◇融資こそ地方創生のロマン
Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
投信や生命保険は一切販売せず、預金と融資に特化して業績を伸ばしている金融機関が広島にある。純利益28億円は県内の上場企業47社と比較しても14番目だ。
── 広島市信用組合とは一言でいうとどんな金融機関ですか。
山本 中小零細企業に特化した相談しやすい金融機関、リスクテークをする金融機関です。他者に負けないスピードがあります。
── スピードとは。
山本 基本的に融資の決済は3日で判断します。支店長と得意先係は毎日融資先を歩き、会社の技術力、成長性、経営者の人間性まで見て、財務状況を常に頭に入れています。この日ごろの活動があればおのずと答えは早くなるのです。
── 大口融資となれば本店の決済も必要では。
山本 私は毎朝5時20分に出社し、34支店の支店長日誌すべてに目を通します。6時45分から約1時間の役員会議を開き、融資先を含め、あらゆる情報を共有します。パートを含め職員445人すべての顔が見える。だから即決できるのです。
── なぜ融資に特化できるのか。
山本 投信や生命保険を一切販売していないからです。それをやれば職員が説明のために準備や余計な時間が取られる。しかも投信はお客様に損をさせることもある。だから投信や保険は一切販売しないのです。
もう一つは不良債権をバルクセール(まとめ売り)で徹底的に処理してきました。これをやったおかげで職員は不良債権処理の後ろ向きの仕事に時間が割かれることがない。
── バルクセールの実績は。
山本 2001年以来、件数にして2550件、累計で560億円の不良債権を処理してきました。お客様とじっくり話し合って進めたため、トラブルはゼロです。この結果、問題企業の2割弱が再生しました。
── 不良債権は激減しましたか。
山本 現在の不良債権比率は2・64%。全国比較でも良好な数値ですが2年前から少し増えました。というのも従来7000万円以上の赤字・繰り越し欠損・債務超過の融資先の査定を今期から4000万円に下げました。基準を厳しくして引当金を積んでおけば、どんな金融危機が来ても対応できるという判断です。
9年前から法人と大口融資先を対象に財務状況などを載せたディスクロージャー誌を職員が手分けして配布するローラー作戦を開始した。その数は1万5000軒。地元では「シシンヨー」の愛称で呼ばれ、この対面の活動が「投信も保険も売らないから安心」と新たな預金の獲得につながるという。
── リスクを取る金融機関とは。
山本 取引して2年以上が経過した法人に、最高2000万円までの事業性融資をカードローンで提供しています。金利は9・5%ですが、担保は求めません。もう一つは住宅ローン。年収が300万円前後の人でも人間をよく見て25~30年、1500万~2500万円の住宅ローンを提供しています。金利は2・5~3・5%。多少金利が高くても「家が持てた」と喜んできちょうめんに返済していただけます。
◇格付けは全国で3位
── 今期の業績見通しは。
山本 本業の利益を示すコア業務純益は83億5000万円、当期純利益は29億5000万円で、いずれも過去最高を見込んでいます。
── 財務状況は。
山本 自己資本比率は今期末で10・15%を達成する見込みで全国265の信用金庫、153の信用組合の中で3位となるシングルA(日本格付研究所)の格付けです。当組合は社債を発行していませんが、この強固な財務体質で顧客が安心し、大口の預金獲得も可能となるのです。
── しかし信組の融資対象は従業員300人以下か資本金3億円以下の事業者に限定されています。
山本 だからこそまだまだ取引していないお客様がたくさんいるのです。地域の金融機関はいま再編や分野統合、異業種連携が活発ですが、それ自体が目的になり、握手をして終わりということになりかねない。
大事なのはその後の経営です。当組合は3年前、広島大学と提携しているバイオ医薬ベンチャーに1億円の融資をしました。この会社が大手製薬会社と提携し、上場も視野に入りました。過去には現在上場している信販会社や大手流通企業に融資してきた実績もあります。誰も振り向きもしない赤字の会社を独自の眼力で見つけ将来にかける。それこそが地域の創生につながる融資のロマンではないでしょうか。
── 収益はどう還元しますか。
山本 現在も支店のリニューアルを続け、お客様の利便性を図っています。懸賞金付きの定期預金で預金総額に対し0・3%程度の利益還元もしています。この「ハッピードリーム定期」の残高は2000億円になりました。10月には新入職員の初任給を1万6000円アップしました。地域、法人、預金者、組合員、そして職員に利益を還元するのが我々の役目です。
── 課題は何ですか。
山本 人材育成、それしかない。私の後任を含め、職員全員を融資大好き人間に育てていくこと。もう一つは女性の登用です。すでに28人の支店長代理が女性で、42人の女性係長もいます。育児休暇後の復帰率は100%。これも続けていきたい。
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 35歳で支店長になり、融資のことで絶えず本部の審査部と大げんかしていました。担保がなくても「私が確かめたから大丈夫だ」と日々、格闘していました。
Q 「私を変えた本」は
A 本ではないですが、新人の頃、得意先係で経験した挫折からの教訓「お金は貸すものではなく、使っていただくもの」という顧客目線の経営哲学です。
Q 休日の過ごし方
A 土曜日は半日だけ仕事をします。日曜は完全休養して、ドライブに行ったり、妻と小旅行しています。
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■人物略歴
◇やまもと・あきひろ
山口県出身。県立宇部高校、専修大学経済学部卒業。1968年広島市信用組合入組。2001年専務理事、04年副理事長を経て、05年6月より現職。71歳。
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事業内容:信用組合
本社所在地:広島県広島市
設立:1952年
出資金:185億円(2016年9月30日現在)
職員数:414人(16年9月30日現在)
業績(16年3月期)
コア業務純益:82億7300万円
当期純利益:28億6600万円