◇NYに追い付けない日本株
◇大型株避け活況の中小型
米株価の勢いが止まらない。2月22日のニューヨーク株式市場では、優良株で構成するダウ工業株30種平均が前日比0・2%高の2万775・60ドルと、9営業日連続で史上最高値を更新。連続での最高値更新は実に約30年ぶりという。ハイテク株中心のナスダック総合株価指数と、大型株中心のS&P500株価指数は反落したものの、いずれも最高値圏で推移する。高値づかみはしたくないが、この先の上昇を指をくわえて見ているのもつらい。米国株は今、どのような状態にあるのか。そして、この先は何が買われるのか。
東海東京調査センターの平川昇二グローバルチーフストラテジストによれば、米国を中心とした景気の循環によって買われる資産のタイプに特徴がある。景気の循環は長短金利の利回り曲線(イールドカーブ)の形状に表れると考えることができ、現在は米国で長短金利とも上昇しながら長短の金利差が拡大する「景気回復」の時期にあたるといえそうだ。米連邦準備制度理事会(FRB)は現在、金融引き締めに向かっており、その場合は「米ドル資産や割安なバリュー株、銀行株などが買われることが多い」(平川氏)。
◇上昇する新興株市場
米国の動向は日本など世界に大きく影響する。実際、日本でも株価や純資産に対して株価が割安な鉄鋼や紙パルプなどの業種の株価は上がっている。新日鉄住金は2月23日の終値時点で、年初来9・2%、王子ホールディングス(HD)も13・2%とそれぞれ上昇したほか、銀行株でも三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)も6・1%上がっている。日経平均株価が2月23日、米国株とは対照的に2日続落の1万9371・46円で引け、年初来1・3%の上昇と上値が重い状況の中で、バリュー株や銀行株の堅調な値動きが目立つ。半面、医薬品など割高な株は、業績の大幅改善は見込みにくく、株価も上昇しにくい状況だ。
一方、大型株を避けた個人のマネーが向かったと見られるのが中小型株市場だ。日経平均株価やTOPIXのさえない値動きに対し、2月14日には新興市場の日経ジャスダック平均株価が25年半ぶりの高値を記録。東証2部指数や新興市場のマザーズ指数、時価総額など一定の基準を満たしたジャスダック銘柄で構成するJ-STOCK指数も軒並み、年初から上昇している。
投資情報会社フィスコの田代昌之アナリストは「自動車株など日本の大型株は、トランプ米大統領の政策や為替相場の変動など海外の要因に影響されやすく、積極的に買いにいける材料に乏しい」と話す。
中小型株は内需が中心の銘柄が多く、海外の要因に左右されにくい。また、新興市場は時価総額が小さいため、まとまったマネーが短期間に流入すれば、株価は押し上げられやすくなる。フィスコによれば今年2月、昨年来高値を記録した東証2部、ジャスダック、マザーズ銘柄は、17日までで356銘柄を数え、今年1月の185銘柄、昨年12月の108銘柄から大幅に増加した。特に、2月は16年10~12月期決算発表で17年3月期の通期業績を上方修正する企業も多く、目先の買い材料には事欠かない。ただ、そうした動きは一方で、海外要因などに左右されず、着実に業績を伸ばし続けられる日本の大型株の少なさも表す。
こうした相場の状況に、投資のタイミングをつかめない人も少なくない。しかし、タイミングを読んで売買するのは、プロでも至難の業。売却後に相場の上昇を目の当たりにすれば、相場に追いつきたいと上昇後に再び買ってしまい、肝心の上昇期を逃してしまう。
興味深い試算がある。S&P500株価指数に昨年6月末まで10年間、投資した場合、ずっと持ち続けると資産は倍になった。しかし、この間、上昇率が最も高かった10日の間に投資しなかったとすると、それだけで資産はほとんど増えない結果に。上昇率が最も高かった20日の間を逃せば、資産はむしろ減少してしまう。
◇上昇相場を逃さない
個人向けに資産運用をアドバイスするびとうファイナンシャルサービスの尾藤峰男氏は「株式市場は突然、急上昇したりすることがあるが、それらは極めて限られた日数の間に起きている。相場の急上昇や急落のタイミングを読むのは難しく、タイミングを読めばむしろ上昇期を逃す可能性が高い。株式投資で成果を得るためには、常に投資を続けていることが大事だ」と指摘する。しっかりと投資対象を選んでどっしりと構えてさえいれば、“高値”と感じても怖くない。
(桐山友一・編集部)
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