◇「対面」「ネット」「地域」で強い証券会社に
Interviewer 金山隆一(本誌編集長)
── 会社の強みは。
新芝 2023年に創業100周年を迎える「伝統」と、ネット証券で創業10年の岡三オンライン証券という「革新」的な部分を併せ持っていることです。岡三証券グループは、対面販売を行う証券会社としては国内大手5社に次いで6番目、ネット証券としても7番目の規模です。対面とネットの両方で上位に名を連ねているのは、当社だけです。
── 市場環境をどう見ますか。
新芝 現在は「インセキュア」、つまり非常に不安定な時代に入っています。各国で格差が問題になり、資本主義の存在意義も問われています。背景にはデジタルプラットフォームなどIT(情報技術)の進展によるグローバリゼーションの大きな波があるでしょう。つまり、企業や個人が国を超えて活動する時代になり、これまで経験したことのない変化が起きているのです。
そうした不安定で先の読めない時代なので、社員には「投資アドバイスのプロになれ」と言っています。
持ち株会社の岡三証券グループの下に、対面販売とコンサルティングビジネスの中核企業の岡三証券、ネット専業の岡三オンライン証券のほか、岡三にいがた証券、三晃証券、三縁証券などの地域証券、海外拠点の岡三国際、資産運用に特化した岡三アセットマネジメントなど10社を擁する。さらに業務資本提携先の証券ジャパン、丸国証券も合わせた多角的なビジネス展開は、日本の証券業界の中でも独自の存在だ。
── 4月から新しい中期経営計画が始まります。
新芝 持ち株会社の岡三証券グループとしては、より長期的な目標として、グループ全体でROE(株主資本利益率)10%を安定的に達成できる体制を目指します。
また、現在のグループ全体の顧客口座数は68万口座、預かり資産は4・5兆円ですが、創業100周年に向けて23年4月までに「100万口座」「預かり資産10兆円」を目標に掲げています。ただ、数字を追うのではなく、あくまで顧客本位の結果として数字を達成することが理想です。「目的」と「手段」を逆転させないよう、社員に心がけさせています。
── 今年、岡三オンライン証券を子会社化した狙いは。
新芝 ネット証券は1990年末ごろに各社がいっせいに創業したのに対し、2006年創業の岡三オンライン証券は最も後発の方でした。しかしながらプロの個人投資家に評価され、売買高でネット証券の上位に食い込みました。半面、一般消費者をうまくとりこめず、規模感が出ないことが課題でした。裾野を広げるためには、資金的・人的に経営資源を投入した経営強化が必要と判断し、この改革を進めるために完全子会社化しました。また、株取引をネットで行う人が年々増え続ける中、岡三証券グループが100年を超えて生き残るためには、ネット証券というパーツは不可欠になります。
◇iDeCoに期待
── 対面販売はどうですか。
新芝 対面にはネットにない強みがあります。ネット証券は本屋に例えればネット通販サイトのようなものです。欲しい商品はすぐに買える半面、派生商品や関連ジャンルの広がりを知ることに限界もあります。その点、対面は街の本屋さんのようなもので、欲しい商品以外も目に飛び込んできます。販売員が幅広く商品を説明してくれるので、自分に合った商品選びが可能です。中核の岡三証券や地域証券では、対面の強みを生かした販売を行っていきます。
── 個人型確定拠出年金(iDeCo)にも力を入れていますね。
新芝 対面証券では運営管理手数料を業界最安に設定しています。iDeCoは国が普及を後押ししており、優遇税制もあって加入者の増加が期待できます。ここでも対面販売が生きます。まだiDeCoを知らない顧客に、来店時に紹介すれば、「セレンディピティ」、つまり「予想外の発見」を与えることもできます。
── 海外戦略は。
新芝 香港に拠点を置く子会社の岡三国際のほか、海外の証券会社7社と提携しています。また、ロンドン、ニューヨーク、上海の3カ所にリサーチセンターも設けています。各拠点のネットワークにより海外マーケットの最新情報を随時収集します。
── 今後の経営戦略は。
新芝 「多様性」を重視した戦略を取っていきます。「バイオダイバーシティー(生物多様性)」という言葉があります。一本の木よりも林、林よりも森の方が生命力が強く自然に繁殖していきます。つまり、多様な形態を抱えていた方が強いのです。
これは証券業界にも当てはまります。証券業務に加え資産運用や市場調査を行う会社があれば相乗効果が出ます。この点、当社グループでは、子会社の岡三アセットマネジメントに約170人の資産運用部隊がいます。岡三証券内には市場調査部隊のアナリスト約80人、商品設計部隊が約150人いて、傘下の地域証券会社が個別に対応できない業務を補っています。一方で各地域証券は、中央部隊の成果を、それぞれが特化している地域で生かします。
これからの証券業界は中央集権と地方分権の両方の強みを生かすことが生き残りのカギになると見ています。そのためにも多様性を確保することが重要だと考えます。
(構成=大堀達也・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 米国への留学を終え、業界アナリストとして復帰しました。その後、経営改革プロジェクトに携わりました。1998年に当社の加藤精一元会長が日本証券業協会会長に就いた時、秘書として出向しました。山一証券破綻など激動の時代に業界全体を見る仕事ができたことが大きな経験になりました。
Q 「私を変えた本」は
A 「バリュー投資の父」ベンジャミン・グレアムとその弟子デビッド・ドッドの共著『証券分析』です。
Q 休日の過ごし方
A ジョギングを楽しんでいます。
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■人物略歴
◇しんしば・ひろゆき
1958年生まれ。東京都立小松川高校、早稲田大学商学部卒業後、81年岡三証券グループ入社。98年日本証券業協会に出向し会長秘書。2001年取締役。常務執行役員、専務執行役員などを経て、14年4月社長就任。岡三オンライン証券会長も兼務。
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事業内容:証券ビジネスを中核とした投資・金融サービス業
本社所在地:東京都中央区
創業:1923年
資本金:185億8900万円(連結、2016年3月)
従業員数:3536人(連結、16年9月)
業績(16年3月期・連結)
営業収益:829億2700万円
経常利益:173億9600万円