◇元財務官に聞く 為替介入の効果と可能性
◇2007~09年に財務官
ドル・円市場が動くと市場で取りざたされるのが為替介入だ。現在の相場環境で実施される可能性はあるか。政府や日銀の財政、金融政策に対する見方も含め、元財務官の篠原尚之・東京大学政策ビジョン研究センター教授と榊原英資・青山学院大学特別招聘教授に聞いた。(聞き手=後藤逸郎/谷口健・編集部)
篠原尚之(東京大学政策ビジョン研究センター教授)
── 財務官時代の為替介入を巡る経験について。
篠原 2008年9月のリーマン・ショック後に円高が急速に進み、ショックの約2週間後にG7で円を特定した共同声明を出した。協調介入ではなく、日本の単独介入でならよいという形で各国が合意した。実際には声明そのものの影響が大きく、介入せずに済んだ。
金融危機後に米ゼネラル・モーターズ(GM)など米大手自動車メーカーの経営危機を受けて円高が進んだ局面では口先介入が効いた。当時は本当に介入するのでは、という雰囲気が市場にあったためだ。
── リーマン・ショック時、なぜ協調介入で合意できなかったのか。
篠原 当時は上昇しているのは円だけで、一緒に介入してくれる国がなかった。しかし、日本に介入が必要な点で各国の呼吸は合っていた。
介入に踏み切る上で為替の水準は関係ない。協調介入は金融システムが危機に陥りそうだと各国が認識したらできる。
── 現在のドル・円相場の水準についてどう見ているか。
篠原 1ドル=100円で円高と言う人もいるがとんでもない。円高でも円安でもなく、皆が想定しているレンジの範囲内だ。同70円台程度まで行けば場合によっては海外当局と話そう、ということになる。
私は実質実効レートを最もよく見ているが、むしろ思ったよりも円高にならないことに驚いている。円や日本経済の実力がそれだけ落ちてしまったのかなと悪い予感がする。
── 今の局面で介入の可能性は。
篠原 まったくないと思う。為替レートは2国間の......
(『週刊エコノミスト』2016年9月20日特大号<9月12日発売>32ページより転載)
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定価:670円(税込み)
発売日:2016年9月12日