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除染に国費投入 曖昧なままの国の責任 国民に負担転嫁へ

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除染土などの仮置き場に積み上がる無数のフレコンバッグと周辺の住宅(福島県富岡町で2015年11月27日撮影))
除染土などの仮置き場に積み上がる無数のフレコンバッグと周辺の住宅(福島県富岡町で2015年11月27日撮影))

東京電力福島第1原発事故をめぐり、政府は2016年12月20日、福島県の帰還困難区域に設ける「特定復興拠点」の除染費用について、国費投入を閣議決定し、17年度予算案に約300億円が計上された。

 

 これまで除染は、11年8月に成立した放射性物質汚染対処特措法に基づいて、主に帰還困難区域以外の地域で実施されてきた。政府はその費用を13年段階で2・5兆円と試算していたが、16年の最新の試算では4兆円となっている。しかし、これでも足りるかどうか定かではない。

 

 除染には、除染特別地域(旧警戒区域、旧計画的避難区域にほぼ相当)での国直轄除染と、それ以外の地域での市町村による除染とがある。当初、国直轄の除染は14年3月末に終えるという目標が設定されていた。しかし実際には大幅に遅れ、その結果、費用の増大を招いている。

 

 費用増加の原因として、時間の経過とともに、想定外の新たな作業が発生していることがある。例えば、除染土などを詰めるフレコンバッグが劣化して破損し、新しい袋に詰め替える作業が必要になったり、農地に生えた木を伐採する手間が加わったりするなどの事例が報告されている。

 

 こうして除染費用が増大するに伴い、その総額を抑制するかのような動きも現れてきた。

 

 環境省が16年、放射性セシウム濃度が1キログラム当たり8000ベクレル以下の除染土を、全国の公共事業で利用できる方針を決定したこともその一つだ。上記試算の4兆円に最終処分費用は含まれていないが、ここには除染土の最終処分量を減らす意図があるのではないかと指摘されている。

 政府が長期目標とする年間追加被ばく線量(1ミリシーベルト以下)についても、それを達成する上での除染の役割が限定的に捉えられるようになってきた。年間1ミリシーベルトというのは個人が受ける被ばく線量であり、人によって行動パターンも異なるので、空間の放射線量に単純に対応するものではない。

 

 したがって、除染によって達成すべき空間線量率の目標を定めるのは難しいとされる(復興庁・環境省・福島市・郡山市・相馬市・伊達市「除染・復興の加速化に向けた国と4市の取組 中間報告」14年8月)。しかしこれには、除染の目標を曖昧にするものだとの批判もある。

 

◇原資を負担しない東電

 

 放射性物質汚染対処特措法により、除染費用は国が一旦支払った後、東電に請求することになっている。したがって除染費用は、東電による事故賠償の一部を構成する。

 

 だが現実には、東電は賠償の原資を自ら負担していない。11年8月に成立した原子力損害賠償支援機構法(14年の改正で原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に改称)により、賠償額のほぼすべてが、原賠機構から東電に交付されてきたからだ。交付された額は、16年12月までに総額6兆8180億円に上る。

 

 東電は、原発事故を起こしたことで、実質的に債務超過に陥り、法的整理が避けられないはずであった。しかし原賠機構法により、東電の株主と債権者は減資と債権カットを免れた。国は賠償の原資を調達し、機構を通じて東電に交付しているが、これはあくまで賠償の支援措置とされ、国の責任が曖昧になっている。

 

 原賠機構からの資金交付は、貸し付けではないため返済義務はないが、東電を含む大手電力などの負担金により、いずれ国庫に納付されることが期待されている。負担金は、東電のみが支払い、電気料金に転嫁できない「特別負担金」(15年度は700億円)と、大手電力が支払う「一般負担金」(同計1630億円)からなる。このうち一般負担金は、電気料金を通じて消費者に転嫁することができる。転嫁されている額は年間約1400億~1500億円と見られる(表)。

 しかし、電力自由化で新規参入した新電力には負担金が課されない。電力の小売り自由化と価格競争が進むと、一般負担金を支払う大手電力が不利になり、この方式を続けるのは難しくなる。そこで、除染費用を国民・消費者に転嫁する仕組みを再構築しようとする動きが出てきた。

 

 ◇新たなカテゴリー

 

 13年12月の閣議決定では、除染費用2・5兆円について、原賠機構が保有する1兆円の東電株の売却益を充てるという案が示された。最新の試算では除染費用は4兆円に膨らんでいるが、その枠組みは変わっていない。株価を上げて売却益を確保するため、東電は柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を見据えるが、16年10月の新潟県知事選で再稼働に慎重な米山隆一氏が当選し、困難さが増している。

 

 さらに、増大する除染費用を東電による賠償の枠外にくくり出す動きも現れた。

 

 森林除染は、国の方針で住宅などの周辺に限定され、ほぼ手つかずの状況にある。しかし、事故で汚染された地域には里山も多く、住民からは除染を望む声が上がっていた。そのため、福島県は13年度から森林の間伐などを進める「ふくしま森林再生事業」を開始した。これは放射性物質が付着した木を伐採する「事実上の除染」だが、費用は実質的に全額国費で賄われている。

 

 また帰還困難区域の除染についても、前述の通り国費投入が決定された。同区域の除染はこれまで、モデル実証やインフラ復旧に伴う事業などが限定的に実施されてきた。しかし政府は16年8月に「復興拠点」を整備する方針を決定。5年をめどに同拠点の避難指示解除を目指すとし、「公共事業的観点からインフラ整備と除染を一体的かつ連動して進める方策」が検討課題に盛り込まれた。

 

 さらに16年末の閣議決定は、放射性物質汚染対処特措法に基づくこれまでの除染と区別し、帰還困難区域の除染に国費を充てることにした。いわば「新たな除染カテゴリー」を作り出したのである。しかし、なぜ帰還困難区域の除染だけを別扱いにするのか、納得のいく説明はなされていない。

 

 税金であれ電気料金であれ、支払う側から見ればどちらでも同じだと思うかもしれない。しかし、そこで見過ごされているのは国の責任である。これを問うのは、従来の原子力政策を問い直すことに他ならない。

 

 東電の賠償を国が肩代わりするのであれば、相応の根拠が必要だ。原賠機構法の枠組みでは、国の関与はあくまで賠償義務者である東電への資金援助に過ぎないという建前だった。だが国費による除染費用の肩代わりは、それを踏み越えている。国が福島事故の被害に対する責任を認めるなら理解できるが、そうでなければ理屈が通らない。この点を曖昧にしたままの国費投入は許されない。

(除本理史・大阪市立大学大学院経営学研究科教授)

*週刊エコノミスト2017年2月7日号掲載


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