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退位有識者会議 恒久法化議論を封じ込め 拙速な進行で論点矮小化

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森暢平・成城大学准教授

 

天皇陛下の退位に関して議論する安倍晋三首相の私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(座長・今井敬経団連名誉会長)は、16人の専門家からの意見聴取を終えて、2017年1月中に「一定の方向性」をもった論点整理を公表する予定でとりまとめに入った。

 

 座長代理の御厨貴東京大名誉教授は、天皇誕生日前後の報道各社とのインタビューで、退位は一代限りの特別法でまとめる方向を示している。専門家の意見では退位を否定する意見も多かったが、有識者会議が特別法で退位を容認するのは確実となった。

 

 有識者会議が論点としたのは、(1)天皇の役割、(2)公務のあり方、(3)負担軽減法、(4)摂政の設置、(5)国事行為の委任、(6)退位、(7)恒久法か、特別法か、(8)退位後の活動──の8点。このうち、退位を認めるのか摂政設置でしのぐのか(論点(4)(6))、その際、皇室典範を改正して行うのか、特別法で一代限りとするのか(論点(7))、さらに退位後は公務を行うのか(論点(8))について、16人の意見が分かれたことを確認したというという。有識者会議のまとめでは退位に肯定的な専門家は9人、否定的は7人である。

 

 一方、(1)(2)(3)(5)の4点では専門家の意見がおおむね共通していたとまとめている。しかし、例えば(1)天皇の役割について、保守派の八木秀次麗沢大学教授は、「天皇は祭主として『存在』すること自体に意義があり、公務ができてこそ天皇という考えは存在よりも機能を重視したもの。皇位の安定性を脅かす」と主張。『朝日新聞』の元宮内庁記者の岩井克己氏は「存在するだけで尊いと祭り上げることは神格化や政治利用につながる」と反論し意見は割れている。

 

 ◇天皇の「役割」で対立

 

 保守派にとって天皇は「地位」であるから「高齢で職務がまっとうできない」という理由で、地位から降りることは許されない。それを変えれば、天皇は定年制がある職務にすぎないことになってしまうからである。退位に反対する保守派と、容認する実務派は、天皇の役割でこそ対立しているのだ。それなのに、「おおむね意見が共通していた」とまとめたのは、天皇制のそもそも論にまで議論を広げたくない有識者会議の強引さと受け止められかねない。

 

 有識者会議はスピード感を重視してきた。専門家の意見をそれぞれ20分聞き、10分の質疑応答で終わる。国の根本制度についての審議がこれでいいのかと首をひねる者もいる。さらに、御厨氏は「相場観」という言葉も多用している。幅のあるなかから落としどころを定めるという意味だろうが、天皇制と多数決の原理が整合的なのかは疑問も残る。

 

 御厨氏は、一代限りの特別法でまとめることについて、仮に将来の天皇が高齢で退位するという事態が起きてもいったん特別法をつくれば先例化すると主張している。恒久法化議論を封じ込め、議論を矮小(わいしょう)化しようと意図が透けてみえる。

 

 有識者会議は春をめどに最終的な提言をまとめる。その方向は決した。その後は国会での議論となるが、民進党がこの問題で一定の役割を果たせるかどうかが、議論が実質化するかの分かれ道となるであろう。

(森暢平・成城大学准教授)

*『週刊エコノミスト』2017年1月17日号FLASH!掲載

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