◇大統領選 米国の岐路
◇2016年8月9・16日合併号
民主、共和両党の候補が正式に決まった米大統領選。両者のどちらが選ばれても、米国の外交・安全保障政策が大きく変化する。
渡部 恒雄(東京財団上席研究員)
今回の大統領選挙の外交政策や通商政策は、過去の選挙に比べて大きな政策軸の変化を米国にもたらした。それは不動産王ドナルド・トランプ氏(70)が、共和党の大統領候補に決まったことに象徴される。
共和党はこれまで、米国の国際的な外交と軍事への関与、そして自由貿易を支持してきた。その党が今回、「米国第一」の孤立主義を掲げ、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)など自由貿易協定に反対し、外国への軍事介入のハードルを上げている候補を指名したのだ。
「トランプ現象」は、ポピュリズムがもたらした一つの現象と言える。つまりトランプを支持する有権者の声を映したものなのだ。
実際、多くの共和党支持者が、アフガニスタンやイラクへの兵力派遣に疲れ、ブッシュ(息子)前大統領が主導したイラク戦争に批判的だ。当初有力視されたブッシュ前大統領の弟のジェブ・ブッシュ候補(63)が、予備選で人気が出なかったこともうなずける。
また、トランプ氏の支持層は低・中所得層に多い。彼らは、グローバリゼーションの進展や大企業・金持ち優遇税制、停滞した現状の経済に不満を持つ。民主党予備選でバーニー・サンダース上院議員(74)を支持した層と共通する問題意識だ。民主党支持層と違うのは白人層が多く、移民労働者に排斥的な点など、思想的に保守であることだ。
◇政策の「逆転現象」
今回の大統領候補の政策は、過去と比べると異質さが際立つ。図は、外交・通商の政策を軸として大統領候補をおおまかに分類したものだ。
2008年にオバマ大統領が選出された予備選では、明らかに共和党候補は対外関与と自由貿易を支持している。一方、民主党候補は対外関与を嫌い、保護主義的である。
ところが、16年の図をみると......
(『週刊エコノミスト』2016年8月9・16日合併号<8月1日発売>25~27ページより一部転載)
この記事の掲載号
この記事の掲載号
定価:720円(税込)
発売日:2016年8月1日
〔特集〕世界の危機 分断と反逆
やせ細る中間層の怒り
イアン・ブレマー「世界に広がる国家の分断」
この夏に読む本 専門家が選ぶ渾身の3冊
ポケモンGO利用者は2億人超へ