◇もう一度、ビール回帰へ
◇Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── 貴社の強みは。
尾賀 サッポロラガービールのラベルには、「JAPAN'S OLDEST BRAND(日本で一番歴史あるブランド)」とあります。作り方から追求し、原材料の麦やホップを独自に品種改良して作るなど、創業時からこだわりと責任を持ち続けています。
2003年に持ち株会社体制となり、酒類、食品・飲料、外食、不動産の4本柱で事業を展開してきました。「黒ラベル」「エビス」や、老舗ビアホールを運営する「サッポロライオン」、グループで運営する商業施設「恵比寿ガーデンプレイス」(東京・渋谷)などがわれわれの財産です。
1876年に政府の開拓使が北海道札幌市に前身である日本初のビール醸造所「開拓使麦酒醸造所」を設立した。そこで作られた「札幌ビール」が社名の由来だ。ビールのラベルに描かれている星マークは、北海道開拓使の記章でもある北極星を表す。
── 業績は。
尾賀 16年12月期の連結決算は、売上高が前期比1・5%増の5418億円、純利益が同55%増の94億円でした。17年12月期も増収増益の見通しです。苦しい時代もありましたが、いろいろとやってきた成果が表れつつあると思います。祖業のビールは、黒ラベルやエビスなどの販売が伸びています。ここ2年ほど、ビールに焦点を当ててやってきたことが成果に結びつきました。
新たに投資してチャレンジしてきた事業も少しずつ育っています。11年にポッカコーポレーション、16年にみそを製造・販売する宮坂醸造を買収しました。06年のカナダのスリーマンビール買収は一つの転機になりました。スリーマン社はこの10年で販売高1・5倍、営業利益2・8倍と順調に推移しています。
また、焼酎や洋酒の分野に参入しました。ラムブランド「バカルディ」などを有するバカルディジャパンと提携することで、扱う洋酒の種類が増えました。お客様に総合的にお酒を提供することができるようになったことが大きいです。
── 業績寄与の不動産事業は。
尾賀 札幌、恵比寿、銀座など立地のよいところに賃貸オフィスや商業施設を保有しており、賃料収入など安定した収益が上げられる事業なので、きちんとやっていきたいです。
── そのほかの海外事業は。
尾賀 サッポロUSAの販売量も伸びています。米国ではサッポロがアジアのビールメーカーで最も売れています。アジアでは、べトナムに工場を作って5年が経過しました。需要が高い業務用ビールに注力し、黒字化することが一つの課題です。
── 力を入れている食の分野は。
尾賀 ポッカの代名詞でもあるレモンは飲料のフレーバーとして使われることが多いです。「レモンでできることはポッカが全部やる」ということを追求していきたいと思います。例えば、産地の違いがどう製品に表れるかなど、掘り下げることができていない部分もあると思います。
── M&A(合併・買収)戦略は。
尾賀 分野に限らず、互いに価値を高められる相手ならば、可能性はいろいろあります。これからの時代はあらゆる角度から事業を考えていかなければなりません。
◇支持される商品を
── ビールに回帰する理由は。
尾賀 発泡酒、新ジャンルを初めて作ったのはサッポロです。開発した1990年代半ばから00年代前半はデフレで、物の低価格化が進んでおり、なるべく手に取ってもらえるように、いろいろな商品を作りました。
その結果、他社を含めて競争となり、本来われわれが持っているブランド価値が希薄になったと感じました。お客様が求めることを考えた時、もう一度、ビールだと思いました。
── 消費者のニーズをどう分析していますか。
尾賀 酒類が多様化する中で、お客様にとってビールの位置づけが変わってきました。30年前は「どこに行ってもビール」でしたが、今では乾杯後の2杯目からは他のお酒、多くても3杯は飲まないのが現状です。
ですから、提供の仕方や商品開発を工夫する必要があります。例えば、ゆっくり嗜(たしな)むビールなど、2杯目に飲んでもらえるようなビールを開発しなければなりません。シーンに合わせた選択肢が増えるとビールの幅も広がっていくと思います。
── ビール系飲料で4位のシェアをどのように伸ばしていきますか。
尾賀 シェアを高めればすぐに利益に結びつくとは限りません。今よりも当然上を目指しますが、シェアはお客様に選ばれた結果だと思っています。現場が絶対に負けないという意識を持ち、お客様の嗜好(しこう)を捉えていかなければなりません。
── 今後の目標は。
尾賀 20年に売上高6400億円、営業利益340億円という目標を掲げています。営業利益は300億円を上回ったことがないので、達成すれば初となります。ビール、飲料、食品などでそれぞれ何をするか考え、数字につなげていきたいです。
サッポログループは「個性輝くブランドカンパニー」を目指しています。各事業が輝き、ビール会社なので基本的に楽しい、味のある会社にしたいといった思いがあります。
それにはどうしていけばよいか。例えば、プレミアムビールといえばエビスしかない、北海道に行ったら絶対に「サッポロクラシック」だというように、圧倒的に支持され、「いいね」と言ってもらえるものを作る会社にしていきたいと思います。
(構成=丸山仁見・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A バブル絶頂期で池袋エリアを担当していました。毎日、深夜に帰宅するくらい営業に奔走していました。
Q 「私を変えた本」は
A 司馬遼太郎の『坂の上の雲』『竜馬がゆく』です。明治時代の群像劇をわくわくしながら読みました。
Q 休日の過ごし方
A 時間があれば妻と旅行に出かけています。
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■人物略歴
◇おが・まさき
1958年生まれ。東京都出身。国学院久我山高校卒業。82年慶応義塾大学卒業後、サッポロビール(現サッポロホールディングス〈HD〉)入社。主に営業・マーケティング部門を歩む。2009年サッポロビール執行役員、13年同社社長、HD取締役兼グループ執行役員などを経て、17年1月HD社長に就任。58歳。
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事業内容:酒類、食品・飲料、外食、不動産
本社所在地:東京都渋谷区
設立:1949年9月1日(1876年9月創業)
資本金:538億8600万円
従業員数:連結7858人(2016年12月末現在)
業績(16年12月期・連結)
売上高:5418億4700万円
営業利益:202億6700万円