(本誌取材班)
東芝の経営危機が終わらない。巨額赤字と債務超過を事業売却でしのいだ前期に続き、今期は原子力事業で赤字と債務超過に見舞われ、収益の柱の半導体事業の完全売却を迫られる。巨大組織は急速に縮小しているが、原発事業の継続に固執しており、国策と抱き合い心中の果てに「原発管理会社」へなりかねない。東芝の経営はメルトダウン(炉心溶融)した。
2017年3月期連結決算は、営業損益が4100億円の赤字となり、前年度の7087億円の赤字に続く2年連続の巨額赤字となる見込み。株主資本は16年12月末時点でマイナス1912億円となり、債務超過に陥った。06年に買収した米原子力子会社ウェスチングハウス(WEC)の子会社などで7125億円の損失が発生したためだ。
資本増強のため東芝は1月27日、半導体事業の分社化と出資比率20%までの外部資本導入を決めた。しかし、東芝の綱川智社長は2月14日の会見で、「マジョリティー(過半数)確保にはこだわらない」と発表。半導体事業の株式売却比率を「20%以下」から「50%以上」へと、わずか約2週間で方針転換に追い込まれた。原発事業の損失が膨らみ、巨額赤字と債務超過解消を最優先する。
東芝の半導体部門は、営業利益を年間1100億円(16年3月期実績)生み出す優良事業で、「NAND型フラッシュメモリー」では世界シェア約20%を誇る。3月末に分社化する半導体事業の時価総額は、「今期の営業利益が1200億円規模になれば、1兆5000億~1兆6000億円規模になる」(国内証券アナリスト)とみられる。仮に、東芝が51%の株式を他企業に売却すれば、約7000億~8000億円のキャッシュが手に入る計算となる。
しかし、半導体事業の売却は、3月末までにまとまりそうにない。
東芝の半導体事業買収には、ハードディスク世界大手の米ウエスタン・デジタル(WD)、米半導体大手マイクロン・テクノロジー、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などが手を挙げているとされる。
有力なのは、すでに三重県四日市の半導体工場を共同運営しているWDだが、「WDも現状は資本調達が必要で、東芝にすぐに大規模な出資できるか不明」(WDと取引がある上場企業社長)だ。
◇東証2部に降格へ
3月末までに半導体事業を売却できなければ、債務超過は解消できない。このため、東芝の上場市場は東証1部から東証2部に降格の公算が大きい。18年3月末も債務超過なら上場廃止となる。
格付投資情報センター(R&I)は2月15日、東芝の発行体格付けを「ダブルB」から「シングルB」に、異例となる3段階の格下げをした。主力銀行は融資継続の方針だが、債務超過や格下げが長引けば、財務制限条項に抵触し、銀行融資の金利引き上げにつながる。東京証券取引所は15年9月から、東芝株を「特設注意市場銘柄」に指定しており、東芝は社債を自由に発行できないため、銀行融資が経営の命綱だ。
東芝にはさらなる損失リスクも残る。
まず、11年に約1850億円で買収したスイスの電力計大手ランディス・ギアののれんを減損する可能性も残っている。その額は1400億円規模に達するため、「ランディス・ギアの減損リスクは意識せざるを得ない」(外資系証券アナリスト)との見方が出ている。
また、東芝は、液化天然ガス(LNG)関連事業で最大約1兆円の損失発生リスクを抱えている。19~38年までの20年間にわたって年間220万トンのLNGを引き取る契約を、米国のプラント運営会社と15年に締結したためだ。16年3月期の有価証券報告書にもこれを明記したが、事業売却を進めている今、この契約を履行できるのか疑問も残る。
さらに、東芝が87%を保有するWEC株を巡る案件は、宙にぶら下がったままだ。残りのWEC株は、10%をカザフスタンの国有企業が、3%を総合重機大手のIHIが保有している。東芝はWEC買収後ずっと共同出資先を探したが、みつけられなかった。東芝はWEC保有割合を下げる方針だが、今回の赤字でWECの引き受けのハードルはますます高まった。むしろ、東芝に売却できる特約を持つIHIが保有分を東芝に売れば、東芝に180億円規模の損失が出る恐れがある。
◇事業・資産のたたき売り
東芝が企業体として生き残れても、中核の優良事業を売ってしまえば、将来の収益力は著しく低下する。
ここ数年は、主力事業や資産の売却をなりふり構わず進めている。医療事業(東芝メディカルシステムズ)はキヤノンに6655億円で、フィンランド・コネ社の全株式を機関投資家に1180億円で、家電事業(東芝ライフスタイル)の80%を中国・美的集団に514億円で、測量機器大手のトプコンの全株式を証券会社に491億円で売っている(13ページ図)。その他にも、国内外の事業所や土地の売却も進めている。
半導体事業を売却すると、残るのは原子力事業の一部、鉄道システム、ビルソリューション(エレベーター・照明・空調)、電池システム、重粒子線がん治療装置などとなる。「半導体事業の過半数以上を売却して多額のキャッシュが入っても、収益を生む重要な事業がない」(前述の国内証券アナリスト)。万一さらなる損失が発生すると、東芝は、また事業・資産売却に迫られ、組織縮小の悪循環に歯止めがかけられなくなる。
それでも、東芝は、この経営危機を引き起こした原子力事業から完全撤退しない方針だ。今後は、原発事業で土木建設に関わる分野は収益性が低いため手を引くが、原発向けの燃料供給事業や設備の保守サービスは、「しっかりやっていく」(綱川社長)としている。
東芝は、WECが米国で抱える原発建設で、親会社として7934億円の債務保証をしている。建設工事が完了できない場合の損害賠償請求も含め、東芝は巨額の支払い義務を負っている。原子力事業から引くに引けないこうした状況が、経営危機を招いた元凶をなおも残す要因となっている。
東芝は2月14日、内部統制上の問題で、決算発表を土壇場で1カ月延期した。巨額赤字で引責辞任した志賀重範会長、解任されたダニー・ロデリック執行役上席が経営に携わったWECで、経営幹部が不適切な圧力を加えたと内部通報があったためだ。WECでも無謀な「チャレンジ」があったのか。
142年の歴史を持つ東芝は今、原子力推進という国策に寄り添ったゆがんだ経営判断によって、自壊している。
(本誌取材班・谷口健、大堀達也)
*『週刊エコノミスト』2017年2月28日号掲載