◇常に先を見て
欧米のビジネスチャンスをつかむ
国内シェア2位、世界シェア6位のタイヤメーカーで、「ダンロップ」や「ファルケン」ブランドでグローバル展開している。2015年12月期は売上高が前期比1・3%増の8487億円、当期純利益が同4・9%増の558億円と、ともに過去最高。昨年10月には提携効果が薄れたことなどから、1999年から続けてきた米グッドイヤー社との資本・業務提携を解消した。
── 提携解消で何が変わりましたか。
池田 制約のあった欧米でも生産、研究、開発などの拠点を自由に持てるようになりました。今までやりたくてもできなかったビジネスチャンスをつかむことができます。
── 20年に売上高1兆2000億円、営業利益1500億円を目指す長期計画「ビジョン2020」達成に向けた取り組みも変わりますか。
池田 ビジョン達成に向け16~21年度が対象の中期経営計画に「欧米事業の拡大」を加えました。
特に、最も市場の大きな北米は20年に15年比60%売り上げを伸ばす計画です。まず、自動車やトラック・バス用タイヤを生産するバッファロー工場(ニューヨーク州)を買収しました。グッドイヤーとの提携解消後、米国では日系自動車メーカー向けの新車用タイヤでダンロップブランドを使えるようになりました。そのための対応を強化します。
欧州は20年に15年比40%売り上げを引き上げる目標です。ある程度成熟した市場ですが、東欧やロシアなど伸びる余地があります。供給力強化のため昨年6月にトルコ工場の生産を開始しました。
米国と欧州では17年に製品の開発拠点となるテクニカルセンターを本格稼働させます。今後は市場のニーズや利用者の好み、条件に合ったタイヤを現地に近いところで研究・生産できるようになります。
── 他の地域は。
池田 インドに注目しています。タイヤ市場は2桁成長が続いています。販売体制を整えながら毎年10%ずつ売り上げを伸ばし、近い将来、インドにも生産工場を置きたいと考えています。
── 展開地域が広がりますね。
池田 当社の売り上げは、地域別で日本が4割と最も多く、アジアが2割、北米が約16%、欧州が約7%です。国内外の主要拠点には年1回訪問するようにしていますが、出張の機会が年ごとに増えています。現地で得られる情報を基にいち早く行動に移せるよう、これまで国内に集中していた意思決定体制を4月に「アジア・大洋州」「欧州・アフリカ」「米州」の3極体制に移行しました。
── 研究開発にも熱心です。
池田 スーパーコンピューター「京」など国内の最先端装置や研究施設を使って、タイヤの原料であるゴムの挙動を分子レベルで再現できるシミュレーション解析技術を用いた新材料開発技術を確立しました。
タイヤは転がり抵抗を抑えることで低燃費化を目指す一方、グリップ性も維持しなければいけません。転がり抵抗をただ下げるだけでは燃費がよくなってもグリップ性が落ち、雨天走行時に滑りやすくなってしまいます。同時に、摩耗に対する耐久性を高める必要もあります。
この三つの性能のバランスをいかに取るかが重要です。新しい開発技術によって、三つの性能をより高いレベルに引き上げると同時に、どれか一つの性能を伸ばすなど、顧客の好みや条件に合わせたタイヤを作ることができるようになります。
── 13年には100%天然資源由来のタイヤ「エナセーブ100」を発売しました。
池田 従来のタイヤの原料の6割は石油資源に由来したものでした。エナセーブは発売後も性能を高めるための研究を続けています。
例えば昨年、ゴム分子と結合する軟化剤を開発し、グリップ性や耐久性を長く維持できるようになりました。オイルなどを使う従来の軟化剤は使ううちにオイルが抜け、タイヤの性能が落ちる課題がありました。
◇余震に強いゴム
── タイヤ以外の事業は。
池田 制震と医療の両分野に力を入れています。当社の事業分野別の売り上げはタイヤが86 %で、スポーツ用品が9%、産業品が5%。産業品の中でも制震と医療は重要な位置づけです。
制震分野では、地震の揺れを最大70%吸収・低減できるゴムを使った制震ダンパーが戸建て住宅向けを中心に好調です。ただ、4月の熊本地震をみて、もっとPRを強化しなければと感じました。
当社の製品は強い地震が複数回起きても、そのたびに揺れを吸収できるので余震に強い。熊本地震の被害を少しでも少なくできていたのではないかと悔しい思いがしました。
── 新しいことに積極的に取り組んでいますね。
池田 常に先を見て経営を考えてきました。当社の源流は、1888年に世界で初めて空気入りタイヤを発明したアイルランド人、J・B・ダンロップ氏にさかのぼります。彼がつくった英ダンロップ社は、日本でも1913年に初めて自動車タイヤを作りました。こうした先進性に富んだ血が脈々と受け継がれています。加えて、第二次世界大戦後に資本参加した住友グループの「信用を重んじ確実を旨とする」といった事業精神をうまく融合できている点が当社の強みです。
(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=池田正史・編集部)
横 顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 29~30歳にマレーシアの大きな工場に日本人ただ一人で駐在した後、神戸、福島、米国と2年ごとに職場が変わりました。国それぞれの仕事の進め方や考え方の違いなど、いろいろなことを学びました。
Q 「私を変えた本」は
A マキャベリの『君主論』です。リーダーにとって大事なこと、してはいけないことを改めて学びました。
Q 休日の過ごし方
A 休みはほとんどありませんが、時間ができれば甲子園球場でプロ野球の阪神タイガースを応援することが息抜きになります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■人物略歴
◇いけだ いくじ
香川県出身。香川県立高松高校卒業。1979年京都大学工学部を卒業後、同年住友ゴム工業入社。2000年1月タイヤ生産技術部長、07年3月取締役常務執行役員、10年3月同専務などを経て11年3月に現職。59歳。
(『週刊エコノミスト』2016年5月24日特大号<5月16日発売>4~5ページより転載)