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経営者:編集長インタビュー ガブリエル・ベルチ アストラゼネカ・ジャパン社長 2016年6月21日特大号

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 ◇研究開発重視、がん領域で新薬開発に挑む

 

── 売り上げが短期間で拡大しています。

ベルチ 2015年度の日本法人の売上高は3232億円(薬価ベース)で、国内製薬企業の売上高ランキングでは、12年の12位から16年第1四半期は7位まで浮上しました。主力の高脂血症治療薬「クレストール」、抗潰瘍薬「ネキシウム」などが好調だったほか、新薬も貢献しました。今後はがん治療薬の新薬も加わるので、売り上げ倍増を見込んでいます。

 アストラゼネカは新薬の承認件数が米欧日で最も多い企業です。14年から15年にかけては米国で七つの新薬が承認されました。さらに17年末までに世界で60件以上の承認申請に向けて研究を進めています。日本国内でも約300人体制で開発に取り組んでいます。14年の研究開発費は約100億円で、研究開発費の規模は日本国内の製薬会社で3番目というデータもあります。

── 研究開発の重点領域は。

ベルチ 現在進める研究の大半ががん治療に関する研究です。がん治療薬は社会にとって重要度が高い研究であり、肺がん、卵巣がん、乳がん、血液がんなどの新薬の開発を進めています。また呼吸器、循環器の疾患に関する新薬開発にも取り組んでいます。

 これまで製薬会社は、ランダムに化合物を組み合わせることで、新薬を開発する方法をとってきました。当社はその逆です。まず疾患をよく理解して、たんぱく工学などで特定の疾患に狙い撃ちで効く化合物をつくります。他社も同じようなアプローチを始めていますが、当社は豊富な人材と、積極的なM&A(合併・買収)で新薬開発を進めています。

── がん治療で話題の「がん免疫療法」の開発は。

ベルチ 当社でも研究を進めています。免疫療法治療薬は、化学化合物を使ってがんをたたくのではなく、免疫力を高めてがんと闘わせるという賢いアプローチの新薬です。ただし、すべてのがんに対して一つの対策が効くわけではありません。分子標的薬もあればDNA損傷修復、抗体薬物の複合体、がん免疫療法の四つのアプローチで対応できるのが当社の強みです。

 

 ◇肺がんの新薬発売

 

── 莫大(ばくだい)な費用を投じる新薬開発はリスクも伴います。

ベルチ 確かに大きなリスクですが、その分利益も大きいです。新薬開発では、効果が期待できない場合には早い段階で勇気を持って研究開発をやめる判断も必要です。また部門横断的に話ができる環境も必要です。

 私が日本法人に来た当初は、部門ごとにオフィス内の空間が分かれていました。それを取っ払い、ガラス張りでオープンなスペースにして、プロジェクト単位で机を並べる配置に切り替えました。

 その効果の一つが日米のドラッグラグ(新薬承認の審査期間の差)の短縮です。以前は7年だったものが今は4カ月まで縮まりました。研究開発部門と医療機関担当者や営業担当者が話をして、どこの施設に患者がいるのかを把握し、その施設で治験を行うなど、コミュニケーションを増やすことで時間を短縮することができました。

── 5月に肺がんの新薬を発売しました。

ベルチ 肺がん治療薬の「タグリッソ」を発売しました。当社には「イレッサ」という肺がん治療薬があり、多くの患者が使用していますが、長期間イレッサで治療するとがん細胞の遺伝子が変異し、抵抗を持ってしまって薬が効かなくなるという課題がありました。タグリッソはそのようなイレッサが効かなくなってしまった患者の2次治療薬です。

 治験では肺がん患者の6割で効果を発揮し、平均生存期間を9・7カ月に延ばした実績があります。既存薬は約4カ月なので大きな効果です。日本で対象になるのは約1万人で、早期承認の要望をいただいていました。効果が高いということで厚生労働省から優先審査の指定を受け、申請から7カ月という異例のスピードで製造販売の承認が下りました。

── イレッサは副作用が問題になりました。教訓をどう生かしますか。

ベルチ 医療機関の先生方に副作用の可能性について丁寧に説明し、また専門の医療機関で適切に使っていただくことを呼びかけています。24時間対応のコールセンターを設置するなど患者さんの支援も配慮しています。

 

 ◇MR出身から社長へ

 

── 新薬の薬価が高く、医療財政を圧迫しているとの指摘もあります。

ベルチ 高齢化による医療費の増大が先進国共通の課題になっていますが、医療費=薬剤費ではありません。医療財政については、薬剤費だけではなく、入院期間の短縮化など医療費を包括的に見て議論すべきです。

── ベルチ社長は医療機関に自社医薬品の情報を提供する医薬情報担当(MR)ご出身だそうですね。製薬会社では珍しいのでは。

ベルチ そうかもしれません。しかし、MRの仕事を理解していないと製薬会社の経営はできません。

 経営に当たっては、明確な成果主義を打ち出しています。年齢、性別、社歴を問わず、成果で評価します。

 女性管理職が多く、CFO(最高財務責任者)も女性です。開発でも販売でも、全てのスタッフに成功の機会を与える経営を心掛けています。

 

Interviewer 金山隆一・本誌編集長 構成=花谷美枝・編集部

 

■横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A ベトナムに赴任して、アストラゼネカの現地法人をゼロから立ち上げました。350人採用して、現地で4番目の規模まで育てました。すばらしい経験でした。

Q 「私を変えた本」は

A ジャック・ウェルチ氏の著書です。実行力について説いた本でした。高いところから俯ふかん瞰して、同時に細かなところもよく見る、という姿勢を学びました。

Q 休日の過ごし方

A ダイビングやスキーを楽しみますが、最近はもっぱら2歳の娘と過ごします。日本生まれのメード・イン・ジャパンです(笑)。

 

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■人物略歴

 ガブリエル ベルチ

 スイス出身。1996年スイス・ヌーシャテル大学理学部卒業、生物学修士号取得。製薬企業のMRとしてキャリアをスタート。99年、アストラゼネカスイス法人入社。ベルギー、スウェーデンでの勤務を経て、2006年よりベトナム&インドシナ法人社長、09年タイ法人社長、11年ドイツ法人社長。13年4月より現職。42歳。


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