暴力団組長の刑の執行停止を巡り、医師が虚偽の診断書を作った疑いがあるとして、虚偽有印公文書作成容疑などで家宅捜索を受けた京都府立医科大学(京都市上京区)は関西医学界の名門だ。
報道では、吉村了勇(のりお)病院長の責任が追及される場面が目立つが、もう一人責任を問われる人がいる。近年続く不祥事は吉川敏一学長就任後に発生しており、大学の運営・管理の問題として吉川学長のワンマンぶりが指摘されている。
今回の事件は、2014年7月、医大付属病院で腎臓移植の手術を受けた指定暴力団山口組の直系組織「淡海(おうみ)一家」総長、高山義友希(よしゆき)受刑者が収監されるにあたり、病院が「収監に耐えられない健康状態」との報告書を作成し、大阪高検に提出したとされる。執刀した主治医は京都府警の任意の事情聴取に「吉村病院長からの指示で事実と異なる内容を書いた」と供述したとされ、組織ぐるみとの疑惑が高まっている。
吉村病院長は問題発覚後、記者会見を開いて「捜査機関への回答は公正・適切に作成した」と全面的に否定した。主治医も「一切虚偽がない」とコメントした。しかし、吉川学長については、高山受刑者と京都市の繁華街・先斗(ぽんと)町の茶屋などで会っている姿がたびたび目撃され、消化器内科が専門にもかかわらず手術に立ち会うなど、深いつながりをうかがわせる証言が報じられている。
報告書作成の経緯について、吉村病院長は記者会見で「内容を変えるよう指示したことはない」と明確に否定した一方で、吉川学長から何らかの指示を受けたかどうかは「捜査中なので回答を控える」と曖昧な説明にとどまった。
◇「医療より花街」
吉川学長は、先斗町や祇園の花街に政財界の有力者とよく出入りし、これまでも「医療よりも政財界の付き合いを重視する経営者」との声が医療界で強かった。
消化器内科分野の教授などを歴任。「アンチエイジング(抗加齢)」に関連し、細胞を傷つけたり、殺したりする危険な性質を持つフリーラジカル(活性酸素はこの一種)研究を長く続けてきたパイオニアでもある。その分、健康機器関連などメーカーとの関係も深く、各社の広告活動にも「研究会代表」などとして協力し、一役買っている。メーカーからの大型の寄付講座をいくつも大学に開設したことを実績としてきた。
京都府立医科大は、京都大や大阪大の医学部より古い歴史を持ち、医師を派遣する関連病院が120以上あるなど、関西医学界の中心的存在だ。しかし、近年は不祥事が相次ぐ。
13年にノバルティスファーマ社の元社員が関与したとされる降圧剤「バルサルタン」の新たな効果を検証する臨床研究でデータ改ざんが見つかった。16年10月には、精神障害者の強制入院を判断する「精神保健指定医」の資格不正取得を巡り、厚生労働省が全国の医師89人の指定を取り消した。同病院は最多の8人で、全国で唯一、精神科のトップである主任教授も対象となるなど、病院ぐるみの不正だった。
11年から学長を務めている吉川学長は、病院の信頼性を大きく揺るがす事案が繰り返し起きているにもかかわらず、今年4月からは異例の3期目となる長期政権の継続が決まっている。大学の法人化を受け、国主導で学長のリーダーシップを高めるさまざまな権限強化が進められ、それを最大限に生かした形だ。
例えば教授選考では、選考会議の審査によるとされながら「実質的には学長の意向に沿う人物ばかりが選ばれている」(府立医科大関係者)。また幹部は「イエスマンばかりで会議で意見が出ることすらない」(同)と言われる。学長としてトップの責任は避けて通れない。
(田中尚美・メディカルライター)
*週刊エコノミスト2017年3月7日号 FLASH!掲載