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第25回 福島後の未来をつくる:清水敦史 チャレナジー代表取締役CEO 2016年2月23日特大号

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 ◇しみず・あつし

 1979年岡山県生まれ。東京大学大学院修士課程を修了。キーエンスで自動制御機器の研究開発に従事。独力で垂直軸型マグナス風力発電機を発明し、2014年3月の第1回テックプラングランプリ最優秀賞を受賞。同年10月にチャレナジーを設立。

 ◇台風のエネルギーを発電に

 ◇プロペラがない新型風力

 

 風力発電ベンチャー、チャレナジーは東京墨田区の町工場の一角に拠点を構えている。チャレナジーを起業したきっかけは、東京電力福島第1原子力発電所事故だ。福島原発事故前まではエネルギー分野とは無関係で、大阪市でセンサー技術を研究していた。福島原発事故直後のニュースを目の当たりにし、1979年の米国スリーマイル島原発事故や86年の旧ソビエト連邦のチェルノブイリ原発事故級の事故が日本の福島県で発生した事実に愕然(がくぜん)とした。同時に原発事故は今後も世界のどこかで必ず起きるとも感じた。


 ◇台風は日本の電力50年分

 

 エンジニアの自分に何ができるかを考え、原発に代わるエネルギー、なかでも風力発電に目をつけた。風力は組み立て技術の結集で個人レベルでもアイデア次第で参入できる。

 日本でも環境省調査によれば電力系統網接続などの制限を考慮しない風力発電の可能性は原発1900基分に相当する19億キロワットであるが15年末時点での日本の風力発電累計導入量は300万キロワットを超した程度だ。日本は風力発電後進国である。日本には欧州のような安定した風が吹かず、台風などの暴風や、風向きや風速が不定期に変化する乱流など風力発電には厳しい気候であることも導入が進まないことに影響している。

 そこでチャレナジーは暴風や乱流でもエネルギーに変えることができる日本の気候条件に適した垂直軸型マグナス風力発電機の研究・開発に取り組んでいる。

 この風力発電機は理論上、一般的な水平軸のプロペラ風車型発電機では困難な台風の中でも発電ができ、安全性が高いので都市での発電も可能だ。台風で発電するには、二つの工夫が必要となる。一つは強風による暴走を防ぐこと、もう一つは激しい風向変化に対応すること。プロペラがついている限り突風による故障などのリスクが残る。

 日本には、台風というすごいエネルギーがくる。年間最大台風の台風全体が水蒸気として持っているエネルギーをすべて電気に転換できると日本の総発電量の50年分になる。その膨大なエネルギーの一部でも電力に変換できる技術が垂直軸型マグナス風力発電機だ。実は台風のエネルギーを利用するというアイデアは漫画「ドラえもん」の話にも出てくる。まさに夢の技術だ。

 世界中で普及している水平軸型プロペラ風力発電機では、羽根や発電装置が故障するために台風がくると羽根を止めている。マグナス力を使えば、それらの問題を解消できる。

 マグナス力とは、分かりやすくいうとボールを回転させるとカーブのように曲がる力を利用するもの。円筒棒を回して発生させたマグナス力を使って、発電機を回す。回転が速いほどマグナス力が強くなる。逆に円筒棒が止まるとマグナス力はゼロになる。これこそマグナス風力発電最大のメリットだ。台風の中でどんなに暴風が吹き荒れても最悪円筒棒を止めれば発電機を停止できる。円筒棒の回転数の調整により、台風のような強風でも暴走することなく発電し続けることができるのだ。

 当社が開発に取り組んでいる垂直軸型マグナス風力は、地面に対して垂直に立てる円筒棒を中央の軸を中心にいくつか配置する。回転する円筒棒が風を受けてマグナス力が作用し、中央の軸が回ることで発電する。

 問題は垂直軸の形状では風上側と風下側の円筒棒のマグナス力の向きが同じのため、中央の軸の回転力としては相殺されてしまい、回らない。関西電力や三菱重工業といった大企業も垂直軸型マグナスのメリットに目をつけて研究していたが、実用化に至っていない。

 私は熟慮を重ねたところ妙案を思いついた。四方に配置する円筒棒をそれぞれ二つ並べる方法だ。このアイデアを思いついたのはチャレナジーを創業する前で、原発事故が起きた1カ月後くらいだ。早速、自宅で発泡スチロール製のモデル機をつくったところ、風車が回った。原理的に可能だと確信し、このアイデアを11年7月に特許を出願した。早期審査によりわずか2年程度の13年春には特許を取得できた。そこで一念発起し、13年6月に会社を退職して、東京に拠点を移した。

 上京してしばらくは大学院時代に共同研究していたUPRという物流会社で働きながら起業の機会をうかがっていた。14年3月に科学ベンチャーのリバネスがモノづくり限定のビジネスコンテスト「テックプラングランプリ」を開催し、これ幸いと応募。そして最優秀賞を獲得した。

 さらに14年夏に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する研究開発型ベンチャー支援事業の募集があった。この事業はアイデアの事業化に必要な活動費を2年間で3000万円支援する。その支援を見込んで14年10月にチャレナジーを設立し、11月に見事採択された。ここまでは順風満帆だったのだが、起業直後に思わぬ落とし穴が待ち受けていた。

 チャレナジーを起業して、取得した特許を基につくった試作機のエネルギー変換効率をまず第三者にテストしてもらった。14年12月に判明した試作機のエネルギー変換効率は1%以下と信じられない低さだった。

 一般的に、風車型発電機のエネルギー変換効率は30から49%で、理論上の限界は約60%と言われている。1%以下では発電設備として成り立たない。二つ並んだ円筒棒の周りに渦ができており、机上の計算では出ない抵抗力が働いていたのだ。当初の特許アイデアは白紙となり、今までのもくろみが全て水泡に帰した。

 しかも15年7月にはNEDOの中間審査があり、それまでに成果を出さなければ支援は打ち切られる。起業直後にいきなり倒産の危機に立たされることとなった。

 結論として半年で全く新しいアイデアを再発明した。半年間、昼も夜もなくひたすら実験を繰り返して、円筒棒のマグナス力を高めることと風の抵抗を減らすという二つのブレークスルー(革新的解決)を果たす新たな特許アイデアを導き出した。

 新たなアイデアは特許出願中なので詳しく言えないが、円筒棒の表面の形状を工夫してマグナス力を向上させるとともに円筒棒の後ろに板をつけて抵抗を減らすことで、エネルギー変換効率は30%台まで上昇した。半年で変換効率を数百倍にすることができたのだ。このアイデアは、たまたま円筒棒の近くに手をかざしたときに発見した偶然の産物。99%の努力が1%のひらめきを生んだ。これによりNEDOの中間審査は無事通過した。

 15年11月から12月には人工的に風をつくり風の流れを見える化して計測する本格的な風洞実験を行い、高い性能データを得られた。そして16年夏、沖縄に高さ3メートル程度の垂直軸型マグナス風力発電機を建て、台風中での発電を含めた実証事業をする。

 まだ課題はある。現状では発電機による発電量のほとんどを円筒棒を回すユニット箇所で消費してしまう。今後はいかにモーターのロスを減らして発電量を増やしていくかだ。電動自転車のインホイールモーターのように円筒棒をモーターで直接駆動するなど、解決の活路はある。また資金調達手法として、寄付型クラウドファンディング(Webによる募金)に取り組んでいる。

 この垂直軸型マグナス風力発電機は、台風が訪れるフィリピンなどの東南アジアやハリケーンが訪れるメキシコなど、世界中で活躍できると期待している。さらに台風エネルギーを利用して海水を電気分解し大量に水素をつくれば、日本が目指す水素社会の実現に貢献できる。(了)


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