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特集:パナマ文書 ずるい税金逃れ 2016年5月24日特大号

 

 ◇パナマ文書で課税強化へ
 ◇富裕層と大企業の戦々恐々

谷口 健/藤沢 壮
(編集部)

「拝啓 この度のパナマ共和国の法律事務所から流出したと思われる電子情報を分析した結果、あなた様に関係するシンガポールの現地法人が把握されております。つきましては、その法人の資産内容・運用状況などについてお尋ねしたいので、来月15日までにご来署いただけますよう通知します」
 今年、税務署からあなたの元にこんな封書が届くかもしれない──。国税庁で国際租税に携わっていた元調査官は、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から漏れた内部情報「パナマ文書」の影響をこう予想する。

 国税庁は2014年、5000万円を超える資産を海外に持つ人に「国外財産調書」の報告を義務付けた。その申告をすべき潜在的な人数は10万人とも言わ れるが、申告件数はまだ1万件にも満たない。しかし、国税庁は、パナマ文書にある約36万件の個人名と約21万社に及ぶ情報を分析できるようになり、国外 財産調書を出していない人の関係者や関連企業を確認するための“大きな武器”を手に入れたこととなる。

 ◇各国が互いに情報共有

 その一方で各国は、富裕層やグローバル企業に“税金逃れ”をさせない動きを加速させている。
  例えば、個人が海外口座で不正蓄財しないように、経済協力開発機構(OECD)の加盟国を中心に「CRS(共通報告基準)」という仕組みを導入する。日 本、香港、シンガポール、スイス、ケイマン諸島など約100カ国・地域が参加し、一部の国は今年にも情報を交換し始める。
 CRSは「画期的な取 り組み」(元国税庁課長)と言われる。その理由は、「現在の情報交換制度でも、個別ケースについて各国当局に要請すれば情報をもらえるが、CRSは年に1 回まとめて情報交換する。入手できる情報量が格段に増える」(同)ためだ。現行制度で国税庁が外国税務当局に情報提供を要請した件数は年間526件(14 年7月~15年6月)。香港やシンガポールなど、アジア太平洋地域が75%を占める。
 パナマ文書を受けて国税庁が目を光らせるなか、おびえる富 裕層も増えている。東京都に事務所を置く税理士は、「インターネットで調べてタックスヘイブンに会社を設立した人の相談が、パナマ文書発表後にいくつも来 た」と言う。また、海外運用の助言をする投資コンサルタントは、「50~60代の男性が『スイスに預けた資産を日本にどう戻したらいいか』と相談してきた が、資産を国外に置くことが怖くなった様子だった」と語る。「相談者に多いのは、バブル時代にハワイで別荘や賃貸物件を買い、60~70代になって現地に 行かなくなったケース。売却して数千万円の収入を得ても、売却前の評価額が5000万円を超えていれば、国外財産調書の申告対象になる。このような相談は 今後増えるだろう」(前述の税理士)。

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 ◇「違法」ではないが「異常」

 パナマ文書で加速する課税強化の流れに、企業も無関係ではいられない。特にグーグルやアマゾン、アップル、スターバックスなどの巨大企業は、タックスヘイブンを利用した巧みな節税がやり玉に上がっている。
 では、大企業や富裕層がタックスヘイブンに保管するおカネはいくらあるのか。仏経済学者ズックマン氏は、世界全体の家計の金融資産の8%、約720兆円あると見る(図)。
 国家にとってこれは税収減を意味する。OECDは保守的に見積もっても世界で法人税収の4~10%(12兆~26兆円)に相当するとしている。
 日本の税収減はどの程度か。『タックスヘイブンに迫る』の筆者で政治経済研究所理事の合田寛氏は、年間3兆~5兆円と推計する。「5兆円なら消費税2%分に相当し、日本もタックスヘイブンを無視できない」。
 もちろん、タックスヘイブンに会社を設立するのは合法だ。ただ、米オバマ大統領が発言したように、「課税逃れの多くは合法で、そこがまさに問題だ」と言うこともできる。
  租税法が専門の三木義一・青山学院大学学長は「パナマ文書が明らかにしているのは、結局、租税回避の『違法性』ではなく『異常性』の問題だ。国境を利用し た節税は大企業と富裕層しかできないことで、『通常』の個人や企業はできない。合法だから何をしてもいいというのはやはりおかしい」と指摘する。そして、 「このまま対策をしなければ、結局、国から出られない人や企業にばかり税金を払わせる非・民主主義的な税制度になってしまう」と警告する。
 パナマ文書の流出によって、世界の目は厳しくなっている。日本人も、今回のパナマ・ショックでようやくその「ずるさ」に気づき始めた。(了)

(『週刊エコノミスト』2016年5月24日特大号<5月16日発売>20~21ページより転載)


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