◇「女系認めないのは男尊女卑だ」
生前退位のご意向について、天皇陛下は大変なご決断をなさったと驚いた。皇室典範改正の議論がまったく進まず、ご心配だったのだろう。生前退位ということは、譲位ということ。わしも典範に規定のない譲位をお望みだと知ったときは、国民として不覚だと思った。
天皇陛下は政治的な発言を封じられている。それならば、本当は国民や、政治家が典範改正にとっくに着手していなければならない。ところが怠慢で何もできなかった。
お気持ちの表明は、「摂政を置けばいい」と勝手に解釈し始める勢力の誤解を解くためだろう。政府は急いで譲位のための典範改正を、国民の感謝の気持ちとして整えなければいけない。理想から遠かろうが公務を減らして最後まで働けと言う人がいるが、あまりにも無慈悲だ。
陛下は象徴のあり方を考えて、完璧に公務をこなしたという達成感をお持ちだろう。皇太子さまは、陛下が即位した年齢に達しておられる。次世代が目指される象徴天皇像を作り上げるにも年月が必要だ。陛下は早く継承したいのだろう。
皇室が日本にとって重要である根拠はいくつもあるが、その一つは常に弱者に寄り添われる存在だからだ。例えば、差別を受けてきた人を応援したり、精神的に支えたいというお気持ちで慰問をされる。大災害が起これば被災地訪問をなさる。過去の戦争の激戦地に行って、戦死者のために祈りをささげられる。
国民は差別と偏見だらけで、騒いでもすぐに忘れていくが、陛下や皇族方は困難な状況にある弱者のことを忘れず、常に心を尽くしてくださる。そうしたお姿を通して国民は弱者の存在に目を向け、弱者も「自分は見捨てられていない」と思うことができる。陛下は国の象徴として国民の一体感を守ってくださっている。
◇皇太子が空位でいいのか
しかし、皇統の未来はとても危うい状況にある。現在の皇室典範では、皇位継承は男系男子にしか認められていない。皇太子さま、秋篠宮さまの次の世代が悠仁(ひさひと)さましかいないのだから、もし悠仁さまに男子が生まれなければ皇統は絶えてしまう。嫁ぐ女性は「絶対に男子を生まなければならない」という使命を一身に担うことになる。………
(『週刊エコノミスト』2016年8月30日特大号<8月22日発売>32ページより転載)
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