環境に負荷の少ないクルマが求められる中、超小型モビリティー時代を見据えたクルマづくりを手掛けるFOMMの鶴巻日出夫社長に開発の狙いを聞いた。
(聞き手=大堀達也・編集部)
── 超小型EV(電気自動車)を作ろうと考えた動機は。
■これからのクルマには、(1)環境にやさしい乗り物であること、(2)カーシェアリングしやすい低価格であること──が求められるからだ。
排気ガスを出さないゼロ・エミッションカー(ZEV)規制が世界的に強化されつつある。また、将来は、自家用車を持たないカーシェアリングが主流になる可能性が高い。そうなると、より小型で安価なクルマが求められる時代になる。こうした条件を満たすクルマが超小型EVだ。
◇4人乗りで他社と差別化
── 需要はあるか。
■小型車の需要は、長距離移動ではなく、自宅から最寄りの駅や駐車場までの至近距離、「いわゆるFirst One Mile(ファースト・ワン・マイル)」にある。これにふさわしい「Mobility(クルマ)」を提供したいという意味を込め、社名を「FOMM」にした。日常的なクルマの利用シーンはファースト・ワン・マイルが最も多く、超小型車が適している。
市場はモータリゼーション(自動車の普及期)にある東南アジアだ。2017年中にタイで量産を開始し、18年3月までに同国で販売する計画だ。価格は100万円で、初年度に4000台の販売を目指している。
── 差別化した点は。
■超小型EVはトヨタ自動車や仏ルノーも販売しており、スタートアップ企業が勝つには明確な差別化が必要だ。差別化の一つは、4人乗りで、ファミリーカーとして使えること。超小型EVでは、トヨタの業務用向けの「コムス」が1人乗り、一般向けのルノーの「ツイージ」も2人乗りで家族向けとは言えない。
4人乗りにするために、アクセルをハンドル周りに置くパドル式にし、足元をブレーキのみにしたことで、運転席を車体前方に置き、全長2・5メートルのサイズで4人乗りの空間を確保した。
── 性能はどうか。
■超小型で安価だが性能も追求した。航続距離は1回の充電で150キロ。エアコン稼働時で100キロ走る。
ハンドルにはパワーステアリングを採用した。目新しさとハンドルさばきの楽さでタイの若者には好評だ。
タイヤに組み込んだインホイールモーターも工夫した。ブレーキ時に運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する「回生ブレーキ」を搭載した。これでバッテリー消費を抑えることができる。
もう一つは、水に浮いて移動できること。このアイデアのきっかけは東日本大震災だ。津波が押し寄せたときクルマが緊急避難場所になればいいと考えた。東南アジアは洪水が頻発するため、水に浮く機能は役に立つ。ただ、防水性など実現には苦労した。タイヤホイールを特殊なブレード(羽根)状にし、水を吸い込んで後方に吐き出すことで水上を前進する。
また、バッテリーを丸ごと交換できるカセット式にした。提携するタイ国内200カ所のガソリンスタンドに交換用バッテリーを用意し、充電時に待たされることなく移動できるようにする。スマホアプリで確保できる仕組みで「バッテリークラウド」と呼んでいる。
当初はタイのみの販売だが、マレーシア、インドネシアにも販路を広げ、20年ごろまでに年間5万台、価格80万円を目指し、普及にはずみをつけたい。
◇つるまき・ひでお
1962年福島県生まれ。東京都立航空工業高等専門学校を卒業後、鈴木自動車工業(現スズキ)入社。97年、アラコ(現トヨタ車体)に移る。2013年、FOMMを設立し社長に就任