◇輸入インフレ甘受の事態も
長谷川克之
(みずほ総合研究所市場調査部長)
中東の盟主サウジアラビアが苦境に立たされている。経済減速、対外収支悪化、財政悪化の三重苦から通貨リヤルの切り下げ観測が浮上。1986年以降、1㌦=3・75リヤル を維持し続けてきたドルペッグ制が試練を迎えている。
リヤルの先安観の高まりから、先渡し取引の相場が年初に急落。現物との乖離幅は20年ぶりの高水準となった。ドルペッグ制見直しに賭けたヘッジファンドなどの攻勢に対して、中央銀行に相当するサウジアラビア通貨庁は通貨オプションの取引停止に踏み切った。
サウジアラビアは輸出の8割以上を原油に依存する。2014年半ばからの1年半余りで8割近くの歴史的暴落となった逆オイルショックがサウジアラビアを襲っている。足元では経常収支も赤字に転落。財政収支の赤字幅は対国内総生産(GDP)比で2割弱と尋常ではない。
厳しい経済情勢にもかかわらず、昨年12月にFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げに転じるとサウジアラビアも0・25%の追随利上げを迫られた。投機筋には現状のペッグ制は持続不可能と映っているようだ。
サウジアラビアは6200億㌦余りの外貨準備を誇り、その規模は中国、日本に次ぎ世界第3位。しかし、虎の子の外貨準備も足元で急速に減少しており、ペッグ制を維持するために相当規模のリヤル買い介入を実施している模様である。外貨準備の減少ペースは中国を上回るほどだ。
これらがリヤルの切り下げ観測を強めている。もしリヤルを切り下げれば、輸入インフレが高進するおそれがある。通貨安は物価高騰を招き国民生活を直撃する。王室内部での不協和音も伝えられている中での切り下げは、国王の指導力や王室の統治構造にも響きかねず回避したい手段だ。しかし、原油安の長期化で、切り下げという危険な選択肢を取らざるを得ない事態もあり得る。・・・・・・