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特集:日本経済総予測2017 2016年12月27日号

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◇トランプでゲームチェンジ

◇米好景気で日本の内需拡大へ

 

「トランプで流れが変わった」「今がチャンスだと思って来た」

 

野村証券グループが12月13~14日に東京国際フォーラムで開いた資産運用フェアには、同様の開催形式になった2012年以降で過去最高となる約1万4300人が訪れた。来場した個人投資家からは、大規模なインフラ投資や減税政策を進めるとするドナルド・トランプ次期米大統領の経済政策「トランプノミクス」に期待する声が相次いだ。

 

東京都内に住む無職男性(65)は「トランプ相場で株価も上がっているので興味があって来た。株で老後の資産運用をしたい」と意気込む。約50年間、株式投資をしているという別の無職男性(69)は、所有しているアパートを売却してその利益数千万円全額を株式投資に充てるつもりだ。「トランプ相場で株価はまだまだ上がると思う」。

 

 会場には約80のブースがあり、参加した各企業が自社の魅力をアピールしたほか、エコノミストらの講演会も開かれた。主催した野村インベスター・リレーションズの担当者は「例年よりも熱心に話を聞いている人が多かった。トランプ相場に乗り遅れたという焦燥感がある人もいたようだ」と語る。

 

 11月8日の米大統領選以降、日経平均株価は上昇を続け、12月15日には一時、約1年ぶりの高値となる1万9400円台まで上昇。ドル・円相場も、14日に米連邦準備制度理事会(FRB)が1年ぶりの利上げを決め、17年の利上げペースが加速するとの見通しが強まったため、約10カ月ぶりの円安水準となる1ドル=118円台をつけた。マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは「17年秋ごろまでに125円くらいまで円安が進むのではないか」と見る。

 

 東京証券取引所によると、大統領選前の東京市場は1日の売買代金が活況の目安となる3兆円前後を大きく下回る2兆円以下になることも多く、株式市場は閑散としていたが、大統領選後は、売買代金が4兆円に迫る日もあるなど3兆円を超えることが多くなった。

 

 

 個人投資家から証券会社への相談も増えている。みずほ証券では、例年1月に全国の各支店で開く「新春セミナー」の応募者数が、前年の同じ時期に比べて約3割増加。別の証券会社では、相談件数が通常時の1・5~2倍といい、担当者は「大相場の前兆という気がしてならない」と話す。

安倍首相はさっそくトランプ詣で(2016年11月17日NYで、内閣広報室提供)
安倍首相はさっそくトランプ詣で(2016年11月17日NYで、内閣広報室提供)

◇1年半から2年は好景気

 

ランプノミクスによる米国の需要増は貿易や為替を通じて日本の実体経済にも波及する。自動車や建設機械など米国への直接的な輸出に加え、アジア各国の輸出も増えるため、アジアに部品などを供給する日本企業の輸出も増加。また、円安効果で企業業績が回復し、賃金が増加することによって家計のマインドも改善して消費の押し上げ効果も出る。

 

JPモルガン証券の鵜飼博史シニア・エコノミストは「日銀が長期金利を0%程度に誘導しているため、上昇している米国の金利との差が広がり、他国に比べて対ドルでの通貨安が進んでいる。日本が部品を輸出しているアジアの最終需要先は米国で、間接的にも米国の恩恵を受けやすい」と指摘する。

 

では、トランプノミクスによる日本の好景気はいつまで続くのか。

 

ある大手生命保険会社幹部は「財政出動により米国の景気が回復するのは中期的には日本経済にとって前向きな話。その先に米国の財政赤字が膨らむという副作用はあるだろうが、17年は大丈夫だろう」と見通す。

 

また、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「米国が財政資金をばらまけば、1年半から2年は米国の成長を一時的にかさ上げするだろう」と見る。その後、米国に景気後退期がやってくる可能性は高いが、少なくとも17年はこの好景気が持続する可能性が高いという。つまり、その間は日本も米国の恩恵を受けられる。

 

週刊エコノミストが証券会社や民間シンクタンク17機関に17年の日本経済の見通しについてアンケート調査をしたところ、実質GDP成長率が1%以上成長すると見込んだのは13機関に上った。シティグループ証券はトランプノミクスの影響を主因として0・2ポイント上方修正した。

 

最も予想が割れたのは住宅投資。4・5%増を見込む三菱UFJモルガン・スタンレー証券は「住宅ローン金利が低いことが需要を喚起し、住宅価格の上昇が見込まれるため、前倒し需要も出てくる」と投資が増えると見る。一方、みずほ総合研究所は「相続税対策のアパート建設が一服し、建設費用の高騰で住宅価格も上がっており、需要は剥落する」とマイナスを見込む。

 

 ◇ロボット投資も活発化

 

 日本の経済成長を後押しするのはトランプノミクスだけではない。国内に目を向けても好材料がある。その一つは人手不足を背景とした産業用ロボットなどへの投資だ。

 

 17年には「団塊の世代」が70代に突入する。また女性の雇用状況も、総務省によると16年10月の女性(15~64歳)の労働参加率は68・5%で、女性雇用に先進的な北欧とほぼ同水準。これまでの人手不足を補ってきた女性や高齢者の雇用が頭打ちになる可能性が高い。

 

 その代わりの「人手」として産業用ロボット投資は増加傾向にある。自動車や電気機械を除く製造業で16年1~3月期に四半期ベースで過去最高の179億円を記録。UBS証券の青木大樹・最高投資責任者は「トランプノミクスで輸出企業の需要が増えれば、設備拡大のため、さらに産業用ロボット投資を進める企業も増えるのでは」と分析する。

 

 全国銀行協会会長の国部毅・三井住友銀行頭取はトランプ氏の登場で、「従来の金融・経済環境が全く変わるゲームチェンジとなる可能性がある」と期待する。

(松本惇・編集部)

特集 日本経済総予測2017の記事一覧

第1部

20 トランプでゲームチェンジ 米好景気で日本の内需拡大へ ■松本 惇

23 GDPトランプノミクスで底上げ 日本の成長率0.3%アップ ■吉川 雅幸

25 インタビュー 伊東 光晴 京都大学名誉教授

26 アナリスト予想 為替・株はどう動く

   壁谷 洋和/謝名 憲一郎/山田 一郎/尾河 真樹/唐鎌 大輔/内田 稔

28 貿易 米TPP離脱はチャンス アジア市場を取り込め ■青木 大樹

30 内需 補正予算と五輪で公共投資増 消費改善へ ■愛宕 伸康

32 インタビュー 吉川 洋 立正大学教授・財政制度等審議会長

 

第2部 金融政策の行方

33 インタビュー 浜田 宏一 内閣官房参与、米エール大学名誉教授

34 シムズ論文 財政が物価を決める ■藤枝 克治

35 追い詰められた日銀 次の一手がない黒田総裁 ■熊野 英生

37 で、どうすれば<1> 財政出動支える金融緩和を ■片岡 剛士

38 で、どうすれば<2> デフレ脱却の見込みなし ■服部 茂幸

 

第3部 日本の未来を開く産業

82 シェアリング・エコノミー 利用広がるウーバーイーツ、民泊■松本 惇/藤沢 壮

85 ロボットが活躍 ハウステンボス、介護施設、携帯ショップでも■山田 紀子/藤沢 壮

87 インタビュー 石黒 浩 大阪大学教授

88 自動運転 自動車業界は“再構築”へ ■貝瀬 斉

90 電力再編 東電救済で膨らむ国民負担 ■高橋 洋

92 ガス自由化 電力会社などが新規参入 ■橘川 武郎

94 再開発 銀座、大手町、赤坂… 都心で進む ■編集部

週刊エコノミスト2016年12月27日号

特別定価:670円(税込み)

発売日:2016年12月19日

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