三菱商事は10月13日、インドネシアで自動車を生産・販売する子会社を再編する、と発表した。インドネシアの自動車製造・販売の子会社を、乗用車の三菱自動車と、トラックの三菱ふそうトラック・バスとに、事業を分割する。決断の裏には「三菱自動車の筆頭株主となった日産自動車が、三菱商事のインドネシアの優良事業に介入するのを防ぐための布石ではないか」(商社アナリスト)との見方がある。
◇インドネシアの自動車製販会社を再編
再編するのは、1970年に設立したインドネシアのクラマユダ・ティガ・ベルリアン社(KTB)と傘下の組み立て工場。KTBは三菱商事が筆頭株主の子会社で、過去10年で200億円以上の持ち分利益を三菱商事にもたらした優良会社だ(表)。三菱自動車と三菱ふそうの製造と販売を手がけているが、収益の大半は三菱ふそうのトラックが占めている。
KTBの現在の出資構成は三菱商事が40%、現地資本のクラマユダが40%、三菱ふそうが18%、三菱自動車が2%。これを三菱商事30%、クラマユダ40%、三菱ふそう30%とし、三菱自動車との資本関係は完全に断ち切る。これとは別に三菱自動車専用の販売新社を17年4月に設立する予定で、新会社には三菱商事が40%、三菱自動車30%、クラマユダが30%を出資する。
また、この事業再編を決断する以前から、三菱商事は組み立て工場の再編を進めていた。これまで三菱ふそうのトラックと三菱自動車の両方を手がけてきた現地製造会社のKRMを、三菱ふそう専門の工場とし、来年4月には、三菱自動車のMPV(多目的車=ミニバンなど)の組み立てを行う新社MMKIの操業開始を予定している。
MMKIには三菱自動車が51%、三菱商事が40%、クラマユダが9%を出資する予定で、同社は完全に三菱自動車主導の製造組み立て拠点となる。MMKIでは、来年投入予定のMPVを日産自動車にOEM供給する予定もあるという。
◇稼いできたのは三菱ふそう
三菱自動車と三菱ふそうのトラックを完全にすみ分ける形にした決定について、冒頭のアナリストは「高収益会社のKTBから三菱自動車を完全に切り離すことで、将来懸念される日産のカルロス・ゴーン会長兼社長兼CEO(三菱自動車の会長も兼務)からの口出しを完全に封じた」と評価する。
というのも三菱自動車が海外で手がける自動車販売の中でも、インドネシアのKTBは、タイのいすゞ自動車関連の子会社と並ぶ稼ぎ頭だからだ。2010年度には64億円もの持ち分益を三菱商事にもたらしている。ただし、「KTBの7~8割は三菱ふそうのトラック販売で占められていたはず。1台当たりの利益率の高さは三菱ふそうが圧倒的に高い」(同アナリスト)という。
この見方に対し、三菱商事は「今回の再編と、日産自動車の三菱自動車への資本参加は全く関係なく、従来からKTBの株主の間で協議してきた内容に基づき実施した」(広報部)と反論する。
真相は不明だが、三菱自動車が日産ゴーンの傘下に入ったことによる混乱を事前に防ぎ、将来有望なインドネシア市場でトラックと自動車双方で布石を打ち、日産との提携の道も残すという点で、今回の再編は電光石火の的確なタイミングでの決断だったともいえそうだ。(編集部)
*連載「商社の深層」第45回、週刊エコノミスト2016年11月15日号