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進むロケット「再利用」と「小型化」 加速する宇宙輸送コスト低減競争

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宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月15日、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から世界最小級の衛星搭載ロケット「SS520」4号機を打ち上げた。残念ながら軌道投入前に情報が途絶え、打ち上げは失敗したが、ロケット開発はじめ宇宙輸送コスト低減に向けた動きは活発化している。

 

 小型ロケット「SS520」は、超小型衛星を宇宙に運ぶ技術の開発を目的にしている。衛星の開発や打ち上げなどを合わせたロケットの事業費は、国産主力ロケット「H2A」の20分の1以下の約5億円とされる。

 

 超小型衛星を運ぶロケットは、宇宙にモノを運ぶ輸送コスト低減の取り組みの一つ。大型ロケットの打ち上げ費用は100億円前後と言われており、輸送費用の多くを占めるロケットの再利用や、打ち上げ目的に合わせたロケットの小型化などの取り組みが行われている。

 

 こうした挑戦で世界の注目を集めるのが、米国の宇宙ベンチャーだ。

 

米スペースXは1月14日、ロケット「ファルコン9」の打ち上げを再開した。通信衛星を載せたロケットを米カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地から打ち上げ、切り離した後の第1段ロケットを太平洋上の船に着陸させた。同社は2016年9月、打ち上げ前に爆発事故を起こした後、原因究明のため一時打ち上げを凍結していた。

 

Bloomberg
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スペースXは、米電気自動車メーカーのテスラ・モーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が立ち上げた。ロケット打ち上げ費用の価格破壊を起こし、米政府関係および民間企業から打ち上げを受注するなど、民間資本による宇宙ビジネスの扉をこじ開けた。将来的には火星への輸送も計画しており、積極的に技術開発に取り組んでいる。

 

 そのスペースXの取り組みの中で注目されているものの一つが、ロケットの再利用だ。今回の打ち上げ再開により、宇宙に打ち上げたロケットを再利用する試みが前進すると期待されている。

 

宇宙へと輸送する「足(ロケット)」を繰り返し使用してコストを下げるという発想自体は古い。かつては米航空宇宙局(NASA)もスペースシャトルの再利用を模索していたが、メンテナンス費用や安全対策などのコストがかさみ、断念した経緯がある。

 

 再利用に必要な技術の一つは、回収の際ロケットを地上に対して垂直に着陸させる方法だ。実験レベルでは過去にも成功してきた。だが、世界的には「使い捨て」ロケットを安く作り、確実に打ち上げることがより重視されてきたため、ロケット回収の研究は置き去りにされてしまった。そこに挑んだのが、コスト競争にさらされる民間の宇宙ベンチャーだった。

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 ◇ジェフ・ベゾスも参入

 

 ロケット再利用に最初に成功したのは、米ネット通販大手アマゾンのジェフ・ベゾスCEO率いる米ブルーオリジンだった。自社ロケット「ニューシェパード」を開発し、15年11月にはニューシェパード2号機が高度100キロまで到達した後、地上に着陸する試験飛行に成功した。

 

 ブルーオリジンは00年設立。同社は情報開示にあまり積極的ではないが、宇宙旅行ビジネスを企画するほか、大型ロケットの開発にも取り組んでいる。

 

 スペースXは時期こそ遅れたものの、ブルーオリジンよりも高い高度に打ち上げたロケットの回収に成功している。

 

 15年12月に衛星を積んだファルコン9ロケットを打ち上げ、上空約80キロで分離したファルコン9の1段目ロケットの機体をエンジン噴射しながら陸地に着陸させた。16年4月には、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ「ドラゴン宇宙船」を分離した後の1段目ロケットを、大西洋上に浮かぶ台船に史上初めて着陸させるなど、これまでに7回、第1段ロケットを打ち上げた後に回収している。

 

 回収ロケットの再利用の取り組みも始まっている。ブルーオリジンは16年1月、回収した機体で再び打ち上げし、宇宙空間まで到達してから着陸に成功している。そして3カ月後の16年4月には、3回目の再利用飛行と着陸を成し遂げた。スペースXも、再利用ロケットによる打ち上げを行う見通しだ。

スペースXを例に、ロケット回収の仕組みを見てみよう(図)。

 

スペースXが回収するのは、打ち上げの出力となる第1段ロケット。宇宙空間で本体から切り離された後、機体を反転させて逆噴射し、地球に降下させる。大気圏突入後には着陸地点と通信しながら調整し、機体の姿勢を制御する。最後はロケットを噴射して減速しながら着陸用の脚を出して着陸する。

 

 スペースXのファルコン9は、ドラゴン宇宙船の打ち上げにも使われる。打ち上げ費用は1回約70億円という。100億円を超えるといわれる従来のロケットに比べれば、破格の安さではあるが、頻繁に宇宙にモノを輸送するコストとしてはそれでもまだ高い。

 

 この費用について、スペースXのグウィン・ショットウェル社長は「第1段(ロケット)の再利用により、30%コストを低減できる」と発言しているが、打ち上げ費用がどこまで下がるかについては明確にしていない。だが、同社は保険会社との間で再利用ロケットによる打ち上げ保険料率の設定見直しも進めており、打ち上げ費用を大きく引き下げられるようになると考えられている。

 

 もっとも、ロケット再利用の技術はいまだ確立されたとは言い難い。16年1月にスペースXが行った実験では、打ち上げ後に上空で分離した第1段ロケットの機体を洋上の台船に着陸させる計画だったが、機体が倒れて失敗した。

 

 打ち上げる衛星の軌道によっては海上でロケットを着陸・回収する必要があるが、目標とする台船が小さく動くため、難度が高いといわれている。

 

 ◇超小型衛星専用機も

 

 近年、商業利用が進む数キロ~数百キログラムの小型衛星専用の打ち上げ手段の開発もまた、打ち上げ費用の低減策として研究開発が進んでいる。

 

米ヴァージンギャラクティックは空中発射ロケットによる衛星の輸送を計画している。母機となる航空機にロケットを搭載して離陸、その後にロケットを分離して自由落下しながら第1段に点火して衛星を地球低軌道に投入する仕組みだ。同社は英ヴァージンアトランティック航空などを傘下に持つ英ヴァージン・グループの一社。宇宙旅行をはじめとしたビジネスの開拓に取り組んでいる。

 

 また米ベンチャー企業のロケット・ラボは150キログラムの衛星を高度400キロ~500キロメートルの軌道まで打ち上げるための小型ロケットを開発しており、17年中に初の商業打ち上げを予定している。こうした超小型衛星専用の打ち上げは、費用を数億円程度まで圧縮すると見られている。

 

 小型ロケットは民生品の活用などでコストを下げているが、「機体のコントロールのために搭載するコンピューターの小型化など、従来の大型ロケットとは異なる技術的課題がある」(科学ライターの大貫剛氏)という。

 

 他方で、研究機関や企業が超小型衛星を観測や通信事業に活用する事例が増えており、専用打ち上げ手段に対する需要は大きい。超小型衛星を多数打ち上げて地球規模の衛星システム(コンステレーション)を構築する構想もある。

 

 こうした小型の衛星は、従来は大型の衛星を打ち上げるための大型ロケットの空きスペースに相乗りしてきた。しかし、主たる顧客は大型衛星のため、小型衛星は打ち上げ時期や衛星の投入軌道を選ぶことができなかった。

 

 打ち上げ費用だけでなく、そもそも打ち上げ機会が少ないこともまた、衛星の使用を検討する企業にとって大きな壁になっている。打ち上げのタイミング、打ち上げ地点、投入する軌道、その他の諸条件などさまざまな要因を考慮する必要があるからだ。

 

 こうした要望に対応するためにも、大型から小型まで、多様なロケットを頻繁に打ち上げられる体制の構築が求められている。

切り離した後、着地するスペースXの第1段ロケット(2015年12月、スペースXのホームページより)
切り離した後、着地するスペースXの第1段ロケット(2015年12月、スペースXのホームページより)

◇コスト重視の時代へ

 

 イーロン・マスク氏は成功した時に限らず、回収した第1段ロケットが着陸に失敗した時にもツイッターを通じて世界に動画を公開している。衝撃的な映像だ。

 

 その一方で、スペースXをはじめとした宇宙ベンチャーが何度も失敗しながらも打ち上げ費用の低コスト化やロケット回収の取り組みを続けてきたことで、商用打ち上げ市場は大きく揺さぶられている。

 

 これまで市場を独占してきた仏アリアンスペースなど既存の宇宙開発大手は打ち上げ成功率の高さで顧客の信頼を得ているが、成功率はもちろんのこと、価格でも競争力を求められる時代に突入しつつある。

 

(編集部)


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