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第41回 福島後の未来をつくる:福田良輔 中部大学客員教授=2016年11月8日号

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 ◇ふくだ りょうすけ

1945年岡山県津山市生まれ。東京大学工学部電子工学科卒。住友電気工業では常務執行役員として研究統括。退社後、エネルギー・環境技術および中山間地域の活性化に向けて精力的に活動中。工学博士。

 ◇中山間地域の切り札「空圧電池」

 ◇日本全体の電力は1億キロワットで十分

 

 山地の多い日本は、「中山間地域」と呼ぶ地域が国土の70%を占める。中山間地域とは、平野の端から山間地にかけてを指す。地域の産業は農林業が中心だが、農林業従事者の高齢化や後継者不足などから過疎化が進行し、衰退が著しい。

 一方で中山間地域には、木材資源や放棄田畑など、再生可能エネルギー施設を設置するうえで必要な資源や土地が豊富にあり、しかも安く手に入れることができる。

 そこで私は神戸製鋼所グループなどと協力して「山麓フロンティア研究会」を設立。こうした中山間地域のメリットを生かして、再生エネルギーを活用した地域振興のための取り組みを進めている。


 太陽光発電は天気によって発電量が変動する。しかも、中山間地域などの地方部においては、発電した電力を消費地に送るための送電系統網が脆弱(ぜいじゃく)だ。そのため多くの電力会社は、中山間地域の太陽光発電を系統網につなぐことに何らかの制限を設けていることが多い。送電系統網に太陽光発電をつなぎすぎてしまい、受け入れ可能な量を上回る電力が送電線に流れ込むと、高温になって送電線を溶かすといったトラブルを起こす恐れがあるためだ。

 こうした課題の解決策の一つが電力貯蔵装置だ。太陽光発電施設に併設すれば、発電した電力をためておくことができる。送電系統網に送るピーク電力量を調整できるし、発電電力を電力の必要な夜間などにシフトすることもできる。このため、中山間地域に多数の太陽光発電施設を設置することができるようになる。

 ただし、電力貯蔵施設に使う蓄電池として、鉛電池は不向きだ。蓄電容量が小さいので、多くの電池が必要になるためだ。その上、重い。リチウムイオン電池も、数百キロワット級の電力をためようと思えば高コストで、寿命も長くない。

 山間部に設置するのだから、できるだけコンパクトで単純な構造にする必要がある。そこで研究会は、電力貯蔵装置として「空圧電池」を用いた小容量・分散・多数配置型再生可能エネルギーシステムの開発・実用化に取り組んでいる。システムでは、圧縮しておいた空気を解き放つときに生じるエネルギーを使ってタービンを回し、発電する仕組みだ。空気の圧縮には、太陽光発電や風力発電などで余った電力を使う。圧縮した空気は鋼製タンクにためておき、電力が必要になったら、圧縮空気を放出して発電するシステムだ。

 余った電気エネルギーを力学的に変換する仕組みで、「電池」とは言っても、鉛電池やリチウムイオン電池といった電気化学系の蓄電池とは基本原理が異なる。

 研究会が岡山県美咲町で計画中の実証事業では、この空圧電池や空気タービンに、太陽光発電装置や木質バイオマス発電装置を組み合わせた総合システムを構築する考えだ。

 

 ◇新旧蓄電池の欠点補う

 

 空気タービンには、中小規模の発電に適した神戸製鋼所製の「2軸スクリュータービン」を用いる。同社はすでに神戸総合技術研究所で空圧電池と空気タービンを組み合わせた出力500キロワットのテストプラントを稼働中で、静岡県河津町でも風力発電と組み合わせた同2000キロワットの空圧電池・空気タービン設備を12月の完成を目指して建設中だ。

 空圧電池と再生エネルギーを組み合わせれば、電力を発電する際にCO2を排出しない。化石燃料や原子力などのように危険な化学物質を用いることもないので、爆発事故や化学物質漏れなどの公害の懸念もない。さらにタービンを空気で回すため、ガスタービンや蒸気タービンに比べて長持ちするメリットがある。

 また、このシステムを導入すれば、他設備との相乗効果によって木質バイオマス発電の「容量効果」を克服できる。木質バイオマス発電の容量効果とは、発電容量が大きくなるほど、発電施設の効率性がアップして単位当たりの発電コストが下がるということだ。農林水産省は当初木質バイオマス発電事業の損益分岐点を発電規模5000キロワット級と算定していたが、最近では技術の進展もあって、2000キロワット程度まで下がっている。

 しかし、1000キロワット級の大規模な木質バイオマス発電設備は燃料である木材資源の調達が難しい。出力300キロワット以下なら、システムを設置した周辺町村の地域木材を燃料資源として持続的に活用できる。容量効果が出ないとコストは高止まりしてしまうため、小さな容量クラス単独で利益を出すのは困難である。

 そこで、太陽光発電と空圧電池を組み合わせるとよい。すると数百キロワット規模の木質バイオマス発電でも安定した利益を生み出せる。

 

 ◇長期稼働で高い経済性

 

 空圧電池を太陽光発電システムへ単純に追加投資すると、空圧電池の容量にもよるが、設備投資回収費用は太陽光発電単体の場合に比べ2倍程度かかる。

 ただ、空圧電池の寿命はほかの蓄電池よりも長い。そのぶん長い期間にわたって利益を確保できる。空圧電池の主要部材である鋼管は、空気貯蔵向けだけなら50年間超、長ければ100年間使用可能だ。さらにシンプルな構造の空気圧縮機と空気タービンは、きちんとメンテナンスすれば50年間は十分持つ。

 同時に、研究会は「100年」の超長寿命構造の太陽光パネルの開発・商用化を目指して開発を促進してきた。現段階では技術力のあるパネルメーカーがパネル両面を厚さ2ミリの強化ガラスで覆った寿命50年の太陽光パネルの商用化に成功している。

 これを空圧電池と組み合わせ、20~30年の長期にわたって初期投資費用を回収するとともに、それ以降の寿命まで太陽光発電の売電で得た利益をシステムの維持に充てる事業モデルを検討している。

 日本全体の発電施設を合わせた総発電容量(能力)は、本来、1億キロワットで十分だ。しかし、作った電力量と使う電力量を一致させる「同時発電同時消費」の原則の軛(くびき)に縛られているために、最も使用量の多いピークに合わせて発電施設を設ける必要がある。このため、総発電容量は必要以上に多くなってしまっている。

 ピーク対応発電機として、電力会社すべての余剰設備は計1億キロワットに上る。さらに企業の自家発電設備が5000万キロワットもあることから、日本全体の総発電容量は2億5000万キロワットに及ぶ。

 これを太陽光発電を中心とした「再生エネ発電+空圧電池」のシステムに置き換えていけば、理論的には電力会社の余剰設備の1億キロワット分が不要になる。この不要になった発電資産を売り払い、売却で得た資金を空圧電池の設置に充てれば、それだけでも日本に必要な空圧電池すべてを設置できるようになるだろう。

 そもそも、筆者は太陽光発電だけで十分日本全体の電力を賄えると考えている。再生可能エネルギーをさらに普及する上でも、日本は空圧電池を拡大・普及するための明確なエネルギー電力ビジョンを策定するべきだ。純国産資源で電力を賄うことができるようになれば、もちろん、現在の年10兆円に上る発電燃料の輸入向け外貨の持ち出しは不要になる。(了)

(『週刊エコノミスト』2016年11月8日号<10月31日発売>76~77ページより転載)

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年10月31日

週刊エコノミスト 2016年11月8日号

 

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