◇リチウム電池が急拡大
◇世界の車が電動化する
電池関連企業の業績が好調だ。日立化成は1月25日、2017年3月期連結の最終利益予想を395億円(前年同期比2・6%増)に上方修正した。従来予想は前年比9・1%減の350億円だったが、足元の好業績を反映して一転、増益となった。
売り上げ増の中で目を引くのが、同社が世界シェアトップを誇るリチウムイオン電池用の負極材の伸びだ。足元の売上高は、前年同期比27%増だった。上方修正を好感して同社の株式は続伸し、発表から2日後の1月27日の終値は、1年前の1・9倍の3275円を付けた。同社は、負極材の需要を追い風に、茨城県内の2工場を増強中だ。
◇世界中で設備投資
リチウムイオン電池関連の設備投資は、日立化成に限ったことではない。世界では、車載用トップシェアを占めるパナソニックや、韓国のサムスンSDI、LG化学が米国、欧州、中国に次々と車載用工場を建設している。連動して電池の部材、つまり、正極材、負極材、セパレーター、電解液などを手がける化学メーカーが世界中で設備投資を加速させている。さらに、電池の品質検査機器や部材メーカーへの原材料供給でも設備投資が活発化している。
東京商工リサーチ情報本部の原田三寛部長は「電池産業は裾野が広い。地方でも相当な設備投資がもたらされている」と話す。
なぜ今、設備増強なのか。それはリチウムイオン電池市場に大きな転換点が訪れているからだ。携帯電話やパソコン向けなど民生用が中心だった主戦場が、車載用にシフトしているのだ。18年以降、自動車の環境規制が世界各国で大幅に強化され、車載電池需要が急拡大する。それを見越して各社は生産能力の増強を競っている。
18年に大きくルール変更されるのは米国市場だ。国内では、カリフォルニア州など10州でZEV(ゼブ)(Zero Emission Vehicle=無公害車)規制が敷かれている。新車販売台数が一定以上の「大規模事業者」(トヨタ自動車やゼネラル・モーターズなど6社)に対して、一定割合の無公害車の販売を義務づけるものだ。
無公害車とは、現在は(1)電気自動車(EV)(2)水素などを使う燃料電池車(FCV)(3)プラグインハイブリッド車(PHV)(4)ハイブリッド車(HV)(5)低排ガス車(PZEV、低公害の先進技術を搭載したとして認定される)、の五つの車種を指す。大規模事業者は5車種ごとの販売枠をクリアしなければならない。できない場合は、当局に罰金を支払うか、基準超過メーカーから排出枠(クレジット)を購入しなければならない。
このZEV規制では18年以降、HVとPZEVはもはや「無公害車」とは認められなくなる。車メーカーはEV、FCV、PHVの3車種を一定割合販売しなければならないのだ。うち、FCVは水素充填(じゅうてん)設備が整っていないことが普及の妨げとなっている。このため、車メーカーはEVやPHVを強化する戦略を取ることになりそうだ。BMWやマツダなどは中規模事業者に指定されており、大規模事業者よりは緩いが、環境規制を受ける。
欧州や中国でも環境規制強化が進んでいる。みずほ銀行産業調査部の斉藤智美調査役は「各地の環境規制に対応するために、欧米自動車メーカーはPHVとEVの投入を加速しつつある」と分析する。矢野経済研究所によると、車載用リチウムイオン電池の世界市場規模は、毎年30~40%の成長を続け、2020年には16年の4倍に当たる15・5万メガワット時に達するとみられる。
◇価格競争過熱のおそれも
電池関連で世界シェア1位の日本企業は日立化成やパナソニックだけではない。セパレーターの旭化成、車載用電解液の三菱化学。日本政策投資銀行産業調査部の餅友佳里副調査役は「日本は電池メーカー・部材メーカーが二人三脚で最先端の技術開発を進めたので、世界市場で存在感を示す企業が多い」と指摘する。
民生用に比べて、車載用は大型化している上に、安全性がより求められるため、発熱・発火しないよう高い品質・工程管理が求められる。日本勢にとって、技術力の高さを発揮できる市場と言える。
ただし、中国・韓国勢が台頭してきているのは事実だ。この影響は価格面に及んでいる。産業デバイス新聞の調べでは16年8~10月期の国内車載用リチウムイオン電池の単価は前年同期比約2割減だった。競合相手が増えたために、市場は拡大しているものの、価格競争が激化していることがうかがえる。
日本の電池業界では、00年代に三洋電機(後にパナソニックが吸収)とソニーが民生用リチウムイオン電池で世界シェア1、2位を独占したものの、10年以降サムスンSDIなど韓国勢に追い上げられた苦い思い出がある。車載用市場の価格競争が過熱すると、巨額の投資が回収できない恐れも出てくる。
電池業界では、価格競争で中韓勢に敗北を喫した過去の例を引き合いに「第二の半導体・太陽光電池にしてはならない」が合言葉になっている。
(種市房子・編集部)
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週刊エコノミスト 2017年2月14日号
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