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【特集:世界の危機 分断と反逆】グローバリズムが限界に達した 成長しない定常社会への対応を=平川克美

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EU離脱を決めた英国(手前中央は離脱を推進した英国独立党のファラージ前党首)Reuters 週刊エコノミスト
EU離脱を決めた英国(手前中央は離脱を推進した英国独立党のナイジェル・ファラージ前党首) Reuters

 ◇2016年8月9・16日合併号

 ◇英国EU離脱から何を学ぶか

 

 平川克美(立教大学客員教授)

 

 欧州連合(EU)からの離脱は英国民の選択であり、他国がその成否を言うべきではない。今回の決定の是非についてはそれぞれの利害関係者が、自分に都合のよい理由を挙げている。だが、その要因をナショナリズムの台頭や格差問題、感情論など単一の理由で語ることはできない。

 背景としてグローバリズムの進展とともに拡大した貧富の格差が、英国のみならず、世界の先進国にとって、のっぴきならない段階に達しているということだろう。文明移行期的な混乱が起きている、と考えられる。

 グローバリズムは、市場原理を国民国家の原理に優先させようとする大企業・多国籍企業の生き残り戦略だ。国民国家の原理を支える母語も関税も、固有の商習慣も、市場原理にとっては障壁に過ぎない。

 この国民国家のコントロールを少なくすべきだという「小さな政府論」はイデオロギーであり、国民国家の理念と激しく衝突する。それを象徴的に表しているのがEUであり、EU内で「選択と集中」「富の偏在」などグローバリズムの弊害が顕著になっている。ナショナリズムの動きは、そうしたグローバリズムへの反発に見える。

 誤解してはいけないのはグローバリズムに対置する概念は、ローカリズムあるいは地域主義であり、ナショナリズムではないということだ。ナショナリズムに対置するのは、国家間で協調する「インターナショナリズム」だ。したがって、グローバリズムと一見反対のナショナリズムは共存できる。

 逆に、国民国家は国家間の違いを認めながら価値観を共有するインターナショナリズムと共存する。すると、国民国家の体制を支持しているのが保守だろう。EU離脱を主張するフランスの極右政党のマリーヌ・ルペン党首のほか、オーストラリアやフィリピンでもナショナリズム勢力が台頭しているが、彼らは保守とは言い難い。

 

 ◇移行混乱期は続く

 

 スペインの左派政党「ポデモス」など、左派の新興勢力の台頭も注目されるが、もはや右派、左派という区分けはほとんど意味を失っている。グローバリズムとナショナリズム、国民国家とインターナショナリズムが入り組んで、成長と分配の最適解を探しているのが現状だろう。

 しかし、いずれも成長を前提としているために、どこにも解が見いだせないでいる。ポデモスは、EUにも議員を送り出し、EUの内側からも貧富の格差解消と雇用確保の足掛かりを作ろうとしているが、苦戦するだろう。EU自体が、国民国家の理念とグローバリズムという矛盾を抱え込んだまま、国家統合へ向かおうとしているからだ。

 では、足元の混乱は歴史的にどう整理できるか。

 先進国を支えてきた秩序や価値観が、別のものに移り変わりつつあると考えている。近代ヨーロッパでは、1648年のウェストファリア条約締結以来......

(『週刊エコノミスト』2016年8月9・16日合併号<8月1日発売>30~31ページより一部転載)

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この記事の掲載号

定価:720円(税込)

発売日:2016年8月1日

週刊エコノミスト 2016年8月9・16日合併号

 

〔特集〕世界の危機 分断と反逆

 

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