◇世界6極体制を進化させる
Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── 中国事業が好調です。
八郷 中国企業との合弁会社2社のラインアップを見直した成果が出ています。
従来は、グローバルモデルの車種を2社に割り振って販売していました。例えば、「アコード」は広汽ホンダ、「シビック」は東風ホンダが販売していましたが、私が中国生産統括責任者になった時、同じプラットフォーム(クルマの基本構成部分)で二つの車種を作り分け、効率よくラインアップを構成しようと改革を進めてきました。
広汽ホンダが日本で人気の小型SUV(スポーツタイプ多目的車)の「ヴェゼル」を販売し、東風ホンダもデザインを少し変えた「XR─V」を販売して人気を得ています。共有部品をまとめて買うことで生産コストを下げ、安定的に120万台を生産できる体制ができてきました。
中国事業の好調は過去の教訓が生きている。2000年代、世界販売は米国頼みで「一本足打法に近かった」(八郷社長)。12年秋、販売の倍増を目指し、世界6極(日本、中国、アジア大洋州、北米、南米、欧州)で開発・生産・販売を一貫して行う「グローバル6極体制」を打ち出した。だが、各拠点の開発現場の負担が増えた結果、人気車種「フィット」のリコール問題も起きた。そこで、グローバル車の開発を強化、それを軸に地域モデルを派生させる改革を行う。その成果が世界各地でヒットした新型シビックだ。
── ようやく6極体制がうまく回り始めているように見えます。
八郷 地域専用車とグローバル車へのテコ入れが実を結びつつあります。6極体制の強化の結果、地域専用車は、中国ではSUV、北米ではライトトラック、日本では軽自動車と、地域の需要に合ったクルマが作れるようになりました。
一方、グローバル車はプラットフォームやデザインを一新しました。特にシビックは前のモデルの評判がよくなかったため、世界展開できるようモデルチェンジを早めました。
── 今後の世界戦略は。
八郷 地域専用車を強化すると、グローバル車の派生モデルが増えるため部品数が多くなります。地域専用車の間で共有する部分を増やすなど効率化を進めます。また、グローバルの生産能力555万台に対し販売が498万台とギャップがあります。これを縮小するため、生産に余剰感がある日本と英国から米国への輸出を増やすなど、6極で連携を強化しています。これが奏功して、米国の販売は堅調です。
ただ、16年は英国の欧州連合(EU)離脱問題や米大統領選でのトランプ氏勝利などもあり不透明感が高まっています。環境の変化を見極めて効率向上を図っていきたいです。
── 16年度の業績見通しは。
八郷 下期は想定為替レートを1ドル=100円にしています。新興国通貨の影響でマイナスの部分もありますが、ドル・円だけで見れば1円円安になると営業利益は年間120億円改善します。業績は上振れを見込んでいます。
◇グーグルと自動運転で提携
── 環境規制や自動運転という大きな変革の波にどう対応しますか。
八郷 ホンダは「二つのゼロ」を目標に掲げています。すなわち、地球環境にやさしいゼロエミッション(排ガスを全く出さない)車、交通事故ゼロを実現する自動運転です。
ゼロエミッション車は、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの手法がありますが、電動化の方向を見据えて開発を進めます。
一方、自動運転は、まず渋滞時や夜間の走行でドライバーの負担を軽減する運転支援から始めます。
その先の完全自動運転は、人工知能(AI)が重要になります。AIのハードではなく、クルマをどう制御するかといったソフトの部分は、自動車メーカーとしての経験が生きるので内製化する価値があります。このためソフトエンジニアの教育にも力を入れていきます。
── 他社との提携やM&A(合併・買収)は。
八郷 ウィンウィンの関係が築けるなら前向きに考えたいです。これまでも技術の進展に応じて電子制御やバッテリーで優れた技術を持つ企業と提携してきました。今後はAIなど自動運転に必要な技術を持つサプライヤーと付き合っていかなければなりません。16年12月にはグーグルの子会社で自動運転開発を専門とする「Waymo(ウェイモ)」と提携しました。自動車業界は課題が多いので、必要であれば他のメーカーとの協業も考えます。
── 自動車以外の分野は。
八郷 15年に事業化した自家用飛行機「ホンダジェット」は長い目で大事に育てていきたいです。また、ロボット事業は、歩行補助の医療用ロボの取り組みを拡大させます。
F1レースは、16年度の成績は苦戦したものの、着実に前進しています。勝たなくてはやる意味がないので、17年度は表彰台に立てるレベルに持っていきたいです。
── 大企業であるホンダを、今後どう指揮していきますか。
八郷 ホンダはモビリティーの楽しさを知る現場の人間を中心にモノづくりをしてきた会社です。人々の生活に役立つと同時に、操る喜びがあるクルマを実現するという思いを社員が共有することが大切です。
自動運転を極めてもホンダらしいクルマができるとは思いません。クルマ離れが進む中、クルマの楽しみをどう作り上げるか、若い社員に考えさせたいです。
(構成=大堀達也・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 本田技術研究所で2代目CR―Vや米国向けオデッセイの開発に当たっていました。開発が楽しくて仕方ありませんでした。
Q 「私を変えた本」は
A 『孫子に経営を読む』(伊丹敬之著)は経営の勉強になるので、今も読み返しています。
Q 休日の過ごし方
A 気分転換のためにクルマやバイクでドライブに出かけます。
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■人物略歴
◇はちごう・たかひろ
1959年生まれ。神奈川県立相模原高校、武蔵工業大学(現東京都市大学)卒業後、82年ホンダ入社。中国生産統括責任者、常務執行役員、専務執行役員などを経て、2015年6月社長就任。57歳。
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事業内容:四輪車、二輪車の生産・販売、金融サービス事業
本社所在地:東京都港区
設立:1948年9月
資本金:860億円(2016年3月末現在)
従業員数:連結20万8399人、単体2万2399人(16年3月末現在)
業績(16年3月期・連結)
売上高:14兆6011億円
営業利益:5033億円