桃田健史・自動車評論家
世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」(CES)が米ラスベガスで1月4~8日開催された。
150カ国を超える国からおよそ4000社が出展した今年のCESで注目を集めたのが自動車。自動車メーカーや部品メーカーなどが、自動運転技術や情報通信端末としての機能を持つ「コネクテッドカー」の試作モデルを出品した。
日本勢では10年ぶりの出展となるホンダが、人工知能(AI)を搭載し自動運転車機能を備えた小型電気自動車(EV)の「NeuV(ニューヴィー)」を発表した。ライドシェア(相乗り)を想定したクルマで、利用者がスマートフォンからニューヴィーを呼び出すと、自動走行で迎車する。
トヨタ自動車もAI搭載の自動運転車を発表した。
初出展となる日産自動車は試作車こそなかったが、カルロス・ゴーン社長が基調講演を行い、完全自動運転の開発路線に変更はない考えを示した。
海外勢では独BMWが半導体大手の米インテル、イスラエルのモービルアイと組み、17年末までに自律運転車40台のテストを一般道で実施すると発表した。
◇エヌビディアと協業
しかし、業界・市場関係者の話題をさらったのは、実は出展を見送った独アウディだった。
ここ数年、アウディはCESで自動運転の新技術を公開し続けており、常に注目の的だった。事実上、自動運転開発をリードしてきたアウディの出展見送りは、技術をアピールする段階を終え、量産段階に近づいていることを意味する。
アウディは、米半導体大手エヌビディア製の自動運転向けコンピューター「ドライブPX2」を搭載したクルマの量産に入ると見られる。ドライブPX2は画像認識機能に優れ、これによってクルマが周囲の状況を自ら学習できる。
そのエヌビディアは今回のCESで、独ダイムラー、部品大手の独ボッシュや独ZFのほかオランダのトムトム、日本のゼンリンといった地図メーカーとの提携を相次いで発表した。同社が自動運転向け半導体のデファクトスタンダード(事実上の標準)を握る可能性もある。
日本の半導体大手ルネサスエレクトロニクスも完全自動運転の試作車を発表し、同社株が一時急騰する場面があったが、この背景には開発の波に乗り遅れまいとする焦りがある。ルネサスの強みはクルマの基本動作を制御する半導体。しかし、自動運転においては画像認識に強いエヌビディア製品の需要が高まる。
CESでは近年、スマホ、ウエアラブル(身に着けられる)端末、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)などが目玉となってきたが、いずれもその年に量産が進み市場が急拡大している。17年は高速道路などでクルマに運転を任せる部分的自動運転技術やコネクテッドカーの量産が本格化する可能性がある。各社の戦略が問われる年になりそうだ。
(桃田健史・自動車評論家)