◇家計と企業のおカネをダイエット
Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── 金融とIT(情報技術)の融合である「フィンテック」を使ったベンチャー企業として注目されています。現在の事業は。
辻 主に二つあります。一つは、個人がスマートフォンで使う自動家計簿・資産管理アプリ「マネーフォワード」で、登録ユーザー数は1月に450万人を超えました。
もう一つが、中小企業や個人事業主向けの「MFクラウド」で、会計や確定申告、経費などをインターネット上で管理するサービスです。この利用者数は、50万ユーザー(法人や個人事業主)を突破しています。
── 家計簿アプリの強みは。
辻 約2600社の金融機関やクレジットカード会社の情報と連携して、「電気代」や「交際費」など自動でデータを仕分けし、家計の見える化をします。レシートなどをスマホのカメラで撮って、支出内容を自動認識する機能もあります。家計簿を自動で作れるので、支出しすぎている項目や、1年前と比べて資産がどう推移したかなどを楽に確認できるようになります。
このアプリを使って、月1万1000円以上の収益改善(節約)効果があったという調査もあります。体重を毎日記録するダイエット法「レコーディングダイエット」にも似ていて、おカネを意識することで、おカネの使い方が変わってきます。
── どこで収益化しますか。
辻 家計簿アプリでは、三つあります。一つ目が有料版です。月額500円払うと、1年以上前のデータを見られたり、11件以上の口座と連携したりできます。月間平均2万円以上の収支改善につながったというアンケート結果も出ています。
二つ目は広告モデルで、アプリ内に出る広告を主に金融機関から出していただいています。三つ目は、「マネフォワード・フォー・○○銀行」という形で、銀行と連携した家計簿アプリを提供し、提携企業から利用料をいただいています。今は、住信SBIネット銀行、静岡銀行など8行と提携しています。
── 法人向けの「MFクラウド」の料金体系は。
辻 例えば、会計事務所や中小企業、個人事業主など向けに提供する会計サービスは、月額1980円からです。個人事業主向けの確定申告サービスは月額800円、経費サービスは、従業員1人当たり月額500円というようなイメージです。
── 最終的に目指す姿は。
辻 おカネのモヤモヤを取っ払って、おカネについて悩まない世界を追求したいです。今は使ったおカネの把握を自動化するところまでは来たので、将来は、投資や保険、子供の養育資金をどうするかなど、現状把握から将来のおカネに関するサービスへと発展させていきたいです。
◇ロボアドや融資にも
設立は2012年5月。辻社長がソニーやマネックス証券時代に働いた元同僚や友人6人が集まった。いずれも「金融とITが好きなメンバー」(辻社長)。今は、ジャフコやマネックスベンチャーズなど企業の出資を集め、社員数は230人まで拡大している。
── 起業当時から家計簿アプリを出していたのですか。
辻 いえ、当初は構想だけで、アプリを出したのは設立から半年後の12年12月です。ビジネスモデルも考えずに始めましたが、13年7月に有料版を開始したところ、契約者が出てきて「このサービスは将来性がありそうだ」となりました。そして、13年11月には、法人向けの「MFクラウド」を開始し、キャッシュフローが出てきたのが15年ごろからです。
── 家計簿アプリはなぜ成功したのでしょうか。
辻 よく働いたこともあると思います(笑)。それは半分冗談ですが、当時はスマホが普及するなかで、スマホに特化した家計簿サービスはありませんでした。それと、成功させる“必殺技”はなくて、利用者の話をひたすら聞いて、新機能や使い勝手などすぐに対応しました。
それが口コミで広がり、アプリ配信サイトでのレビュー(評価)が良くなりました。14~16年まで3年連続でグーグルの「グーグルプレイ・ベストアプリ」にも選ばれ、ユーザー数もまた増えていきました。開発陣を社内で抱えているので、開発スピードはかなり速いと思います。
── 銀行などの口座情報をスマホのアプリに出すことが心配な利用者もいます。
辻 当社の信頼の要はセキュリティーです。金融機関出身者が経営陣に多いので、お預かりしたデータは暗号化して厳重に保管して、金融機関並みのセキュリティーをしています。許諾なしに外部に出すことはありえない。そういうことをすると、我々のサービスが終わってしまいます。当社は行動指針を作っていて、「利用者視点」「技術主導」「公平」の三つを掲げています。
── 今後の展開は。
辻 当社は15年12月に、投資を自動で指南するロボットアドバイザー(ロボアド)を展開する「お金のデザイン」(東京都港区)に出資しました。資産運用などでどう連携するかも考えています。
また、融資の新しい与信モデルも構築しています。すでに、法人や個人事業主向けの融資審査をGMOペイメントゲートウェイと始めています。今は9行と話しており、融資でも新しいおカネの流れを作っていきたいです。そして、海外にもアジア諸国から積極的に展開していきます。
(構成=谷口健・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 2009~11年に米国へ留学しましたが、英語が苦手だったのでかなり苦労しました。帰国後、36歳で起業しました。
Q 「私を変えた本」は
A インテル元CEOのアンドリュー・グローブさんの『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』。柳井正さんの『経営者になるためのノート』。あとは、藤田田さんの本も好きです。
Q 休日の過ごし方
A 休みが取れる日は、テニスをしたり、本を読んだり、子供と遊んだりしています。
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■人物略歴
◇つじ・ようすけ
1976年大阪府生まれ。甲陽学院高校(兵庫県)卒、京都大学農学部卒。2011年米ペンシルベニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー、マネックス証券を経て、12年マネーフォワード設立。40歳。
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事業内容:家計簿アプリ、会計ソフトなどのITサービス運営
本社所在地:東京都港区
設立:2012年5月
資本金:22億9000万円
累計資金調達額:約48億円
従業員数:230人
業績 売上高:非公開