減速している中国経済の構造をどのように捉えるべきか、丹羽宇一郎元中国大使(伊藤忠商事前会長)=写真=に聞いた。
(聞き手=松本惇/藤沢壮・編集部)
一党独裁国家でありながら中国がいま行っていることは、資本主義の壮大な実験だ。人口14億人に迫る超巨大国家による資本主義など、地球上にこれまでに存在しなかった。日本や欧米先進国のようにうまくいくか、誰も確信は持てない。
しかし、国内総生産(GDP)で世界第2位の経済大国の中国が倒れたら世界はおかしくなる。高度成長期は終わったが、無視できない市場だ。だからこそ、中国への輸出がアジアに次ぎ多い欧州連合(EU)諸国は、投資をさらに増やしている。
対照的に中国への投資を減らしているのが日本企業だ。2015年の日本の対中投資は前年比で25.9%減った。以前の中国企業は、日本企業から部品を買い、完成品にして輸出していた。だが、いまは自前で作れるため、日本から買う必要がない。日本が得意としてきた電機産業などで顕著だ。
◇日中韓のFTA締結を
投資を控えているままでは、日本は欧米に後れを取るばかりだ。参入しても現地企業に虎の子の技術が無断で使用されるだけとならないよう、知財保護のルールなど企業環境の整備が急務だ。短期間で環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の締結が難しい状況なだけに、日中韓の自由貿易協定(FTA)の締結を急ぐべきだろう。これは政治が解決するべき課題。環境整備でいえば、欧州が活発だ。英国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)にいち早く加盟を表明した。ドイツのメルケル首相は何度も中国を訪問し、トップセールスをしている。
今後、中国経済は40年前の日本の後を追うように変化すると考えられる。
過剰生産体制の構造問題の解消に向けて、鉄鋼はじめ素材産業を中心に企業再編が始まっている。これは1970年、八幡製鉄と富士製鉄が合併し、新日本製鉄(現新日鉄住金)が発足したことに重なる。……
(『週刊エコノミスト』2016年9月13日号<9月5日発売>21ページより転載)