◇欧米で始まった反グローバリズム
◇国家の分断と混乱は世界に広がる
主導する国が存在しない「Gゼロ」の世界と、そのリスクを研究してきたイアン・ブレマー氏は、欧米で始まったアンチ支配者の動きは日本や中国にも広がるという。(聞き手=津山恵子・ニューヨーク在住ジャーナリスト)
欧州連合(EU)離脱が英国に及ぼすネガティブな影響は、今後数年続くだろう。
欧州市場に直接アクセスできないというインパクトは、国際金融セクターの英シティーにとって強烈だ。国際通貨基金(IMF)の予測によると、英国は景気後退に突入するとしており、先行きの不透明性が大幅に増す。しかも、欧州各国とのさまざまな交渉は、加盟国の離脱手続きを定めたEU基本条項50条が発動された後、何年も続く。過去に前例がないためだ。
◇悪化する欧州同盟
しかし、英国の決定は長期的に見るとポジティブな結果を生む可能性がある。なぜなら欧州は、危機に突入しているからだ。各国政府の統治システムが急速に崩れつつある。トルコ、ギリシャ、キプロスの金融危機に加え、ポーランド、ハンガリーでは政情不安が懸念されている。
英国のEU離脱決定からわずか1カ月の間に、仏ニースのテロ、トルコのクーデター未遂が起きた。これらの事件もまた、欧州で今後広がる危機の一部だ。難民問題は、解決の見通しが立たず、悪化する一方だろう。EU残留派が多かったスコットランドは、英国のEU離脱が決まると、独立を検討し始めた。
このように欧州では、今後5~10年の間に政治・社会情勢は悪化するばかりだろう。さらに権力の分散化が進む可能性もある。
トルコのクーデターは、EUや北大西洋条約機構(NATO)への加盟に大きなダメージとなる。加盟するには民主主義を確固たるものにし、自由貿易を支援しなければならない。だが、エルドアン大統領はクーデター後の未遂犯に対して、死刑制度復活に言及するなど過剰な措置を取った。
さらに今後は次のような理由から、欧州の同盟関係がいままでに増して急速に悪化していくと考えている。
第一に、英国のEU離脱やイタリア、オランダ、スペイン、フランスなどの大衆主義をあおる政党の台頭など、各国が国内に抱える問題が顕在化することだ。
第二に、IT(情報技術)などテクノロジーの進化が...
(『週刊エコノミスト』2016年8月9・16日合併号<8月1日発売>20~22ページより転載)
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発売日:2016年8月1日
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