一人ひとりに12ケタの番号を割り振る「マイナンバー」が昨年1月から利用が始まった。個人にかかわる税の分野でも、すでに相続税や贈与税などさまざまな申告書や法定調書(法律で定められた税務署に提出する書類)へのマイナンバーの記載がスタートしている。また、預貯金口座へのマイナンバーの付番もいよいよ2018年をめどに始まる。
国税にとってはこれまで、所得の捕捉はできても資産の捕捉は容易ではなかった。マイナンバー導入によって今後、本格的な資産の把握が進むことになる。
相続税や贈与税では昨年1月1日以降に発生した相続や贈与について、申告書にマイナンバーの記載が求められる。また、所得税では今年2~3月に提出する16年分の確定申告書から記載が始まる。証券会社に新規口座を開設する際も、マイナンバーを通知する必要がある。株式の配当や生命保険金を受け取る際にもマイナンバーが必要となり、日常生活のさまざまな場面でマイナンバーを提出することが増えた。
マイナンバー導入の大きな目的の一つが、納税者の正確な所得・資産を把握することだ。国税庁はこうした申告書や法定調書などさまざまな資料を普段から収集し、申告漏れがないか目を光らせているが、マイナンバーの導入によって情報管理の精度やスピードが格段に上昇する。
そして、納税者の正確な所得・資産の把握のために必要不可欠なのが、金融機関の預貯金へのマイナンバーの付番だ。
たとえば、1億円の金融資産を持っているにもかかわらず所得がない人は、これまで「低所得者」としてさまざまな給付金を受けられたり社会保険料が減額されたりすることがあった。現在の日本では税や社会保険料、給付金などは所得をベースに計算されているためである。また、相続税の税務調査では、申告漏れの口座がないか金融機関に個別に照会したりもしていた。預貯金口座への付番が進めば、こうした納税者の資産を容易に把握できるようになる。
◇国外送金でも確認
18年からは銀行に任意でマイナンバーの提供を求められるが、任意でのマイナンバー提出が進まなければ、強制化することも十分に考えうる。
海外の財産もマイナンバー提出の例外ではない。海外に5000万円超の財産を持つ人を対象に14年から始まった「国外財産調書」にもマイナンバーの記載が必要で、相続の発生時などに海外財産の申告漏れがないかのチェックに活用される。金融機関を介して海外に100万円超を送金する場合も、金融機関から税務署へ「国外送金等調書」が提出されるため、金融機関から本人確認の際にマイナンバーを求められる。
また、日本に住み海外の金融機関に口座を持っている日本人、外国人とも、海外の金融機関からマイナンバーを求められることになる。18年以降、CRS(共通報告基準)に基づき税務当局間で非居住者の金融機関口座情報を交換する制度がスタートするが、交換する情報の中にマイナンバーも含まれているためだ。
マイナンバーは今後、パスポートや戸籍などへの利用拡大が検討され、不動産登記などへも広げる可能性がある。複雑なスキームを駆使したとしても、海外を含め資産捕捉から逃れることは難しくなる。
(板村和俊・税理士法人エスネットワークス常務理事、税理士)