暖化対策について、民主党支持者は賛成66%、反対22%だが、共和党支持者は賛成40%、反対50%と逆転。反対派は、企業に環境規制を適用することで、ビジネスや雇用に大きな打撃を与えることを懸念する。また、米国全体の53%は、地球温暖化が「主に人間の行為でもたらされた」と考えるが、共和党支持者ではその割合が32%に減る。共和党支持者の多くは「自然の摂理で引き起こされた」と考えるか、温暖化そのものを信じていない。
大統領選でも、その違いは見られる。民主党の大統領候補者は、ヒラリー・クリントン氏をはじめ、自らの気候変動対策を発表している。一方、共和党大統領候補者の討論会で、気候変動対策はほとんど議論に上らない。ただ、共和党支持者の間でも気候変動の認識は高まりつつあるため、共和党の大統領候補者は、気候変動対策への反対を声高に叫ばず、沈黙を守っている面もある。
COP21では、18年に世界全体の気候変動対策の進捗(しんちょく)を確認し、20年までに、各国が温室効果ガスの削減目標を更新して、長期低排出発展戦略を国連に提出することで合意した。オバマ大統領は、この合意を「地球を救う最大のチャンス」と評価する。
米国の気候変動対策の実施は、次期大統領の手に委ねられる。米大統領選は、2月から各州の予備選・党員集会が始まり、候補者が絞られていく。気候変動対策に関する次期大統領候補者の発言に注目したい。
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発売日:2016年2月8日
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