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世界の経常収支を読み解く 2016年2月16日号

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世界の経常収支の変化

◇変調する世界のマネーフロー

◇中東産油国が資金の取り手に

 

本間隆行

(住友商事グローバルリサーチ

              チーフエコノミスト)

 

 各国の経常収支を比較することで、経済構造、マネーの変化を読み解くことができる。

 年初からあらゆる金融市場でボラティリティー(価格変動)が増し、相場の動きは従来と別物になった。変調の直接的な原因は、米国の量的金融緩和終了と利上げである。資源価格の下落や、中国経済の構造変化により、新興国の経常収支が悪化したこともある。稼いできた国が稼げなくなり、お金の流れが変わり、世界中で目詰まりが起きている。

  世界的なマネーの変調に関して、経常収支を注視すると、不透明感の強い経済情勢や今後の市場の動きが見えてくる。

  図1は、国際通貨基金(IMF)が昨年10月に発表した資料から、各国の経常収支を抜粋したものである。

  注目すべきは、サウジアラビアと中東・北アフリカ地域の経常収支の動向だ。経常黒字の筆頭であったこれらの国・地域は、2015年に赤字に転落している。理由は原油価格が下落したためだ。IMFが15年10月に想定していた原油価格は、16年が1バレル=50・36ドル、17年が同55・42ドル。しかし、直近の原油価格は30ドル台前半の状況が続いてきた。

  産油国となった米国の原油輸入量の減少も顕著だ。図2は、米国の国・地域別の経常収支を基に、シェールオイルの規模がまだ小さかった11年と15年を比べたものである。産油国の中東や石油輸出国機構(OPEC)に対しては黒字に転換している。産油国側は米国に対して赤字に転換したということだ。産油国は、経常収支に占める原油収入の割合が大きいため、貿易フローの変化が経常収支にも表れている。

  この状況が続くと、産油国の経常収支はさらに悪化する。特にサウジは、歳入の多くを石油収入に依存し、経常収支の影響を受けやすい財政構造だ。同政府は15年財政収支実績を3670億リヤル (約11兆8000億円)、16年の予算を3262億リヤル (約10兆5000億円)の赤字予算になるとしている。だが、15年の平均原油価格は1バレル=50・92ドルだったので、16年も赤字が想定より拡大する公算が大きい。

 原油価格の低迷に加え、イエメンへの軍事介入などが財政収支の悪化を想起させる。赤字補填(ほてん)のために15年は国債発行を再開し、外貨準備を取り崩し始めた。これは、政府系ファンド(SWF)の動きと捉えられ、世界中の金融市場の動揺につながった。従来は資金を世界に供給してきたSWFが資産を取り崩したことは、サウジが資金の出し手から取り手になったことをよく表している。

  多くの新興国では、成長を支えてきた米国の緩和マネーの供給が14年に止まり、状況は一変した。資源安による新興資源国の成長の落ち込みは顕著である。韓国や南アフリカなど新興工業国は、中国の構造変化により、対中向け輸出が低迷している。成長鈍化による収入の減少は資金計画を狂わせる。特に外貨建て借り入れは、外貨高・自国通貨安で債務金額を増大させるため、リスクが高い。企業が借入金の返済を優先し、経済全体が縮小均衡に動きやすい。

 

  ◇英国も資金流出

 

  新興国には問題が二つある。

  一つは、経済構造がシンプルなことである。経常収支が大きな黒字の時には財政収支も改善し、政府支出を拡大しながら実力以上に景気を拡大させる傾向が強い。しかし、一度経常赤字になると、返済原資がない場合、財政収支が一気に悪化し、景気は鈍化する。景気後退期でも財政出動ができず、負のスパイラルに陥る。ブラジルやロシアなどはこの典型である。 

  もう一つの問題は、………

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年2月8日

週刊エコノミスト 2016年2月16日号

 

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